作品No05
人は死んだらどこにいくのだろう。 俺は常々疑問に思っていた。 最も一般的なのは、「あの世」とやらに行くことだろう。 様々な宗教で、呼び名は変わるが死後の世界とやらはよくよくでてくる。 なんてやっかいなのだろう。 頑張って生きてきたというのに、わざわざその先まで作らなくてもいいじゃないか。 わざわざ魂なんてあやふやなものを考え付いて、そんなものを作ったのはどこのどいつだ。 それがわかったら、絶対祟り殺してやるのに…… 拳を握りながら、俺、「天使 天童(享年27歳)」は、どこのどいつとわからない奴に毒づいた。 俺が死んだのは、ついさっき。 目の前で車に轢かれそうな子供がいて、そいつを突き飛ばしたかわりに俺が引かれ、打ち所が悪かったのかそのまま他界した。 そいつがいけなかったのだろう。 普段、特に大した悪行もしていなかった俺は、自分の命を犠牲に子供の命を救ったというくそ厄介な善行のせいで、天国とやらにくることになった。 そこで、今こうして案内役のものに連れられ、「天国初心者教習所」とやらに連れて行かれている最中なのだ。 「畜生、天国なんかに行くんだったら、子供なんて助けるんじゃなかった」 半分以上本気で、自分の馬鹿さ加減にぼそっとつぶやいた。 そんな呟きを耳にしたのか、案内役のものがこちらの方を振り返ってきた。 「天国に来て後悔する人なんて初めて見ましたよ」 ビクッ!! 目の前のものに話し掛けられ、体が意識せず硬直する俺。 目の前のものは肩をすくめ、嘆息しならがも、面白いものを見つけた子供のような目で俺を見つめてきたのだ。 「それと、天使を見て、そんなに怯える人を見るのもね」 やかましい、だから、俺はあの世なんかに来たくなかったんだ。 と、心の中で大声で反論しながら、やっぱり体を硬直させた俺だったのだ。 そもそも俺が「あの世」を嫌い始めたのには訳がある。 祖母が原因だ。 祖母は、晩年、死ぬことに対する恐怖への逃げとして、訳のわからない宗教へと走り出したのだ。 「天童が立派に成長するのをみるまで、わたしゃ、死んでも死にきれん」 と、勝手に俺を言い訳にし、鬼気迫る様子でお布施やら訳のわからない神様へのお祈りを毎日のようにしていたのだ。 まだ、それだけなら俺の超常現象関係への忌避は一般的な葉似で済んだかもしれないが、問題はこの後、祖母の臨終の言葉だ。 「わたしゃ死んでも、あの世なんかいきたくない。 幽霊になってでも、この世に残って、天童をきっちりと守ってやるんだ」 とご丁寧に、俺の恐怖心を煽ってくれてしまいやがったのだ。 それからというもの、幽霊のゆの字でも見る、聞くでもする度に、祖母の血走った目を、全てを呪うような今際の際の言葉が脳裏をよぎって、トラウマとなった幼児期の恐怖が思い起こされてしまうのだ。 だから、俺は幽霊とかあの世とかの存在を一切信じなくなった。 信じてしまったら、祖母が俺のそばにいるかもしれない、いや、そうでなくても、俺が幽霊にでもなったら、それこそ死んでも死にきれない。 ただでさえ幽霊が嫌いな俺なのに、自分自身がなるなんて耐え切れない。 それに、あの世とやらに行って祖母に迎えられたら…… そんなのは絶対に嫌だ!! ――――――だが、生前、想像するだけで眩暈が起きるほどだったことが、今現実となっている。 しかも、目の前に俺の大嫌いな幽霊の親戚の天使までおまけつきで。 ああ、今そう思っただけで眩暈がおきそうだ。 生憎と体が無いので眩暈はおきそうに無いが…… そう思うと、自然と目の前を歩いているものを見る視線に険が入る。 「あれ、どうかしましたか? そんなに私のほうを憎らしそうな目で睨んできて」 チェシャ笑みを顔に浮かべながら、わざわざ俺がとっていた距離を大股で歩き、詰め寄ってくる。 「わわわ、なんでもない!!なんでもないからこっちに来るな!!!」 叫びながら目の前で手を振り、それ以上近づくなというジェスチャーをする。 「あーあ、嫌われちゃったなぁ。 ちょっとショック。 私、これでも外見には自信があったのに……」 そう言いながらも、全然ショックを受けてない様子で、またもとの方向へと振り返り、先へと進む。 くそ、俺が苦手にしていることをわかった上で遊んでやがる。 でも、それがわかっていたとしても、俺には何も反撃どころか反論することもできず、ただ一定の距離をとりながらも後へとついて行ったのだった。 「はい、着きました。 ここが、『天国初心者教習所』です」 そう言いながら案内役のものが指差したのは、学校のプレハブ校舎だってもう少しマシに見えるような貧相な建物だった。 ……本当に天国か、ここ? そんな微妙な雰囲気を察したのか、慌てて案内役のものがフォローを入れてきた。 