作品No02







「なにしてるの?」

 月夜の下。公園の、中心に近い木の下で佇む人影を見つけた。

「……うん。いや……なんとなく、ね」

 意外なことに、その影は若い男の子だった。14…いや、高校生くらいか。わたしは話しかけながら公園に入っていった。

「『なんとなく』、散歩とか? ……今日は月が綺麗だしね」

 最初は警戒していたようだった彼も、近づくにつれわたしの姿を確認して安心したようだった。緊張していた表情が緩むのがわかる距離まで、わたしは来ていた。

「……眠れなかったから。そういう時は、よくここに来るんだ」

 そう言ってはにかむように笑う彼は、とても白く透き通った肌をしていて。

 一瞬。


 この世の者ではないような気さえ、した。


「そっか。……よく来るんだ……」

 彼に誘われるように見上げた空には、満月に近い月が。


( ……月が。 )


 昏いひかりに照らされた頬。折れてしまいそうな手首。儚い、影。

( 綺麗…… )



 どうしてだかは、わかりません。


 そのとき、なぜだかわたしは。


 その儚さを、透けて消えてしまいそうなその姿を。




 『抱き締めたい』と、そう思ったのです。

















 逢瀬はそのあと何日か続いて。

 その間、毎日彼−優巳(ゆうや)−はその公園に現われた。


 ……突然、全く来なくなってしまう、その日まで。

















「……こんにちは。久しぶりだね」

 わたしが再び優巳と会ったのは、それから一週間後の夜。公園に近い病院に忍び込んで、彼の病室を訪ねたときだった。

「やあ……。見つかっちゃったか」

 明かりの消えた、白い壁に囲まれた部屋よりなお青白い顔色にバツの悪そうな表情を浮かべて、力なく微笑んでいた。

「具合、あんまり良くないんだ?」

 わたしの問いに、目を逸らして微かに頷くのが見えた。

「だいぶ前からね。公園に居たのは……眠るのが、怖かったから」

「怖いの? 眠れないんじゃ、なかったんだ……?」

 俯いた彼の表情は見えない。どんな顔で、自分の抱える恐れを言葉にしているのかも。

「眠ったら、もう目が覚めないんじゃないかって思うんだ。朝が来ても、もう二度と……」

 そう言って震える優巳をいつかのようにそっと抱き締めて、わたしは囁いた。

「だいじょうぶ。明日の朝が来たら、わたしが起こしてあげるから。だから、眠ってもいいんだよ……」



 そうして、眠りについた優巳を腕に抱いたまま。


 夜が明けるまで、わたしはずっと傍に居たのでした。



















「ねえ、また来ちゃったよ」

 そしてわたしは、それからひと月がたった今でも、この公園に来ては月を眺める夜を過ごしているのです。

 まるで、そうしていればひょっこりと優巳が現われるんじゃないかと思っているかのように。


 『ホントは、初めて会ったとき、幽霊かと思ったんだよ?』

 『それはこっちのセリフじゃない? すごい白くて、そっちこそ幽霊かと思った』

 『だって、あんまり綺麗だったから』
 『だって、あんまり綺麗だったから』  

 声が重なって、ふたりで笑った。



 声が聞きたい。


 幽霊でもいいから会いたいよ、優巳。









月明かりの中で出会った君は

眠るのが、朝が来るのが怖いと言った。

その白い、透き通るような姿を

窓から押し出されてくる朝日が

かき消してゆく

影さえも

なにもかも。











終わり



総合得点

15点(25点満点)

寄せられた感想

・なんと言えばいいのか……良くわからない作品でした(汗)

・綺麗で流暢な文体が透き通っていて雰囲気が良く出ています。ただ妙なタグが傷かもw

・綺麗だけど、それだけって印象に。

・ちょいと切な系? 落ちは見えましたが、流れは良いね。



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