インフルエンザ 最新情報

  インフルエンザと風邪(かぜ)との違い

インフルエンザはインフルエンザウイルスの感染によって発症する急性呼吸器感染症で、高熱と全身症状をともないます。かぜは主にライノウイルス(鼻風邪)やRSウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルスなど100種類以上のさまざまなウイルスの感染によって起こる鼻水、くしゃみ、咳、のどの痛み、微熱などを主症状とする上気道炎の総称で、通常は比較的軽微に経過します。

インフルエンザは流行的な発生をし、時には死に至るほど重症化することがあります。ことに高齢者での肺炎の合併、また乳幼児ではインフルエンザ脳炎、脳症(水分をとったあとすぐに吐いてしまい、元気がない、意識がはっきりせずうとうとしている、痙攣を起こすなど)を引き起こすことがあり、通常のかぜとは明確に区別する必要があります。

 インフルエンザと”かぜ”(普通感冒)のちがい
                     インフルエンザ           かぜ(普通感冒)        
初発症状           悪寒、頭痛              鼻咽頭の乾燥感およびくしゃみ
主な症状           発熱、筋痛、関節痛         鼻汁、鼻閉
悪寒              高度                  軽度、きわめて短期
熱および熱型(期間)    38−40℃(3−4日間)       ないか、もしくは微熱
全身痛、筋肉痛、関節痛  高度                  ない
倦怠感             高度                   ほとんどない
鼻汁、鼻閉          後期より著しい            初期より著しい
咽頭              充血およびときに扁桃腫脹     やや充血
結膜              充血                  アデノではある
合併症             気管支炎、インフルエンザ肺炎、  まれ
                 細菌性肺炎、脳炎、脳症
病原              インフルエンザウイルスA,B    ライノウイルス、アデノウイルス、
                                     コロナウイルス、RSウイルスなど
迅速診断法          あり                  なし

   (Medical Tribune 2004年11月18日号40頁藤田次郎氏「インフルエンザウイルス呼吸器感染症と抗菌薬の適応」より抜粋引用) (2004/12/01追加)  

 インフルエンザの症状

鼻水、くしゃみ、咳、のどの痛みなどの上気道症状に、突然38℃を越える発熱と、悪寒、発汗、全身倦怠感、疲労感、頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状が特徴です。さらに気管支炎、肺炎、小児では中耳炎、熱性けいれんなどを併発し、重症化することもあります。

 インフルエンザウイルスの種類

人に感染するインフルエンザウイルスは抗原性の違いからA,B,C型の3種類に大別されます。C型は比較的症状が軽く(註)、通常のかぜと区別がつきにくく、流行的発生で問題になるのはA型、B型です。A型は突起部分のヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の組み合わせによってAソ連型(H1N1亜型)、A香港型(H3N2亜型)などにさらに分類され、毎年少しずつ変異株が出現しています。

註: C型インフルエンザは7歳までに80%以上が感染して抗体を持ち、その症状は軽い上気道炎とされてきたが、これは少数の成人例からであり、小児の報告例は少ない。山形大学医学部臨床看護学講座の松崎葉子准教授らは、1996−2004年に山形県と宮城県での調査から流行パターンと小児の臨床像を報告。「発熱(38.5℃以上、2日間以上)、咳、鼻汁を主訴としていた。A型インフルエンザと症状が類似し、鑑別が難しい、流行パターンはほぼ一年おき」と述べた。
   (Medical Tribune 2008年01月10日号22頁 第39回日本小児感染症学会記事より抜粋引用) (2008/01/16追加)

 インフルエンザの歴史 (日経新聞 2004/01/11 愛媛新聞 2004/02/06より抜粋引用) (2004/02/18追加) 

過去百年間で新型インフルエンザが市民生活を揺るがしたのは三回。第1次世界大戦末期1918年に流行したスペイン風邪(H1N1型)は世界で5億ー6億人が感染、2千万ー4千万人が亡くなったと推定される。日本でも死者は約50万人を数えたとされ、激しい症状が特徴で、口と鼻から血の泡を出して死んでいった患者もいたとの記録がある。通常のインフルエンザ流行では乳幼児、高齢者が犠牲になることが多いが、青年や壮年の死者も多かった。次いで57年にはアジア風邪(H2N2型)、さらに68年には香港風邪(H3N2型)が発生して大流行した。また77年にはロシア風邪(H1N1型)が流行した。

 怖い「新型」インフルエンザ (朝日新聞 2003/7/9 より抜粋引用) (2003/07/23追加)

インフルエンザウイルスの宿主は鳥類やブタ、アザラシ、ウマなど様々だ。抗原の違いで大きくA, B. C型に分かれる。A型はさらにH1-H15、N1-N9という区別がある。人にうつるのはH1-H3だけと考えられていた

ところが97年、香港でH5N1に18人が感染して発症、6人が死んだ。ニワトリからの感染とみられ、香港当局は150万羽を処分。流行の恐れはひとまず消えたが、今年2月中旬、香港の男性(33)の感染が確認された。男性は死亡、ウイルスは息子(9)からも見つかった。1月に中国・福建省を家族旅行しており、娘(8)が現地で亡くなっていたこともわかった。

WHOは4月24日、今度はオランダでH7N7に83人が感染、1人が死亡したと発表。多くは養鶏業者で、この型の人への感染は初めてだった。

H5N1,H7N7とも人同士でうつる可能性は低いが、突然変異や他のウイルスとの交雑で感染力や病原性が高まることがある。ワクチンは今、一部の型に効くものしかない。「人に感染したことのないウイルスだと抗体がなく、感染者が爆発的に出る可能性がある」(岡部信彦・感染症情報センター長)

 ウイルスの突然変異 (日本医事新報 No.4162  2004年1月31日号 9頁より抜粋引用)) (2004/02/18追加)

インフルエンザウイルスは直径1万分の1ミリ(100nm)の多形性(球状やヒモ状など)のオルソミクソウイルス科に属する RNAウイルスなので、DNAを遺伝子とする微生物に比べるとはるかに突然変異率が高い

  2002/2003シーズンのインフルエンザ流行状況 (デンカ生研株式会社資料より)

2002/03シーズンは3シーズン連続のA型・B型混合流行で、分離されたウイルス型は多い順からA香港型>B型>Aソ連型であった。
ウイルスの検出は2002年第48週(11月25日ー12月1日)から報告数が増加し始め、2003年第4週でピークとなった。
A香港型は過去6シーズン連続で類似の抗原性を持つウイルスが主流となっており、B型は2001/02シーズンより過去主流であった山形系統からビクトリア系統に入れ替わるなどの変化があった。(2003/07/12追加)

 インフルエンザのうつりかた

通常の風邪は接触感染といって、ウイルスがついた手で鼻などを触ると感染しますが、インフルエンザは飛沫感染(空気感染とも言う)といって、インフルエンザにかかった人が咳をしたときに空中に拡散したウイルスを別の人が鼻や口から吸い込むことによっておこります。3メートル範囲くらいは周囲に飛び散ると考えられています。潜伏期間は1−5日(平均2日)です。

 インフルエンザの診断法

流行期間中に特徴的な症状が出れば診断はある程度容易ですが、時に鑑別診断が困難なことがあります。従来は鼻汁や、咽頭粘液からウイルスを分離したり、血液検査でウイルスの抗体価を測定することによって診断をつけていました。

しかしこれらの方法では結果が出るまでに日数がかかり、実際の治療には役立てにくかったのですが、ここ数年は簡便な診断キットが開発され、一般の病院、診療所でも10分前後という極めて短時間で迅速に確定診断ができるようになりました。

 インフルエンザの予防法

「予防接種を受けないでインフルエンザに罹った人の70−80%の人は予防接種を受けていればインフルエンザにかからずにすむか、かかっても症状が軽くてすむ」という有効性が証明されています。特に高齢者の場合はインフルエンザによる入院、死亡を減らすことが証明されています。基本はインフルエンザウイルスのワクチン予防接種を受けておくことです。ウイルスに対する免疫力がつくには最低10日から2週間くらいかかります。通常は1月、2−3月頃に流行(近年流行のピークは2月初め頃)しますので年内、できれば11月くらいまでに済ませておくほうがよいです。重症化しやすい高齢者や乳幼児は2回(10月に1回目、11月に2回目)、中学生以上や成人ですと1回接種することになっています。なお予防効果は約5ヶ月間と考えられています。

以前はワクチンの効果が今ひとつだったことと副反応の問題で、ワクチン接種が下火だった時期がありました。最近10年間では、WHOが推奨した株を基本にしてわが国の流行状況などから、ウイルスの型、流行株の予測が可能になったことから発症を防ぎ、またインフルエンザにかかっても、ワクチン接種をしていると重症化しにくいことなどがわかってきたこと、などから積極的にワクチン接種をすすめる傾向にあります。

