作品No02
青と赤の海
今ではない時……ここではないどこか……二つの海を持つ星があった。
その星には、海が二つあり、その海を賭け、二つの勢力がいつも争っていた。
一方は、代々男が統べる『青の海』
もう一方は代々女性が統べる『赤の海』
どういったいきさつがあって、この争いが始まったのかは分からない。
ただ重要なのは、この争いに勝った方がもう一方の海の色を、自分達の海の色に変えることが出来るということだ。
その後、どうなるか、どうするかなどもどうでもいい。
地球では、種を残すことが生きるということだが、この星では、相手と戦い、そして勝利することが生きるということなのだから……
Side『Blue』
青い海の中、1匹の魚が、やる気のなさそうに岩に横たわってあくびをしている一人の男性に向かって、泡を吐きながら熱弁していた。
「つまりですね、あなた様が王位に着くためには学ばなければならないことは山ほどあり―――」
「ああ、もうわかってるよ!
お前さんの言う、親父みたいな「立派な」海王になるためには、お前さんの言うとおりにしなけりゃならないんだろう?」
小1時間ほど続いていた魚の熱弁をさえぎり、眠そうしながら男が口をはさむ。
本人の弁の通り、一応このやる気のなさそうな男、現『青の海』の海王の息子である。
そして、一緒にいる魚が教育係。
この魚は生まれたとき、この男の世話を海王直々の辞令により任された。
それが、生来熱くなりやすいこの魚の燃える心に油を注いだ結果となり、その熱心ぶりは親の心を満足させるに当たって十二分すぎるほどであり、以来、多少の問題を(男が)起こしてもこの任にずっと就き続けている。
だが、男にとってはただの口うるさい付き人以外の何者でもない。
というよりも、そもそもこの男、肉親を含む全ての生物に対し、信を一切置いていない。
「相手の海を制す」という目的に対し、恐ろしく懐疑的、いや、否定的なのだ。
もちろん、この星では、「相手の海を制す」ことに、否定的なものがいないわけではないが、この男のそれはいささか度がすぎている。
何しろ、自分達が相手の海を制するために自分が何かをしなければならないくらいならば、いっそのこと相手に制された方が善いと考えるほどなのである。
生きること自体がこの星では争うことなのだが、この男は生きてすらない。
生きていないのに生きてる……そんな矛盾が、この男のやる気、いや、生気を著しく奪っていたのだ。
なぜこのような考えになったのかは分からない。
健常なものとなんら変わらず生まれてきて、問題のあるような環境で成長したわけでもない。
ただひとつ分かっていることは、生きている死体など、生きているものにとっては理解の及ぶものではなく、その逆も然り。
そんな訳で、この一人と一匹はいつまで経っても埋まらない溝をはさみながら今まで暮らしてきたし、これからも暮らしていくのだろう。
Side『Red』
赤い海の中、一匹の魚が、一心不乱に机を前にしながら鬼気迫る様子で書を開いていた女性に向かって、青くなりながら意見をしていた。
「つまりですね、あなた様が王位に着くためには学ばなければならないことは山ほどありますが―――」
「ええ、わかっています!
あなたさんの言う、お母様みたいな「立派な」海王になるためには、あなたの言う通りになさらなければいけないのでしょう!」
延々と小1時間ほどかかって婉曲な言い回しを使いながら意見してきた魚に対し、書から顔を離しながら女性が振り返りざまに一喝した。
本人の弁の通り、一応ヒステリックなこの女性が現『赤の海』の海王の娘である。
そして、一緒にいる魚が教育係。
この魚は生まれたとき、この男の世話を海王直々の辞令により任された。
それが、生来人一倍失敗を恐れるこの魚の臆病な心に拍車をかける結果となり、その失敗のなさは親の心を満足させるに当たって十二分すぎるほどであり、以来、失敗を犯さずこの任にずっと就き続けることになっている。
だが、娘にとってはただの口うるさい付き人以外の何者でもない。
というよりも、そもそもこの娘、肉親を含む全ての生物に対し、信を一切置いていない。
「相手の海を制す」という目的への手段に対し、恐ろしく懐疑的、いや、否定的なのだ。
もちろん、この星では、「相手の海を制す」ことに、肯定的なものばかりだが、この娘のそれはいささか度がすぎている。
何しろ、自分達が相手の海を制するためにはいかなる手段をも用いるべきであり、それで相手の海を制することが出来ないくらいならば、いっそのこと自害した方が善いと考えるほどなのである。
