作品No04
開放1時間15分。ISO100、絞りF5.6。 白鳥座のデネブを中心に捕らえて1時間と15分。 10センチSDUFU屈折望遠鏡の捕らえた空がフィルムを焦がす。 7月の夜空を飛ぶ白鳥。それに並ぶワシ、サソリ…。 夏の夜空を彩る星座は数多にあれど私はこの三つが好きだ。 この前の天体観測で私はこの3つの星座を写真に収めた。 ワシとサソリは失敗。 見事に汚染されていて空が緑に染まっている。 白鳥は良いでき。 望遠鏡が見た空は丸く切り取られている。 その円の中に空を閉じ込めるのがカメラでそれを自らに焼き付けるのがフィルムだ。 私が納めた白鳥の尾、デネブは写真の真ん中、それを中心として赤い星雲が取り巻いている。 この赤は望遠鏡で見たからといって見えるものではない。 そして円中に溢れている星々も肉眼で見えるものではない。 1時間と15分。この時間が少しずつ、少しずつフィルムに焼き付けていくのだ。 こうして星空をフィルムに収めて、出来上がった作品を見て私はそのつど思うことがある。 写真に写ったものイコール人が見たものではないと言うことだ。 画家は言う。写真では表現できない「私が見た世界」を描くのだと。 私は思う。人には見えない世界をフィルムは焼き付けるのだと。 私は写真から目を離し、部室の小さな窓から見える校庭に目をやる。 汗水たらしグラウンドを駆ける運動部員。こいつらはフィルムと同じだ。 彼らを赤く染める夕日をカメラのファインダー越しに見ると光が金属的な輝きに見えてくる。 ガタ。 部室の扉が開け放たれ、3年9組秋山俊介(男)、18歳、身長176センチ、体重75キロ、が入ってくる。 「サスガ吉沢くん!天文部期待のホープは心構えが違う。これで俺も安心して部を去れるというものだ」 「部長。そろそろその吉沢くんってやめてくれませんか?私が男みたいですよ……」 部長はいつもこの調子だ。 「そんなことはどうでもいい。早く準備を開始するぞ!レッツ ビギン ザ なんだっけ?」 口を動かしながらでも部長の作業は正確だ。 3年生の部長は今夜の観測会で引退することが決まっている。 最後の観測会と言うこともあって気合の入れようが違うのだろう。 「先輩」 「ん、なんだ?」 振り向いた部長をフィルムに閉じ込める。 「記念写真です」 部長は苦笑いした。 私は心霊写真を信じている。 フィルムは人が見えないものを焼き付けることができるのだ。 幽霊や火の玉が映っていたとしてもおかしくないじゃないか。 ISO100、シャッター速度10000分の1秒、絞りF3が焼き付けた部長の背中は輝いていて、でも寂しげだった。 |
20点(35点満点)
・ちょっと、物足りないかな?抑揚が少なすぎて余りなじめなかった
・天体観測の描写にリアリティがありました。
・続きが気になります
・少し消化不足?
・ちょっと物足りないかな? もう少し、心理描写を掘り下げればいい感じかと。
・話しの展開がほしかったけど、すっきりしてイイかも。
・んー、ちょっと消化不良。天体観測の話を聞かされただけって印象になっちゃってるかも。