小さな土曜日




二人で一人・・・
一人で二人・・・・・・
だから、これは運命なんですよ、高耶さん






視えないモノが視える高耶と、聞こえないモノが聞こえる直江。

「私達って足して2で割ると丁度いいですね、高耶さん」

アルバイト先の上司で、仕事の相棒で、何故か黒のスーツがやけに似合う穏やか

な笑みがトレードマークの男は、口癖のようによくそんな言葉を口にする。

「うん・・・」

聞き飽きた科白なのに、高耶も律儀に頷いてしまう。

「やっぱり、運命ってあるもんですね」

そうだろうか・・・?

あるような気もするし、単なる偶然のよう気もする。

でも、少ぅし、ほんの少しだけ信じてしまう。

だって、二人は・・・恋人同士だったりするから・・・・・・。

穏かな休日の朝。

CDコンポからは、少し古めのフレンチポップス。

舌足らずな歌い方が、フランス語独特の発音と妙に合っている。

丁度いい甘さのカフェ・オ・レと、こんがり狐色のトーストがふわりと匂う食卓

で、ままごとみたいだと思いながら二人で座っていたりすると、幸せかもって気

がしてくるから不思議だ。

「高耶さん、ジャムが口端に付いてますよ」

「えっ、ほんと?」

この辺?と舌の先で舐め上げたが、まだ残っていると直江に指先で拭りとられて、

指はそのままパクリと彼の口に含まれた。

「美味しいですね」

にっこり微笑まれ、高耶は真っ赤になって俯いた。

愛情表現がストレートすぎる直江に、初心な高耶は付いていくだけで精一杯だ。

運命ってのは陳腐な言葉だと思っていたけど、こんな風に二人で過ごす日々が積

み重なると、あぁ、そうか"運命なんだと妙に納得してしまったりするから、ふっ

と我に返ると恥かしくて嫌になる。

彼に出逢ったのも、恋に落ちたのも、運命。

改めて自覚してしまうと、困ってしまって返事も出来ない。

「ねぇ、高耶さん」

柔らかい呼び声。

顔を上げると、夕日が蕩けたような黄昏色のオーラを漂わせ優しい鳶色の瞳が、

高耶を見つめていた。

視えないモノを視てしまう高耶にとって、直江のオーラはうっとりするほど気持

ちがいい。

「何?」

「今日は、どうしますか? お買い物で過ごしてもいいですし、お天気がいいから

足をのばして、海か山へ出かけてもいいですよね」

「海がいい」

本当は、買い物しないと冷蔵庫が寂しい状況だけど、あえて無視。

青い空の下の波打ち際を歩いてみたくなったから、高耶は即答した。

空と海と、二人で歩く海岸線。

何だか、絵に描いたように幸せそうな情景が目に浮かぶ。

高耶のイメージが伝わったのかいいですねと、直江も頷く。

二人で過ごす小さな土曜日は、はじまったばかり。




BACK
HOME



コメント
お題「ふたり」
なので、くどい(笑)くらい、二人を連呼してみました。
甘々テイストのSSでしたが、これは三部(もしくは2.5部作)の予定な
んです。(何故、2.5かは秘密・・・でも、解るかな?)
でもって、後の話はどちらかと言うと「JUNE」寄りなので、苦手な方は
避けた方が無難かも・・・。でも、ベースは甘いはずです。