作品No04



 とある町の外れにある古びた一軒家。
 それほど大きくも無いが、四人くらいの家族なら何の不自由も無く暮らせるほどには広い、木造の二階建て。
 裏には小さな庭があり、そこにこれまた小さな池があって一匹の鯉が窮屈そうに泳いでいる。
 そんな何の変哲もない家。一見して特筆することといえば、高校生くらいの男女がたった二人で住んでいる、といったことだけであろう。
 
 だが、その家に。



 ―――幽霊が住んでいる、といえば、果たして貴方は信じるだろうか?






 太陽が昇ってまだ間もない早朝。
 古びた家の一室に敷かれた布団の上で、気持ちよさそうにいびきをかいて寝ている少年がひとり。
 カーテンが締め切られた部屋の中は暗い。まだ、日の光がカーテンを突き抜けるほど強くなっていない、そんな時間帯である。
 殆ど暗闇と言っていい中、この屋敷の『主』である少年―――麻上耕太は実に幸せそうに意識を夢の彼方に飛ばしていた。
 町の外れに位置しているこの家は、町の中心部のように早朝から人や車の喧騒が聞こえてきたりはしない。
 この時間帯の外からの騒音といえば、郵便配達や牛乳屋のバイクの音、それに小鳥のさえずりくらいである。
 したがって、うらやましいことに何も邪魔する物無く朝の惰眠を貪れるわけである。
 
 だが、そこに闖入者が一人。
 
 音も無く現れたその闖入者は、足音も立てずに、すべるようにして耕太の枕もとまで移動していく。
 年の頃は耕太と同じ。質素な和服を身に付け、肩の少し下まで流れる黒髪をうっとおしそうに払うその少女は、いわゆる『美少女』に分類されるほどに整った顔立ちをしている。少々血色が悪いのと、幸せそうに眠りこけている耕太を藪睨みしていることを見ない振りすれば、だが。
 この家の『同居人』、遠野瑠璃である。
 瑠璃は不機嫌そうに耕太を睨んでいたかと思うと、耳元に顔を近づけて大きく息を吸い込み、






 「とっとと起きろこのネボスケがぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
 「っどわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 閑静な町外れに、怒号と悲鳴が響き渡った。




 「ったく……何考えてこんな朝早くに起こしやがるんだ……」
 不機嫌そうにブツブツ呟きながら、布団をたたんで押入れに直す耕太。きっちりたたまれている所を見ると、意外と几帳面なようである。
 「だって、あたしが外から帰ってきたら、やたら幸せそうな顔して眠りこけてるんだもん……。そりゃ腹が立つって」
 「あのなぁ……夜は寝るもんであって、夜中うろちょろしまくってるお前が異常なの」
 「そんなこと言ったって……あたしは昔っからこう言う生活してるし……」
 モゴモゴと口を動かしながら俯く瑠璃。その姿を見て、
 「……ったく、起きちまったもんはしゃーねぇ。朝飯でも作ってくるわ」
 眠気からか、はたまた他の要因からか。耕太は半眼のまま部屋を出て行く。
 「あ、ちょっとまって!!」
 慌てて耕太の後を追う瑠璃。先ほどと同じように、まるで滑っていくように耕太の隣に並ぶ。
 殆ど気配も無く、唐突に現れた瑠璃の姿に少々ギョッとしながら、
 「お前な……足音くらい立てろよ。スゲェびびるから」
 「それはあたしのポリシーに反するから、や」
 「ポリシーって、お前な……。人脅かして楽しむのがお前のポリシーなのか?」
 「楽しんでなんか無いわよ。そりゃ人を脅かすのは好きだけどさ。特に耕太のことは」
 「うわ。そういう事言いやがりますかこのアマ。さすが生活習慣が歪んでる女だ。その所為で性格まで歪みきってやがる」
 「誰の性格が歪んでるって!? それに生活習慣のことは仕方ないでしょ!!」
 首を振り、やれやれとため息をつく耕太に、歯を剥いて反論する瑠璃。しばらくそのままにらみ合っていた二人だが、
 「……朝っぱらから何やってんだ……俺たち……」
 「……だね……」
 二人同時に深いため息をつくと、キッチンに向けて歩き出した。
 



 ―――まぁ、これが、
 この家に住む人と、それに取り憑いた幽霊という変わった二人の、いつもの朝の光景である。


 
 
 「うだー……」
 「うるせぇゾ。うめくな」
 朝食が終わり、居間でぼんやりと朝の一時を過ごそうと寝転ぶや否や、いきなり喚きだす瑠璃。それを耕太はブスッとしたまま一蹴する。
 「だって……知ってるでしょ? あたしって朝弱いんだから……。特に日光が嫌。肌が溶ける」
 「勝手に溶けて流れて海まで行ってろ。俺はもう一回寝る」
 そう言うと、ズカズカと寝室に向かう耕太。それをうつ伏せで広がったまま横目で見送る瑠璃。
 「良くそんなに寝れるねぇ……」
 「朝が早かったからな」
 皮肉たっぷりな捨て台詞を残して、寝室に消える耕太。何分もしないうちに、いびきが聞こえてくる。
 瑠璃はそれをぼんやりと聞きながら、
 「うらやましいよ……ほんと……」
 ポツリと呟いた。



総合得点

14点(30点満点)

寄せられた感想

・途中なのかな?

・ライトノベルっぽい、ていうかそのまま? 導入としては楽しくていいと思います。

・幽鬼な少女の存在が叫びの一言で崩された事によって、百八十度転換してのは面白かった

・未完なので評価は低めで、続きが気になるって点では良く出来ているかと。

・話は面白そうだと思ったけど、如何せん未完なのが……w



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