 予防接種を受けた方が良い人  

米国のCDC(米疾病管理センター)は、 
1)50歳以上の人 
2)ナーシングホームや年齢にかかわらず慢性疾患患者を収容している長期療養施設の入居者 
3)慢性心疾患や喘息を含む慢性肺疾患の成人および生後6ヶ月以上の小児 
4)代謝性疾患、慢性腎疾患あるいは免疫系の低下(薬剤やHIV/エイズ感染が原因の免疫系の問題など)のために、通常の治療や入院が必要な成人および生後6ヶ月以上の小児 
5)長期アスピリン治療を受け、そのためにインフルエンザ後にライ症候群を発症する恐れのある生後6ヶ月から18歳までの小児およびテイーンエージャー 
6)インフルエンザシーズン中に妊娠3ヶ月以降となる女性
 の該当者にインフルエンザ予防接種を受けるように勧めている。

さらにCDCはインフルエンザに起因する合併症リスクの高い人にインフルエンザが広がるのを防ぐために、
1)医師、看護師および病院や診療所などの職員 
2)ナーシングホームや長期療養施設の職員で患者や入居者と接触する者 
3)高リスクグループの人々が暮らす福祉施設などの職員 
4)高リスクグループに在宅医療を提供する人 
5)高リスクグループの家族(小児も含む)
 などにも予防接種を受けるように推奨している。
   (Medical Tribune 2003/12/25より抜粋引用)

英国では、インフルエンザに対するワクチン接種優先順位リストがある。
1位 医療関係者
2位 社会を維持するてめに重要な職業、たとえば消防・救急、警察、通信、運輸、軍隊など。
3位 心疾患、呼吸器系疾患、腎不全などの慢性疾患ハイリスク患者
4位 妊婦
5位 老人ホーム、老人病院の入居者、
6位 75歳以上の老人
7位 65歳以上の老人
   (日医雑誌 第134巻 10号 平成18(2006)年1月 1924頁 安達知子氏の「妊婦に対するインフルエンザ不活化ワクチン」より抜粋引用) (2006/01/05追加)

 妊婦のインフルエンザワクチン接種

非妊娠時と比較すると、インフルエンザに対する抗体を有していない妊娠中期および末期の妊婦は、インフルエンザに罹患する確率が有意に高まる。
そのため、米国ではCDC(疾病管理センター)、産婦人科および小児科などの学会が妊婦に対するインフルエンザワクチン接種を推奨している。また、WHO(世界保健機関)も妊娠14週以降の妊婦に対するインフルエンザワクチン接種を推奨しており、特に高血圧や腎疾患などを合併するハイリスク妊婦に関しては、妊娠初期でもインフルエンザワクチンを接種すべきであるとし、欧米において妊婦は、老人、小児と並びインフルエンザワクチン接種の優先順位の上位にランクされている。

そのような欧米における現状とは対照的に、我が国においては、使用されているインフルエンザワクチンの貼付文書に「妊娠中の接種に関する安全性は確立されていないので、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には接種しないことを原則とし、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断されると思われる場合にのみ接種すること」とあるため、実際の日常臨床の場において、妊婦に対しインフルエンザワクチンを積極的に接種することは、まれであると言わざるを得ない。
   (日医雑誌 第131巻 第6号 平成16(2004)年3月15日 782頁 荒木 勤氏の「論説と話題」より抜粋引用) (2004/04/14追加)

インフルエンザワクチンは不活化ウイルスワクチンである。生ワクチンは生きた病原体を接種するため、妊婦への接種は原則的に禁忌で、妊娠前に接種した場合には、日本ではその後2ヶ月間、米国では3ヶ月間避妊することになっている。一方不活化ワクチンやトキソイドは、生きた病原体そのものを接種するわけではないため、胎児へのj感染は問題にならない。したがって、妊婦がもしも感染の可能性が高い状況にある場合には、その予防接種を行う。しかし、不活化ワクチンであっても、ワクチン接種によって母体の全身反応や発熱、場合によってはショックなどが起こる可能性もあり、その場合には流産や早産のリスクがあるため、積極的な接種には、十分なインフォームドコンセントやその後の経過観察などの配慮が必要である。

日本では、妊婦に対する認識は比較的低く、妊婦に対するインフルエンザワクチン接種の影響の調査がまだ十分でないことから、積極的には勧められないとしている。しかし、現在までに、インフルエンザワクチン接種によって特別の有害事象が発生したという報告はない。これに対し、米国では、妊娠中のワクチン接種は積極的に勧められている。

インフルエンザの流行の始まる前に妊婦に接種することは、できれば胎児の器官形成期である妊娠初期を除けば、基本的に安全と考えてよく、また、妊娠に気付かず接種してしまった場合でも問題はないと考えられる。
   (日医雑誌 第134巻 10号 平成18(2006)年1月 1924頁 安達知子氏の「妊婦に対するインフルエンザ不活化ワクチン」より抜粋引用) (2006/01/05追加)

 授乳中のワクチン接種

インフルエンザワクチンのみならず、他の不活化ワクチンや生ワクチンでも安全であるとされている。
   (日医雑誌 第134巻 10号 平成18(2006)年1月 1924頁 安達知子氏の「妊婦に対するインフルエンザ不活化ワクチン」より抜粋引用) (2006/01/05追加)

 妊婦と抗インフルエンザウイルス薬

抗インフルエンザウイルス薬としては塩酸アマンタジン(シンメトレル)は動物実験での胎児奇形と胎児毒性の結果から投与禁忌となっている。ザナミビル(リレンザ)とオセルタミビル(タミフル)は禁忌となっておらず、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合には投与できることになっている。しかし、妊娠中はヒトの安全性についてはまだ不明な点が多く、十分な使用経験もないため有効性についても不明である。

米国では動物実験の結果から、2004年1月に1歳未満の乳児にオセルタミビルを使用しないように求めるドクターレターが出された。これらのことから妊娠中は抗ウイルス薬は使用せず、解熱鎮痛薬、気管支拡張薬や鎮咳薬などの対症療法を行うことが一般である。
   (日医雑誌 第134巻 10号 平成18(2006)年1月 1924頁 安達知子氏の「妊婦に対するインフルエンザ不活化ワクチン」より抜粋引用) (2006/01/05追加)

 予防接種の副作用

インフルエンザ予防のワクチン接種で、00年度と01年度の2年間に計169人が副作用を発症し、うち7人が死亡したと製薬会社や医療機関から厚生労働省に報告されていた。

副作用を発症した169人の内訳は00年度82人、01年度87人。10歳未満が43人と最も多く、70代が33人、60代24人、10代から50代までの各年代と80代が11−12人、90代が1人だった。死亡した7人は70代が3人、80代2人、60代と90代が各1人。

副作用はショックや、手足が動きにくくなるギラン・バレー症候群、発熱、熱性けいれん、頭痛、嘔吐、下痢、注射部位のはれ、急性脳症など。大半は回復または軽快していたが、21人が副作用が続いたり、後遺症が出たりした。死亡した7人は急性肝炎、血小板減少症、間質性肺炎、脳症などだった。

厚労省によると、00年度使用のインフルエンザワクチンは633万本、01年度が871万本。01年度は60歳以上は約640万人が接種を受けたという。同省は「ほかのワクチンに比べ死亡率が特別高いわけではない」としたが、副作用予防のため「体調が悪いときには接種を避けてほしいと呼びかけている。

インフルエンザワクチンはウイルスを鶏卵に接種して増殖させた後、毒性を除いて製造する。ポリオ(小児まひ)ワクチンなどと違い、発症を完全に防ぐことはできないが、インフルエンザにかかりにくくするほか、肺炎など重症化の予防に効果があるとされる。
   (朝日新聞、愛媛新聞2003/02/05より、引用改編)

死亡した7例はすべて60歳以上の高齢者で、70歳代が3例、80歳代が2例、60歳代と90歳代がそれぞれ1例。報告された症状は急性肝炎、血小板減少、紫斑、脳出血、肺炎、脳症、多臓器不全、播種性血管内凝固、心不全の増悪、間質性肺炎などで、インフルエンザワクチンが原因とは考えにくい症状も含まれている

これまでのわが国の統計から、インフルエンザワクチンによる可能性があると認定された死亡事例は2500万接種当たり1例程度とされている。13年11月の予防接種法改正以降、65歳以上の高齢者について厚労省がインフルエンザワクチンによる可能性があると認定した死亡事例はない。
   (日本医事新報 No,4112 p.86 -2003/02/15)

