作品No03
















同じ時間を共に歩めるというのは素晴らしいことである――
















「急がないと急がないと!!」

 俺は口にパンをくわえたまま猛ダッシュで学校へと向かう。こんなことをするやつはマンガの中にしかいないと思い込んでいたのだが、まさか自分がこういうことをする羽目になるとは。
 そもそも、悪いのは俺ではなく目覚まし時計である。あのやろう、夜のうちに電池が切れやがって……。
 普段から遅刻しがちだから今日こそは遅刻しまいと思ってわざわざゲーム用電池を使ったのだ、もう既に電池切れしたやつだったけどこういうことにならまだ使えたはずと自分を信じて。
 俺はひたすら走り続ける。俺の家は学校からそれなりに離れてはいるのだが、学校で指定された『自転車で通学できる距離』にほんの少し足りないため、自転車が使えないのである。途中まで自転車使うやつはいることはいるのだが、俺の場合、親が口やかましいためスタート地点(家)で自転車使用を止められてしまうからどうしようもない。

「やばい、今日遅刻しちまうと罰ゲームが……!」

 罰ゲーム、それは俺のクラスの熱血体育教師が勝手に決めやがった、一人で学校全ての便所掃除をするというとんでもないものである。

「頼む、間に合ってくれ〜!!」

 そういいながらただただ走る。すると、とうとう校門が見えてきた。しかし、その門の前にはその熱血体育教師の姿もある。

「ラストスパートぉう!!」

 ここまで走って大分疲れていたのだが、再び腕を大きく振り上げ、全ての力を振り絞り走る。しかし……

「はい、タイムアップ!!」

 俺は校門まであと少しというところで、その熱血体育教師の無情な声を聞いた……。







「全く、やってらんねぇよな」

 俺は便所掃除をしながら、ぼそっとそうつぶやく。かなり苦労してようやく3つほど終わったものの、校内には6つトイレがあるため、まだ半分しか終わっていないかと思うと投げ出したくもなってしまって当然だ。

「あ〜あ、俺に時を止める能力でもあればなぁ」

 俺はありえもしないことをつぶやきながらデッキブラシでトイレの床を掃除する。

「こう……マンガみたいにバァーって……」

 俺はマンガで見た時をとめる技を持ったキャラが時を止める瞬間とるポーズをする。少ししてふと我に返ると、自分のしてしまったことの恥ずかしさを思い、誰もいないのに顔を熱くしながら掃除を続けた。





「ふう、これで終わりっと……」

 ようやく6つ目を終えた俺は大きく背伸びをする。時間は既に6時を過ぎていた。

「あーあ、結局部活できなかったじゃねえか、あの熱血体育教師め……」

 俺は愚痴をこぼしながらトイレから出る。その目の前には学校の図書室があった。

「……ああ、そういや借りたい本があったんだった」

 俺はそう思うと図書室へと足を運ぶ。どうやら戸は開いているらしい。しかし、人気は全くない。

「えっと『ズッコ○三人組』はと……」

 俺は最近読んで思わずはまってしまった本の最初の作品を探す。と、いうのも俺が最初に読んだのはその作品の5作目ぐらいに当たるもので、だったら最初のものも読んでみたいという気持ちから探しているのであった。

「お、あったあった」

 俺は目的の品を見つけ、図書カードに書こうと受付の場所に行こうとしたときだった。
 ふと、黒い奇妙な本に目を奪われてしまったのだ。
 その本は奥の方の、普段なら気づかないような場所にあった。
 俺はその本を手に取り、そのページをぱらぱらとめくる。と、そこには、

『時をゆっくりと流す方法』

と書かれているページがあった。

「!?」

 俺は思わずその本をもって、図書カードに書き込むと急いで学校を後にした。『ズッコ○三人組』の本はその場に置いたままで……。






「よし、大体用意は済んだぞ……」

 俺は家に帰ると急いで自分の部屋へと戻り、その本を読んだ。黄ばんでいて少々読みにくかったものの、読めないというわけではなかったので俺はそのやり方を必死で理解した。
 それはどうやら魔術的なものらしい、とはいっても道具はいらなかったので、俺の部屋の中に特殊な印を作るだけでほとんどの用意は終わったといってよかった。

