作品No04
「おい、涼風。こんな企画書でどうやって新事業すすめるっていうんだよ! 」 「すいません、すぐ書き直しますんで 」 ったく、やってらんねぇよ 入社したら「君が会社の将来を担う人間だ」なんていいやがって 自分ではアイデアのアの字すら出ないくせに あぁ、畜生。こんな会社辞めてやる!! って言いたいとなんだけど 不景気の中そんなこといってたら 明日食い物にありつけるかが心配だ 「固定概念を覆して、もっと斬新的に… 」 斬新的…何を斬新的にすればいいんだ… もう、正直この会社に俺の住処があるのかもわからない 大企業なんていわれてる会社にいただけで はじめのころはよかったかもしれない 友人から「スゲェ!! 」とか「お金持ちそう」とか そんな目で見られていて少しだけ優越感に浸らせてもらったのは事実だ でも、会社の仕事は思ったより地味であり 味気の無いものばかりで自分でも飽きてしまっていた インテリ系のお仕事はおしゃれで、いつもアルマーニのスーツを着て お昼はカフェで優雅に過ごすようなフランスみたいなイメージがあったが そんなのはただの自分の妄想にすぎなかった もうインスピレーションが頭の中にないのではないか もともと俺には向かない仕事だったのか そんなことばかり考えながら山の手線に乗り込む毎日が続いてた 家に帰ると一人だから愚痴をいう相手すらいない状態 「あぁ、学生時代にはあんなに持てても今じゃ仕事ばかりで 女作る時間もねぇよ。いい女から電話でもこねぇかな〜 」 はぁ…気休めになるかと思っていった小言も 自分には気休めにすらなんねぇよ… ホントにオトナになっちまうと つまらないことばかりだな 生活も、考え方も、仕事ってか勉強も あの時は全てが自由で気ままで想像に歯止めがなかったな そう、夢ってのがあったから想像も掻き立てられたよな 今の自分にないものが、昔はたくさんあったよな 明日から連休か…こんなビルだらけの町にいても 仕事のことしか考えつかねぇよ…休んだ気にすらなんねぇ 「久々に実家に帰るかな… 」 俺は実家に帰ることにより、俺にかつてあった何かを取り戻そうとしていた 仕事のためじゃなく、自分の生き方を変えるために――― ビルの町から飛行機で3時間 フェリーで揺られて着いた小さな南国 それが俺のふるさとであった 「相変わらずここはなんにもかわっちゃいないな」 それが俺にとってすごくうれしかった 変わりすぎた町で生きていると疲れるから… 未だにこの島にはタクシーといえるものが無い だから基本的には徒歩で帰ることになる 「何かふるさとに返ってきたのに旅行に着たみたいだ」 最近ビルを見ていたのでソテツとかそんな熱帯樹を見てなかったんで ハワイのような観光都市にきてしまった感じが未だにする 「ただいま、母さん」 「あら、どしたのさ」 「何だよ、息子が帰ってきておかしいのかよ。」 母親がすげぇ意外な顔でこっちを見てきた そりゃそうだよな。ここんとこ何年も帰ってきてなかったもの 「いやー落ち着くな〜、あんな青空すら見えないとこで 仕事ばかりしてたら息が詰まるわ。ここでいっそ仕事したいよ。」 「馬鹿なこというんじゃないよ。今仕事があるだけでも ありがたいと思わないといけないだろうが。」 「そうだよな。でも俺、もう駄目かもしんねぇ… 実際さ、仕事上手く行ってないんだよ。 なんていうかさ…仕事でつかうアイデアってか 想像力がもうないんだよね 」 「難しい話しても母さんにはわからんわ まぁ帰ってきただけほっとしたわ 」 そんなことをお茶をすすりながら話していると親父が帰ってきた 「おう、将。帰ってきたのか。あ、そういえば 近所のカナちゃんが帰ってきたっていうとったぞ お前小さいころよう遊んだろ。会ってきたらどうだ? 」 「へぇ〜あいつも帰ってきたのか、まぁここにいてもなんだし 会ってくるかな。 」 カナとは何年ぶりになるだろう。 