Sunset |
金曜日から降り続いた雨が、やっと上がったのは日曜の午後遅くのこと ゲームにも飽きた高耶は空を見上げて嬉しそうに笑った 「直江、散歩に行っ」 空の目のように開いた雲の切れ間から差し込む光に誘われれたのか、高耶が誘う 一回り近く年の離れた幼馴染は、高校生になった今でも、休日になると直江の家へやっ て来ては時間をつぶす 屈託の無い笑顔と全身で寄せてくる信頼 そんな彼が眩しいと、直江が感じ出したのはいつからだっただろう いいですねと頷きながら、直江は瞳をほんの少し眇めた 二人が足を向けたのは、近所の公園 夕焼け小焼けが鮮やかな雨上がりの公園は、人も疎らで静かだった 小鳥が濡れた落ち葉の絨毯の上で、葉裏をつついては餌探しをしている ぬかるんだ地面をゆっくり歩きながら、公園の片隅の東屋に腰を下ろした 「昔、よくここで遊んだよな」 高耶は懐かしそうに周りを見渡す 「俺と近所の友達10人くらいに、直江に・・・」 新興住宅地だったこの辺は、親も子供も年令が似たり寄ったりで遊び相手には事欠かな かった その中で、一番年上の直江が子供たちの兄貴分でまとめ役 野球にサッカー、かけっこ、自転車、なわとび・・・・・・ 男の子も女の子も一緒になってきゃあきゃあ笑いあいながら、遅くなるまで遊んだ 「今は子供も減りましたね」 「うん、反対にじぃさんやばぁさんが増えた」 同じように見える景色の中で、時は確実に形を変えている 鬼ごっこと、ふいに高耶が呟いた 「俺、鬼ごっこが嫌いだった」 「どうして?」 直江が覚えているかぎり、高耶の足は速かった いつも風を切るように軽々と走っていた だってと、小さく続けて高耶はためらいがちに暫く黙り込んだ 「直江が鬼の時って、必ず俺が最初に掴まってたもの。どんなに速く走っても掴まっ てた・・・」 直江の方がもうずっと大きかったくせして、手加減無しだったのだとぼやく 「ちょっとひどくない?」 あぁと、直江は内心苦笑した 自分はずっとそうだったのかと急に自覚する 何だかんだと自分の気持ちに理由を付けるずっと以前から、自分は彼しか見ていなかっ たのだ もやもやしていたものが、ストンと心の中で落着いた気がした 「仕方無いですねぇ・・・それは・・・・・・」 「何で?」 「理由はね、俺が、高耶さんしか捕まえたくなかったからですよ」 この意味わかりますかと、直江は高耶を覗き込んだ 瞬間、ポンッとそれこそ音がしそうなくらい高耶が真っ赤になった 慌てて席を立とうとする彼の左手を、直江はさっと握り締めた 「それとも、俺が他の誰かを捕まえた方がよかったですか?」 告白はいくつになっても賭けみたいだと、微かに震える自分の手を感じて直江は思う 経験なんて余裕は、本当に好きな相手の前では風前の灯火だ 固まっていた高耶の手の力がふっと弱まり、右手が直江の手に重なった 「高耶さん・・・・・・」 「・・・・・やっぱり、鬼ごっこは嫌いだ。掴まっつまたなぁ・・・・・・」 くすんと鼻を鳴らして、高耶はゆったりと笑った 掴まるのは癪だったけど、直江が他の子を捕まえるのは・・・もっと、嫌 昔も今も、これからも、嫌だ 「約束できるか?ずっと・・・ずっと俺だけだって約束できるか?」 「約束はしません」 高耶がえっと息をのむ 「約束なんて脆いから、俺は、誓います。ずっと高耶さんだけだとね・・・」 約束よりも、ずっと重い鎖をかける、かけられる その重さが高耶は嬉しくて、重ねた手にきゅっと力をこめた 直江は重なった高耶の手を引き寄せ唇を落とす 夕闇が辺りに影を伸ばす中、やがて二人の影が一つになっていつしか闇に溶け込んで いった |
コメント お題は「鬼」 この手の題は難しいです。ストレートに捉えるかどうかで、かなり仕上げが 違ってきますよね。 今回は比較的、素直にとらえてみたつもりです。 もう少しポップに甘く終わりたかったのですが、直江に誓わしたら途端に「ほ ろ苦」状態(苦笑) このままズルズル深みにはまりそうなのを、何とかこの辺で引き止めました どういう設定にしても二人の年令差だけは原作のままにしていますが、16・ 7歳の男子に30前の男が告白するのは現実として、どんものかなぁと思わな くもありません。 まぁ、その辺がドリームたる所以なんでしょうけど・・・・ |