『真琴、ずっと一緒にいような。』









『今日から俺たちは、本当の家族なんだからな。』









『ほら、これで遊ぼうぜ、真琴。』









『ずっとこうして遊んでような。』









『真琴・・・・・・?』







































夢が覚める時







































「・・・・・・わ。おい、聞いてるか?相沢。」

 北川の呼ぶ声に、俺はハッとなって我に返った。

「あ、ああ。悪い。雪に見入ってた。それで何か言ったか?」

 そう尋ね返すと、北川はハァとため息を吐く。

「雪なんて俺らにとっちゃ珍しくもないだろ?まぁ東京の雪っていうのは確かに、しょっちゅうなことじゃないらしいけどな。だから、相変わらず水瀬

とは連絡取ってないのか?香里から水瀬がお前のこと心配してるって聞かされたよ。」

 そうか、とだけ俺は答えて、あらためて灰色の曇り空から際限なく零れ落ちる、どこか濁った様なぼったりとした雪に視線を戻した。

 真琴が俺の腕の中で眠るように息を引き取ってから、二年が過ぎた。

 あれから俺は、真琴を失った悲しみと喪失感から、あらゆることに対して無関心になった。物を考えるのが面倒になった。俺と真琴のことを黙っ

て見守ってくれた名雪と秋子さんに何も話さず、自分の殻に閉じこもった。天野は俺と、そして真琴と知り合うまでは、誰とも関わり合いを避けるよ

ようにして過ごしてきた。これじゃあいつと同じだ。俺がそうならないように心配してたのに、俺は結局天野と同じことを繰り返すのか。そう自嘲して

いた。

 その間にも名雪や秋子さんは、俺の部屋の前まで来て、何度も声をかけた。もちろん天野も訪ねてきた。でも俺はそれらに一言として答えず、

ただの一歩も部屋を出なかった。いや、時折水を飲みに出たことはあったか。絶望と無気力の淵で、死ぬことも選べず、何もすることも無くただこ

のままでずっといられれば楽でいい。そんなことを本気で考えていた。

 それがどれだけ続いたかわからないけれど、ある時ドアの外から北川の声が聞こえた。それはやがてドアを叩く音に変わり、俺はそれから耳を

塞ぐように布団をかぶった。しばらくして音が止んだかとおもうと、突然ドンという音と、それからドアが壁にぶつかる音が聞こえた。

 すぐに俺は北川に布団を引き剥がされた。北川は俺の胸ぐらを掴んで立たせると、尻を思い切り蹴飛ばしてから言った。

『何があったか知らないし、聞くつもりもねぇよ。だけどいつまでもそうして塞ぎ込んでられると思ってんなよ!自分のしなくちゃいけない日常だけは

ちゃんとしろ!!』

「・・・・・・なぁ北川。あの時の蹴り痛かったぞ。」

 しばらくの沈黙の後、俺の突然のその言葉に北川は明らかに困惑した。

「え・・・・・・?あ、ああ。一応手加減のつもりで尻にしたんだけど・・・・・・それにあの時はお前があまりにも・・・・・・」

「冗談だよ。」

 すると更に北川は困惑の色を増した。

 それをしばらく楽しむのも悪くはなかったけれど、さすがにこの話を冗談で流すわけにもいかず、俺は真顔で北川に答えた。

「名雪や秋子さんには悪いけど、俺は二人に会うことも、電話をすることもしない。北川、お前が香里に、名雪に伝えるように言ってくれ。俺はとり

あえず何とかやってるって。」



















 今日もいつもと変わりなく、一日が終わる。大学が終わったらそのままバイトに直行して、帰ってくるころにはもう十一時半を回っている。

 ポストを開け、一日の郵便物を無造作に掴む。それを流すように確認しながら、自分の部屋に向かう。それもいつも通りだった。

 でも今日は違った。

「・・・・・・天野?」

 俺はダイレクトメールやチラシの中に、隠れるようにして挟まっていた一通の葉書に目を通して、足を止めた。差出人のところには確かに天野

美汐と書かれていた。

「何だよ、突然・・・・・・?」

