第18回              Would-be Obatarians (オバタリアン予備軍)

 駅一体型デパートがグランドオープンしたというので、少しヨソイキの格好をして―正確に言うとさせられて―出かけた。最初は、ジーパンとワインカラーのTシャツといういでたちで出かけようとしたのだが、ヒカリに、
 「そのワインカラーのTシャツ、センセイのお気に入りかも知んないけどー、なんだかワインが発酵しすぎちゃてブクブク泡だっているのよね。『デパートにショッピング』って格好でお願いね。」と釘を刺されたものだから、わざわざチノパンと綿シャツに着替え、後ろのポケットにハンカチを押し込みながら現れると今度はココロが、
 「プッ。いかにも『お出かけします』って感じ。チノパンの中にシャツ思いっきり入れるの、なんとかなりません?」とクレームをつける。
 二人が好き勝手言うものだから、さすがに少しムッとして、
 「もう、勘弁してよ。一体どんな格好すりゃいいの?ふたりだけで行ってきたら?」と私が言い終わるか終わらないうちに、こちらの気色ばむ様子を察してか、さっさと車に乗り込んでしまった。さしずめ、「アッシー君がいないとやっぱ困るから」といったところなのだろう。 

 売り場のカウンターの他に数箇所レジが設けられて、どちらかというとスーパーのようになった地下の食料品売り場で、威勢のいい男性店員から、
 「ハイ!ハイ!今朝、産地から直送されたばかりの『マッタケ』だよ。そこのお嬢さん、ほんといい香りするから。一本どう?」
と声をかけられたヒカリ。愛想よく微笑みながら、
 「あっ、そう。じゃあせっかくだから頂こうかしら、『香り』だけ。う〜ん、ホントいい香り。ア・リ・ガ・ト。」
とさらりといなす。あっけにとられて苦笑いするしかないその店員を尻目に、もうふたりそろって隣の青果コーナーでニューピオーネを試食している。年こそ若いが、風格は立派なオバタリアンだ。私が、敵わないわけだと妙にナットクさせられたある日曜日の午後の出来事。