生きること自体がこの星では争うことだが、この娘は、争うために生きているのだ。
死ぬために生きるのではなく、生きるために死ぬ……そんな矛盾が、この娘の著しいまでの目的への執着を発揮させていたのだ。
なぜこのような考えになったのかは分からない。
健常なものとなんら変わらず生まれてきて、問題のあるような環境で成長したわけでもない。
ただひとつ分かっていることは、死んでいる生体など、生きているものにとっては理解の及ぶものではなく、その逆も然り。
そんな訳で、この一人と一匹はいつまで経っても埋まらない溝をはさみながら今まで暮らしてきたし、これからも暮らしていくのだろう。
Side『Blue&Red』
そんなある日、男は次期『青の海』の海王たる自覚を持つために、無理やり魚に意見を押し付けられ……
娘は、次期『赤の海』の海王たる自信を持つために、魚の意見を無理やりねじ伏せて……
期せずして、同じ戦場へと向かうことになった。
男から見て、戦場は生気に満ち溢れていた。
自分がどうあっても持てないものを持っている者達に対する憧憬を男は持ち合わせていなかったが、それを持ち合わせていない自分への虚しさと悲しさだけはその心の内に蔓延っていた。
その虚無感と悲哀に心を、体を動かされ、いつのまにか、男の足取りは戦場の最前線へと向かっていった。
娘から見て、戦場は死気に満ち溢れていた。
自分が持っているものを、どうあっても持てない者達対する軽蔑は持ち合わせていなかったが、それを持ち合わせているのが自分だけという虚しさと怒りだけはその心のうち蔓延っていた。
その虚無感と憤怒に心を、身を焦がし、いつのまにか、娘は戦場の最前線へと向かっていったのです。
そこでいかなる運命の力が働いたのだろう。
正反対の性質の二人が、この広い星で、狭く混雑した戦場において万を越す数の中、互いに気付き、認識しあい、さらには、この星における争いの調停者となるなど、人ならぬ神の身でも、予想だにしなかったに違いない。
この正反対の二人がどういう意図を持って結ばれたのかは、この際どうでもいいでしょう。
重要なのは、終わることのない争いが、終わったことにあるのです……
え?きちんと訳を知りたいですと?
……ふう、仕方がありませんな。
こういった話はキレイに終わるべきなんですが、他ならぬ私目と貴方様のご両親のお話。
きちんとお話せねばなりませんかな―――
Side『Purrle』
娘の姿が目に入ったとき、男の胸中によぎったのは、「これで『青の海』は制されることが出来る」という思いだった。
男は、娘が『赤の海』の次期海王だと知っており、その相手が自分を見逃すはずがなく、自分は殺されるだろうと思ったからだった。
男の姿が目に入ったとき、娘の胸中によぎったのは「これで『赤の海』は相手を制することが出来る」という思いだった。
娘は、男が『青の海』の時期海王だと知っており、その相手を自分が見逃すことは出来ず、相手を殺すせるだろうと思ったからだった。
だが、ここでも不可思議な運命の力がまた働いた。
男は、ここで自分が殺されても、必ずしも自分の海が制されるわけではないと言う思いが脳裏を横切った。
ならばどうすればいいのか?
男は考え、一つの結論にたどり着いた。
「きみ、殺さないかわりに、俺と結婚してくれ!!」
娘は、ここで男を殺しても、必ずしも相手の海を制することが出来るわけではないという思いが脳裏を横切った。
ならばどうすればいいのか?
娘は考え、一つの結論にたどり着いた。
「貴方、殺さないかわりに、私と結婚しなさい!!」
男は、自分の海に相手の血が入れば、自分の海は相手の海に制されたことになると思ったのだ。
そして、娘も同様の結論に達した……
愛のない結婚と人はいうかもしれない……
だが、お互いがお互いしか永遠の人と決めることが出来たのは、この二人しかいなかっただろう。
これもまた、愛の一つの形なのです。
終わり
34点
・結構まとまってて面白かったです。ただ、ちょっと刺激が欲しかったですけど
・設定がとってもよろしwこういう話は好きです。
・対比は面白いけど、作り方のインパクトの方が大きいかも(笑
・短い中で上手に表現がなされている。こういう愛もいいんじゃない?
・綺麗に纏まってるなぁと、上手く纏まった話だと思います。
・某マク○スみたいですねw 続きを読みたくなる作品でしたw
・う〜ん。旨いとしか言いようが有りません。文体だけみてると楽そうだけど、お話としてしっかしてるし、意外性も郡を抜いてますし、レベルが高いですね。もしやコピペ?ってとこも有りますけどw