 そう訝しんでみたけれど、いつまでもこうしているというわけにもいかない。とりあえず部屋に入ることにした。鍵を取り出して、ドアノブに差し込

み、回す。鍵はガチャリという音を立てて、開いた。部屋に入ると、そこにあるのは少し散らかった食事の後や洗濯物、雑誌や教科書、それに暗

闇と静寂。

 当然だった。この部屋は俺独りで住んでいる。ただいまを言う相手なんかいるはずがない。電気をつけて荷物を置くと適当に腰を落ち着けて、

さっきの天野からの手紙を改めて見てみた。文面には長々と字が書き込まれていたが、要するに冬休みに遊びに来ないかということだった。

他の部分はほとんどが挨拶で埋め尽くされていた。

「相変わらずおばさんクサいな、あいつは・・・・・・。」

 俺はなんとは無しにそう呟いた。多分表情なんて浮かんでいない。ただその文面とかつての天野が頭の中でリンクし、その結果あいつを一番に

言い表した言葉が口をついて出ただけだ。

 俺は高校を卒業するとすぐに水瀬家を出た。大学は東京の大学を受験し、そして合格した。名雪と秋子さんの下から離れたかった。水瀬家にい

ると、真琴のことで二人とも俺のことを本当に気遣ってくれた。

 でもそれは俺には重荷だった。二人が気を遣っているのがわかればわかるほど、それを鬱陶しく思う自分がいた。名雪と違って秋子さんはさり

げない様子を装ってはいたけれど、それでも十分にわかった。そしてそれほどまでに気を遣わせているのが自分自身だという事実。けれども北

川に蹴られた後でさえ、ただ名雪や秋子さんと家族「ごっこ」をするだけで、相も変わらず物事に対して自分は何の関心も示さないという事実。事

態は何ら変わりはしない。もっとも変える気もない。だから俺は逃げた。そして名雪は秋子さんを一人にするわけにはいかないと言って、地元の

大学に進んだ。香里は元々東京の大学に進学するつもりだったし、北川は俺が一人じゃ放っておけないという理由で、俺と同じ大学に入った。ご

丁寧に学部まで同じだ。もっとも北川がいなければ本当の引きこもりになっていたし、大学に入った今でもまるで日常生活のリハビリのごとく、四

六時中俺の世話を焼いてくれる。大学の重要事項からバイトの世話まで、本当に色々と。そのことについては感謝こそすれ、文句をいうつもりは

はない。

 そして天野は今年卒業だが、どうするのかは知らない。確かに日常生活に戻ってからは、名雪や秋子さんに対するのに比べれば、同じ悲しみ

を経験した者として気を許していたとは思う。北川といない時は、俺は天野と一緒にいた。ただそれは単に天野の性格を考えて、あいつなら自分

も通った道だからこそ何も言わず、俺の気持ちをわかってくれるだろう。そんな打算もあった。そして例えそれが憐れみや蔑みを伴ったものであっ

たとしても、構わなかった。何も考えず、誰と関わり合うこともなくいることが、見逃される場所。北川がリハビリなら、天野はその休息だった。だけ

ど、いやだからこそかもしれない、俺が卒業してこっちに来てからは連絡なんて取ったことが無かった。暑中見舞いが来た程度だけど、それにし

たって今は正月にはまだ早い。

 おまけに俺との関係では常に受動だった天野が、自分から遊びに来いと言って来た。そのことについて訝しみつつ、そう訝しんでいる自分自身

にも驚いた。天野についてだとはいえ、俺が他人のことについて関心を示している。これはいよいよ北川のおかげなのかもしれないと思いつつ、

改めて葉書をざっと見回して、そして差出人住所のところに目が止まった。

「・・・・・・神社って何のことだ・・・・・・?」



















 俺はターミナルステーションを降りると、二年前と同じ電車に乗って、同じ方向へ向かった。とは言っても目的地は二年前よりも更に先だ。葉書

に書かれていた神社は、あの雪の街から電車で一時間ほど離れたところにある。

 葉書を見てからすぐに俺は天野に電話をした。一年近くも連絡をしてない携帯電話の番号が未だに使えるのか不安になったが、それは杞憂だ

った。

「・・・・・・もしもし天野か?」

『お久しぶりですね、相沢さん。』

