作品No04



テーマ「扉、話」

 冬の夕焼けはステンドグラスみたいに綺麗で、輝いていてそして冷たかった。
「夕焼け見るのも今日が最後か〜」
竜治はだるそうに言った。
「そうだな。こんなことならもっといろいろやっとけば良かった」
悟もだるそうに言った。
二人は夏休みの終わりを嘆く学生ではない。

 1週間前に1人の学者が言った終末論は日を増すごとに現実となって行き、今では誰もが真実と認めて譲らなかった。
太古の昔、星を見るものはその姿に歓喜した。
長く伸びる尾を持つものに自分の名前をつけたりして…。
しかし、今その使者は皆に忌み嫌われる存在だ。
2人も終末を信じていた。
だから山にシェルターを作って今家路についているのだ。

「なぁ、この前僕んち引っ越したじゃん」
「うん」
竜治が言って悟は聞き手。
「前のアパート狭かったけどさ、まぁ今の家は広いんだけどね。前のアパートでも整理整頓できず狭かったけど
引っ越してきた広い家でもやっぱり整理整頓できなくて狭いんだよ」
「お前んとこはオカンもオトンも掃除しないからな」
竜治の家は医者だ。父はあまり家にいない。母は母でまだ小さい竜治の弟の世話で掃除どころじゃない。
「で、思うんだ。人間環境変わっても人間変わんないといけないんだなって」
悟は曖昧な返事を返して話は終わった。

「なぁ悟?」
「ん」
「生きてる間に何かしたかった事とかない?」
「俺は女だね。彼女の1人くらい作っていろいろね〜」
小指を立てて悟が言った。
「僕はもっと有意義に生きてれば良かったと思う」
「いや、楽しんだ方が勝ちだろ」
有意義にと生きておけばと言う竜治は典型的な真面目少年だ。今でも十分有意義に生きている。
悟はいわゆるガキ大将だ。2人は中学2年の今日まで同じ学校に通い、同じ時を過ごしていた。
「竜治、人類がみんな死んじまうってホントかな?」
「僕はどうとも言えないよ。学者じゃないし」
「でもみんな浮き輪やら洗面器やら買い込んでるし、辰夫のとこなんて昨日から地下室で暮らしてるんだぜ」
どんな些細な話でも良かった。
気を紛らわせられるのなら何でも良かった。
竜治は終末を信じていなかった。しかし「でも、もしかしたら」と言う不安が頭から離れない。
「悟はなんでそんな簡単に言えるんだよ」
「俺には何にも無いもん。なりたいものも欲しいもの〜はあるかな〜」
「僕たちまだ十年そこそこしか生きてないんだよ。まだ死にたくないよ」
竜治は顔を真っ赤にして言った。
「まぁ、待て。考えてみろ。俺たちがどんなにがんばってもいつかは無くなるんだぜ。科学者がいろいろ研究しても
いつかは人類滅びてさぁ残るものなんか何も無いし、そう思うと頑張ってるやつらなんか馬鹿みたいじゃん」
「そんなんで毎日楽しい?」
「楽しくないよ。寝るときにな、いつも思うんだわ。今日も無意味な日だったなって」
夕日が2人を照らし出す。
2人の顔も真っ赤に染まって、それでも竜治の顔の方が赤かった。
夕日がどんどん沈んでいって、どんどんそのスピードが早くなって、ついには夜の静寂が訪れた。
まだ明るいのに、星星はくっきりと見え、災厄の星も西の空に尾を引いていた。
「俺もな」
悟は上を向いて続けた。
「毎日楽しくないなって悩んでたんだよ。無意味な毎日だなって思って、その後決まって寂しくなって。んで、終末が
来て思ったんだ。終末が来るのは俺だけでいいのにって。竜治は頑張ってるじゃん。そう言うやつはまだ死んじゃいけ
ないって」
「僕は悟の言ってること分かる気がする。でも、そんなこと考えること自体が馬鹿馬鹿しいよ」
「まぁ、最後まで聞けよ」
竜治は黙って、うつむいて、それでも歩いた。
「俺なりに考えてもみたんだ。祭りはさぁ、傍から見るよりも参加した方が楽しいって。馬鹿騒ぎしてるやつらも傍から
見ればそのまんま馬鹿でうるさいけど当の本人は楽しんでるんだろうなって思うんだ」
「なら、悟も馬鹿になればいいじゃん。明日で僕ら死んじゃうけどまだ少し時間あるよ」
顔を上げた竜治が一気に言った。
そんな竜治を見て悟は笑いながら言った。
「実はな、シェルターに扉つけてないんだよ」
「えっ」
扉のないシェルターは無いも同然だ。
テレビの中の学者はもっともらしい数字を並べ、地球上の空気が無くなると言っていた。
真空は容赦なくシェルター内の空気を吸い出してしまうだろう。
「なんでそんなことしたのさ。明日もし本当に空気が無くなったら…お前のせいだぞ」
「まぁ待て親友よ。これは賭けだ。明日ホントに空気が無くなってしまうんならそれでしょうがない。で、もし空気が
無くならなかったら、俺らが生きてたら俺の人生をお前にやる」
「賭けをするんなら君一人でやればいいじゃないか。僕まで巻き込まないでほしいよ…」
悟は心のどこかで思っていた。
竜治を巻き込んだことを後悔していた。
でもこれぐらいしないといざと言うとき、恐怖に負けて賭けを逃げ出してしまう。
それだけはどうしても嫌だった。
もしかしたら竜治ならと言う甘えもあった。
それ以上に1人は寂しかった。一緒にいて欲しいと思った。
「だいたい君は甘えすぎなんだよ」
「甘えさせてくれよ!友達だろ!」
「都合のいい事ばかり次々と…扉はもう過ぎたことだからいいよ。人生をくれるって結局なにをしてくれるのさ?」
悟は胸を張って
「君に尽くす。君のために勉強する。君のために高給取りになる。君のために強くなる」
「なんだよそれ…それじゃあ今頑張ってる僕が馬鹿みたいじゃん」
「べつにいいじゃん。空気なんて無くならないよ。お前だってそう思ってるんだろ」
悟は腕を伸ばして空気をつかもうとバタバタさせた。
夜の空気が心地いい。夜の空気は火照った地表を冷ましていく。
そして熱くなった2人の頭も冷やしていった。
「僕だってそう思う。空気がなくなるなんて信じられない。だけど怖いものは怖いんだ…って話そらすなよ」
「最初に扉の話から話そらしたのはお前だよ。俺は何も知らん」
「う、うるさいなあ」
「まぁ俺はお前のために生きることにしたんだ。それでいいでしょ」
「あまり良くない」

 どれだけ病的なことを言っているのか悟は分かっていた。
しかし、それ以上に友人のことを大切に思える自分がいることに喜んでいた。
いつの間にか月が出ていた。地球照で照らし出された三日月は曖昧な色で輝いていた。
普段見えないはずの月の暗い部分、今はっきりと見える。
扉のないシェルターは底まで照らし出されているだろう。
同じように照らし出される2人の影。
そして、週末(終末)は明けていった。



総合得点

17点(25点満点)

寄せられた感想

・不思議な読後感の作品。

・話の展開にちょっとムリがあるような

・最後の週末の言葉遊びが面白いが、辺に説明の(終末)を加えた為それが半減。

・友情。堅い結びが酔い感じでした

・終末の過ごし方(ぉ



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