作品No04



「わふわふわふ。わふわふわふ」
 ああもう、うるさい。こっちが行く気になったら直ぐコレなんだから。
「わふわふ。はふっ!」
 あ、ちょっと裾に噛み付かないでって何時も言っているでしょぉ!?
 この駄犬が!この駄犬が!駄目わんこが!!チョップチョップ!
「きゅんッ!」
 駄目犬にはやっぱりコレが効果的よね。鼻をやっちゃうとちょっと可哀相だから、固い頭をめがけて一撃。コレで大人しくなるの。
「うわんわんわん!」
 …いつもは、そのはずなんだけどね。ああ、もう、うるさい。
「お黙れ。」
「きゅっ!」
 鼻と口を掴んで呼吸を止めてあげた。生命のぴんちだけど、流石にわんこはご主人には逆らえないから、振りほどくことも出来ないで動かなくなっちゃった。
「きゅぅぅ…」
 やっと大人しくなったね。顔を覗き込むと、綺麗なガラス細工みたいな目がうっすらと濡れているみたいだ。
「もうしない?」
「わん…」
 すっかり耳が垂れちゃったわんこは、やっと反省したみたい。大人しく成ってくれるよね?
「動かないでよ?」
わんこは尻尾をはたはたと振って私に答えてる。お、いつもより大人しいじゃん。
「上出来ぃ、上出来。」
 言うことを聞いてくれると準備も早くなるのです。固定用の縄から散歩用のリードに付け替えて、やっと散歩の準備は完了。時間は…よしまだ間に合う…かも。
「よし、じゃあいこうか。ゆっくり行こうね。」
 脇腹をぽふぽふと叩いて、すっと立ち上がろうとーーーあれ?
「わふわふわふわふっ!!」
わんこが走り始めた!コイツ、ちょっと大人しかったのはワタシに早く準備をさせる為のフェイク!?
あ、景色が何時もの五倍速ぐらいで流れていく…って、危ないじゃない!
「止まって、ちょっと、止まりなさい」
右手に全然力が入らないし、それこそ肩とか抜けそうな勢いで走ってるし、足が自分の思いどおりにならないから、それこそ何処でどう転んじゃうか解らないし!危ないでしょ!?
「はふはふはふ!」
…ああ、犬とは思えないくらい嬉しそうな顔して走ってる…あんなににやけた顔をして…まるで新人OLに夜の新人研修をしようとしているリストラ寸前の係長みたいね…
「はふはふっ!わふわふわふふ!」
もう、任せるから…散歩の時間も増やすから…ドッグフードもうんちが硬くなるアレにはしないから…
だからもうちょっとスピードを緩めてくれないと、今にも車道にダイビングしそうで怖いのですけど…
「わふ!ぜふ!ぜぇふ!」
 前に出すぎて、リードのついた首輪が食い込み苦しいはずなのに暴走を続けるわんこを見ながら、私は、私の想いがもはや届かないものであることを自覚するのでした…。

「ったく!あんたってどうしていつもそうなの!?」
「きゅうん…」
やっと公演で落ち着いた。アレから三十分ほどたってから、よーやくわんこは止まってくれたわ。その間、信号無視すること二回、トラックに正面から立ち向かおうとすること三回、いかにもヤクザっぽい人が乗っている高級車に横から突撃すること六回…。あ、五回目の時は顔にナイフ傷がある人が殺す勢いで追ってきて怖かったわ…危ない危ない…
「きゅうんじゃわからないでしょ!ごめんなさい、は!」
「く、くぅん…」
「くぅんでもないの!ごめんなさいでしょ!ほら!ご・め・ん・な・さ・い・は!」
「きゅ、きゅふぅうん…」
…でもこの町は何時からヤクザ天国になったのかしら…想像するだけで怖いわ…
「あ、いたいた。おーい、みづきちゃーん」
…ヤクザ天国ということは私たちには地獄よね…警察は何をしているのかしら。犬も歩けば棒に、じゃなくて犬が歩けばベンツに当たるなんてことわざが似合うくらいに遭遇するなんて…あ、でも今日だけかもしれないわね。
「みづきちゃん?お、こんにちはまめくん」
…ということは今日はヤクザの日かしら?英語で言うとヤクザディね。ヤクザディ。うん、我ながら上等
な表現だわ。多分ヤクザディには、指詰め三十パーセント割引とかあるのかも…
「まめは何時も可愛いなぁ、ほーらよしよし」
「わふわふわふ!」
「わふわふでもないの!ごめんなさいって言う訓練もしたはずでしょ!…て、あ」
気づかなかった、こんな近くに居たなんて…そういえばさっきから人間の声が聞こえていたような、うわ、うわわ。
「こ、こんにちは!今日も会えましたね!」
失礼じゃなかったかな?洋服が乱れてないかな?いぬいぢめの現場をとり押さえられなかったかしら?
「うん、こんにちは。今日も犬のしつけかい?」
 みられてました…不覚です。
「あ、あのこれは私のなりの調教でして、全く他意はありませんから!」
 あ、まめが恨めしそうに私を見上げてる…こらっ、そんな顔したら秋田さんに全貌がばれちゃうでしょうが!しーっ!
「…わふ」
わふじゃないでしょ!
「本当に違いますから…」 
「ああ、解っているよ。加奈ちゃんが理由も無く犬をいぢめる人じゃないってことはね」
「え?」
 あ、秋田さんが私に近づいて来る…。そのまましゃがみこむと、まめを撫で撫でしてくれました。まめも目をつぶって嬉しそう。
「だって最初に会った時もそうだっただろ?普通はあんなこと出来ないよ」
「あ…」
 それを言われて、私もちょっと思い出した。始めて秋田さんに会ったあの日のこと。