 インフルエンザの治療法

従来は安静・臥床、水分の補給、解熱鎮痛剤、細菌合併症を防ぐための抗生剤、鎮咳去痰剤といった症状を和らげる対症療法が中心でした。今でも過労を避け、十分な栄養、睡眠と休養をとることが大切であることは勿論です。また空気が乾燥するとウイルスが活発になるので、部屋の湿度を保ち、お茶、ジュース、スープなど水分を充分補給することも大切です。1998年からA型インフルエンザウイルスに特効的に作用する内服薬が保険適用になり、昨シーズン(2000−2001年)からはA型、B型インフルエンザ両方に効く吸入薬、内服薬が加わり、保険治療に使われるようになりました。

体内に入った1個のインフルエンザウイルスは24時間後には100万個に増殖すると言われており、48時間くらいまで、増殖を続けます。したがって、これらの薬を発症48時間以内に使用すると直接ウイルスに作用し、増殖を抑え、劇的に治療効果がでます。

おかしいと思ったら、なるべく早い時期にかかりつけ医にかかり、初期治療を受けることが重症化を防ぐ意味でも重要です。

 インフルエンザ脳症

昨日まで元気だった幼児が発熱し、突然けいれんや意識障害などを起こす。1,2日で悪化し、数日で死亡する危険もある。このインフルエンザ脳症はここ数年、解明と対策が進んだが、死亡率は今も15%にのぼり、4人に1人は後遺症に悩む。

厚生労働省の研究班(班長:森島恒雄名古屋大医学部教授)の全国調査によると、インフルエンザ脳症は毎年100人前後の発症が報告されている。実態はその2倍という。欧米ではほとんどなく、日本人に多発。遺伝的な素因が疑われている。

患者の大半は5歳以下。流行年には、同年代の死因の6位を占める。神経症状が急速で、緊急を要する。夕方に熱がでて、真夜中にけいれんを起こし、異常におびえ、奇妙な行動をとったりする。

脳症になった子供が感染したインフルエンザウイルスを調べると、A香港型がAソ連型やB型に比べて3,4倍起こしやすい。
    (愛媛新聞2003/01/06より抜粋引用)

B型はA香港型に比べて脳症になる頻度は低いが、なると重症化しやすい性質がある。
    (日医雑誌 第134巻 10号 平成18(2006)年1月 1900頁 有田健一氏 et al の「インフルエンザウイルス感染症と関連するワクチンの臨床」より抜粋引用) (2006/01/05追加)

子供にまれに起きるインフルエンザ脳症は90年代に顕在化。森島恒雄 岡山大教授(小児科)らの調査で、感染後、血管の細胞の障害で急激な脳浮腫が起きることなどが原因と分かってきたが、未解明な点が多い。
    (愛媛新聞2003/11/24より抜粋引用)

治療法はまだ確立されていないが、早期に抗ウイルス薬(アマンタジン、ザナミビル、オセルタミビル)投与、ステロイド・パルス療法、γグロブリン大量療法が試みられている。
    (Nikkei Medical 2004年1月号 p.20-21 小又理恵子氏論文より引用)  (2004/01/16追加)

平成11年のインフルエンザ流行の際に特に注目されるようになった「インフルエンザ脳炎・脳症」の多くは5歳以下の小児で、発症後平均1.4日で発症発熱して徐々に発症するのではなく、意識のある状態から急速に発症する。41度以上では死亡率も高い。人口あたりにすると患者の多かった平成11年で100万人に1人と少ないが発症すると重篤であるので注意を要する。
    (日本耳鼻咽喉科学会会報 2004年107巻3号 白木公康氏論文 「インフルエンザの最近の話題」 より抜粋引用) (2004/04/08追加)

インフルエンザ脳症の特徴
1)インフルエンザの流行の規模が大きいほど多発する。(特にA香港型の流行時)
2)おもに6歳以下の小児が発症し、インフルエンザの発熱から数時間ー1日と神経症状が出るまでの期間が短い
3)おもに痙攣・意味不明な言動・急速に進行する意識障害が症状の中心である。
4)死亡率は約30%で、後遺症も25%の子供に見られるなど、重い疾患である。
5)現在まで我が国で多発し、欧米での報告は非常に少ない。

インフルエンザ脳炎・脳症に見られた異常な言動について
・自分の手をハムだ、ポテトだと言ってかじり付いた(oral tendency)
・ついていないテレビを見て、猫が来る、お花畑がたくさんあると口走った(大脳基底核・辺縁系の異常の可能性)
・咳をした後、枕に頭を打ち付けて、キャーキャー叫んだ(扁桃体を含む大脳辺縁系の異常の可能性)
その他の異常な言動
・突然、赤ちゃんのようなしゃべり方で訳のわからないことを言う
・知っている言葉を取り止めなくしゃべっていた
   (厚生労働省インフルエンザ脳炎・脳症研究班編集「インフルエンザ脳症の手引き」から引用・改変)
   (Medical Tribune 2004/10/14  インフルエンザトピックス インフルエンザ脳症より引用) (2004/10/22追加)

 注意点

熱の出る病気は沢山あります。インフルエンザの場合も通常高熱がでますが、使ってよい解熱剤が限られていますので、他の病気との区別が大切です。例えばアスピリンなどのサリチル酸系解熱鎮痛薬、またジクロフェナクナトリウムメフェナム酸という成分を使った解熱剤については使用することにより死亡率が高くなることがわかり、15歳未満のインフルエンザ患者さんへの投与はしないことになっています。自己判断で市販の解熱剤を安易に使用することは厳重に慎んでください。

(南海放送2002年1月17日放映取材を改編)

(日本医師会HP「インフルエンザQ&A」より抜粋引用追加 2002/11/20)

追加

 インフルエンザワクチンは効かなくなったのか!?

1) インフルエンザはインフルエンザウイルスが鼻咽頭粘膜で増殖して発症すると言われており、ワクチン接種によって抗体価の血中濃度さえ上げれば罹患を防げるというわけではない。一方ひとたびワクチンを接種すれば、たとえ血中濃度は上がらなくてもワクチンは効いているのだとする説もある。

ワクチンを接種すれば抗体価の血中濃度が上昇することを期待するわけであるが、千葉昭典氏(東京小児科医会公衆衛生委員)の研究によればインフルエンザA.B型3種の抗体価の血中濃度に差異があることがわかった。

6名の被接種者の過去3年間のワクチン接種後の抗体価の上昇の有無を検査した。

1999年度は接種後の抗体価の上昇は1か月後、A、B型3種とも成人では全員が有効血中濃度を示し、7か月後もなお保持していた。
2000年度はA型(H3N2)は1年前からの抗体価を有し、接種後1、4か月後も有効血中濃度を示した。A型(H1N1)は前年からの抗体保有者は半数、接種後1か月後の有効血中濃度保持は6名中5名、4か月後は2名に減少。B型は前年からの抗体保有者は1−2名にすぎず、1か月後でも有効血中濃度に達している者はわずか3名であった。

2001年度もほぼ同様の傾向で、A型(H3N2)は前年からの抗体保有が全員にみられ、接種後1、7か月後でも全員有効血中濃度を維持。B型は接種前より上昇値を示した者が一人もいなかった。ワクチン効果が全くなかったことを示した。
特に10歳以下の小児については接種後1か月で半数に抗体価の上昇が見られず、B型について、ワクチンの力価を上げるか、別株に変更する必要がある。
   (日本医事新報 No.4115(2003/03/08) 千葉昭典氏論文より抜粋引用)

2) 老健施設でのインフルエンザワクチン一回接種前後の抗体価の変化を調査した結果によれば、A香港型(H3N2)の抗体価は接種前から感染防御濃度以上の割合も多く、接種後は十分な感染防御濃度割合が得られたが、Aソ連型(H1N1)は約半数の割合で、またB型は四分の一程度しか感染防御濃度が得られなかった
   (日本医事新報 No.4148(2003/10/25)  岡 成寛、平山宗宏、稲田 洋 氏論文より抜粋引用)


 A型(H3N2)はA香港型、A型(H1N1)はAソ連型と言われる種類で、結局A香港型が流行すればワクチンは大いに威力を発揮し、Aソ連型が流行するとそれほど効き目がなく、B型については現状では殆どワクチン効果が期待できない、との結果と思います。
ちなみに2000−2001年はAソ連型が、2001−2002年はAソ連型とA香港型がともに流行の中心となっており、2002−2003年はAソ連型はほとんど検出されず、A香港型が1月まで流行の主流を占め、やや遅れてB型が流行しました。(Nikkei Medical 2003年11月号 東海大学名誉教授 木村 三生夫氏論文より引用)
ワクチン組成は毎年変えているようですが、さらなる改良、2回接種の必要性、など今後の研究に期待するところ大です。

 開発進む新型ワクチン

現在、広く使用されているインフルエンザワクチンは、発育鶏卵で増殖させたウイルスを不活化したものだが、注射剤のため小児には使いにくく、乳幼児では予防効果が低いという問題があった。また高齢者でも不活化ワクチンの有効性は若年、壮年者に比べると低い。