「あとは、明日の8時ちょうどにただこの呪文を唱えるだけか」

 ただ、明日も学校はあるし、8時といったらまず間違いなく遅刻する時間だったのでどうしても失敗するわけにはいかなかった。

「とにかく……全ては明日だな」

 俺は電話で詳しい時間を確認すると、目覚ましの電池を新しく換えてそれと全く同じ時間にセットした。

「うまくいきますように……」

 それだけをただ願いながら眠りについた。





――そして次の日、時間は7時55分。親は二人とも7時30分に既に仕事に出かけているので邪魔される心配はない。
 少し、緊張してきた。勝負は一回きりなのだ。しかも失敗したら今日はさらに掃除場所が追加されて地獄を見る。
――とうとう7時59分になった。いよいよだ。
 俺は深呼吸をして床に書いた印の中に入り、時計をじっと見つめる。


5、4、3、2、1――


「今だ!」

 本に書いてあったとおりの呪文を唱える。
 しかし、なんの変哲も感じられない。

「失敗……したのか?」

 大きな不安に駆られる。しかし、それは杞憂に終わった。

「時計が……止まっている?」

 そう、つい昨日新しい電池を変えたばかりだというのに全く動かないのだ。
 一応確認のために外に出てみる。歩いている人たちも止まっている。いや、ほんのわずかながらに動いているようだ。あまりにも微々たるものですごく分かりにくいが。

「つまり成功したんだ……」

 俺はその場でガッツポーズをした。これで遅刻することなんてなくなるし。好きなだけ遊べて、好きなだけ眠ることが出来る。

「……しかもいたずらも簡単にできそうだな」

 そういって近くのスカートをはいていた女の人のスカートをめくる。白だ。

「俺以外はスローだからこういう行為も気づかないんだな……ふゎあぁあ」

 大きなあくびをする。そういえば昨日緊張のあまりよく眠れないんだった……。

「家に帰って寝よ」

 自分の部屋に戻り、ベッド上に飛び乗ると横になった。そしてそのまま深い眠りについた……。





 起きたとき、時計は8時00分07秒をさしていた。だけど、俺的には6時間以上寝ていたように感じられる……。

「つまり、1秒が1時間のペースなんだな」

 俺はそう納得すると外に遊びに出かけた。
――しかし、何をやっても面白いと感じられなかった。ゲーセンに行ってもモニターは止まったままだし、友人には話しかけても無反応。面白いわけがなかった。

「時間を元に戻そう……」

 そう思い、ふとあることに気づく。

「そういえば、どうやって戻すのだろう……」

気になった俺は、時間を戻すためにも家に戻り、本を読むことにした。






「元に戻す方法……元に戻す方法……」

 本をめくって時を元に戻す方法を探す。目次とか索引とかがついていないため探すのに苦労したものの、ようやく見つけ出すことができた。

「なになに……『午前8時にもう一度同じ呪文を唱える』か、何だ、簡単じゃないか」

 そう思って本を置く。しかし、俺はとんでもないことに気づいてしまった。

「……待てよ、1秒が俺には1時間に感じられるんだよな……すると……」

 近くにあったノートを取り、何も書いていないページをめくって鉛筆で計算をする。
 一時間は60分、1分が60秒、そして俺が感じられる時間というのは1秒が1時間……。

「なんてことだ……」

 ノートに書き出された数字を見て愕然とする。それは1日が過ぎるためにはあと86400時間……日にちに直すと3600日過ごさなければならないという結果が書かれていた。

「うわぁあああ!!」

 俺はこの音すらも遅すぎてよく感じられない、無機質な世界をあと10年近く過ごさねばならないのだ。

「誰か助けてくれよぉ……助けて……」

 目の前の絶望。それにただ、来ない助けを求めることしか俺にはできなかった……。






総合得点

22点(30点満点)

寄せられた感想

・うん、個人的にはアウターゾーンっぽくて好き(ぇ ただ、道筋が単純すぎたかなぁ?

・世にも奇妙な、もしくはアウターゾーンw お約束通り過ぎて少し物足りない感じもします。

・ズ○コケ三人組懐かしい!とか思っていたら中々に救いの無いエンド。読み終わってから最初の言葉を読むと、何かキマスね。これは良いです。

・…アウターゾーン?(ぉ

・その後が気になる展開w



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