三十夜 |
本当に開いた口が塞がらなかった 人間て自分の理解力許容範囲を超えちまうと、何にも言えないもんだなぁと 高耶はその時妙に納得してしまったのを覚えている。 はじめまして・・・ とんでもない所から出てきた男は、実に礼儀正しくにこやかに挨拶をし、な おかつ一礼までして続けた。 「ご主人様」と。 口をあんぐり開けたまま微動だにしない高耶を前に男は慌てたようで、 「えっと・・・ここは『日本』ですよね?」 と確かめてきた。 こくこくと高耶は頷く。 「じゃぁ、私の日本語、間違ってなかったですよね??」 男の再度の確認に、やっと高耶の思考回路も動きだした。 黒のスーツに黒のグラサン。 仁侠映画か某外国映画のエイリアンバスターのような出で立ち。 危しいことこの上ない。 こんな格好で街を歩けば、絶対、不審者だ。 もっともこの部屋でだって充分、怪しいのだけど・・・・。 「・・・あってたけど・・・・・・・・あんた、誰?つーか何??」 眦のすっと切れた涼やかな瞳をきゅっと吊り上げ、睨み付けた。 意思の強い生気に充ちた怜悧な瞳が男を魅了する。 まさしくご主人様と呼ぶのに相応しい、男は嬉しくなって微笑んだ。 「おいっ!!」 馬鹿にしてんのかと高耶が気色ばむ。 「あぁ、すみません。 自己紹介が遅れました。私はそのランプの精で『直江』と申します」 「ランプの精____っ!?」 ランブって、これの事?? 高耶は膝元のランプに目を落とした。 このランプは先月、義兄の氏照がエジプト土産の一つとして高耶にくれたも のだ。 純金製でシンプルなフォルムで、品のいい飾り模様がついている。 本来はオイルランプとして使うのだろうが、これは飾る事を目的としている ため実用には適さないらしい。 アラビアンナイトの雰囲気そのままの代物を、冗談半分こすってみたら・・・。 件の男が煙とともに現われたという次第。 嘘のような現実(ホント)の事。 高耶は何だかワクワクしてきた。 不審者の不審な言動に対する疑惑は、それこそ煙のように立ち消えている。 こんな経験、きっと誰もしたことないはず・・・。 破天荒な性格で波乱万丈な人生だった実父に付き合わされていたせいか、高 耶は環境順応力に秀ででいた。 こんな面白そうな状況を黙ってやり過ごすなんて、とてもじゃないが勿体無 くって涙が出そう。 高耶は極上の笑みを浮かべ片手を差出した。 「よろしく、直江。俺は高耶っていうんだ」 新しいお伽譚を紡いでみるのも悪くない。 |
コメント お題が「はじめまして」という事だったので、今回はこんなノリではじ めてみました。 今更、直江に黒スーツ姿は無かろうにと思いつつ、これほどにも胡散臭 い姿は、やっぱりまゆにとってツボですわ(^.^)。 このSSは元々、シリーズ物設定を流用したため作中?な箇所もあります 気にせずに読み飛ばして下さい |