こうした不活化ワクチンの欠点を克服すべく、新しいワクチン製剤の開発も進められているが、その一つに低温環境(25℃)に適応させたウイルスを用いた弱毒生ワクチンがある。流行株と混合培養しその抗原性を獲得させた低温馴化ウイルスを鼻腔内に噴霧すると、体温の高い体内に侵入することなく鼻腔内だけで感染し、局所の免疫反応を誘発するという。
   (日経メデイカル 同封別冊 日経CME 2004年 1月より引用) (2004/01/16追加)

 CDCがインフルエンザの最新動向を発表ーワクチンとの共通抗原性は25%

米疾病管理センター(CDC)は、米国のインフルエンザ活動情報の最新版で、50州中24州でインフルエンザが流行していると報告した。また昨2003年10月1日以降に米国内の試験室から提出された215のウイルスの抗原同定により、うち、212のウイルスがインフルエンザA(H3N2)ウイルス、1つがインフルエンザA(H1)であった。

CDCは、インフルエンザA(H3N2)ウイルスのうち、今シーズン用のワクチンに含有されているA/Panama/2007/99(H3N2)株と抗原性が類似していたのは25%で、残り75%はむしろ同株の連続変異型サブタイプであるA/Fujian/412/1002に抗原性が類似していたと報告した。
    (Medical Tribune 2004年01月15日より抜粋引用)

インフルエンザ治療薬「タミフル」とは ー「異常行動の例、7割消費する日本が突出

Q どんな効能があるのか?
A 気道の粘膜に入り込んだインフルエンザA型とB型の両方のウイルスが細胞から飛び出すのを防いで増殖を抑える。一般に発熱期間を一日ほど短くする。カプセルと水に溶いて飲む粉状の二種類があり、体重37.5キログラム以上の患者はカプセル、それ未満の患者は粉状が処方される。

Q 普及の経緯は?
A  スイスのロシュ社が製造し、日本の子会社が2001年2月に発売した。中外製薬がロシュの傘下に入った02年以降、中外が独占的に輸入販売している。公的な健康保険制度が整った日本は薬を手に入れやすく、「早く治したい」とのニーズから広まった。これまで世界で計四千五百万人が使い、うち三千五百万人が国内とみられる。

Q 異常行動との因果関係はどこまでわかっている?
A 服用していなくても、小児を中心にインフルエンザにかかると、場合によっては異常行動が起こることが知られている。タミフルを投与したネズミでは薬が脳に達したとのデータもあるが、人の服用時に同じことが起こるかは不明だ。

Q 海外での異常行動の報告例や対応は?
A 米食品医薬品局への精神神経症状などの報告例(05年8月ー06年7月)は米国人五人、ドイツ人二人などにとどまるが、服用の多い日本が九十五人と突出している。欧州連合(EU)は日本での問題を受け、薬に添付する注意書きに「異常行動や幻覚の報告がある」と明記する方針だ。

Q  厚労省が十代の使用中止を指示した。影響は?
A  抵抗力が高い十代は自然に治ることが多く、若者にタミフルは不要との意見もある。ただ、学校でのインフルエンザ予防接種が1994年に義務付けから任意制となったことで感染が広がり、死者が増えた。若者へのタミフル投与中止の悪影響を懸念する声も専門家では根強い

Q 国内に他のインフルエンザ治療薬はあるのか?
A 英グラクソスミスクライン社の「リレンザ」が販売されている。専用容器に薬剤をセットして吸い込むタイプで、医師から使い方の説明を受ける必要がある。同治療薬での処方量シェアは1.4%にとどまる。
   (日経新聞 2007/3/23より引用)

 インフルエンザ治療薬の予防的投与

厚労省は1月15日都道府県などに対し、以下の通知を出した。「高病原性鳥インフルエンザに感染したトリが発生した農場でトリの殺処理に従事しウイルスに汚染された可能性のある物質を吸入するなど特別なリスクを持つ者に対しては、WHOの勧告(*)を踏まえ、抗インフルエンザウイルス薬の予防的投与を勧奨されたいこと。なお、予防投与に当たっては、貼付文書情報を基に抗インフルエンザウイルス薬の使用の必要性を考慮の上使用するよう併せて指導すること」

*Amantadine and rimantadine: 100mg, twice a day; Oseltamivir phosphate (Tamiflu): 75mg capsule once per person per day, for at least 7 days and maximum up to 6 weeks.
   (日本医事新報 No.4161-2004年1月24日 p.72)

 インフルエンザに対する予防にはワクチンが一番ですが、鳥インフルエンザにはまだ有効なワクチンは開発されていません。今施行されているワクチンは無効です。しかしタミフルなどの抗インフルエンザ薬は鳥インフルエンザにも効果があると考えられています。最近抗インフルエンザ薬の予防的投与ということが話題になってきています。米国では通常のヒトインフルエンザにもこの考え方が応用されているともいいますが、この記事は鳥インフルエンザに関してのことであって、通常のインフルエンザに対しての抗インフルエンザウイルス薬の予防的投与については我が国では2004年1月末日までのところ承認されていません

 スペイン風邪 ー原因は鳥ウイルスー (愛媛新聞 2004/02/06より抜粋引用) (2004/02/18追加)

1918年に世界で大流行したスペイン風邪を引き起こしたインフルエンザウイルス(H1N1型)は、遺伝子的には鳥のウイルスで、わずかな変異で人への感染能力を獲得したとの研究成果を、米ハーバード大などの2グループが(2月)6日付けの米科学誌サイエンスに発表した。

アジアで起きている高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)の人への感染の秘密を解き明かす上で、大きな役割を果たしそうだ。

スペイン風邪のウイルスは、アラスカの永久凍土に埋葬された当時の犠牲者の遺体などから分離され、既に遺伝子配列も分かっている。

ハーバード大のグループはこのデータから、標的の細胞に取り付く際に働く、ウイルス表面に突き出たヘマグルチニン(HA)という部分の立体構造を解析し、鳥インフルエンザのHAと比較した。

その結果、わずか数ヶ所のアミノ酸が置き換わっているだけで、鳥のウイルスと分類できると分かった。ただ、この変異で、立体構造が人間の細胞に取り付きやすいよう変化していた。グループは「これが大流行した原因かも知れない」としている。

また、別のグループもHAを分析。呼吸器や消化器など、体のどこに感染するかを決めている部分に、他のインフルエンザウイルスにはないヒスチジンというアミノ酸を見つけた。研究者は「これがスペイン風邪の強い毒性につながった可能性もある」としている。

 H5N1型

H5N1型鳥インフルエンザが、ヒトに伝播する変異を起こして「新型インフルエンザ」となり、人類に世界大流行(パンデミック)を引き起こす懸念が高まっている。新型インフルエンザの発生と治療を考えるとき、「H」と「N」を知ることが大切な第一歩となる。

Hはインフルエンザウイルスの表面抗原であるヘマグルチニン(HA=赤血球凝集素)を意味する。Nはウイルス表面にスパイク状に存在するノイラミニダーゼ(NA)のこと。宿主細胞で増殖した新しいウイルスが放出される際、ウイルスの遊離を促進する酵素である。H5N1型が属するA型インフルエンザは「H」に15種類、「N」に9種類があり、これらの組み合わせで計135の亜型ウイルスがある。それぞれ抗原性が異なる

新型インフルエンザ対策の柱として、ワクチンと抗ウイルス薬の二つがある。ワクチンは「H」への免疫防御、主要な抗ウイルス薬は「N」の阻害によって効果を発揮する。

ワクチンの主成分はウイルスのHA。その予防接種で、HA抗体による免疫を獲得させる。だが、ワクチンはHAの構造が細部まで同じでないと有効ではないため、現在のワクチンは新型インフルエンザには効力がない。新たなワクチンを開発、製造するには半年程度かかるので、流行の第一波には間に合わない

従ってどの型のインフルエンザが流行しても、「第一波はノイラミニダーゼ阻害薬(タミフル、リレンザ)でNをブロック」「第二波はワクチンでHへの免疫を獲得して阻止」の防御戦術が基本となる。
   (Nikkei Medical 2004年3月号 13頁 埴岡健一氏論文より抜粋引用)

 タミフルへの予防の効能・効果追加を了承

薬事・食品衛生審議会の医薬品第二部会は(5月)21日、インフルエンザ治療薬「タミフルカプセル75」(中外製薬)へのインフルエンザ予防の効能・効果などの追加について審議し、承認して差し支えないとの結論を取りまとめた。6月の薬事分科会への報告を経て、7月に正式に承認される見通し。

予防の効能・効果追加の承認条件は、1)国内でのハイリスク群における有効性・安全性を明らかにする、2)国内での高齢者における本薬の薬物動態を明らかにする、3)B型インフルエンザウイルスに対する有効性・安全性に関する情報を集積し、規制当局に報告する、4)インフルエンザウイルスの本薬に対する耐性化に関する国内外の調査結果・情報について、随時、規制当局に報告するーの4つ。