こんな島だから幼稚園から高校までひとつしかないから カナとは高校まで兄妹のような存在だった すげぇ泣き虫でいっつも俺の後ろで何かあったら ぐすぐす泣いていたな まぁそれはそれでかわいいんだがな 「おばさん、お久しぶりです。カナいますか? 」 「あら、将ちゃんじゃないの?すっかりオトナになっちゃって 元気してたかい? 」 「あ、はい… 」 俺はそのとき妙にオトナといわれるのが嫌だった 何かオトナって聞くと頭が固くてうだつの上がらない 駄目人間のように聞こえてしまう… おばさんはそんなことを言っているのではないってのはわかる だけどそのときの俺はオトナが嫌いだった そんなことを考えていると、カナが帰ってきた 「ただいま〜、って将兄ちゃん! 」 「よう、カナ。元気してたか? 」 「うん! 何か将兄ちゃんオトナになったね 」 お前までそんなことを言うのか…俺はそんなに駄目な人間なのか… 「…将兄ちゃん、大丈夫? 」 「あ、なんでもないよ。それよりさ、海行こうぜ 」 「え?今から?なぜに海さ? 」 「だって、せっかく島に帰ってきたんだぞ。海以外にどこに行くんだよ 」 「まぁ、そうだけど… 」 「よし!行くぞ! 」 親父から借りた軽トラで浜まで10分 意外と近いんだな…あんなコンクリの町では 1分1分小刻みな生活していて 10分なんて待っていられなかったのに 10分車に乗っていても全然苦痛でなくて まだ乗っていたい感じだった 「…なんかすげぇ新鮮だな。ガキのときは何度もここにいて 遊んでたから普通だったのにさ… 」 「そうだね… 」 「お前あれだな、いっつもニコニコしたりメソメソしていたけど しんみりとはしたことなかったよな。 そんなしんみりとした顔みたの初めてだぞ。」 「私だって、オトナになったもの 」 「オトナ…か… 」 「…将兄ちゃん? 」 オトナ、あんなになりたいと思っていたもの なってみて初めてわかった こんなにつまらなく、夢が無く、頭が固定概念で縛られる 俺はそんなオトナになってしまった ガキのころ夢見ていたオトナになれなかった 「お前は銀行の受付だったよな?花形っていわれてて 就職したときすげぇうれしがってたけどどうだ? 楽しいか? 」 「…なんか、そうでもないよ。いつも作り笑顔 笑顔だけでお金貰ってるって銀行内で言われてるし お局の人には愚痴られるし、あんなに最悪な仕事無いよ 」 「…お前もそうだったのか… 」 「え? 」 「俺もだ。インテリ系っていうから、フランスみたいな 昼はカフェで優雅にって普通に思っていたんだが そんなのは空想で、実際はオフィスで残業当たり前 毎日企画書とにらめっこ。入社当初は期待してるなんて言われたけど いまでは俺なんて愚痴の掃き捨て場みたいなもんだ。 」 「そうなんだ… 」 そう、俺達はオトナになってしまった… 夢も無い、現実としか向き合えないオトナに… ガキのころに思っていた理想のオトナになれなかった ちょっと聞いてみようかな 「なぁ、オトナの気分ってどうよ? 」 「どうって… 」 「俺達会うたび言ってたろ?オトナになりたいねってさ 実際になってみてどうさ? 」 「何か、私の思うようなものではなかったかな でも…この島でオトナになれたらそういう風にはならなかったかもね 」 「なんかさ、最近思うんだよな。ガキのときってさ 時間が足りないとか思わなかったか?遊びたりんくてさ くらーくなって母さんが来て「ご飯だよ」って大声で迎えに着てさ しょうがないな〜って思いながら帰ったら少し寂しいんだよな まだ遊びたい、まだこの遊びをしてないからしたかった、とかさ あんときは考えが無限大にあったよな…今はまったくなくてさ オトナになるとそんなの消えてしまって、何で昔は そんなにアイデアみたいなのを考え付いたのかなって思うんだよな 」 「そっか…兄ちゃんオトナって嫌い? 」 「そうだな…なんか思春期のガキみたいだな俺。」 「そしたら兄ちゃんは、まだコドモだね」 「なんでだよ?さっきまでオトナになったねって言ってたのに いきなりガキ扱いかよ。」 