慢性中耳炎や外傷(けが)が原因で鼓膜に穿孔(あな)があき、耳漏(耳だれ)や難聴のために不快で、生活に支障がある、病気の進行が心配で水泳ができない、などの悩みのある方は意外と多いものです。時にはそれが原因で髄膜炎などの重篤な合併症を引き起こすこともあります。そのような時、外来の通院治療で良くならない場合は手術療法が行われます。
以前は炎症をコントロールし、耳漏を止めるのがやっとで、聴力を犠牲にすることも多く、また鼓膜の材料も太腿の皮膚を使ったりで、全身麻酔など手術自体もかなりおおがかりなものでした(中耳根治術)。
治療技術の格段に進歩した現在では鼓膜材料も変わり、手術自体の規模も小さくなり、安全で聴力も改善する成功率が非常に高くなってきています(鼓室形成術)。
しかし、この手術にしても入院期間が約三週間から一か月必要です。仕事を休めない働き盛りの人、家事に忙殺されている主婦、受験生など時間的制約のある人は、生活に不便を感じながらも、時間的、経済的負担や手術に対する不安が大きく、我慢したり、あきらめたりしていることが多かったのです。また高年齢や余病があったりで手術に踏み切れない人、その逆に低年齢で本格的な手術はもう少し大きくなってから、などの理由でこの手術が受けられないことも有りました。
そんな中、1988年に画期的な方法が開発されました。保存的鼓膜形成術と言って「鼓膜閉鎖材料を特殊な接着剤で貼りつける手術」です。耳の後ろの皮下から、直径 1cm程度の組織を取り、残っている鼓膜にフィブリン糊(のり)という人体に使用可能な接着剤で貼り付け、穿孔を閉鎖するものです。
多くは外来で局部麻酔で行い、入院は原則として不要です。(全身麻酔が必要な小児などは 2-3日の入院が必要です。)手術時間は三十分程度です。出血、痛みもほとんどなく、手術後の通院も手術翌日、一週間後、その時点で問題がなく順調に経過していれば、次ぎは一か月後程度で済みます。きちんとして丈夫な鼓膜ができるには数週間かかりますが、手術後すぐ聴力も回復し、日常生活にもほとんど支障がありません。一回の手術でふさがらなかった場合は二回、三回と繰り返し行うことができます。
ただし、鼓膜に穿孔のある人全員にこの手術が適しているわけではありません。鼓膜の状態、聴力検査、レントゲン検査など、耳鼻咽喉科的な精密検査からこの方法が良いかどうかが判断されます。成功率も従来の鼓室形成術よりはやや劣りますが、第一選択の手術法として行われることが多くなっています。
今では愛媛県下でもいくつかの病院で行われております。風邪を引くたびに耳漏がでる、鼓膜に穿孔があるとわかっていても、何らかの理由で治療をあきらめている、などの悩みをお持ちの方は耳鼻咽喉科専門医を是非一度受診し、相談してみて下さい。