作品No08



私には何も無い。力が無い。愛が無い。金銭的余裕が無い。住処は有るけど家族がいない。
一緒に住み着いている奴はいたけど、アイツと一緒だと失う物の方が多すぎる。
私にはもっと、色々なものが有った。家族も、愛も、心地よい環境も有った。
でも一日の事故で、それは全て終わってしまった。
私の十五回目の誕生日。外食の約束。車で迎えに来てくれた両親は、突然駐車場に飛び込んできたトラックのせいで。
私の目の前で鉄塊の下敷きになった。
それから、私の周囲は変わってしまった。
私が預けられたのは、同じ親戚とは思えない、カネに汚い男の所。
子供のいなかったそいつは私を預かることはしたものの、本当の目的は別に有った。
とうさんとかあさんが懸命に働いて蓄えた幾ばくかの財産。奴らは私を得ることで、それを
手に入れる腹積もりだったみたい。
実際やつらには呆れる量の借金が有ったらしい。不況で立ち行かなくなった工場を運営する
資金の為に、少し借りるのだ…とは言っていたが、ヤツラの生活を見ていると、そうは思えなかった。
贅沢三昧。
「元から無駄遣いが過ぎて借金生活になったんじゃ無いの?」
私がそう思ってしまうほどに、貪欲に両親の遺産を食いつぶしていった。
ヤツラは私の気持ちなんか構いもしなかった。私の財産を豚みたいに漁りつづけた。
 そして、遺産がなくなり始めたあの日、私は私を奪われた。
勿論拒否はした。でも、駄目だった。私には行くところが無かったから…。
その時はそう思っていた。だから、アイツが何をしてきても耐えた。それしか無いと思っていた。
でも、あの日、何時になくアイツが泥酔していた時、私は聞いてしまった。
「くくっ…あの家族もイイモノを残してくれたもんだぜ。ヤクザにあいつらを轢き殺させるまでは計画の内に入ってたけどよぉ、まさか、あんなに整った顔の娘まで頂けるなんてな。…日頃の行いが良いおかげだな」
あいつが、アイツがおとうさんとおかあさんを殺したの?じゃあ、どうして私はここにいるの?
仇が目の前にいるのに、私は何をしているのよ!?
「く…まぁあの娘にバレルことは無いだろうし…其れまでは、あの可愛い体をたっぷりと味合わせてもらうかな」
自分の部屋に逃げ込んだ私はその日、気がすむまで泣き散らした。アイツに声が聞こえないように、
布団と枕の間で、声を押し殺して。
翌日、私は警察に駆け込んだ。でも、彼らは聞いてはくれなかった。私がどんなに説明しても、「直ぐには対応できない」の一点張りだ。役立たず。
私は警察に頼ることが出来なかった。それどころか、アイツの警戒心を引き出してしまったらしく、私を見る目が情欲だけだった昔と違い、殺意に近いものまで混じるようになった。
私は家を出た。幸い、まだヤツが手をつけていない財産があったので、それを使って逃げた。
遠くへ、遠いところへ逃げた。でも、直ぐにお金が尽きてしまった。

私はアルバイトを転々としながら生活を立てようとした。でも、そんなものではたかが知れている。
保護者のいない身では部屋も取れないし、生活はどんどんすさんで行った。
ある日、どうしようもなくお腹がすいていたあの日、私は、自分の体を売った。
仕方が無かった。仕様が無かった。後悔が真っ先に私を刺し貫いた。
でも、私に浮かんだのは、後悔だけじゃなかった。
それは、満たされること。
分かっていた。この男は私が目的じゃないって、体だけが目的で、後はどうでもいいって解っていた。
でも、久しぶりに触れ合った体が、男と女の行為が、私をどうしようもなく満たしてくれた。
安心してしまった。安らいでしまった。僅かだけど、幸せも感じてしまった。そして、行為の後に貰った報酬が、私に更なる安心を与えてしまった。
それ以来私は、身を売ることが止められなくなってしまった。

