作品No09
今はやりのAO入試。 先輩はそれに見事合格し、念願の某私立大学に進学した。 AO入試とは自分で自分の紹介、志望理由、その他高校での活躍(?)をレポートにまとめ提出 その後、口頭面接などなどを経て審査されると言う入試である。 それに合格したことからも窺えるように先輩は高校で目覚しい活躍をした。 私の憧れの的だ。 数日前、僕はその先輩と偶然出くわした。 そのときの先輩の言葉が今回の僕の行動の発端となった。 「吉田君、君はまだいいよね。だって僕はもう大学生だよ。大学は金と年齢さえ足りてれば誰だって行ける。 そりゃ学力は必要だよ。しかし、僕の言いたいのはそう言うことじゃない。今となっては高校生活に戻るこ とは不可能だってことだよ」 「そうですか?僕から見れば大学生の方がいいですよ。高校って言ってもゲームや小説、ましてやドラマみたいな 展開なんて皆無ですよ」 「それは心配ない。僕は自分で小説に書くから。それで満足だし」 「それじゃあ、僕は青春を実行しますよ!僕はそれでは満足できないから」 計画はいたって単純だった。 男女一人ずつにラブレターを出し、二人が屋上で出会ってからを盗聴し、校内に設けられているスピーカーから 実況中継するというものだ。 なんとも幼稚で無根拠な計画だ。 警察ではこう言うのを「愉快犯の犯行」と言うのだろう。 午前6時半 気温もまだ上がりきらないうちから僕らの計画は始まった。 男の方に選ばれたのは2年の漫画研究同好会の武田。 女の方は3年の池田。タウン誌に写真が載ったので校内では誰もが知っている有名人である。 武田が振られるのは必至だ。 いや、そうなることが大前提なのだ。 薄笑いを浮かべながら僕は2人の靴箱に手紙を入れる。 文面は1文字違わずまったく同じものだ。 意図したわけではなく、ただめんどくさかったからである。 いささかの問題も無く第1段階は終了した。 その後も計画は滞りなく行われた。 実に簡単な計画だ。 いや、失敗する方がどうかしている。 スピーカーの配線にプラグをつけ、発光ダイオードをつけて〜エトセトラ…。 事のてんまつを思い浮かべると笑いがこみ上げてくる。 こんな面白いことがあるのだ。 教師の声など一切耳に入らなかった。いや、耳に入って反対側から抜けた。 午後5時が待ち遠しい。 2人が出会うはずの午後5時。計画ではそうなっている。 僕の手の上で2人は与えられた役を忠実に演じてくれるはずだ。 武田が愛の言葉を吐き、池田はそれを上手くカウンターで返す。 武田はそれを打ち返すことも出来ずストレート負けする。 現実に打ちのめされた武田は1歩人間として成長する。 僕はそれを校内に放送し、満足感を得る。 午後4時半 僕はうまくやった。 計画自体はいささかの狂いも無かった。 しかし、今雨が降っている。 天気予報などあてにはならない。 現実がそう物語っている。 計画よりも早く武田は来ていた。 紺色の傘をさし、直立不動の姿勢で屋上につっ立っている。 僕はその光景を屋上の向かいの教室。第3多目的室から見ている。 仕掛けたマイクから送られて来る雨音がノートパソコンのちゃちなスピーカーから聞こえてくる。 当初は夕焼けを背景にドラマは繰り広げられる予定だったが、こうなってしまっては仕方が無い。 マイクがいささか心配ではあるが雨はこれはこれで良いかもしれない。 単調な雨音を聞いていても雨足が激しくなっているのがなんとなく分かった。 あとは池田を待つだけである。 午後5時になっても池田は姿を現さない。 5時半になっても姿を現さない。 僕は少なからず困惑してきた。 「なぜ来ない」と言う疑問と焦りが期待を蝕んでいく。 それまで頭にあった事のてんまつと、得られるであろう満足感はもう無い。 池田に対する疑問と焦りは次第に武田に対するものに変わっていった。 「なぜ待つ」と言う疑問と焦り。 ノートパソコンから響く雨音は明らかに激しい。 それがさらに僕の焦りを生む。 疑問はさらに姿を変えながらも僕の心からなくなることは無かった。 「なぜ待つ」、「なぜ待てる」、「なぜ信じられる」、「なぜ帰らない」、「頼むからもう帰ってくれ」 自責の念が「お前は子供か?」と問いかける。 浅はかで、愚かな計画はまだ終わっていない。 終わらなければ無くならない自責。 この出来事が武田の心に傷痕でも残してみろ。 機材を片付け手紙をどうにか処分したところで後悔はなくならないだろう。 子供じみた考えが引き起こした事件。 午後7時を知らせるアラームが鳴ったところで僕の中で何かが弾けた。 武田のもとへと走る。 武田が心配だったわけない。 ただ、これ以上は自分が耐えられなかったのだ。 早く終わらせたい。 スピーカーから全校に向け放送し、腹を抱えて笑う別の自分の姿と今の自分を対比させ2人のギャップ に苦悩する。 前者の自分に腹が立ち、今の自分を惨めに思う。 階段を駆け上がり馬鹿正直に最初見たときと同じ姿勢の武田に向かって叫ぶ。 「馬鹿だろ、お前。さっさと帰れよ」 武田に言った言葉だが自分に向けた言葉。 「何待ってんだよ。もう7時だぞ。馬鹿だろ」 武田は何も言わない。 何も言わないが武田は僕の方を見ていた。 そして何も言わないで階段を下りていった。 春が来た。 手紙の片割れは回収したがもう片方は池田と一緒に卒業した。 まだゴミ箱の中にあるのかすでに灰になったのか分からない。 武田は進級し、僕と同じクラスになった。 武田は僕のことを事あるごとに「道化」と呼んだ。 僕は武田を「馬鹿」と呼んだ。 あの出来事で僕は成長した。 以前が愚か過ぎただけかもしれないが、まぁマシにはなった。 今だからこそ思うが、僕は誰かのシナリオの上で踊らされていたのかもしれない。 誰かと言うのは先輩かもしれないが、もしかしたら自分自身だったのかもしれない。 なにはともあれ、高校生活はあと1年残っている。 |
22点(35点満点)
・いい感じにまとまってて読みやすかったっす
・荒削りだけど端々にセンスを感じました。洗練されると化けるのかなぁ?(人に聞くなw
・こういうこと一度でいいからやってみたいですよねw
・青春って感じですねぇ〜
・若いなぁw 青いアルバムの1ページってな具合ですやね