 あの日は何時もと違うところを通っていたの。住宅街からはちょっと離れたところ。山に近い丘のところは別荘みたいになっていて、散歩するにはとっても気持ちよさそうだったんだ。でも、ちょっと油断していたのがいけなかった。
「…まめ、どうしたの?」
ちょっと唸っているな、って思ってた。でも犬が近くに居るんだね、って考えてた。だから、草むらから犬が飛び出しくて繰るなんて、全く予想の範囲外だった。
「きゃあっ!まめ!」
 それは信じられないくらい早い出来事だった。犬だって動物だから、人なんかよりよっぽど運動能力は高い。信じられないスピードで突撃してきた黒いそれは、警戒体勢のまめをあっさり組みし抱いて、首に深く噛み付こうとしていた。
私はその時何も出来なかった。まめが初めてみせた野生の力。牙を剥いて、心臓が震えそうに低い声で相手を威嚇していた。
それに、まめにのしかかっていた犬はさらに大きくて、とてもじゃないけど私には払いのけられそうに無かった。
今まで見て来た物の全く違うところを見せ付けられたせいと、本能的な、獣に対する恐怖が私を凍りつかせて、全く動けなかった。
でも、何かしなくちゃいけない。そう思って何かを掴んだそのとき。
「ギャンッ!」
飛んできたものにぶつかって黒犬が横にはじけとんだ後、何かきつい匂いが立ち込めた。黒いのはそれが嫌なのか頭をぶんぶん振ると、逃げ出してしまった。
「君!大丈夫か!」
知らない人がこっちへ走ってきた。直感でこの人がまめを助けてくれたってわかる。勇気があるなぁ、とかヒトゴトみたいに思ったのを覚えている。
「あの犬は性質が悪くてね。やたらと噛み付くからこの辺のみんなに嫌われているんだ。…と、そちらは大丈夫かい?」
そういうとその人はまめに触って、なにやら調べ始めた。傷の具合を調べているみたいだ…このときは、彼が獣医さん志望だなん知らなかったから、『何するの!?』って思ったことも覚えてる。
「うん、傷は無いね。じゃあ君の方は…って、何もっているのさ」
「え…?」
あの黒犬に飛び掛ろうとして私が掴んでいた得物の正体が、時間がたって冷静になった今、やっとわかった。
「ペットボトル…です」
ちょうど1・5mサイズの大きいボトル。でもこれであいつに挑んでも…ぽこぽこ言うだけで何の役にもたたなかったよね。
でも、あの時はまめを助けなきゃって必死だったし…でも何てもの握り締めているんだろって、恥ずかしかったことも覚えてる。
「あはは、勇気が有るけど、それで行く前に間に合ってよかったよ」
そして、このときの屈託の無い笑顔は、もっと覚えている。だからかな、あんな事したの。
「とにかく二人とも無事でよかった。じゃあ僕はこれで帰るけど」
「あ、あの!お礼をしたいので連絡先とか教えてくれませんか!実家の番号とかでいいですから!」
 失敗した!世の中には携帯という便利な個人用連絡装置があるのに、いきなりつっこんだ質問をしちゃった私は直ぐ後悔したけど、
彼はまた笑顔で



総合得点

13点(30点満点)

寄せられた感想

・未完成なのが残念。

・惜しい!完成さえしてれば高得点だった ぜひ完全版をきぼんヌ あ。でも誤字が多すぎるのはちょっと(ぉ

・ところどころのネタは好きなんですが、未完なので評価は低めです。

・凄い楽しそうな作品。未完なのがひっじょ〜に残念。

・んー少し文字が詰まっていて読みにくかったです(^^; 縦読みだったらこれぐらいは平気なんですがねぇ……



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