観察考
二人の子供がかちゃかちゃ音を立てて、何かで遊んでいるのを見つけた。
私は気になって覗き込むと、昔懐かしの人形を手に、箱の中に物を入れておままごとをしているのが判った。
「ごはん出来ましたよー」
「おお、そうか。それでは、いただきまーす」
人形を器用に動かし、いすに座らせた。
よく出来てる。私は苦笑した。私の頃にはそんなに動かなかった。おもちゃも進歩しているのか……。もう一つ、苦笑する。
「……ごちそうさまでしたー」
「おそまつさまでした。――それじゃあ、こんどは何をしますか?」
一つ一つ、はっきりした音で、子供は言った。
楽しそうだな。私は思うと、顔を上げた。子供の母親だろうか、私を見ているのに気付いた。
私は軽く会釈すると、その場を後にした。
河原を歩いているときだった。一台のキャンピングカーを見つけた。
やはり気になった私は、それを少し遠目に見ることにした。
車から少し離れたところに、兄弟が遊んでいるのが見えた。兄弟は追いかけ回ったり、水を掛け合ったりしていた。
親は少し離れたところで、それを笑いながら見ていた。時に、ぱちりぱちりと写真を撮っている。
少しすると、兄弟は揃ってびしょぬれになり、母親の元に駆けた。母親は早く着替えないと風邪引くわよと言って、車からタオルを取り出すと、兄弟に放り投げた。タオルは空気抵抗を受けて、すぐに落下する。
それを見た片方は、素早く手を伸ばして、見事にキャッチした。もう片方もそれを奪おうと手を伸ばすが、身を交わされ、つんのめった。
母親は後ろのそれが判るのか、笑いながらドアを開けると、ぱたぱた音を立てて乗り込んだ。
私の位置からは、車の中は見えない。ただ、入り口が玄関のようになっているのが見えた。
車内から騒がしい音が何度となく響いた。
なんだろう。そう思うと、母親が服を持って出てきた。兄弟はすぐに母親に駆け寄る。服を投げられては堪らないと思ったのだろう。母親はほらっと言って、兄弟に服を手渡した。
私はそれを見ると、さっき耳にしたのは引き出しの音ではないかと思いついた。そうすると、もっと違う物も沢山ありそうだなとも思った。
車も小さな部屋。そう思うと、何故か口元が緩んだ。
私は一息入れると、口元を直し、その場を去ろうと足を動かした。…と、陰に誰かが見えた。一人の中年ぐらいの男性だった。男性は少しくたびれた格好をしている。きっと父親だな。私は思うと、再び足を動かした。
夜のことだ。
私が変わらず歩いていると、一人、私に話しかけてきた。可愛らしいホステスだった。
私は彼女の誘いを何度と無く断ったが、結局、引っ張られた。
しぶしぶ店の中に入る。照明が眩しい。絢爛な舞台も眩しい。
男が大声で自慢する。泣き出す。女が男を褒める。あやす。――恋人同士のように甘く、他人のようにあしらう。そんな変わらない世界が見て取れた。
私は戸惑った。そして、諦めた。たまには良いかもしれない。そう思った。
しかし念のため、勘定のことを聞いた。少し高い。しかし、払えなくはない。
私は出口に最も近い席に座った。酒が運ばれる。私を引きずり込んだ女性が隣に座り、グラスに注ぐ。そして……乾杯。互いに酒を一口飲む。女性が笑った。私はもう一口飲んだ。もう少し甘い方が酔える。その言葉は胸にしまった。
「私もね、大変なんだ」
彼女が語り出した。「私だってこんな店に居たくはないわよ? でも、ちょっとお金を稼がなくちゃ行けないから……」僅かに声が沈んだ。しかし、彼女は底抜けに明るく笑って言った。「これがお客さんを騙す簡単な方法よ」
それを聞いて、思わず笑った。
「あっ、今の話は内緒だからね」
私は何も言わず、グラスに口を付けた。
ごくり
小気味いい音が喉を鳴らした。彼女も同じ事をした。
結局、私はグラス二杯飲んだ。
しばらくし、私は家に帰ると、今日見たものを日記に書くことにした。
おままごとをしている子供に、河原で遊んでいた家族に、夜の女性、その他色々……。
まとめて、面白かった。そう私は記した。
ぱたん
私は日記を閉じて背伸びをすると、一つ耽ることにした。
色々な時、色々な場合……皆、自分の空間を作っているようだった。遊びに満ちている気がした。さながら、自分の家で遊んでいるようだった。
目を閉じる。目の前が暗くなる。呼吸を整える。耳の裏から脈音が聞こえる。
とくん……とくん……とくん……
砂の渇いた音、河のせせらぐ音、女性の笑い声。思い出し――目を開ける。そうか、ゆとりか。私は勝手に納得すると、一度息を吸って、吐いた。
さぁ、寝よう。私は寝支度をすると、あくびを一つかいた。お休み。目の前の虚空に言うと、私の意識は静かに沈んだ。
End
後書き
某番組の趣旨をパクッて、『部屋=“ゆとりのある”空間』。即座に判った人はばけもn(パーン
ウィ。ヤマもなく、オチもなく、マッタリしすぎたお話でした、まる