必要のない人には予防投薬が行われないよう、予防投薬については、 1)インフルエンザ患者の同居家族あるいは共同生活者のような感染リスクの高い人で、かつ 2)高齢者、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、糖尿病などの代謝性疾患、腎機能障害のある人など危険因子を持っている人ーを対象とすべきとの文言を「使用上の注意」に記載することとなった。ただ、ワクチン接種ができない人(卵アレルギーの人や免疫力の落ちている人)は投薬対象から除外していない旨がわかるような文案を考えるべきとの指摘もなされた。
   (日本医事新報 No.4179  2004年5月29日 71頁 「新薬情報」より抜粋引用))  (2004/06/17追加)

「タミフルカプセル75」は治療の場合、1日2回の投与(成人および37.5kg以上の小児が対象5日間投与だが、予防投与の場合は1日1回の投与(成人および13歳以上の小児が対象)7−10日間となる。

予防対象者は、インフルエンザ感染症と診断された人の同居家族または共同生活者で、かつインフルエンザ感染症に罹患した場合に症状が重症化する可能性の高い人、つまり、
1)高齢者(65歳以上)
および
2)慢性呼吸器疾患または慢性心疾患患者、
3)代謝性疾患患者(糖尿病など)、
4)腎機能障害患者、
などのハイリスク慢性疾患患者(13歳以上)である。
上記の場合に限って最大10日間の予防使用が可能。

インフルエンザウイルスは、症状発現24時間前から急速に増加し、症状発現後48時間以内にピークに達すると考えられている。従って、インフルエンザウイルス感染症患者に接触後できるだけ速やかにタミフル75を服用することにより、ウイルスの増殖を抑制することが可能である。

タミフル75の予防効果は、継続して服用している期間持続する。インフルエンザ感染症患者が通常ウイルスを放出している期間(7−10日間)は継続すること。

予防投与開始前から抗ウイルス効果が発現する薬剤濃度に達する前に、ウイルス感染が成立すると予防効果は期待できない。

タミフルの予防使用は「インフルエンザウイルス感染症患者接触後予防」なので、予防投与開始後数日以内にインフルエンザ症状が発現した場合には、必要に応じ早期に治療に切り替えること。
   (中外製薬 タミフル使用上の注意など改訂版より抜粋引用)  (2004/08/07追加)


 平成15年度(2003−2004シーズン)のワクチン製造株

今シーズンのワクチン製造株は昨年同様、
・A型株
 1) ソ連型  : A/ニューカレドニア/20/99 (H1N1)  
 2) 香港型 : A/パナマ/2007/99 (H3N2)  
・B型株
 3) B/山東/7/97 
が選ばれた。
   
1)のAH1型のワクチン製造株はWHO(世界保健機関)からの情報に基づいて決定され、2)のAH3型は我が国での流行状況とワクチン製造株に適していることから採用された。3)は最近の流行の主流がB/香港/730/2001とB/山東/379/99であったことが考慮された。
   (Nikkei Medical 2004年 4月号 129頁) (2004/04/15追加)

 平成16年度(2004−2005シーズン)インフルエンザHAワクチン製造株が下記の如く決定された。

・A型株
 1) ソ連型  : A/ニューカレドニア/20/99 (H1N1)
 2) 香港型 : A/ワイオミング/3/2003 (H3N2)
・B型株
 3) B/上海/361/2002


HA抗原含有量 : ワクチン1mL中の各株のHA含量(相当値)は1株当たり30μg以上
    (「化血研」 藤沢薬品工業(株) 提供資料より)  (2004/07/08追加)

 平成17年度(2005−2006シーズン)インフルエンザHAワクチン製造株が下記の如く決定された。

・A型株
 1) ソ連型  : A/ニューカレドニア/20/99 (H1N1)
 2) 香港型 : A/ニューヨーク/55/2004 (A/カリフォルニア/7/2004類似株) (H3N2)
・B型株
 3) B/上海/361/2002


 平成18年度(2006−2007シーズン)インフルエンザHAワクチン製造株が下記の如く決定された。

・A型株
 1) ソ連型  : A/ニューカレドニア/20/99 (H1N1)
 2) 香港型 : A/広島/52/2005 (H3N2)
・B型株
 3) B/マレーシア/2506/2004


 平成19年度(2007−2008シーズン)インフルエンザHAワクチン製造株が下記の如く決定された。

・A型株
 1) ソ連型  : A/ソロモン諸島/3/2006 (H1N1)
 2) 香港型 : A/広島/52/2005 (H3N2)
・B型株
 3) B/マレーシア/2506/2004


HA抗原含有量 : ワクチン1mL中の各株のHA含量(相当値)は1株当たり30μg以上
    (Medical Today News No.7-49 (株)幸燿 提供資料より)  (2007/07/04追加)

 平成20年度(2008−2009シーズン)インフルエンザHAワクチン製造株が下記の如く決定された。

・A型株
 1) ソ連型  : A/ブリスベン/59/2007 (H1N1)
 2) 香港型 : A/ウルグアイ/716/2007 (H3N2)
・B型株
 3) B/フロリダ/4/2006


HA抗原含有量 : ワクチン1mL中の各株のHA含量(相当値)は1株当たり30μg以上
    (田辺三菱製薬(株) 提供資料より)  (2008/06/26追加)

 平成21年度(2009−20010シーズン)インフルエンザHAワクチン製造株が下記の如く決定された。

・A型株
 1) ソ連型  : A/ブリスベン/59/2007 (H1N1)
 2) 香港型 : A/ウルグアイ/716/2007 (H3N2)
・B型株
 3) B/ブリスベン/60/2008

   (幸燿(株) 提供資料より)  (2009/07/22追加)

 平成22年度(2010−20011シーズン)インフルエンザHAワクチン

・A型株
 1) 新型   : A/カリフォルニア/7/2009 (H1N1)
 2) 香港型 : A/ビクトリア/210/2009 (H3N2)
・B型株
 3) B/ブリスベン/60/2008


HA抗原含有量 : ワクチン1mL中の各株のHA含量(相当値)は1株当たり30μg以上
  (「ビゲンHA」 インフルエンザHAワクチン添付資料より)  (2010/11/27追加)

 平成23年度(2011−2012シーズン)インフルエンザHAワクチン

・A型株
 1) 新型   : A/カリフォルニア/7/2009 (H1N1) pdm 09
 2) 香港型 : A/ビクトリア/210/2009 (H3N2)
・B型株
 3) B/ブリスベン/60/2008


 平成24年度(2012−2013シーズン)インフルエンザHAワクチン

・A型株
 1) 新型   : A/カリフォルニア/7/2009 (H1N1) pdm 09
 2) 香港型 : A/ビクトリア/361/2011(H3N2)
・B型株
 3) B/ウィスコンシン/1/2010


HA抗原含有量 : ワクチン1mL中の各株のHA含量(相当値)は1株当たり30μg以上
  (阪大微生物病研究会 田辺三菱製薬(株) インフルエンザHAワクチン添付資料より)  (2012/06/28追加)

 平成25年度(2013−2014シーズン)インフルエンザHAワクチン

・A型株
 1) 新型   : A/カリフォルニア/7/2009(X−179A) (H1N1) pdm 09
 2) 香港型 : A/テキサス/50/2012(X−223) (H3N2)
・B型株
 3) B/マサチュセッツ/2/2012(BX−51B)

 平成26年度(2014−2015シーズン)インフルエンザHAワクチン

・A型株
 1) 新型   : A/カリフォルニア/7/2009(X−179A) (H1N1) pdm 09
 2) 香港型 : A/ニューヨーク/39/2012(X−223A) (H3N2)
・B型株
 3) B/マサチュセッツ/2/2012(BX−51B)

平成27年度(2015−2016シーズン)インフルエンザHAワクチン

・A型株
 1) 新型   : A/カリフォルニア/7/2009(X−179A) (H1N1) pdm 09
 2) 香港型 : A/スイス/9715293/2013(NIB−88) (H3N2)
・B型株
 3) B/プーケット/3073/2013(山形系統)
 4) B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統)
    B型株が1種類増え、4価のインフルエンザHAワクチンになる

平成28年度(2016−2017シーズン)インフルエンザHAワクチン

・A型株
 1) 新型   : A/カリフォルニア/7/2009(X−179A) (H1N1) pdm 09
 2) 香港型 : A/4801/2014 (H3N2)
・B型株
 3) B/プーケット/3073/2013(山形系統)
 4) B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統)

平成29年度(2017−2018シーズン)インフルエンザHAワクチン

・A型株
 1) 新型   : A/シンガポール/GP1908/2015 (H1N1) pdm 09
 2) 香港型 : A/4801/2014 (H3N2)
・B型株
 3) B/プーケット/3073/2013(山形系統)
 4) B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統)


