作品No09
それはある天気の良い日のことだった。 夜になったら満月が恐いくらいきれいに見えた。 この日僕はある重大な決心をしたのだった。 僕は学校で毎日苛められていた。家では母親に虐待されていた。 そんな毎日が嫌で、僕はもう死んでしまおうと思ったのだ。 死んだらきっと自由になれる。天国では苛めなどないんだ。 そして僕は親に見付からないように夜中にこっそりと家を出た。 誰もいないところで一人死にたかった。誰にも見付からないようなそんな場所・・・・ 死に場所を求めてあたりを彷徨っているうちに、この辺りに伝わるある言い伝えを思い出した。 それは北にある森にまつわる話だった。 なんでもその森には怪物が住んでいるという。 そして、その怪物たちは普段は人間の前に姿を見せることは無いが、 満月の夜、それも天気の良い日に限って、稀に姿をあらわすということだった。 姿をあらわすといっても、人間の住んでいる辺りには近寄らず、森の中の限られた場所だけであるという。 そして、その怪物を見たものは二度と戻ってくることはなかった・・・ リアリストのぼくは当然そんな言い伝えを信じているわけではなかった。 大体怪物を見た人は二度と戻ってこないんだから信じられるわけがない。 おそらく、野犬の巣と化している北の森に子供を近づけさせないために、大人たちが勝手に作った話なのだろう。 しかし、そんな危ない森であるから、逆に死ぬには丁度いいと思って森に向かった。 僕は薄暗い森の中をどんどん進む。 20分くらい歩いたところで、前方で何か動いたような気がした。 そっと近づいて見ると人影らしきモノが見えた。 こんな時間に、しかもこんな場所で何をしているのだろう、と思ってさらに近づいてみた。 そして、僕はそれが美しい女であることを知ると同時に、間違いに気づいたのだ。 それは人間ではなかった。 緑色をした肌は明らかに人間のそれとは異なるものであった。 女は僕に気が付くと唇の端をちょっと上げて笑ったように見えた。 『こっちへ来るがいい・・・・・・』 そう言って女は僕の方へ手を伸ばした。 僕はそのの声に誘われるままに女の方へ向かった。 そのときぼくが考えていたのは、「ああ、月がきれいだな・・・・」ということだけだった・・・・ |