素晴らしい日々



――生きていくというのは、過去を積み上げていくことに他ならない。それは例えば辛いものであったり悲しいものであったり、時には楽しいものだったりするのだろう。
けれど忘れないで欲しいのは、その全てが等しく君を作り上げていることだ。


2003年冬。仕事に追われる日々の中で部屋を見渡していた私は、ひっそりと決意を固め始めていた。
そう、今年こそはこの部屋の隅々まで綺麗にしようと。

勘違いして欲しくないのだけれど、別に私の部屋はそんなに汚いわけではない。むしろ独身男性の部屋としては片付いている方ではないかと思う位だ。
が、中学に入った頃から自分の部屋として使っていたこの部屋には、無駄な荷物が多すぎるため汚く見えてしまうのだ。

そんなに衣装持ちではないにも関わらず個数の多い箪笥。今や使われなくなった学習机。無駄に場所を圧迫している棚。
ぱっと目に付くだけもこれだけの邪魔なものがあり、広いはずの部屋が狭く感じられてしまう始末だ。

けれど、そんなものは大した問題ではない。
確かに大きさのせいで捨てるのが難しいとはいえ、言ってしまえば生涯はそれだけなのだから、人手と時間さえあればどうにでもなるからだ。

問題は――そう、もはや混沌と化してしまっている押入れの中だ。

私の部屋には大小あわせて三つの押入れがあり、そのどれもが洒落にならない事態になっている。
というのも、前述の邪魔な荷物のせいで部屋のスペースが圧迫されているので、「捨てるほどではないけれど今は必要じゃないもの」が自然と押入れの中に封印され、それらは時を経て遺跡と呼ぶに差し支えない状態へと進化を遂げているのだ。

当然、このままで良い筈が無い。残念ながら時間が解決してくれる類のことでもないので、いつかはやらなければいけないことだ。

そう決意してから一週間が経ち、仕事に追われながらも協力してくれる人員を確保し、粗大ゴミを直接処理場に持っていくために軽トラの手配も済ませた。
後は掃除予定の日を待つだけ……と言いたい所だが、私以外の人員を手配した以上やらなければならないことがひとつある。

危険なブツの処分だ。

手伝ってくれる相手はだめにんズの相方こと友人Kなので、今更気を使うような間柄ではない。ないのだが……。

繰り返して言うが、押入れの中身は中学時代からほとんど手をつけていない。つまり私の十年間が詰まってるわけで。

本人すら予期しない地雷が埋まっている可能性が高いのだ、それも対私に特化した殺人兵器が。

幸いにも時期は冬、仕事も休みで予定も無い一日。
こたつを出すための掃除という絶好の機会を得た私は、軽い気持ちで押入れの整理を始めた――それが間違いの始まりだとも知らずに。


もともと物を溜め込まず割と気軽に捨てれる性格の為か、押入れの中は思ったよりも酷いことになってはいなかった。
けれど年月は確かに地層を作っていて、整理を進めれば進めるほど混沌の様相を呈していく、

廃棄の手を逃れた、お気に入りだった本やら雑誌に、掃除の手を止められるのは必然。
懐かしい写真に、切なさやらほろ苦さやら複雑な思いを抱いて、思わず煙草を吸いに逃げたこともあった。
昔に書いた小説やらネタ帳を発見して身悶えるのは、創作経験者にとってもう運命のようなものだろう。

そんな幾多の困難に阻まれ、遅々として進まない掃除の中、いろいろな考えが頭の中を渦巻いていった。

これを読んでいた頃はこうだったなぁとか。これは確か文章を書き始めた頃のものだなぁとか、あの時本気で好きだったあの子は今何をしているのだろうかとか。
本当に、本当に様々な思いが浮かんでは消えていく。

そんな中で、ふとある考えが私の頭の中を支配した。
間がさしたとしか言い様が無いのだけれど、一度浮かんだそれを消すことは私には出来なかったのだ。そう――

『待てよ。この時期のものがこれだけあって、尚且つここにあるのは捨てるに捨てれなかったものばかり。という事は、さ。
……当時お気に入りだった、むしろ夢中になってたえちぃ本も眠ってたりするんじゃないか?

ちょっと待って! 皆が引くのはわかるけれどもちょっと待って!
変態扱いするのは最後まで読んでからでも遅くは無いし、何より男の子は中学生ぐらいだとそんなもんなんだって。

そう、中学生といえばそれはもうえちぃ事に興味SIN! SIN! な年頃なわけで。今でこそ仙人並みの枯れ具合の私とて例外ではなかった。
四歳年上の兄がいた影響もあり、早くからそういったえちぃ品物を手に入れることが出来た私の場合は特に、中学時代がえちぃ絶頂期だったのだ。

グラビア程度の軽くえちぃな本から始まり、えちぃビデオから大きな声ではいえないけれど「全部見えちゃってますよっ!?」な一品まで。若さも手伝っていくところまでいっちゃったドス黒く輝いていた中学時代。
どれぐらい突き進んでいたかと言うと、中学生にして既にピンポイントな趣味を確立するほどだ。

今の職場にはたくさんのえちぃなビデオがあり、ネットに繋げばあんなものからこんなものまで見れてしまう環境の中。けれど私は、あの時の情熱を無くしてしまった。

そんな私が若さを――ひいては情熱を取り戻すために、思い出を振り返るのはおかしなことではない……はずだ。邪な気持ちはこれっぽちも無いしね。無いんだって

更にいえば、掃除を手伝ってもらってる時にそんなえちぃ物が出てきたら気まずいだろう。そんな考えもあった。

けれどそれまでに要した時間は大きく、既に日は暮れようとしている。干している布団やこたつ布団を早く取り込んでしまわなければいけない。

……結果は見えていた。どう考えても私のとるべき行動は決まっていたし、そんな事に情熱を燃やすタイプの人間でもない。
この後のことはあえて言うまでも無いだろう。ただそれでも一言だけ言うとするならば――。

思い出は、思い出のままにしておく方が良い。それが今の私に言える唯一つのことだ。

2003年冬。――私はこうして過去と向き合い、また一つ大人になった。



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