作品No03



俺はミサイル。名前などあるはずがない。
「超長距離弾道ミサイル」と言う肩書きがあるだけだ。
俺は生まれてこの方他のミサイルを見たことが無い。
だから俺が持っている遠隔照準システムもGPS軌道修正システムも迎撃回避プロトコル
も別段珍しいものだとは思えない。
比べる対象がいないのだからしょうがない。

俺はずっと暗い部屋にいた。
黒人の整備兵、白衣を纏った白人この二人が俺の友人だった。
黒人はいつも俺の身の回りの仕事をし、白人は毎日欠かさず俺の調子を尋ねてくれた。
寂しいかと聞かれたら首を横に振っただろう。
俺に尽くしてくれる2人がいるのだ。寂しいなどと弱音を吐けるはずもない。
だが、正直二人のいない間は寂しいもんだった。
何重にも重ねられた壁はいかなる音も通さない。
黒い空間に浮かび上がる緊急脱出ハッチの赤ランプの光が唯一の光源だった。
外の世界に興味が無いわけではない。
興味以上に恐怖があるものまた事実だった。
長方形のこの空間しか知らない俺にとって此処こそが俺の世界全てだったのだ。
いまさら外にはもっと広い世界があるなんて言われても俺は困るしできれば外など出たくはない。
ただ、飛びたいとは思っていた。

北の情勢うんぬんが騒がれだしたある日、白衣の白人が俺の頭に弾頭をつっこんだ。
黒人は俺の黒光りする体に赤いペンキで「メシア」と書きなぐった。
それだけでは無かった、今までに見たことないほどの人の群れが押し寄せたのだ。
白衣が多かった。肌の黒いやつ、白いやつ、いろいろいた。
今更になって搭載された核弾頭、押し寄せ、俺を崇拝する人々。
それらが物語るのは一つ、旅立ちだった。

そして俺は今青空の下にいる。
辺りは見渡すばかりの荒野である。
太陽は容赦なく俺を熱し、あわよくば爆発させてやろうと画策しているようだ。
誰も見送りに来ないままカウントが開始される。
ありもしない思い出を無理やり頭の中でかき回して何かを搾り出そうとする。
そうしてやっと俺がミサイルであることを思い知った。
前々から分かっていたことだ。
でも、信じたくない事実だ。
俺は大量殺戮兵器だ。俺一人で国が一つ滅びる。
そんな俺が自己の存在意義、生命、人生のあり方を哲学するなんて甚だしい。
存在意義?人殺しがそれだ。
生命?俺が奪うものだ。
人生のあり方?俺は飛んで人を殺すだけ。それだけだ。
哲学している時間ももう無い、走馬灯なぞみられるはずも無い。
なら、楽しんでやる、最初で最後のフライング。
そして俺は飛んだ。
圧倒的な俺の力の前で重力は無意味だ。
鈍い音と共に吐き出された高温のガスがコンクリートの地面を焦がし俺は飛ぶ。
ロケットのようにトロトロしない。
俺の中にあるのは人間じゃない。Gなんかものともしないコンピュータと核弾頭だ。
人間に気を使わないですむ俺は存分に加速できる。
大地が俺を逃すまいと引き寄せるが俺はそれを振り切ってどんどん空を登る。
上昇するにつれて世界の大きさが俺を圧倒した。
みるみる俺の全世界だった場所は小さくなりやがて米粒になった。
世界の果てまで見渡せたがやはり荒野しかなかった。
幾重もの雲を突き抜け、体の表面に氷を纏いながら俺は飛べるところまで飛んだ。
ここで俺は回線を開き3つの数字を四方に飛ばす。
即座に3つの人工衛星がそれぞれ数字をかえしてきた。
無機質な3つの数字は俺の頭の中で三角錐を成し、地球の裏側へと俺を導いた。
全てを吐き出した第一ブースタを切り離し俺は4つの翼を広げ一直線に目標へと向かう。
2秒ごとに俺は電波を飛ばし、帰ってきた衛星の情報をもとに軌道を補正する。
7回目の電波を飛ばしたとき別の衛星から3つの数字そしてアルファベットが届いた。
「A;121、334、243」
迎撃ミサイルを表すA、そしてその座標。
その情報はコンマ1秒間間隔で俺に伝えられる。
俺がすることは軌道を保ち、タイミングを見計らうことだ。
1直線に飛ぶしか脳の無いあいつらに俺を落とせるはずがない。
衝突まで4秒。
見えた。
俺と同じ黒い体。そしてガラスの目玉。
ガラスの目玉と目が合う。
真っ直ぐこっちを見ている。
いくら俺を目で追おうとそのスピードで俺の軌道変更に対処できるはずが無い。
俺は1から3のマイクロロケットを使い頭を下に振り、全てのエンジンを切った。
重力に任せ落下し、4から5のロケットを使い、軌道を補正した。
エンジンはまだ点火しない。
重心を中心にモーメントがかかる瞬間にエンジンを点火し急加速。
それと同時に俺の体の色が黒から白と黒の縞模様に変わる。
やつの目はもう俺を見てはいなかった。
白と黒の縞はやつの目を錯覚させる。
目標を見失ったやつは自らが引き起こす災害を避けて自爆した。
俺はきたる己の姿に振り返らず一直線に飛ぶ。
回避行動で落ちてしまった高度を回復させる燃料は無い。
新たに算出されたデータを基に俺は飛ぶ。
予定より低い高度を飛んでいるからだろう、木々や建物がくっきりと見える。
青い地表、緑の地表、茶色の地表を経て所々鮮やかな色の混じる地面を見た。
はじめて見る美しい色合いに俺は心を奪われる。
だが、とまるわけにはいかない。どんなに美しいものでも俺にできるのは愛でることではない。奪うことなのだ。
俺は飛ぶ。
あらかじめセットされた座標。
そこに何があるか俺には分からない。
だからこそ今、怖い。
奪うことが恐ろしい。
だから俺は目を閉じた。
空に上がって40分と24秒。
目標地点上空。
残った燃料でどこまで持つか分からないが起爆高度まで無理やり這い上がる。
たどり着いても、燃料が切れても待っているのは同じ結末。
弾頭に火が入り、爆発的に増えたエネルギーが俺の体を突き破り放射能を撒き散らし、全てを焼き尽くす。
それが結末。
結末までの瞬間を俺は大地に広がっていた鮮やかな色に思いをはせて過ごした。


4月30日午後1時30分。
作戦コード;ワルプルギス終了。



総合得点

23点(30点満点)

寄せられた感想

・「はな」がわかりにくかったですが、ミサイルの擬人化って言うのは面白かったですw

・これイイ♪テーマが微妙にわかりにくいのが残念ですがw

・アイディアが斬新。文体も格好良いです。

・やられた…(笑

・あえてはなと記さないことで逆に引き立っていると思います。

・観点はおもしろいけど、途中であきてしまった(滝汗



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