 
令和3年度(2021-2022シーズン)インフルエンザHAワクチン

A型株
 1) 新型   : A/ビクトリア/1/2020(IVR-217) (H1N1)
 2) 香港型 : A/タスマニア/503/2020(IVR-221) (H3N2)
・B型株
 3) B/プーケット/3073/2013(山形系統)
 4) B/ビクトリア/705/2018(BVR-11)(ビクトリア系統)



記号の読み方 
A        :A型インフルエンザウイルスであることを示す
カリフォルニア  :このウイルスが分離された地名
7        :カリフォルニアで分離された沢山のウイルスを整理したときの番号
2009     :2009年に分離されたという年号
(X−179A)  :原株(野生株)を基に作成したワクチン製造用の高増殖株の種類を表す記号
(H1N1)   :HはHemagglutinin(血球凝集素) NはNeuraminidase(ノイラミニダーゼ)の頭文字でどちらもタンパク質。
          ウイルス表面上の抗原の種々のタイプを表す。
pdm09      :2009年にパンデミック(爆発的流行)を起こしたときの株であることを示す。


最近の分離株における抗原性の特徴
A/H1N1亜型 : 多くがワクチン株のA/Solomon Islands/3/2006に非常に類似していたが、
            ワクチン株とは異なるA/Brisbane/59/2007類似株の割合が増加した。
A/H3N2亜型 : いくつかの分離株はワクチン株であるA/Wisiconsin/67/2005 と 
            A/広島/52/2005 に類似していたが、多くの株は最近推奨された
            A/Brisbane/10/2007 に非常に類似していた。
B型        :B/Victoria/2/87と B/山形/16/88 系統の両方の流行が続いた。
           B/Victoria/2/87系統の多くの分離株が、北半球のワクチン推奨株であった 
           B/Malaysia/2506/2004 と非常に類似してはいたが、抗原不均一性の増加が観察された。
           B/山形/16/88 系統の多くの分離株は B/Florida/4/2006, B/Brisbane/3/2007,
           B/仙台/114/2007に非常に類似していた。
     (Medical Today News 掲載  国立感染症研究所HP 資料より) (2008/10/24追加)


2004/05年シーズンの流行パターンは3種類のウイルスの混合流行で、流行の主流はB型で全分離株の56%を占め、次いで香港型41%、ロシア型が3%であった。
流行のピークは2月下旬と例年に比べて遅かったものの、流行規模は過去10シーズンで3番目の大流行であった。(最大は1997/98年シーズンで、次いで1994/95年シーズン)

インフルエンザの流行が終息した6−7月にH3N2香港型が散発的に国内で流行し、9月にも再び流行が見られたが、このようなことはかつてなかったことから2005/06年シーズンはH3N2香港型の流行に注意すべきである。(国立感染症研究所ウイルス第三部インフルエンザウイルス室 小田切孝人室長)

H3N2香港型は流行株の抗原性がここ2シーズン目まぐるしく変化しており、B型は最近は1シーズン置きの流行を繰り返す傾向にあることから2005/06年シーズンは流行はそれほど大きくならないと予想される。

わが国では製剤基準が変更されない限り、4種類のワクチン株を組み込むことは品質管理規定上不可能であることから、B型は1株に絞らざるを得ない、と言う。
   (Medical Tribune 2005年10月13日号 「インフルエンザトピックス」 より抜粋引用


シーズン A/H1N1(ソ連) A/H3N2(香港) B(山形) B(Victoria)
ワクチン株 ワクチン株 主な流行株 A型中の比率(%) ワクチン株 流行※
2001-02年 ニューカレドニア パナマ パナマ 不明 ヨハネスバーグ(Y) Victoria
2002-03年 ニューカレドニア パナマ パナマ 100 山東 Victoria
2003-04年 ニューカレドニア パナマ 福建 100 山東 山形
2004-05年 ニューカレドニア ワイオミング カリフォルニア 95.7 上海 山形
2005-06年 ニューカレドニア ニューヨーク ウィスコンシン 87.8 上海 Victoria
2006-07年 ニューカレドニア 広島 92.5 マレーシア Victoria
2007-08年 ソロモン諸島 広島 マレーシア 山形
2008-09年 ブリスベン ウルグアイ フロリダ Victoria
2009-10年 ブリスベン ウルグアイ ブリスベン Victoria(92%)
2010-11年 カリフォルニア ビクトリア ブリスベン Victoria(96%)
2011-12年 カリフォルニア ビクトリア ブリスベン Victoria(67%)
2012-13年 カリフォルニア ビクトリア ウィスコンシン 山形(68%)
2013-14年 カリフォルニア テキサス マサチュセッツ 山形(73%)
2014-15年 カリフォルニア ニューヨーク マサチュセッツ 山形(92%)
2015-16年 カリフォルニア スイス プーケット テキサス 山形(55%)
2016-17年 カリフォルニア 香港 プーケット テキサス Victoria(58%)
2017-18年 シンガポール 香港 プーケット テキサス
2018-19年 シンガポール シンガポール プーケット メリーランド
2019-20年 ブリスベン カンザス プーケット メリーランド
2020-21年 広東ー茂南 香港 プーケット ビクトリア
2021-22年 ビクトリア タスマニア プーケット ビクトリア



 (※流行:国立感染症研究所インフルエンザウイルス分離・検出状況より)

Y=山形系統、V=ビクトリア系統、2006−07年シーズンの流行株は現時点で未発表

A/H1N1は2001−02〜2005−06年シーズンの流行株は全てニューカレドニア株類似

日臨内研究データ、国立感染症研究所感染症センター(病原微生物検出情報)からの引用

ワイオミング株は福建株類似、ニューヨーク株はカリフォルニア株類似、広島株はウィスコンシン株類似

   (インフルエンザ診療マニュアル2007−2008年シーズン版 日本臨床内科医会インフルエンザ研究班 編 日本臨床内科医会会報 第22巻第4号臨時付録8頁より引用)


 これからのインフルエンザワクチン

ウイルスが自然感染すると気道粘膜には Ig A 抗体を主体とする中和抗体が産生されるようになり、その後侵入してきたウイルスの感染性を効率よく中和してウイルス感染を防御できるようになる。またウイルス感染では免疫応答として細胞障害性 T 細胞も誘導されウイルス感染細胞を排除し、固体からのウイルス排除に機能する。

一方、現行のインフルエンザワクチンは血清中に主に Ig G を主体とした中和抗体を産生することによってワクチンの効果を発揮するが、ウイルスの主要な増殖部位である気道粘膜での免疫応答は効率よく誘導しない。そこでウイルス増殖部位での感染防御機能を高めるために、ウイルスの自然感染を模倣するようなワクチンの開発が進められている。経鼻接種のアジュバント添加不活化ワクチンや弱毒生ワクチンのj開発などがその範疇に含まれる。
   (医学書院発行 「医療者のためのインフルエンザの知識」 124−125頁 板村繁之氏論文より抜粋引用)  (2005/12/02追加)

 2005/06年福岡県におけるインフルエンザの分析結果

1)臨床的にインフルエンザが疑われた症例の迅速診断キット陽性率は80%を超えており、臨床症状からインフルエンザの診断は、かなり正確に行われている。
2)迅速診断キットにおけるB型陽性反応は、非特異的な反応が非常に少ないことが確認された。
3)厚労省の臨床診断基準4項目(註)を満たす例は、インフルエンザの流行期においては90%近い例が真のインフルエンザと考えられた。しかし、迅速診断キット陽性例の35%は診断基準4項目を満たさない。つまり4項目も満たせばインフルエンザの可能性が高いが、4項目を満たさないインフルエンザも多い。
4)インフルエンザの全身症状としては、全身倦怠感、関節痛、頭痛の頻度が高く上気道炎症状としては咳の頻度が最も高く、白苔の頻度は低かった。
5)A型陽性例で38℃以上の発熱を示す頻度は83.5%、突然の発症を示す頻度は85.6%であった。A型陽性例の16.5%が38℃以上の発熱を示さず、診断上注意が必要である。
6)インフルエンザにおける抗ウイルス薬の投与は、キット診断結果のみに左右されず、臨床診断を加味して行われている。
(註): 臨床診断基準
1.診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ以下の4つの基準をすべて満たすもの
 1) 突然の発症
 2) 38℃を超える発熱
 3) 上気道炎症状
 4) 全身倦怠感などの全身症状
     なお、非流行期での臨床症状は、他疾患とのより慎重な鑑別が必要である。
2.上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ病原体診断や血清学的によって当該疾患と診断されたもの
   (日本医事新報 No.4301 2006/9/30 p.60-64 福岡内科医会研究報告)


