航空性中耳炎

 飛行機に乗っていると耳がキーンとしたり詰まった感じになったりすることがよくあります。着陸が近づくと小さな子供が泣き出すのは、この耳の異常を感じてのことが多いと言われています。通常はあくびや唾を飲むなどの嚥下(えんげ)で解消されますが、時には耳痛、耳閉感、難聴、耳鳴、頭痛などが続き、耳鼻科を受診することがあります。

 これは航空性中耳炎と言って急性中耳炎の一種です。鼓膜を診ますと、充血した鼓膜が内側にへこんだままになっていたり、鼓膜の奥に液がたまっていたりしています。

 なぜこのようなことが起こるのでしょうか

 鼓膜の奥、中耳には鼓室と呼ばれる空気の入った小部屋があり、耳管という細い管で鼻の奥(上咽頭)とつながっています。耳管は普段は閉じていますが、唾を飲んだ時、あくびをした時などに一瞬だけ開き、外界との間を空気が行き来し、中耳の気圧を外気と平衡させます。鼓膜が最も能率よく音を内耳に伝えることができるような状態に保っているのです。

 地上は一気圧ですが、上空に行けば、気圧は低くなります。機内は気密性がよく、気圧は調節されているのですが、高度によって多少上下します。一万メートル上空巡航時では0.8気圧程度、大体高さ二千メートルの山頂の気圧ということです。中耳は機体の上昇時には相対的に陽圧に、下降時には陰圧になります。耳管がうまく機能しないと塞がった感じや、痛みを感じたりすることになります。耳管はもともと陰圧になる(鼓膜は内側にひっぱられる)とこれを戻すのが苦手な性質があり、機体が下降し、着陸態勢に入る時に症状がひどくなる傾向があります。また機内の酸素濃度は地上の80%程度、湿度は5−15%に調節されており、これはサハラ沙漠より乾燥していることになるようです。このような条件も耳管機能に影響するかも知れません。

 治療は通常の中耳炎に準じて鎮痛消炎剤、抗生剤の内服や、耳管から空気を入れる「通気療法」が主体です。時には鼓膜に小さな穴を開け、中の液を取ることもあります。

 乗るたびに繰り返し起こす人や治りにくい場合はもともと耳管機能に問題があることが多く、その原因としては副鼻腔炎などの感染症や、花粉症などのアレルギー性疾患がある場合があります。また稀ですが上咽頭に腫瘍がないかなどの検査が必要なこともあります。

 予防法は以下の如くです。機体が高度を下げていく到着二、三十分前から唾を何回もよく飲むのがコツです。それもあごを横に動かしながら飲む方が効果的です。チューインガムやあめをなめるのも唾を飲み下すことになるので効果があります。乳幼児ですとミルクやジュースでもかまいません。あくびが自在に出来る人はこれも効果があります。飲酒は耳管周囲の粘膜を腫らせます。眠ってしまうと唾を飲む回数が減るので、お酒を飲んでの居眠りは二重の意味で避ける方が賢明です。

 耳の詰まりを感じた時は口を閉じ、鼻をつまんで鼻に軽い圧力をかけ、息または唾を飲む「耳ぬき」をすればかなりの部分は防げますが、逆に圧力のかけ過ぎは危険です。試してうまく出来ない時は無理は禁物です。

 風邪を引いたり、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎などがある人は予め治療をして「搭乗前に鼻を整えておく」ことが最も重要です。

追加: 飛行機はおよそ高度10,000m上空を時速900km(いずれも平均値)の速さで飛行します。上空は気圧が地上よりも低いために機内は「与圧」されていますが、それでも航行中の客室内の気圧は0.8気圧程度と地上よりも低く、標高2,000−2,500mの山に登っているのと同じ状態になります。離陸・着陸前15−30分には大きな気圧の変化が生じるために身体に影響を与える場合があります。
耳が痛くなったら?
1)気圧に変化を生じる際には耳が塞がれたような感覚になったり、耳が痛くなる場合があります。このような時には、、、
水を何回かに分けて飲んでみる(飴をなめる、ガムを噛むことも効果的です)
唾を繰り返し飲み込む
あくびをする

2)何回か繰り返しても症状が変わらなかったり、再度痛みが出てくるような時には、、、
強すぎない程度に鼻をかむ。その後、鼻をつまんで口を閉じたまま鼻の中に息を送り込むという方法もあります
   (日本エアシステム機内誌 アルカス 2003/1より引用)

追加: 離陸、着陸時の15−30分間に集中して気圧の変化を生じます。耳がつまったり、痛くなった場合は以下の方法で対処しましょう。
飴をなめたり、つばを飲んだりする。
あくびをするか、口を大きく開ける。
これらの方法で効き目がない場合は、耳抜き(バルサルバ法)もあります。
鼻をよくかんだあと、指で鼻をつまみ、口を閉じたまま鼻をかむ要領で、鼻の中に息をゆっくり吹き出す。(あまり強く吹き出さない。また2,3回行って効き目がない場合や片方の耳が痛い場合は止める。
赤ちゃんは自分自身で上記の対処方法ができないので、哺乳瓶の口やおしゃぶりをくわえさせるとよいでしょう。
   (ANA機内誌 2003/5より引用)