作品No08



あなたは、天地巫女(あめつちのみこ)という存在をご存知だろうか。
古来より天気を左右する力を持っているとされ、本来ならば尊敬と畏怖の念をもって崇められるべき存在。
だがその実在の可能性については科学・オカルトを問わず疑問視されている。

…しかし、もし極めて身近なところでごく普通の少女として生活していたら、あなたは果たして彼女がそう(・・)であると気づくことができるだろうか?




















  天気模倣の彼女


「駄目人間だもの…」特別企画
2nd Try / 『天気』




















「………だめ。」
オレのステッキーな提案はいきなり断られた。

その日は珍しく一人で登校している時だった。途中でたまたま以前から仲良くしてもらっている一つ年上の先輩の舞と佐祐理さんを見つけ、せっかくだから一緒に行きませんかというお誘いに乗って3人で歩いている…のだが。

「いいじゃないか。な。ちょっとだけ」

「いくら祐一の頼みでも、そんなことはできない」

「ふふっ。祐一さん、舞に無理を言ってはダメですよー?」

ここは北国だけれど、日本である以上は夏の蒸し暑さからは逃れられない。
今日は朝から日が照っていて、、間違いなく今年の最高気温を更新すると思われたのだが。先程から少し雲が差してやや過ごしやすい天気になっていた。

「何度頼まれてもだめ。祐一、困らせないで」

この、さっきからオレがさんざん頭を下げている舞。見た目は大人びた長身の美少女だけれど、実体はただぶっきらぼうで表情の変化がわかりにくいだけというお約束のようなナイスキャラだった。
いつも微笑みを崩さない、お嬢様然とした佐祐理さんとは常に二人セットで行動している見事なまでの凸凹コンビだった。

「…わかった、諦めることにする。ゴメンな、舞」

「わかればいい。祐一は素直ないい子だから」

オレは小学生か、と思った途端にまた直射日光が体中に降り注ぎ始める。
ああもう、どうにかしてくれ。

「二人ともこんな暑さの中を何でそんなに涼しげに歩けるんだ?」

秘訣があるなら是非教えてもらいたいもんだ。雪国に伝わる秘伝とか。

「夏は暑いのが当たり前なんですから、覚悟をしていれば平気ですよー」

いや、覚悟がどうとかいう問題ではない気がするが。

「しかしなぁ…こう暑くちゃ屋根の上で昼寝してるネコなんか日干しになっちまうんじゃないか?」

「!! ねこさんが日干し…そんなのかわいそう」

じわ〜っ、と。舞の瞳が潤み始める。
舞は無類の動物好きな上に、幼少期の環境のせいで精神的に非常に幼く脆いところがある。オレの言葉は幼児を「猫を日干しにされるぞ」と脅すのに匹敵するショックを与えてしまったようだった。

「いやそれは違…うわっ!?」

ごう、と。突然の強風に吹かれてよろけた。佐祐理さんが舞を宥めてるのを横目に見ながら、その隣で自分だけが突風と戦っているのはコントのような光景だった。

「もう、祐一さん。舞をいじめちゃいけませんよ。お姉さんは怒ったら怖いんですよー」

そう言いながらも全く迫力の無い佐祐理さんに怒られ、舞に謝ったところでようやく大自然との格闘から開放される。

「おまえ、なんか自然を操る力とか持ってるんじゃないのか…」

クタクタになりながら舞に疑惑の目を向ける。

「…わたしにはそこまでの力はないから」

「って言っても、なんか出会ってからお前の機嫌しだいで周りの天候がコロコロ変わってるような気がするぞ…」

「あははっ。舞がいいこだから、きっと神様が味方をしてくれてるんですよー」

あいかわらずの佐祐理さんの平和な物言いに苦笑しながらも、やはりオレは疑惑の念を忘れることはできなかったけれど、いまさらそんなことぐらいで舞との関係がどうこうなるとは思えない。
結局、いつもどおりに楽しく談笑しながら学校への道のりを歩くオレだった。









彼が真実を知らないのは幸運の部類に入ることなのかもしれない。
彼は失念していた。その疑惑の目を向ける対象に、常に寄り添い喜怒哀楽を共にする者がすぐ隣にいることを。

そして、そのことに気づいていれば、彼が癒された台詞がまた違った意味を持ってくることをも知るハメになっただろう。


  「舞がいいこだから、きっと神様が味方をしてくれてるんですよー」


強い力は時として人間をひどく増長させるものだというが、はたして彼女はどういうつもりでその言葉を口にしたのか。






………いつの時代も、真に恐ろしいのは地震や雷よりも女性だということである。

おわりw



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