作品No01



カツン…カツン…カツン…カツン………
 夕方の学校に足音が響く。
 時間は夕方。とは言え、7時過ぎだ。
 いくら夏場でも大抵の生徒は帰ってしまっている。
そう、用事や『約束』のない人間以外は……。
 カツン…カツン…カツン…カツン。  
 唐突に足音が止まった。  
[二年A組]  
 そう書かれた教室の前で足音の主は立ち止まった。  
「………………」
 そして、静寂が訪れた。まるで足音の主が躊躇うかのように…。  
 ガラララ
 なんとも気の抜けたような音がして扉が開かれた。
 そして…………
「遅かったじゃない、待ってたのよ? 秀司」
 そこに、彼女はいた。
 まるで、幽霊のように恐ろしくもはかなげに彼女は扉……自分の目の前で微笑んでいた。    
「ああ、ごめん。少し遅刻したかな? 裕香」
 そう言って、二人は微笑みあった。
 それは、まるで儚げで今にも壊れてしまいそうだった。  
 深夜の密会    
「いつまで、そこに立ってるの?」
 不思議そうな由宇かの声に我にかえったのか秀司は慌てて返事をした。  
「え、あ、ああ、ごめん。」
 なぜか、そうあやまって秀司は教室に入った。 .
 (はは、昨日のTVみたか?)
 (ああ、見た見た)
 (ねね、髪の毛おかしくない?)
 (大丈夫だってぇ。あんたは髪の毛より別の事心配しなさいよ)
 一瞬、教室に多くの生徒が居る平凡な風景が視えた。
 あるはずの無い風景が……。  
 秀司は教室に入り窓際の一番後ろの席に座った。
 それをみた裕香は可笑しそうに「ふふふと」笑った。  
「な、なに? 僕何か可笑しな事したかな?」
 少し慌てた様子が可笑しかったのか、裕香はより一層楽しそうに笑った。  
「ふふふ、ごめんなさい。ただ、あまりにも自然に『ソコ』に座るから……」    そう言って、裕香はまた「ふふふ」と笑い出した。
 それに対して秀司は少し戸惑ったように聞き返した。  
「そうかな……そんなに自然だった?」  
「ええ、まるで一年前みた………」
 裕香は言葉の途中で「ッハ」と顔色を変えた。
 逆には秀司はすごく穏やかな顔になった。  
「……そうだね……もう…そんなにたつんだね……」  
 そういうと懐かしそうに教室を眺めた。
 そのまま静寂だけが場を支配した。    
「……ねぇ……、みんな元気?」  
 まるで、老人が遥か過去……少年時代を思い出すかのような表情で秀司は聞いた。
 それを泣きそうな表情で受け止めた裕香は何かを振り切るように頭を振ると、一転して満面の笑みで答えた  
「当然! あの連中がそう簡単に変われる訳ないじゃない」
 それは、幼馴染である私も同じだけどね。
 裕香はそっと心の中でつけたした。  
「はは、そうだね……そうだったね」
 そういうと秀司は笑った。心の底から嬉しそうに…悲しそうに…羨ましそうに…。
 それで、場の空気が変わったのか二人は至極穏やかに世間話を始めた。
 小学校の頃よくやったごっこ遊びの事だったり。
 中学校の頃よく寄り道したお店の事だったり。
 高校入試の時だったり。
 高校一年の時よく皆で集まって雑談した事だったり。  
「「……………………」」
 そこで会話は途切れてしまった。
 なぜなら二人の時間はそこで途切れてしまってるからだ。
 一年前のあの日、二人は―同じ日―同じ時間―同じ場所―で会っていたはずなのだから。
 そう、『はず』なのだ。
 それが意味する事は一つ。  
 二人は出会えなかったのだ。
 それだけじゃない。そのまま一年間あえなかったのだろう。
 だからこそ、二人は今日此処に来たのだ。
 例え一年がすぎようとも………。  
「「……………………」」
 どちらも、次の言葉を望んでいた。
 多分それが、二人がやってきた目的の一つだろうから。
 けれど、あとが一歩の勇気が出なかった。
 裕香は泣き出しそうだった。
 彼が来るまで何度も何度もシュミレーションした。
 その中では彼女はスラスラと………とまでは行かないが彼にちゃんと問えたではないか。
 そう、なんどもなんども………。
 なのに、どうした事か『今』その言葉がでない。
 いくらシュミレーションで上手くいったって、肝心な『今』上手くいかなければなんの意味もない。
 言いたい。
 聞きたい。
 泣きたい。
 分らない。
 もう、ぐちゃぐちゃだった。
 どうしたら、いいんだろう…………。
 秀司は逃げ出しそうだった。
 ここに来るまで何度も何度もシュミレーションした。
 その中で彼はスラスラと………とまでは行かないが彼女にちゃんと答えれたではないか。
 そう、なんどもなんども………。
 いくらシュミレーションで上手くいったって、肝心な『今』上手くいかなければなんの意味もない。
 言いたい。
 聞きたい。
 泣きたい。
 分らない。
 もう、ぐちゃぐちゃだった。
 どうしたら、いいんだろう…………。
 ふと二人の視線が合わさった。
 お互いの瞳にお互いの感情がみえた。    
((……ああ、そうか。お互い……))
 二人は何となく、分かり合った。
 多分お互い気持ちは同じだ。
 でも、絶対じゃない。
 だから彼女は聞いた。
 何度も何度も何度も繰り返してきた問いを………。    
「どうして……どうしてあの日これなかったの?」
 彼は答えた。
 何度も何度も何度も繰り返してきた答えを………。    
「お腹痛くて一旦家に帰って薬のんだけど、トイレから出られなかった」