 俺から何らかの連絡がくることを予想してたんだろう、天野の声は以前と何ら変わることのない、落ち着いたものだった。

「それより突然遊びに来いってどういうことだよ?それに何で神社なんだ?」

 その俺の質問にしばらく沈黙が訪れ、それからもう一度俺が口を開きかけたところで、天野が答えた。

『・・・・・・相沢さんの顔が見たくなったから、ではいけないでしょうか?』

 電話ごしに声を聞いているからかもしれないけれど、天野の声がくぐもったように聞こえた。俺が返答に困っている間にも、天野は続けた。

『顔を見ながら、今の相沢さんのことを聞きたくなったんです。大学のこととか、東京のこととか。神社のことについては、来て頂ければその時に

説明します。大したことじゃありませんけど。』

「・・・・・・クリスマスが過ぎた頃で平気か?」

 それが返答になった。

『ええ、構いませんよ。私は冬休みはずっとここにいますから。詳しく予定が決まったら教えて頂けますか?』

「あぁ、わかった。連絡する。それじゃあな。」

『はい、失礼します。』

 それで会話は終わった。

 自分でも何でそんなにあっさり決めたのかわからない。とりあえず天野の言葉が、何か完全に本当のことを言ってるわけではないような気がし

た。そのことを知りたかったのかもしれない。だけどそんなことはもう一度電話して問いただせばいいだけのことだ。なのにそれをしないで、言わ

れるがままに、天野の下を訪ねようとしている。言ってみれば直感だった。胸がドキドキと鼓動を速めていく。それが良いことなのか悪いことなの

かはわからない。ただ、行けば何かがある。そう告げていた。そう感じた正体を確かめたい。それが俺を動かしているのかもしれなかった。

 気がつくと、電車はあの雪の駅に到着しようとしていた。雪の降りしきる中、二時間の待ちぼうけをさせられた駅。その雪に覆われた街並みが

目に入ってくるにつれて、胸の中が掻き回される、そんな悲しみに侵される。それとともに、一瞬一瞬二年前のことが、俺の記憶の海から異様な

ほどリアルに甦ってくる。突然訳も分からずに商店街で殴りかかられた記憶。コンビニで肉まんを買い食いした記憶。猫を拾った記憶。プリクラ

を撮った記憶。そしてあの丘で最期の時を迎えた記憶・・・・・・。

 もしかしたらこの前北川といる時、突然あの時のことを思い出したのも、雪のせいかもしれない。それにあの時も、もっと漠然としたものではあっ

たけど、今みたいな感覚があった。

 あの街にいた頃は出ることばかりに囚われてわからなかったけど、俺はまた悲しい思い出から逃げたのかもしれなかった。気遣いがどうとかそ

んなことより何よりも、それもあったにしても、あの街にいると悲しい思い出を忘れることができないから、だから東京に逃げてきたのかもしれない。

結局俺は九年前から全く変わってなかったっていうことか。

 そう思うと、勝手に自嘲の笑いがこみ上げてきた。それをどうにか押さえ込む。

「本当に俺はどうしようもないな・・・・・・。」

 それからさらに電車は進み、やがて目的の駅へと着いた。そこで一度天野に電話をしておく。迎えに来るとの申し出があったが、駅から神社ま

ではそんなにないということだったし、葉書でも説明はされていたから、その申し出を断った。とりあえず交番できちんと道を尋ねてから歩き出す。

 そうして歩き出した街並みは、あの雪の街よりもさらに静かだった。お世辞にも閑静という言葉を使うことさえはばかられる、のんびりとした、悪

く言えば田舎。それからまもなくして、何ら迷うことなく俺はその神社に辿り着いた。

「本当にお久しぶりですね。」

 そこで俺は言葉を詰まらせた。俺を出迎えてくれたのは、紛れもなく天野美汐だった。ただ・・・・・・

「・・・・・・巫女・・・・・・?」

 そして俺の困惑の表情を見て、天野はクスリと口元に手を当てて笑った。

「ええ。私の母の実家でして、いずれ私がここを継ぐことになるでしょうし、今はアルバイトです。思いつきませんでしたか?」

「いや、そんなマンガみたいなことが自分の身の回りで起きるとは思ってなかったから・・・・・・」

