作品No02
……もし、やりなおしたいことがあるなら。 何度だって昨日をやり直せる。 ――そう、オレが望めば、何度でも。 時の砂 / ループ 「駄目人間だもの」二時間S 5th try / 『時間』 「ごめんなさい。わたし、強引な人が好きなんです」 オレはこの県下トップの進学校の学年トップにして生徒会長。 この学校でオレの名前を知らないものはいない。 誰もが尊敬と信頼を寄せてやまない無敵の男。 なぜなら、オレには秘密の力があるからだ。 あれはまだオレが中学生だったころ。そのころのオレは何のとりえも無いごくごく平凡な少年だった。 たまたま苦手な数学で普段よりかなり悪い点数を取って、落ち込んだ気分で学校から帰っている途中でヘンな老人に会ったんだ。 「……坊主。何か悩んでいそうじゃな」 全身を黒いローブで覆った、なんだか怪しげなじいさんだった。 普段なら無視して通り過ぎるところだったが、その日のオレはあんまり急いで家に帰りたい気分でもなかった。もっと言えば、できることなら帰りたくなかった。 「図星か。……ならばいいものをお前にやろう」 そう言った途端に暗転する視界。じいさんの声だけが頭の中に響いてくる。 ( お前には一日だけ時間を遡れる力をやろう。 ) ( 何度でも、お前が望めばいつでも記憶を持ったまま昨日に戻ることができる。だが、 ) ( 一日を越えて遡ってはならん。もしそうすれば、お前は戻った日までの記憶と能力をすべて失い、ただの少年に戻ってしまうからの ) 目が覚めると、昨日の朝だった。 その日はオレが覚えているとおりに進行し、次の日には覚えているとおりの点数のテストが帰ってきた。 ……結論から言えば、じいさんの言ったことは本当だった。 さっそくオレは次の日から能力をフルに使い、テストは毎回問題を見てから前日に戻ってやり直すことですべて満点をとり、余った時間をパーフェクトマンとなるべく体の鍛錬に費やした。 現在ではオレは、失敗の無い部長・生徒会長として先生にも生徒にも一目置かれている。 で、だ。 そんなオレだが、ついに恋をした。 自信満々で告白したものの、答えは『わたし、面白い人が好きなの』。 さっそく戻ってひょうきんに告白したら、たいそう引かれた。 答えは『わたし、紳士的な人が好きなの』。 その後、何度やり直しても同じだった。違うのはオレを振るときに言う好みの内容だけ。 ……何故だ。 そうして、ついにオレは真相を知ることになった。 既に付き合っていたのだ。平凡で特にどうといったこともない男と。 ――爆発した。その二人がこっそり逢引をしている場面に出くわして。 「何故だ! なんでそんな男のためにオレを振るんだ!! どう見たってオレの方が…」 無茶苦茶だ。無茶を言っているのは自分でもわかっていた。止められなかった。 「……ごめんなさい。でもわたし、やっぱり好きだから、この人のことが好きだから…」 ……惨めな。 惨めだった。オレがこれまでやってきたことは何だったのか。 完璧な男になったのに。一日だけなら何でもやり直せる超能力まで持っているのに。 ……オレは、あんな以前の自分にも増して平凡な男に負けた。 何の為に。 何のために、これまでオレは。 ………………………。 オレはそのまま学校を出て、すぐに過去に跳んだ。 戻る時間は考えなかった。『今』から逃げられるなら、どこでも良かった。 ――もう、どうでもよかった。 「ねぇー、待ってよ〜」 オレは県下でもごくごく平均的な高校に通うごくごく平均的な高校生男子。 「おーい、早くしろよ、バス来ちゃうぜ〜?」 だけど、一つだけ取り得がある。 「も〜、もうちょっとくらい優しくてもいいんじゃないの?」 彼女。オレの最愛の恋人。オレをとても真摯に好きでいてくれる人。 どこにでもいるような自分でも、彼女だけは世界中に自慢したいくらいの、オレの宝物だった。 あの日、何故か中学の帰りに道で倒れていたオレを見つけて、介抱してくれたのが彼女だった。 なぜそんなところで倒れていたのかは、自分でもわからない。 帰ってきた数学の点数が悪くて、落ち込んだ気分のまま道を歩いていたところまでは覚えているんだけど。 でも、そんなことはどうでもよかった。 それがなければ、彼女と出会うこともなかったんだし。 もちろんこれから彼女との仲がどうなるかなんてオレたち自身にもわからないけど、きっと何が起こっても大丈夫。 彼女のためなら、なんだってやってみせるさ。 今のオレは、世界一の幸せ者だから。 終わり |
24点(30点満点)
・こういうの好きですw
・うむぅ、簡単に幸せ掴んじゃった気もするなぁ
・展開が想像しやすい話なので、何かもう一味欲しいかな。
・オチが綺麗ですね。良くあるパターンかな?って思ったけど、違ってて、落ち方が凄く綺麗でゾクっとしました。
・あうあう、こういう感じの話は大好きですw