「ぷ、ふふふ………あはははははははははははははははは」
 裕香は笑い出した。
 もう、心の底から。
 それは、とても楽しそうに。
 その姿に、秀司は呆然とした。
 正直、自分は許されない事をしたと思っていた。
 当然だ。自分がされたらまず許せないだろう。
 なのに、彼女は笑っていた。
 壊れたモノでもなく。
 狂ったモノでもなく。
 悲しみのモノでもなく。
 ただ、笑う。
 それだけだった。
 そして、その笑いは17年間常に一緒にいた彼女本来の笑いだった。
 穏やかに、懐かしく………。
 やがて、彼女は笑いの症状が収まったのか目に涙をためながら話し掛けた。
 そして、秀司の目を見つめながら真剣な目で話しだした。  
「私ね……本当は秀司を連れて行くつもりだったんだ。」
 一瞬、裕香の瞳に狂気の色が見えた。
 秀司は悲しそうな目で、しかし全てを受け止める…そんな目で裕香をみつめた。    
「でもね………、どうでもよくなっちゃった。」
 その言葉に秀司は呆然とした。
 オカシイ  彼の中で彼女がこんな事を言った事は一度もなかった。  
「どうして? って顔してるね。……ふふ、どうしてかな。」
 そこで、彼女は言葉を止めて外に視線を向けた。
 もう、日は落ちてしまい辺りは暗闇に支配されていた。
 そんな風景をみるともなしに見ながら裕香は再び語りだした。  「
たぶん、秀司が全然変わってなかったからだよ。そりゃ、外見も多少変わったし背も伸びてる……けれどね。何て言ったら良いのかな……そう、根っこの所は秀司のままだった。うん、それだけ分ったら十分だよ」
 そこで、裕香は再び視線を秀司に戻した。  
「でも、僕は許されない事をしたんだよ? 怨んで当然だよ……いくら調子が悪いからって、『約束』を破った。そのせいで……」
 と、そこで裕香は人差し指で秀司の唇を押さえた。  
「ううん、もういいよ。それに私は秀司を恨んでなんか無いよ?」
 彼女のその答えに秀司はショックを受けた顔をした。
 裕香はその表情を楽しそうに見つめながら再び話しだした。  
「さっきね、連れて行くって言ったのはね……寂しかったんだ、私。私は何時までも同じ場所で立ち止まってるしかなかったんだ。その間秀司は何処か遠くに行っちゃう……私の知らない秀司になっちゃう……そう思ってた」
 ただ、静寂の中で彼女の声だけが響いてた。  
「でもねさっきの秀司ね、昔のままだった。なんにも変わらない昔の秀司だった。」
 そこで、裕香は本当に嬉しそうな表情で笑った。
 思わず秀司が真っ赤になって見とれてしまうほどの綺麗な笑顔だった。    
「それみてたら、思ったんだ。ああ、秀司は変わらないなぁって…………」
 秀司はその時気が付いた。彼女が薄れていってる事を!
 そして、秀司がその事に気づいたと察したのか裕香は満足そうな顔で唇に当てていた人差し指を秀司に向けた。  
「でもね、秀司。このままだと一生私に負い目感じて生きてくでしょ? 確かに一生憶えていて欲しいけどそんな記憶として残るのは嫌なの。だからね、目を瞑って……」
 秀司の真っ白な頭にその言葉がストンと落ちた。
 もう、何も考えられなっかった。
 でも、これで終わるんだ。そう思った。
 ……ちゅ……  
「!」
 その感触に秀司は慌てて目をあけた。
 目の前には真っ赤な顔をした裕香がいた。  
「………へへへ、罰とし秀司の初めてもらったね……」
 そういいながらも彼女はどんどん透けていった。  「
こら、なんで泣きそうな顔してるの?」  
「だって、裕香……」
 瞳に涙を一杯に貯めた秀司は呆然とつぶやいた。
 それに対してもう、殆ど消えかけた裕香は本当に幸せで満足そうな顔で笑いかけた。    
「ね、秀司……渡す……本当に……幸せ……だったよ………」  
「………裕香…………」
 呆然と呟く秀司にuかは笑いかけた。  
「だ……か…らね……幸せ…な…記憶を…ずっとずっと……秀司にもって…て…ほ…しい…な………」
 時間切れだった。
 唐突に、そう唐突に



総合得点

17点(30点満点)

寄せられた感想

・ごめん、未完成で誤字って」 ̄|〇
(作者コメント)

・いいところで切れるなっ!w

・シリアスなのは俺結構好きです。

・切なげな雰囲気。ただ未完っぽいのが残念。

・狙い済ましたようなタイミングで切れてるなぁw
とりあえず未完なので評価は低めで。



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