 それから天野は「そうですか」と言って、ついて来るように目で促してから、こちらに背を向けて歩き出した。その後姿を少しの間見つめてから、

俺も続く。そしてその背中に、葉書を受け取ったあの日に電話で聞いたのと同じ質問を投げた。

「何で突然遊びに来いなんて言い出したんだ?」

「・・・・・・。」

 やはり沈黙。天野は俺に背を向けたまま、ただ黙々と歩き続ける。階段を上り、境内を抜け、裏山とでも呼べそうな森の中へと入っていく。小道

になっているところでさえ雪は先までずっと広がり、それ以外ではまるで綿が地上に降り立ったとしか思えないくらいの厚みと白さで、この森を覆い

尽くしている。その中を天野は草履で、袴が汚れないように姿勢を保ったまま、慣れた足つきで先へと進んでいる。

 そうしていると、突然天野が口を開いた。

「相沢さん、東京での生活はどうですか?」

 それは俺の質問に対する答えじゃない。

「・・・・・・まぁ、何とかってところだな。バイトももう慣れたし、大学の方もサークルは入ってないけど、北川がいるからテストの情報とかは何とかな

ると思う。」

「そういえば北川さんは同じ大学でしたね。」

「ああ。今香里と同棲してるよ。あいつは別の大学だけどな。何でか知らないけど、しょっちゅう俺の家に遊びに来るせいで、ただでさえ広くない部

屋が確実に狭くなる。」

 俺は肩をすくめるようにしながら言った。

「そうですか。でもそういう割には楽しそうですね。」

 相変わらず天野の表情は伺うことが出来ない。ただその声音はあまり色がなく、淡々とした感じがした。興味が無いと言っても良いかもしれない。

それきり天野再び黙り込んだ。

 その間にも俺達は歩き続ける。道は次第に傾斜へと変わり、次第にその角度が大きくなっていく。天野が何のために俺を呼んだのかはわからな

い。だけど直感が鼓動を高鳴らせ、不安を募らせる。ずっと歩いてきたのに、背中を流れる汗は冷たかった。それに、ここでもやっぱり胸の中が掻

き回されるような感覚がある。

 その時天野が立ち止まり、初めてこちらの方に振り返った。

「人を・・・・・・好きになることはありますか?」

 不安が狼狽に変わるのが、自分ではっきりとわかった。真琴の怒った顔、真琴の笑った顔、真琴の泣いた顔、そして真琴の最期の安らかな顔。

瞳の奥底にそれが映りこんでいるかのように、それ以外のことは目に入らなかった。心臓はさらにその脈動を早めていく。同時にこれが直感の正

体なのだと悟る。

 あの冬に記憶とともに胸の奥底にしまい込んでしまった感情、あれ以来一度も顔を出すことの無かった感情。天野はそれについて真正面から口

口にした。それは衝撃だった。これまで何も言わずに、俺をあるがままにしてくれた天野だったからこそ。

 そうして立ち尽くしている俺を見て、更に天野は言った。

「相沢さんに見せたいものがあるんです。」

 するとまた天野は前を向き直って、歩き出した。俺はそれを慌てて追った。

 それから重苦しい空気が続いた。いや、重苦しいと感じてたのは俺だけかもしれない。天野は凛として前を向き、その歩みには何の乱れもなか

った。

「ここです。」

 その天野の言葉とともに辿り着いたのは、小高い丘だった。それなりに大きな神社が、まるまる見下ろせる。鼓動がその速度を緩めない。胸は

掻き乱されたままだ。

「ここは・・・・・・」

 ものみの丘のような場所だった。景観こそものみの丘よりも自然が多いけれど、地形もその場所が持つ雰囲気も、ものみの丘そのものだ。

 そこで天野はピィと口笛を吹いた。

「お前でも口笛を吹くことはあるんだな・・・・・・」

 狼狽を押し止め、胸の高鳴りを落ち着けるように、俺はそう軽口を叩いた。だけど天野はそれには答えず、ただ周囲を見回している。

 その時、視界の隅に何か動くものが見えた。天野もそれに気づいたようで、口元に穏やかな笑みを浮かべてそちらに視線を向ける。そこに現れ

たのは一匹の小さなキツネだった。驚いている俺を尻目に、天野はそのキツネに呼びかけた。

「おいで、真琴。」 




 ・・・・・・パン!




