第17回          Newton

 1時間目の授業が休講になったので、ヒカリから「モーニングを食べに行かない?」という電話が入った。以前から、お気に入りの喫茶店があるからと誘われていたのだが、このところ忙しくてそのままにしていた。途中でココロも拾い、大学近くのコンビニでヒカリと待ち合わせた。
 その喫茶店は、大学から環状線に乗って10分ほど走ったところにあった。まず、『和』の雰囲気漂う店構えが気に入った。すぐそばを走る環状線側には窓がまったくないというのも、独特の落ち着いた雰囲気作りに一役買っているようだ。
 店内に入ると、従業員の元気よい、それでいて朝の爽やかさをそこねない程度に抑えられた声が響く。その声につられて会釈をする。竜安寺の石庭を彷彿させるような中庭を眺めながら席につく。中庭を臨む窓は、私が両手両足を広げて大の字になってもすっぽりはまってしまうほどの広さで、庭の景色を損なわないよう配慮されている。庭の隅には、青石に囲まれた枝垂桜が一本植えられている。枝垂桜というのは、ソメイヨシノのような華やかさはないが、春にはきっと落ち着いた店内の雰囲気に似合う花を咲かせてくれるだろう。
 モーニングは、コーヒー代プラス100円というリーズナブルな値段設定。私は、ベークド・サンドを頼んだが、バードック主体のベジタブルサンドだったので胃への収まりぐあいもよかった。
 「うわーっ!なにこれ、おいしそう。」
 「そっちのケーキもいいけど、こっちの和菓子セットもいけてそう。」
 店内を見回しても、若い娘はヒカリとココロの二人だけで、浮いている気がして少し落ち着かない。店の中央にあるラックには、女性誌に混じって『ニュートン』が置いてある。店長の趣味だろうか。ニュートンというのは、現代科学の最先端研究をグラフィックを駆使して分かりやすく説明してくれる科学雑誌だが、手元にある別冊最新号は、
 『ナノメートルという極微の世界をあつかうテクノロジーが今たいへん注目されている。その発展がITや医療、環境問題など、多くの分野に関してカギをにぎっているからである。・・・』
などという文章ではじまっている。こんなお硬い雑誌を手にする客がいるのだろうかなどと余計な心配をしていると、こんな私の気持ちを見透かしたように隣のテーブルに座っていた中年男性がそのニュートンを手にしたではないか。横目で見ていると、同じモーニングのサンドをほうばりながら、熱心に読みだした。なるほど、ここはこういった客層なんだ。この喫茶店、ヒカリとココロと次に来るのは20年後になるだろうな、とつぶやく。

 前回のキーワード・リプロダクションをさらに発展させて、キーセンテンス・リプロダクションを試みた。まず、各段落からキーセンテンスを抜き出し、それだけを頼りに本文の内容をリプロデュースする。キーワードに比べると手がかりははるかに少ないが、日本語でのサイトラをしっかりしておけば、キーセンテンスを軸に内容を展開し、英語で要約するのはむつかしいことではないだろう。ただ、キーワードにしてもキーセンテンスにしても文章の内容や構成によって「適、不適」があるので、やはり指導者の適切な判断力が要求される。