「だってオトナ嫌いなんでしょ?自分嫌いな人なんて いないんだから兄ちゃんはオトナじゃない。 」 「でもアイデアとかそんなの考え付かねぇ俺はもう… コドモなんかじゃないよ…」 今思えば不思議だ 昔は子供だねっていわれたらすげぇむかついたのに 今ではオトナだねって言われたらすげぇむかつく 詳しくいえねぇけど、不思議だ 「兄ちゃん。完璧な人間なんていないよ 兄ちゃんは何でも欲しがりすぎだよ だってオトナって言われるのが嫌なくせに コドモだねって言われたらそんなにいい顔してないよ アイデアとか浮かばなかったらそれでいいじゃない だってそれが全てだったらみんな生きていけないよ いつもいつもアイデア浮かんでたらそれはそれでいいかもしれないけど なんか一つ一つのアイデアが軽くなっちゃうよ 」 なんかがはじけた よくわかんねぇけどはじけた 俺はオトナともコドモともいわれたくなかった 何を求めていたかというとそれは足りないものを求めていた でもそれを埋めるのは無理だと思わなかった自分が馬鹿だ なんだなにげにこいつ、いいこというじゃねぇか 「お前にそんなこといわれたら立場ねぇよ 」 「だね〜アハハ 」 ったく何にも考えてないと思ってたけど 意外と考えてんじゃねぇか やっぱりここは何かといいもんだ ココがないと俺はつぶれてたし カナとも会わなかっただろう なんかさっきの話を聞いてたら自分の中で風が起こった 口では言えるような感じではないが ここにいるだけで今までに無い充実感が得られた感じがする それはここにいるだけではなくて カナといるからこそかもしんない 「なぁ、お前誰かと結婚する気とかあるか? 」 「ん、無いよ」 「お前ホントに軽いな…まぁそれがいいとこなんだがな 」 「それって褒めてるの? 」 「きにすんなよ。なぁ二人で会社辞めてここらへんに 暮らさないか?俺さ、親父の仕事つごうと思うんだ 今の仕事より絶対充実感があるとおもうんだ それになんか俺に足りない何かが埋まりそうなきがするんだ ここにいるとさ 」 「何?プロポーズ? 」 「プロポーズ?そんなんじゃない強制だ。お前のせいで こんな気持ちになったんだからな。最後まで責任とって貰うからな 」 「だね〜なんか結婚って感じしないしね 」 ばか、正直照れくさくて言えねぇんだけど 感謝してんだよお前に だから結婚しようなんていったんだよ なぜ親父の仕事つごうかとおもったのは 今の仕事より楽しそうだからだよ ホントに言いたかったのは お前といれたら足りない何かが埋まっていきそうだったからだよ あぁ〜あたまんなんかでも考えてたら やたら恥ずかしいじゃねぇか!! 「帰るか。親父達に一応話しつけんとならんしな 」 「うん!! 」 その後はというと 俺は親父のサトウキビ畑をついでせっせと仕事をしている もう暑くてなんのでキツイけど あんなとこにいるよりなんぼか楽しい コドモも出来た 何かと楽しいもんだ田舎も なんたって20後半の男が夢を見れるようになったんだから あのときに見れなかった夢を… あの時埋めようとしていた何かは未だに埋まっていないけど でもそれに近づいた感じはあそこにいるときより すげぇ感じてる 実際カナの言うとおり俺は何でも欲しがっていた コドモでもありたいし 嫌がりながらでもオトナでいたかった でもそれは無理な話なのだ 結局何がいいのか俺にもわかんねぇけど 一つだけわかることがある 自分の中に突然ふく風に身を任すのが一番だと よくわかんないけど、その風が一番自分のことを 自分より知っていて、いいことがありそうだと 期待させてくれる 俺はいまだに期待してる あのカナに言われたときに吹き起こった 風がまた来ることを願っている 今日もいい風が吹いている FIN |
13点(20点満点)
・ストーリーが判り易い。なんつーかうまくいえないけどなんかはじけた(ぇ
ただ、もうちょっと最後にふくらみが欲しかったかな?
・少し改行が多くて読みにくいかな、そのせいで盛り上がりに欠ける感じが。