作品No01
小さな少年の笑い声が聞こえる。まだ、あどけない少年の幼い声。 生まれてからわずかな時間を幸せに生き続け、幸せの内に命を亡くしたその少年は、自分の死を知らなかった。 いつものように路道を駆け巡り、小さな足音を響かせる。その足音が小さいのは周りの人々に彼の足音が聞こえないから。 それでも無邪気な少年は、楽しそうな穏やかな笑みを崩さなかった。 何も知らない少年が道々出会う人々は、どこか不幸を鬱積させた冴えない顔持ちをして、くたびれたように少年の行過ぎた道を追いかけるように歩く。まるで、その少年の無邪気な幸せを少しでも分け与えてもらおうとするように。 元気に駆け回り、いつも遊び続けた街道をなれたようにまっすぐ、上手に人の間を縫いながら駆ける。 少年は風のように人の服を揺らし、同じ背格好の子どもたちの髪を丁寧に動かす。 だれも、自分のことに気づいていないのを『気づかず』に風になる。 そうして少年は野山を駆け抜け小さな叢の中に伏した。 健康そうな頬を上気させて、邪推のこもらないあめんどうのような丸い瞳をせわしなく草の陰へと走らせて、小さな肩でリズムを刻み息をした。 ざわざわと草がなびき、その腕の中にいる小さな訪問者を優しく受け止める。 彼は、草木と会話するように唇を綻ばせ、目を瞑ると芳しい香を胸いっぱいに吸い込む。 鳥たちが彼の周りで囀り、虫たちが身を寄せるように彼に近づく。その動きの小さな音を、その歌のわずかな音色を少年は耳で聞いて、肌で感じた。 そして、大空をつかむように手をのばし、母親を探す赤子のように彷徨わせた。 何かを探しているわけではなかった。でも、少年はそうせずにいられなかった。 しばらくそうしてから、形の変わる雲を目をうっすらとあけて追いかけた。 自分の知っている動物や物を探して、それに当てはめて、子どもがするにふさわしい思考の元、楽しげに一人で笑っている。 手には届かない大きな雲が、少年はすきだった。 そうやっている自分を彼は寂しいとは露ほども思わず、むしろ幸せとさえ感じていた。 楽しかった毎日が今日も続いているだけの事。 うれしかった日々が今もなおあり続けるだけのこと。 もう一度胸いっぱいに草木の香を吸い込んで飛び起きると、飽きることなく少年は駆け出した。 誰にも聞こえない躍動した笑い声。脈打つ歓喜。すべてを包むやさしさ。 少年はたった一人、小鹿のような足でその舞踏を踏む。 飽きることなく草木の中で舞われる、小さく優しい脈動。 少年という風が起こす草木たちの賛美歌。 日が傾き夕焼けになっても、少年は疲れをしらず誰にも知られず踊り続ける。 西日が生き生きとしたその顔に花を添え、長い誰にも見えない影が落ちる。 弾むような呼吸。すべてを抱擁する喜び。何も知らない愚かしいまでの優しさ。 残酷な子供が持ち合わせる、残酷さを少年も持ち合わせている。 そして、それをもって終わりのない舞踏を踊り続ける。 野山を駆け回り、日がなくなるまで笑い続ける。少年は幸せそのものだった。 夜がきて、疲れたかのように叢に伏す。 おびえる事も知らず、そのまま穏やかな眠りについた。 だれも、おやすみなさいと言ってくれなかったが、それでも少年はそういった。 しばらくすると空が白んじて、朝露が少年の短い髪の毛をぬらすだろう。 そうしてまた笑顔で起き上がり、歓喜の讃美歌を持ってすべてのものを無条件に祝福する。 鳥のさえずりのように透き通った声が誰にも聞かれることなく空へと昇る。 小鹿のような舞踏が誰に知られることなく地を駆ける。 天使の笑顔が誰にも見止められることなく人に向けられる。 それがすべてにとっては風であっても、それが少年にとって精一杯の祈りだった。 願わくは・・・ 少年は口ずさむ。喜びの賛美歌を。 願わくは・・・ 少年は諳んずる。幸福の詩篇を。 願わくは・・・ 少年は高らかに。自分の喜びを歌う 「かわいそうに、行き倒れか・・」 「こんなに小さいのに・・・」 小さなみすぼらしい骸に、人々が同情の目線をながす。 布切れを継いだ擦り切れの服を身にまとい、路地の片隅に捨てられたように横たわる身体。 その腕の中で小さなねこがにゃあと啼く。 もう、温まりもしない少年の身体のぬくもりを求めるようにそのねこは身を寄せる。 しばらく啼き続けたが、とうとう疲れたのか長くか細く啼くと、そのまま静かになった。 |
19点(25点満点)
・最期のオチが私には蛇足のように思えちゃいました(^^;
・うむう…力技…(汗 ところで「あめんどう」って何?
・最後がちょっと浮いて見えるかな。
・Σ(゜Д゜:) ネロとパトラッシュ?!(違 行間を開けた方が読みやすいカナ? 昔の日本的風景が見えましたw