 H5N1ワクチン、米国で初承認

仏サノフィパスツールは、ヒト用の新型インフルエンザワクチンの承認を米国で取得した。H5N1型ヒト用トリインフルエンザの承認は米国初という。

治験では、18−64歳までの健康な成人に90μg/mL を2回摂取し、H5N1ウイルスに対する免疫反応を確認、副反応は軽微との結果が得られている。それを受け同社と米国国立衛生研究所(NIH)が共同で申請、承認取得を4月17日に発表した。また同社は、H7N1ワクチンの欧州での共同研究プロジェクトに協力している。

H5N1ワクチンでは、海外ではバクスター、グラクソ・スミスクラインの開発が知られており、日本では北里研究所、阪大微生物病研究会、デンカ生研が2月に承認申請を発表している。
   (薬事日報 2007/05/07 MEDICAL TODAY NEWS (株)幸燿 より引用)


 汁鼻かみ液でインフルエンザ診断ー国内で初承認

インフルエンザウイルスを検出する検体として「鼻水鼻かみ液」が、国内で初めて「Quick Vue ラピッドSP influ (ラピッドSP)」に認められた。検出検体としてはこれまで、鼻腔拭い液、鼻腔吸引液、咽頭拭い液が用いられてきたが、「鼻水鼻かみ液」が承認されたことで、従来の検体採取法に比べて、不快感や苦痛が軽減されるものと期待される。

「ラピッドSP」はDSファーマバイオメディカルが製造販売している製品で、A型およびB型インフルエンザウイルス抗原を特異的に認識する2種類のモノクローナル抗体を用いたイムノクロマトグラフィー法による抗原検出キット。特別な器具を必要とせず、迅速、簡便に、患者の鼻腔・咽頭中のA・B型インフルエンザウイルスを鑑別して検出できる。

検出検体として、従来の鼻腔拭い液、鼻腔吸引液、咽頭拭い液に加えて、「鼻水鼻かみ液」が認められたことで、特に小児患者の診療などで利便性が高まった。「鼻水鼻かみ液」を用いることによる臨床性能に関しては、従来の鼻腔拭い液検体と同等の成績が得られている。
   (薬事日報 2007/10/2  MEDICAL TODAY NEWS  No.7-77  (株)幸燿より引用)


 子供のインフルエンザマスクで発症率五分の一

ユニ・チャームと関西医科大学の研究チームは、マスクをつけると子供のインフルエンザ発症率が五分の一に低減することを突き止めた。小学生を対象にした調査で、マスク装用の有無によって発症率に明確な差が表れた。マスク装用によるインフルエンザの予防効果を臨床医学的に調べたのは初めて。(11月)9日から開かれる日本小児感染症学会で発表する。

東京都荒川区立尾久宮前小学校の全校児童308人を対象に調べた。今年2月5日から3月2日まで、登下校と清掃時にマスクの装用を推奨した。254人から有効回答を得た。

期間中マスクをつけて過ごした児童は151人。インフルエンザにかかったのは3人で発症率2%だった。マスクをつけなかった103人中、インフルエンザにかかったのは10人で発症率は9.7%となり、統計的に有意な差が得られた。期間中の荒川区の小学校におけるインフルエンザ発症率は8.2%だった。

マスクは口や鼻へのウイルスの侵入を防ぐため、インフルエンザの感染防止に有効と言われてきたが、データによる裏付けは乏しかった。関西医科大耳鼻咽喉科の久保伸夫准教授は、休憩時間や在宅時にもマスクをつければ一層の予防効果が期待できるとしている。
   (日経新聞 2007/11/02より引用)


 「万能ワクチン」実現へ道筋 −多様なインフルエンザに対応-動物実験で効果

国立感染症研究所と日油などは、様々なタイプのインフルエンザウイルスの増殖を予防できる可能性を持つ新物質を開発した。従来のインフルエンザワクチンとは異なり、ウイルスが感染した細胞を攻撃するのが特徴。動物実験で効果を確かめた。発生が懸念される新型インフルエンザをはじめ、どんなインフルエンザにも効く「万能ワクチン」の実現につながる成果で、さらに改良を進める。

開発したのは感染研、日油、北海道大学、埼玉医科大学の研究者らで構成するチーム。体にウイルスが侵入すると、免疫という仕組めが働く。ワクチンはこの仕組みの働きを高める。免疫には二つあり、従来のワクチンはウイルスを直接攻撃する免疫の働きを強める。だが、ウイルスは表面の構造が変わりやすく、いったん変わると既存のワクチンは効かなくなる

一方、新物質はもう一つの免疫に作用する。この免疫はウイルスが感染した細胞を攻撃するもので、ウイルスの増殖を抑える。感染した細胞はウイルスほど構造が変わらず攻撃しやすい。

新物質は、ウイルスが感染した細胞の表面にできる物質などを微粒子に付けた構造。実験では、鳥の強毒性ウイルス(H5N1型)が感染した細胞の表面にできる物質などを部粒子に付けてマウスに与えた。別のウイルス(H3N2型)を感染させた結果、免疫が働き肺でのウイルス増殖を約十分の一にj抑えられた。H5N1型は人で大流行が懸念される新型インフルエンザに変化するとの見方がある。

新物質はアレルギーのもととなる抗体を作らないので副作用も少なくできる可能性がある。
   (日経新聞 2008/03/10より引用)

 インフルエンザ 鼻にシュッ 一吹き 感染防ぐ 「新型インフル」対応ワクチン

注射器がいらず、鼻の粘膜に吹き付けるだけでインフルエンザウイルスの感染を防ぐワクチンの開発に、厚生労働省の研究班(主任研究者・長谷川秀樹国立感染症研究所室長)が成功した。ウイルスの株(系統)が違っても効果を発揮するため、どの株から変異するか予測できない新型インフルエンザへの対応策をして期待される。

従来の注射ワクチンは、血液中にウイルスに対する「抗体」をつくる仕組みで、感染した後の発症や重症化を予防する。ただし、ウイルス株が一致しなければ十分な効果はない。これに対し、研究班はウイルスが侵入する粘膜の外側に抗体を作り、感染そのものを防御する方法に取り組んだ。

この場合、ワクチン単独では免疫反応を引き起こせず、免疫細胞を刺激して抗体を作らせる「補助剤」が必要。かつて大腸菌毒素などが補助剤に用いられたが、臨床試験で顔面マヒが起き使われなくなった。

長谷川室長らは、安全な補助剤を探り、ウイルス本体に似たRNA(リボ核酸)に着目。既に米国で人に用いられているRNA薬剤を補助剤とし、2004年にベトナムで人に感染したH5N1型鳥インフルエンザウイルスでワクチンを作成した。マウスで検証したところ、同じベトナム株では100%感染を防ぎ、遺伝子が多少違う05年インドネシア株や1997年香港株でも感染による死亡を抑制した。

さらに、より免疫機能が人に近いサルで検証。ワクチンを使ったサルは体内でウイルスが増えず元気だったが、使わなかったサルは肺炎を起こした。研究班は、2010年にも臨床試験を始めたいとしている。
    (日経新聞2008/03/16より引用)

従来のワクチンは血中の免疫細胞だけを刺激してウイルスに対抗する抗体を作る。このためウイルスが体内に感染しないと効果は出ない。

新ワクチンは粘膜を刺激し、粘膜の外に抗体を分泌する免疫反応を起こさせる。鼻腔に入ったウイルスが粘膜にくっつく前に、この抗体が撃破する。従来の抗体と働き方が違うため、遺伝子の細かな違いにかかわらず防御効果を発揮するのが特徴だ。新型ウイルス登場前に製造でき、発生直後からすばやく対応できる。
   (朝日新聞2008/03/12より引用)


 Aソ連型(インフルエンザ)のタミフル耐性化 欧州を中心に急速に広がる

Aソ連型(H1N1)インフルエンザウイルスのオセルタミビル(商品名タミフル)に対する耐性化が、欧州を中心に広がりを見せている。世界保健機構(WHO)によると、昨年(2007年)10月から今年2月21日までに、検査結果が確定したH1N1の2348分離株のうち、313株でオセルタミビルへの耐性が認められた。耐性率は13%だった。

国別に見ると、ノルウエーの耐性率が66%と最も高く、これにフランス(同39%)、ポルトガル(33%)、ベルギー(33%)などが続く。日本でも、100分離株中、5株(5%)にオセルタミビルへの耐性が確認された。

WHOによると、2006/07シーズンの調査では、H1N1の流行株におけるオセルタミビル耐性化は日本と欧州では見付からず、米国でも1%未満にとどまっていた。ただし日本では2005/06シーズンにH1N1の178分離株のうち2.2%が耐性株だったとの報告もある。今回欧州で確認された耐性ウイルスはいずれもオセルタミビルを使用していない患者から分離されており、耐性ウイルスの起源や伝播経路はまだ分かっていない。
   (Nikkei Medical 2008 3月号 68−69頁より引用)