 気がつくと俺は天野の頬を叩いていた。

「・・・・・・悪い。」

 それに対して、天野は表情一つ変えないまま、こちらを見つめる。

「いえ、むしろそのくらいは怒ってもらわないと困りますから。相沢さんはまだ夢から覚めないんですね・・・・・・。」

「・・・・・・?」

 さっきの音で驚いたのか、キツネはまた姿を消していた。

「今の相沢さんは夢と分かっていて、夢から覚めようとしていないようなものです。真琴は今はもう現実の存在ではないんです。どんなに相沢さん

が思い出の中で真琴を美化して、それに浸ったとしても、あの子はもう過去の人間でしかない。夢から覚めたら現実の生活に戻るように、相沢さ

んも今を生きなくてはいけない。」

「・・・・・・」

「一つ相沢さんに謝らなくてはならないことがあります。実は北川さんと時々相沢さんのことで連絡を取っています。」

 そこで俺はどうしてとは聞かなかった。俺のことで北川と天野が何らかの形で話すようになったとしても、疑問はない。あれ以来二人としかロク

に話してないし、それで互いのことを知ったっていうところか。

 俺は目で先を促す。

「北川さんから聞いています。相変わらず北川さん以外に、恋人はおろか友達さえもほとんどいない状態だって。」

「それで?」

 俺はできる限り冷静に、ともすれば冷淡に答えた。

「思い出を大事にすることに何も問題はありませんし、むしろ大切なことだと思います。でもそれと思い出に縛られることは違います。相沢さんに

とって真琴があまりにも愛しい存在だったあまりに、それを失ったショックも大きい。それはわかります。それだけ愛されていたというのは、真琴に

とっても幸せなことだと思います。でもそれで相沢さんが、他の全てを投げ打つことは間違いではないでしょうか?生きている者には、生きている

者の責任というものがあるはずです。人との中で生きていく上での責任というものが。」

「お前に何が・・・・・・!」

 天野を思い切り睨みつけてそう言いかけて、俺はハッとなった。

「悪い。お前も・・・・・・。」

 でも天野は怒るでもなく、ただ首を横に振る。

「いいんです。私もそうやって自分の中に閉じこもったことがありましたから。それに責任という話もそうですけど・・・・・・その・・・・・・」

 そこで天野は言葉を濁した。目を閉じて、それからこれまでの真剣な声とは違って、穏やかな口調で続ける。

「このままでは相沢さんは、きっと真琴の思い出に囚われたまま孤独を感じるようになってしまいます。そうなっていくのを見ていくのは私には耐え

られません・・・・・・相沢さんに以前のように戻って欲しいんです。もしも私が相沢さんの悲しみを分かち合えるなら、分かち合いたい。あなたを支え

て行きたいんです・・・・・・相沢さんがこのまま以前の私と同じ道を歩むのは、見たくないんです・・・・・・。」

 天野の頬を一筋の涙が伝った。それから涙は静かに、だけど止めどなく流れて、天野はその小さな肩を震わせた。俺のために流れた涙。他人

でしかない俺のために涙を流している。それを見ていると、突然胸が苦しくなった。

「・・・・・・どうしてあのキツネに真琴っていう名前を?」

 気が付くと、そんなことを聞いていた。

「・・・・・・真琴を悲しいだけの思い出にしたくなかったから・・・・・・新しい友達にその名前を付けられるような、素敵な思い出だから・・・・・・いつま

でもそう止めていたいから・・・・・・」

 天野は俯きながら、震える声でそう言った。

 やっと気付いた。真琴がいなくなって悲しい思いをしているのは、俺だけじゃない。天野だってそうなんだ。それにも関わらず俺のことを心配して、

今その頬を涙で濡らしている。それに対して、俺は自分だけが悲しみを味わっている気になっているだけ。

 天野の頬を伝って落ちる涙を見つめながら、俺は思った。

 悲しい時に涙が出てくるのは、どうしようもない。それを心配してくる人がいても、それはいいのかもしれない。でもこうして自分のために涙を流し

てくれる人間を、それ以上悲しませないようにするのは生きている者の責任。心配して気遣ってくれる相手、叱ってくれる相手に、それ以上心配を

かけさせないようにするのが責任。そうなのかもしれない。

「天野・・・・・・」

 だったら俺は、これからこの目の前の少女を、これ以上悲しませないようにしなくちゃいけない。天野がゆっくりと顔を上げた。俺はできるかぎり

に優しく微笑みかけた。

「ありがとうな。」







































 後書き


 ようやく書きあがりました。ジニアさんからの5000HITリクです。リクで言われたことが「巫女さんの美汐」とだけだったので、いい意味で期待を

裏切れたらなぁと思って、こういうシリアスなストーリーにしてみました。

 してみたんですけど・・・・・・全然ですね・・・・・・(滝汗。一応真琴シナリオのエピローグの部分から話を変えて(真琴が帰ってこないという設定で)

書いてみたんですけど、途中で自分でワケわからなくなるし、もう何がなんだかなぁです・・・・・・

 やっぱりこういうシリアスは向いてないのかもしれません・・・・・・(泣。

 それに巫女さんである必要性がまったくないし・・・・・・・(汗。

 こんなだおーでも、暖かく見守ってやっていただけると本当に幸いです。次はもっとちゃんとしたものをかけるようにしたいです・・・・・・次回もどう

かよろしくお願いします。

                                                                    7人のだおー



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