頭位性めまい症                
             
 「めまいで他の病院にかかったら、メニエルと診断され、内耳の病気だから耳鼻科に行くように言われた」という患者さんの言葉を聞くことがよくあります。「めまい」と言えば「メニエル」、「メニエル」と言えば「めまい」という位、大変ポピュラーな病名がメニエル病です。メニエル症候群と呼ぶ場合もありますが、実際にはめまいを起こした患者さんの中で本当のメニエル病はそう診断された人の中でおそらく十人、二十人に一人、いやそれ以下ではないでしょうか。「メニエル」というと難しくてもっともらしく聞こえますが、この場合どうも「メニエル」という診断は単に「めまい症」という意味でしかないことが多いようです。

 ひとくちにめまいと言っても色々なめまいがあります。医学的には「身体の位置、運動の感覚の異常」と定義されています。持続時間も数分以内のものから、数日、数週間続くものまで多種多様です。一般には大きく分けて、回転性(天井が回るなど)か、非回転性(浮動感、眼前暗黒感、失神感など)かを区別します。

 原因も多岐にわたりますが、ある耳鼻科病院の統計では約七割強が耳(内耳や前庭神経)からで、二割弱が脳(循環障害、梗塞など)から。その他の原因(貧血、血圧異常、頚の病気など)が約一割と言われています。内耳が原因のめまいは回転性めまいが多いのです。メニエル病は内耳性めまいの中でもっとも重要かつ有名な疾患ですが、頻度的にかなり多いのはここで述べる頭位性めまい症です。

 内耳の障害で起こる代表的な疾患が「良性発作性頭位めまい症」です。寝たり起きたりするとめまいがする、寝返りをうつとき、美容院で洗髪をするとき、散髪屋さんでヒゲをあたってもらっているときにめまいがするというようなことが多いです。風邪や寝不足などで体調が悪いとき、または交通事故の後や、頭を打ったときなどに症状がでやすいのです。

 メニエル病は内耳全体の病気ですので嘔吐を伴う激しい回転性めまい発作が反復し、難聴、耳鳴りが同時に起こります頭位性めまい症の場合は内耳のうち三半規管の障害ですので、病気自体には耳鳴り、難聴は伴いません。しかし高齢者の場合に発症すると耳鳴り、難聴がもともとあって、診断が混乱しやすいことがあります。

 このように頭の位置により、めまいが誘発されたり、めまいが強くなる場合を「頭位性めまい症」といいます。大半は内耳性であり、病名が示すように「良性」つまり、良好な経過を辿るものですが、ときには脳血管障害によるもの、脳腫瘍が原因のこともありますので、経過が良くない場合は精密検査が必要です。

 ひどいめまい発作は「このまま、致命的になるのでは」と恐怖感にかられます。夜中に起こると、救急病院にかけつけることも多いのですが、めまい発作そのもので命取りになるようなことは少なく、余りパニックになることはかえって良くありません。めまいの背景に生命に危険性のある重篤な病気が潜んでいるかどうかの見極めは重要ですが、めまい発作だけを主症状として、緊急的治療を要する疾患はまれです。発作が激しい時は安静が第一です