 中高年、新型に免疫?ー米CDC分析ー57年より前の生まれ

 新型の豚インフルエンザの感染者に若い人が多いのは、1957年より前に生まれた人の一部には免疫があるためらしい。そんな見方を、米疾病対策センター(CDC)インフルエンザ対策部門のジャーニガン副部長が(5月)20日、会見で明らかにした。

同副部長によると、スペイン風邪の流行が始まった1918年以降、世界で流行していたのはH1N1型。アジア風邪の流行が始まった57年以降、H2N2型が流行するようになった。

今回の新型ウイルスは、57年まで流行していたウイルスとはかなり異なるが、H1N1型。中高年の人の血清を調べたら、今回の新型に対しても何らかの防御反応性があることが分かったという。(ワシントン=勝田敏彦)
   (朝日新聞 2009/05/22より抜粋引用)


  インフルエンザウイルス 早期検査装置を開発ー富士フイルム 発症初期に検出ー

富士フイルムはインフルエンザウイルスへの感染を調べる検出装置で、感度を従来の100倍程度に高めた新製品を開発した。現在、インフルエンザの感染は発熱など発症から半日以上たたないと判別が難しいとされるが、同装置を使うと発症6時間以内の初期段階でも感染を検出できるという。

検出キットとともに今冬にも医療機関向けに販売する予定。患者の鼻やのどから採取した検体を専用チップに塗布し、化学反応でできる線を目視で確認し感染の有無を判別する。写真フィルムの現像技術を応用した独自開発の溶液により、検体中のウイルス量が従来の100分の1でも反応を目視できるようにした。検出できるのはインフルエンザA型と同B型。チップを挿入して15分で最終確認が可能となる。
   (日経新聞 2011/07/16より引用)
 
 貼ってインフル予防 −阪大などワクチン 臨床で効果確認ー

創薬ベンチャーのコスメディ製薬(京都市、神山文男社長)と大阪大学は、皮膚に貼って使うインフルエンザワクチンを共同開発した。阪大が実施した人への臨床研究で有効性を確認したのは初めてという。貼るだけで済むため注射が要らずワクチンも保存しやすくなる。大手製薬会社などと研究を進め、5年後にも実用化を目指す

(11月)17,18日に横浜市で開く日本ワクチン学会で、阪大の岡田直貴准教授が発表する。

開発したのは直径1センチ程度の丸いパッチ。皮膚に貼り付ける面に微細な突起が230本ついている。突起は根元部分の直径が0.16ミリメートル、先端は0.04ミリメートルで高さは0.8ミリメートル。貼ると皮膚に刺さり、突起部分に注入してある成分が溶けて吸収される。突起は小さいため、刺さっても痛みはほとんど感じない。

健康な19人を対象に、3種類のインフルエンザワクチンで実験した。突起に注射と同じ必要量(15マイクログラム)を入れて6時間貼った。3週間後に体内の抗体の量が欧州医薬品庁(EMA)が定める基準を満たしていることを確かめた。

ワクチンは通常、空気接触などによる酸化を防ぐため、冷温で管理する。突起内にワクチンを密封すれが酸化しにくくなり、常温で保存できる。消費期限も1年以上に延びるという。

貼るワクチンが実用化すれば、注射技術を持つ医師や看護師がいない場所でも使えるようになる。使用時の痛みがほとんどないため、子供に接種しやすい。ワクチンを手軽に使えるようになれば途上国などで需要が期待できる。
   (日経新聞 2012/11/17より引用)
 
 近年のインフルエンザ感染率、サーベイランス報告よりはるかに高い

英・University Colllege LondonのAndrew C.Hayward氏らは、近年の季節性インフルエンザウイルスと2009年パンデミックウイルス(A/H1N1 pdm09)による感染の重症度と負荷を追跡した大規模な地域住民研究を実施。これまでの受診者ベースの研究では見えてこなかった無症候性感染者の実態をLancet Respir Med(2014年3月17日オンライン版)で報告した。それによると、総人口の5人に1人が感染していたが、のうち症状が発現したのは23%、受診したのは17%のみであった。

追跡人口は、11万8,158人/週、1流行期当たり5,448人であり、ペア血清が得られた3,295人中2,737人(83%)がワクチン非接種であった。ワクチン非接種地域のインフルエンザ感染率は、冬季が平均18%、パンデミック期が平均19%、2009年のパンデミック期が18%であった。感染者のほとんど(77%)は無症候で、受診したのはPCRでインフルエンザ感染が確認された者の約17%であった。

ベトナム・Oxford University Clinical Research UnitのPeter W.Horby氏は、同誌の付随論評(2014年3月17日オンライン版)で「潜在性インフルエンザ感染率の高さは疑いないが、軽度および無症候性のインフルエンザ感染が、感染拡大にどの程度寄与するのかについてはまだ答えが出ていない。地域社会では多くの健康な者と感染者がともに生活しており、軽度の感染でも感染拡大の進行に実質的に寄与している可能性がある」と指摘。
   (Medical Tribune 2014/05/15記事より抜粋引用)


 インフルエンザの流行状況とワクチン、抗インフルエンザ薬の有効性  日本臨床内科医会インフルエンザ研究班班長 河合直樹

2014−15年シーズンの流行はPCR等の結果、A香港型(H3N2)が約95%、B型は5%程度で、H1N1型は全くみられなかった。流行の開始とピークは例年より約2週間早かった。A香港型の年齢層は10代(27%)と60歳以上(19%)が比較的多く、B型は約7割が20歳以上であった。

ワクチンに関してインフルエンザ発生率は10歳代で非接種群の29.6%に比し、接種群は10.3%と有意に低く(p<0.001)、有効性が確認された。抗インフルエンザ薬は例年より各薬剤ともA型では解熱時間が短い傾向にあり(25.8−28.7時間)、ウイルス残存率も低い傾向にあった。B型は例年同様。A型よりも解熱時間が長かった(37.5−46.5時間)

(後略)

結語:2014−15年シーズンはほぼA香港型一色の流行でワクチンや抗インフルエンザ薬の有効性も確認された。


 皮膚に貼るインフルワクチン −北大など開発

 皮膚に貼って使う新しいタイプのインフルエンザワクチンを北海道大などのチームが開発し、(5月)27日に長崎市で開かれた日本臨床ウイルス学会で発表した。

マウスを使った実験で注射より効果が高いことが確かめられ、新型インフルエンザとしての流行が懸念されるH5N1型の鳥インフルエンザにも効いたという。北大大学院獣医学研究院の迫田義博教授は「人間への活用を目指したい」としている。貼るワクチンは、シートに長さ約0.5ミリの非常に細かな針が並んだ構造で、皮膚に貼り付けると針が溶けて、中のワクチンが体内に入る仕組み
   (日経新聞  2017/05/29より引用)


 タミフル格下げ  WHOが新リストーインフル薬、補足的にー

抗インフルエンザ薬のタミフルが、6月に公表された世界保健機関(WHO)の新しい「必須医薬品」リストで「保健システムに最低限必要な薬」から「補足的な薬」に格下げされたと英医学誌BMJが(7月)9日までに報じた。

同誌によると、タミフルは2009年にリスト入りした。その後、大人で症状のある期間を約1日短縮するだけで、入院や合併症を減らす効果はないとの研究が発表されるなど、以前考えられていたよりも効果は限定的との報告が出たため格下げになったという。

WHOの専門家委員会は「タミフルの使用は、入院患者が重症となっている場合に限るべきだ」と指摘。効果を示す新たな情報が出てこなければ、リストから外す可能性も示唆した。

必須医薬品は、主に発展途上国が医療水準を確保するために準備しておくべき薬をまとめたリスト。日本でタミフルは治療に広く使われているほか、新型インフルエンザの流行(パンデミック)に備え国が備蓄している。
   (日経新聞  2017/07/10より引用)


  ンフルエンザ この冬流行せずー現行調査で初めてー

この冬のインフルエンザは、患者報告数が流行の目安とされる水準に達することなくシーズンを終えた。流行が起きなかったのは、厚生労働省が今の方法で調査を始めた2000年以降で初めて。
世界的にも同じ傾向となっており、新型コロナウイルス対策で海外との行き来や他者との接触が減ったことが原因と考えられる。
例年、ピーク時の報告は数万人規模になるが、昨年11月ー今年3月は100人未満で推移した。1医療機関当たりでは0−0.02人にとどまり、流行の目安とされる1人を超えることはなかった。

国立感染症研究所の長谷川秀樹インフルエンザウイルス研究センター長は「海外との往来の制限や3密を避けるといったコロナ対策が影響しているのは間違いない」と指摘する。
その上で、毎年流行する季節性インフルエンザで同じ対策をするのは現実的ではないが、ほとんどの人が免疫を持たない新型インフルエンザのパンデミック(世界的流行)が起きた場合に行えば「感染の広がりを杭止められるかもしれない」と話している。
   (日経新聞  2021/04/03より引用)