「あ〜〜〜ん、そんな不信そうな顔をしないで下さい。 私だって、天国に初めて来る人にはもっと立派なものを見せたいんですけど、私の成績だと、これ以上立派な教習所に連れて行くことは できないんですよ〜〜〜」 「うわ、泣きついてくるな!!」 慌てて、近寄ってきた案内役のものから距離をとる。 しかしどういうことだ? 成績がどうこういっていたが…… それに、これ以上の建物があるとも言ってた。 「な、なあ、成績とかこれ以上立派なって、どういう意味なんだ?」 震える口調で疑問を尋ねてみる。 「え、えっと……」 そう言いながら、指と指を突き合せながら、こちらの顔をうかがってくる。 なんか可愛い…… って、だめだ!! こんな無気味な存在を可愛いと思ってどうする、俺!! そんな俺の内心の葛藤を他所に、おずおずと案内役の彼女が口を開く。 「あの、聞いても怒らないですか?」 くそ、そんな風にこちらの機嫌を損なうのを恐れる様も可愛いじゃないか!! 「そんな風にしている方がよほど怒るぞ。 だからとっとと説明しろ」 そんな風に思っているとは露とも知らせず、ぶっきらぼうに言い放つ俺。 彼女に対する恐怖心はいつのまにか消えていた。 「は、はい!! それじゃぁ、今すぐ説明します!! ……あの、えっとですね、天国に来る人には、ランクがつけられてるんです。 そして、天使のほうにもランクがつけられているんです」 なるほど、そりゃそうだ。 俺みたいな最期にちょっとだけいい事をした人間と、生まれてから数え切れないほど善行を行なってきた人間と扱いが一緒じゃ、俺の方だって気味が悪い。 「じゃあ、そのランクに応じたもの同士がこうして、教習所に来るって訳なのか? 別にいいじゃないか、俺みたいな奴には、あんたみたいなへっぽことぼろっちぃ建物がちょうどいい そう言って、天使へと近づき、肩に手を乗せる。 「む、へっぽことはなんですか。 大体、ランクに応じたもの同士が必ずなるわけじゃないです。 ランクというのは、天使側につけられた権利であって、上のランクの天使が下のランクの人を選ぶことだって十分できるんです!!」 ほほを紅く染めながら真っ向から俺に向かって反論してくる天使 ということは、その反論の内容と考慮に入れたとなると…… 「あんた、実は俺なんかよりもずっと上のランクの天使だったりするのか?」 それはまずい。 こんなに馴れ馴れしくしてしまったし、なにより、身近な存在でいてくれなくなるかもしれない。 だが、そんな俺の心配は杞憂だったようだ 「……私も、あなたと同じランクです」 その言葉を聞き、ホッと安心する俺。 そんな俺を見て、天使がいぶしげに訪ねてくる。 「なんで、私のランクが同じだとそんなに安心するんです?」 まずい、少し内心を表に出しすぎただろうか? だが、そうだとしても、何を恐れることがあるだろう? これから長い付き合いになるのだったら、少しぐらい心を表に出すのだって構わないし、すぐに別れるのだったら、それこそどうだっていい。 とりあえず、この綺麗な女性の天使と、打ち解けることを目下の目標にしよう。 「なに、ただ、あんたみたいな綺麗な女性だったら、ぜひお近づきになりやすい存在であって欲しいと思ってただけさ。」 俺としては、軽いコミュニケーションの一つとしてのかるぐちの一つとしての言葉だった。 が、向こうはそうは受け取ってもらえなかったらしい。 深刻な表情をして、こちらを見返してくる。 そうすると、さっきの言葉がわりと本心から出てきたものだったことに気づく。 …… ………… 沈黙が重い。 「あ、今のは冗談だぞ」 そういおうとした矢先、天子が口を開いた。 「あの、お気持ちは嬉しいんですが、私天使なので…………」 ああ、そうか、彼女は天使だったな。 人間が手を触れてはいけない清らかな存在。 そんなことも忘れて何を言っていたんだ、俺は。 「ああ、悪い、俺みたいな奴が言い寄ってきたら、あんたも迷惑だよな」 そう自重気味に告げる。 だが、その言葉を聞き、彼女は首を振る。 「いえ、そういう意味ではないんです。 私が天使だからといった意味は……」 「意味は?」 「私、天使なので、性別が無いんです」 …………………やっぱり、幽霊も、あの世も、そして天使も大っ嫌いだ。 |
16点(25点満点)
・微妙に面白いw(ぉ
・オチは気に入りました。が、結局それまでの幽霊やその類が嫌いな意味や、やり取りが生かされていない分、なんだか軽薄に見えてしました・・・
・ちょっと浅い感じ、オチは嫌いじゃないんですが。
・この作品が一番イイ━━━━(・∀・)━━━━!! この落ちは見えなかったw