作品No01
はるかな昔から、人は鳥を夢見ていた。 果てしなく広がり、時によって往々と変化する空に人々は思いをはせた。 まだ飛行機もない時代。鳥になろうとした姉妹の物語 賑やかで活気のあふれる街から一里ほど離れた閑散とした放牧地の真ん中に、巷ですこぶる有名な変人姉妹がいた。 姉の名はルミ、妹の名前はルカ。 父親は鳥になる事を夢見て空を飛ぶ為に日夜努力を重ね、その結果、空飛ぶ道具とともに谷へ転落して命を落とした。 父親の情熱を強く継いだ姉のルミは、研究を受け継いで寝るのも惜しみ空を飛ぶ道具の開発に血眼だった。 妹のルカは街の人々から姉の事をダチョウのルミとよばれるのに耐えられず、叶いもしない夢を追いかけた父親を心底恨んだ。 羽ばたきと駆け足ばかりで一向に空が飛べない鳥と蔑まれた姉妹。 「お姉ちゃん、まだ起きてるの・・・」 ルカは研究室とは名ばかりの離れの掘っ立て小屋の明かりが夜もふけようとするのに燦々と照り輝いているのを見て、姉の身体を心配しに現れた。 ルミはうん、と簡単な返事を返して、ルカから見れば同じような図面をしきりに見比べて、何か難解な数式を並べては羽の角度を書き直していた。 「体壊すよ・・・」 生来引っ込み思案な正確のルカはそれだけいうと、真剣な眼差しで作業をしている姉に強い言葉を続ける事は出来なかった。 戸を閉めて、夜の草原に目を転じるとさわさわと草の騒ぐ音と、遠くからの牛の声が耳に届き、眼前には瞬く星空が見えた。 彼女の父の夢はあの星でひときわ輝く『シリウス』をルカに赤く輝く『アンタレス』をルミにプレゼントする事だった。 空を飛ぶ船を作って、あの星に行きたいとよく言っていたものだった。 シリウスはあれだけ輝くから、きっと大きなダイアで出来ていて、アンタレスは大きなルビーだと小さいときに話してもらった記憶がある。 しかし、父は夢とともについえてしまった。 それを姉が受け継いで今にいたる。 朝にもなれば暇な街の人たちがルミの飛行実験をあざ笑いにやってくる。 「みろよ、ダチョウが必死になって飛ぼうとしてるぜ!」 「大体あんなもんで飛べるわけないだろ!」 「それよりかあの馬鹿な実験を見世物にしたほうがずっと金儲けになるぜ。」 各々が勝手なことを言って大笑いをしていた。 ルミは冷ややかな顔をして何も聞こえていないのか無機質に同じ作業を単調に繰り返しては失敗をしていた。 父の、腕に羽をつけるという安直な発想からの飛行道具は、実験を重ねるつ似れて、次第に鳥とは大きくかけ離れた形へと変化していく。 やや細長い胴体に、上下に二つの木の板を張り付けたような翼。後ろに風車を取り付けたような不恰好な外貌。 こんなものでどうやって飛べるのだろうかと妹のルカすら疑っていたが、姉はしきりにあと少しで夢が叶うと目を輝かせて笑っていた。 「夢が叶ったらアンタにアンタレスを持って帰ってきてやるよ。死んだ親父には太陽でコーヒーでも沸かして墓前に添えてやるさ!」 そして豪気に笑って不味いコーヒーを飲む。 「でも、その前におねえちゃんの身体がおかしくなっちゃうよ・・・だって、ここ最近殆ど寝てないでしょ?」 「大丈夫さ!私のとりえは工夫の親父譲りの頑丈な身体だからね。アンタは母さんに似てひ弱だからね。でも、安心しな。飛行道具が完成したらこれまでの移動手段が大きく変わるから、みんなこいつを欲しがる。私たちは大金持ちさ!毎日美味いものにありつけて、暖かいベッドで寝れる。姉ちゃんにドンと任せときな!」 ルカはそういった姉の豪気なところがうらやましく、また苦手なところでもあった。夢に盲進するのも結構かもしれないが、自分の身体のことに関してはあまりに無精すぎる。身体の弱いルカはそういったことに人一倍敏感だったから仕方がない事かもしれないが、姉の無粋さにはずいぶんと閉口する。 人間が翼をもつなんて、そんな馬鹿なことあるものか。 街の人々はそう口々に呟きながらルミの完成しつつある飛行道具の開発経過を眺めつつ、彼女の情熱の賜物が不可能を可能にしようとしている事にいらだっていた。 着実にルミの発明品は空を飛べるだけの水準にまで到達していたのである。 ルカは姉の秘密裏の実験で時間にして4秒間滑空していたのをその目で見た。 実験はとうとう成功した。 世界で誰もなしえなかった、鳥になるという夢をルミは叶えたのだった。 飛行時間46秒 動力を人間のペダルをこぐ力でまかなっている為、安定した力が得られにくいのだが、理論の上で体力が続くのであれば何時間でも悠々と空を飛ぶ事ができると言う結果も得られた。 ルミは父の夢を果たしたのだった。 「お姉ちゃん。やったね」 「まあ、ね」 その日から姉妹はダチョウと呼ばれる事はなくなった。 ルカはそれが何より嬉しかった。 「ルカ、ルカ・・・」 とある晩ルミが妹を呼び起こした。そして星空を指差して笑ってこういった。 「今から私は約束どおりアンタレスに行ってルビーでも取ってくるわ。それと太陽に行ってコーヒーを沸かしてくる。」 「どうして、またそんなに・・・」 ルカは疲れたような顔を見せて、そっと服をはだけた。肉付きが豊満だった姉とは思えないほどやせ細り、あばらが浮き出て見えているほどだった。 「ちょっと、無理しすぎたね・・・でも、私の目の黒い内にアンタへの約束も果たさなくちゃいけないし、あの世にいる親父にも報告しなくちゃいけないしね・・・」 そう言って辛そうに操縦席に座る。 ルカは姉をじっと見つめていた。 対照的な性格であったが、二人は常に気の置けない姉妹だった。 どんな時も一緒だった。 ダチョウと蔑まれても、姉とともにいたから彼女は耐え忍ぶ事が出来た。 だが、今ここで姉と別れてしまっては・・・ ルカの心はそこですでに決せられた。 「お姉ちゃん!!私・・・・!!」 静かな星空の下でルカの小さく透き通った声が木霊する。 考えるより先にシリウスのダイアを彼女は取りに行く決心をした。 姉の為に、そして自分のために・・・ 街の人々は、この姉妹が飛行機械と行方不明になったのを、色々と語る。 谷底に落ちて死んだ。 発明を独り占めしたいから、夜に逃げ出した。 その中で、一際異彩を放つ言葉があった。 一人の小さな子供の言葉。 二人はきっと、天使さま。お空からやってきた天使さまの姉妹・・・ 残念ながら今それを確認するすべは存在しない・・・。 |
30点
・国語の教科書を読むような気持ち。いい意味で。
・う〜む、美味い・・・もとい、上手い。
・文章が確実で綺麗…
・テーマとしても話としても綺麗に纏まってるかと、こういう話好きです。
・あれだけの時間だったのに、かなり良く纏まっていると思います。お姉ちゃんの剛毅さが良いですね