「はぁ、はっ…あ、あは」
「お、おい気持ちいいだろ?俺のテクは最高だろ?」
「あっ、うん…いいよぉ」
下手クソの癖に。何人経験があるのか知らないけど、普通に喜ばせることも出来ないのか、コイツは。
私の嘘に気をよくしたコイツが、掴んでいた私の手首をもっと強く握って、私の中にコイツ自身を寄り
深く埋没させようとする。
「あ…くぅっ」
「へ、へどうだ?深くて気持ちいいだろ」
今のはちょっと痛かったからだ。喘いでもいない。叩き付けるだけで気持ちよく成れるのなら、鉄棒を
打ち込まれたっていいようなものだろう。私の気持ち良さなどお構いなしってことよね。
「はあっ…あ、あ、あ」
下手クソは私に覆い被さるようにして、アホそのものの顔でこっちにナニを叩き付け続けている。その
間抜け顔を見ていると、適当に喘ぐことすら忘れて噴出しそうになる。
「はっへ…はっへ…う、ぅもう出る!」
そのアホ面をコレ以上ないくらいアホ色に染めて、そいつは根性のない台詞を言う。ここまでなんだ。
失望感がくるが、まぁ当然?と言うふうにも思えた。
「あ、私はまだ…」
「限界だよ、とまらねぇ!」
コイツの分身が私の中からびんと跳ね出て、そのままの形で勢い良くビクビクと精を放った。
放出は終わらない。私の体を白く染め上げてゆく。だがひとしきり私を染めた後、それは力を失って
ふにゃりと萎んでしまった。
もう…終わりなんだ。満足などしてはいない。コレでは、満たされない。だが、コイツは続けるつも
りは無いらしい。ま、どうせ続けても一緒だろうけど

「良かったぜ…何時もより興奮した。お前も良かっただろ?」
私には良いところなどわからなかった。彼には私の何がわかったと言うのだろう。
もうこれ以上長居はしたくない。後始末をしているソイツを見ないで、私の代金を請求する。コイツは
少しもたつきながらも、十分な額のカネを払ってくれた。
「ありがと。じゃあ、今日はコレで」
「なぁ…またいいよな?お前の乳ってサイコーだからよ、また今日みたいにぐりぐりってしてくれよ、な?」
「気が向いたらね」
カネ払いを渋る上に下手糞なヤツなど、もう金輪際願い下げだ。バイトの先輩で金持ちそうだったし
良くしてもらったりしたので売ってやったが、次からは理由をつけて逃げることにしよう。
「ああ、頼むぜ。お前みたいな美人はそういないからよ。何なら次は店の中で…」
アホ面は最後までアホ面で、アホみたいなことしか言わなかった。

アホ面に抱かれてやった次の日は忙しかった。それこそ目を回したくとも回せないほど忙しかった。
アホ面は今日みたいに重要に日に限って休む。まるで女の子に優しくないやつだと思う。
いい加減終わりそうも無かったので、私は隙を見て仕事場を抜け出した。屋上まで行けば、もしかしたら見つからないかもしれないし…私は足を忍ばせて、階段を上がった。

「うわぁ…」
屋上に出た私に前に、青いカーテンが広がった。眩しいほどのブルー。太陽がまぶしいんじゃなくて、
空が青いのが眩しいんだ。
「…ううんッ、つ」
背伸びすると、綺麗な青が体に吸い込まれる気がして心地よかった。青い空、白い雲、まぶしい太陽を見ていると、自分の汚れっぷりが嫌になる。そして、余計なことを考える。
「あんな整った顔の〜」
吐き気がする声。
「お前は美人だから〜」
呆れるしかない声。
そんなことしか言われない自分と、この空を比べてしまう。
空は実は、この世には無い。ただ海が青いから、その色を反射して青く、美しく映っているらしい。
空は美しい。でも中身は空っぽだ。
「…私と、一緒よね」
外見の綺麗さしかなくて、中身は何も無い空と、わたし。どこか似ている。



総合得点

27点

寄せられた感想

・綺麗にまとまっているなと。最後の文章が特にいいなあ

・ェo〜ィ(ぉ しかもくら〜い(ぉぉ これも短いSSではちともったいない気がする。

・ん〜、えちなのに関してはあまりいい評価は下せないけど、全体的な内容としては良く出来ていると思う。

・せ、切ねぇ…(泣

・ちと重い、かな。個人的な感覚としてこういうえちさがちょっと苦手だったりします。

・前半、警察に行くより殺して逃げる方が面白いかも



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