作品No03
人はなぜ空を飛びたいと思ったのか? 人はなぜ空にあこがれたのか? それは、人が飛べないからではない。 かつて人は空を自由に飛ぶことができたからだ。 Addictoion 少年はその一歩を踏み出した。 いや、この表現は正しくない。 なぜなら彼の眼前に足場などないからだ。 一瞬の浮遊感、そして落下。 重力の枷は彼の四肢を縛り、大地に縛り付けようとキリキリと距離を縮めていく。 正面のものほど鮮明に、周囲のものほどあいまいに輪郭をなし、彼の感覚を侵していく。 風が吹いた。 上昇気流だ。 顔面に分厚い大気の層を受け一瞬つむった眼を開くとまるでピントが合っていないような錯覚に襲われた。 地上がかすれていて良く見えない。 両手を広げると、風が絡んでくるのが分かる。 少年は四肢を広げ、体全体で大気を抱きしめた。 とたん、それまで感じていた恐怖は消え、大気をつかんでいる確かな感触が感じられた。 布団に包まれているような、体中にベールをかけているような、そんな感じ。 それでもってかすかな動作にも機敏に反応し、翻る。 最初は指を動かす。 指に絡む風がまるで糸のように感じられた。 両腕で羽ばたくと、体は簡単に浮き上がった。 そして、浮遊感。 頭上に大地が、背後に蒼空が、正面には蒼海が広がった。 重力から解き放たれた彼に、もはや方向など意味をなさない。 世界を征服してしまったような充実感と背徳感、それらを断ち切ろうと大地へと急降下、否、急加速する。 大地へと上昇、天空へと降下を繰り返し、そうしているうちに一筋の川が眼に映った。 人の流れは黒く、ドロドロしていて、そしてあまり美しくなかった。 しかし、少年はその流れの中に一つ輝くものを見つけてしまった。 見つけてしまったからにはそれが何かを確かめるしかない。 両手にできる限りの風をつかんで、そして一気に背後へと放った。 鐘を突くときの動作に似ているだろうか、そうして少年は加速した。 上空から見た人の流れは、小さな黒い虫がうごめいているかのようだったが、こうして近づくと一つ一つが ちゃんとした人間であることが分かる。 点だった人々に、次第に手が生え、足が生え、顔まで識別できるようになり、少年は人の流れの中へと流れ込んだ。 人の流れの中は人意外何も無かった、何も感じなかった。 入った瞬間にその流れに絡めとられてしまうのではと思ったが、実際はそうではなかった。 反対に彼自身が人、1人1人に絡まっていくのだった。 人々の会話が少年の体に入り込み、体内で四方八方にはじけ、飛び出していくのが少年には感じられた。 サラリーマン風の男の持つタバコの煙は少年の体内に入り込み、いろいろな場所に靄をかけてなかなか取れなかった。 少女のかすかな香は彼の中で首筋を撫でるようであった。 人々の渦をすり抜け、少年は輝きの正体へとたどり着いた。 そこだけ人の流れが途絶えて、円を作り、その中心に見えない何かがあった。 あるいは見えていたのかもしれないが、少年には見えなかった。 ただ、赤い花が咲いていたようにも、真っ赤に熱せられた刀をのようにも思われた。 鉄のにおいがした。 「・・・・・・」 誰かに名前を呼ばれた気がして振り向くと、真っ白な太陽が眼を焼いた。 まぶしさに眼を細め、真っ白に染まった視界が晴れると蛍光灯の明かりが眼に入った。 白い壁に囲まれた部屋で、真っ白なベッドに横になっていた。 周囲には誰もいなかったが、その部屋と、体中に絡まっているチューブが状況を物語っていた。 「そうか、落ちたのか…。今度は上手くやらないとな…」 そうして少しもしないうちに医者と思しき人物と、眼を真っ赤にした女性が入ってきた。 少年はなんとなく、物足りなさを感じていた。 人はなぜ空を飛びたいと思ったのか? 人はなぜ空にあこがれたのか? それは、人が飛べないからではない。 かつて人は空を自由に飛ぶことができたからだ。 頭上には蒼空、背後に太陽、眼下には町が広がっている。 そして少年は一歩を踏み出した。 |
11点(20点満点)
・ごめん、ぶっちゃけ何がどうなったのかがよくわかんない(汗
読み手に謎が解けにくくてマイナス〜
・なかなか考えさせられるものでした
・少し観念的になり過ぎてるかなぁと、もうちょっと狂気を前面に押し出しても面白いかと。