チョコレートワルツ |
2月、如月、某場所で高耶はかなり落ち込んでいた。 ひぃ、ふぅ…、みぃ……で、これで七つ目………かと、高耶はため息とともに肩を落とす。 「情けねぇ・・・・」 小さくぼやくも、何が情けないのか解らなくなってきそうで嫌だ。 高耶の目の前には、靴箱ぐらいの赤い箱。 中には、形も様々な七つの小箱がちょこんと収まっている。 高級感たっぷりの包装紙や、素材感のあるリボンなどどれもセンスのいいものばかりだ。 綺麗なのはいいが、本来これは、ココに在るべきじゃなかったりする。 だから、見ているだけでも落ち込みは加速する。 高耶は蓋をすると、その箱を棚の奥にしまいこんだ。 まだまだ寒い日々とはいえ、3月の声をきくと現金なもので春の気分になってくる。 「高耶さん」 夕食の支度にいそしむ高耶に、直江が声をかけた。 仕度といっても、今夜はすき焼きだから簡単なものだ。 材料はほとんど切りそろえたし、割り下というか味付けは直江の担当だから、もうする事はほとん どない。 「ん?何?」 付け合せは何にするかなと、冷蔵庫を覗き込みながら耳半分で聴き返した。 「私の、ゴルフ用の帽子を知りませんか?」 「帽子?」 付け合せは白和えに決定と、お豆腐とほうれん草を手に振り返る。 すき焼きは他のなべ類に比べたら、野菜が少なめだ。 舌触りも温冷で丁度いい感じじゃないか…。 「えぇ、明日のゴルフの用意をしていたんですが、帽子だけ見当たらなくて…」 土日は高耶と過ごす事を一番としている直江だが、今回はどうしても断れないゴルフコン が入ってしまい渋々用意の真っ最中なのだ。 接待先のお歴々を相手にするより、高耶さんと過ごす一日の方が何十倍も楽しくて有意義 (?)なばすなのに。 すみませんと謝る直江に、高耶は割と寛大だった。 「行くからには、優勝か…せめて3位までには入ってこいよ」 直江はゴルフが上手い。 特に教室に通ったわけでもないが、性格的にゴルフ向きなのだろう。 何度も優勝し豪華景品や賞品をゲットしているので高耶としても楽しみになっている。 乾燥機付き洗濯機とか、掃除機、ミニコンポ等の家電や、たらい一杯分の越前かにや高級 和牛の詰め合わせ… そのぐらいいくらでも買ってあげますと直江はいうが、それとこれとは話が別。 実際にお金を出して買う時と違って、賞品にはもれなくワクワク感が付いてくる。 このワクワク感が、高耶はたまらなく好きだ。 「帽子ねぇ…」 確か前に行ったのは梅雨時で…、ん?て事は半年以上、行ってないのか。 「たぶんクリーニングに出してそのまましまった気がするから、納戸の衣装棚のあたりにないか?」 「見てみます」 「ごめん、手ぇ放せないから……」 そのくらい私でも探せますからと、直江は苦笑した。 高耶は豆腐を水切りし軽くすって、ほうれん草もさっとゆでる。 うーん…ちょっと彩りが欲しいなあと、冷蔵庫から人参を手にした。 人参の赤はお豆腐にもほうれん草にも映えてきっといい。 赤………? ピンと何かが高耶の頭ではじけた。 不味いっっっ! 納戸の棚には、アレがある。 普段、直江は滅多に納戸に入らないから安心してたのに…っ。 アレは目立つ。 「なおえっっ!!」 バンッと納戸の引き戸を叩き付けるように開けつたその中で、直江は高耶意中の赤い箱を 手に(蓋もしっかりあいていた)疑問符背負って佇んでいた。 食事はもうちょっと後からにしましょうかと、リヴィングの床に膝を突き合わせて座った。 何たが、お白州に引き出された罪人みたいだと、高耶は思う。 しかもラグが白いものだから、余計そんな感じが拭えない。 半畳ほどのゴザでもあれば、舞台設定は満点だと暢気なことを考えていたら、高耶さんと 強張った声がした。 「何も怒ってるわけじゃありませんよ。ただ、せっかく頂いたものを隠さなくてもいいで しょうに…」 えっと高耶は顔を上げた。 「高耶さんが頂いたチョコに嫉妬するほど、心が狭いつもりはないんですけどね」 まぁ普段が普段だから、仕方ないですかねとひきつる笑顔の直江だが、高耶はそれどころ ではない。 頂いた…?、嫉妬……? 「違う…、それ、貰ったんじゃなくてあげるつもりだったものだ……」 高耶はうつむいてぼそぼそ反論した。 「はい?」 今度は直江が顔を上げ、項垂れた高耶のつむじを見つめた。 「・・・っ、だからぁ・・・…俺が直江にあげるつもりで買ってたバレンタイ用チョコなんだよっっ!」 半分やけくそで叫んだ。 叫んだ後に、大波のように恥かしさが襲ってきて高耶は真っ赤になってそっぽを向いた。 「おまえと何て言うか…気持ちが通りだしてから……。俺…おまえと違ってイベント事にス マートじゃないし…でも、せっかくのバレンタイだし………とかいろいろ考えて………」 うつむき、もどかし気に紡ぎ出す言葉が震えていた。 色々考えてもやっぱり買いに行くことは出来ず、毎年、美弥にみつくろってもらっていたのだ。 洒落た包装は美弥直々のもの。 が、高耶の性格上、渡せないまま今年で七つのチョコ。 「……高耶さん」 直江は高耶の髪に指を梳きいれた。 さらさらと癖の無い髪が,、掌をくすぐる。 貝殻のような上気した耳たぶが、高耶の気持ちそにのままのように熱い。 「どうしましょう…何だか踊りだしたいぐらい嬉しいんですけど……」 「踊るぅ?」 「そうです、さしずめ気分はワルツでしょうか…」 どんな気分だ、それはと胸の内で蹴りを入れた。 「…嫌…俺は見たくない…」 「ですよね…」 にべもない返事に顔をしかめた直江に、まぁいいじゃんかと笑いかけ高耶は直江の隣にすりよった。 「見つかったモンはしゃぁないし、いつまでもうじうじしてんのも性に合わないから、ちゃんと渡 すな。ほら、七年分の俺の想いだ」 「では私も、七年分の気持ちで応えないといけませんね。丁度いいことに、明後日は14日、ホワ イトディですよ」 直江は高耶の頬に手をそえ、額にキスを落す 「遠慮しとく…」 くすくす笑う唇にも、キス。 「駄目です、きちんと受取ってくださいね」 頬の手を身体にまわし、高耶をラグの上に横たえた。 高耶も強いて抗わなかった。 「あのな…ごめんな……」 語尾が少し細かった。 贈り物は渡す時に渡してこそ、意味がある。 どさくさ紛れに渡してしまうのは、やはり悔やまれる。 「物があってこそのプレゼントかもしれませんが、私には高耶さんの気持ちだけで充分です」 「本当に?」 「ええ、だって恥かしがりやの貴方が私のためにと思うと、もう、それだけで胸が一杯で…」 食事になりませんと、またキスを一つ。 「じゃあ、今夜の食事は遅くなるな・・・それとも、食べられないかも……?捨てるようなことば、駄 目だぞ」 「勿論です」 ならいいやと、高耶は悪戯っ子のような瞳でまっすぐに見上げると、両手をさしのべ直江をくっと 引き寄せた。 |
コメント 本当はもっとサクサクッとupするつもりだったんですが、何かしら 手間取ってしまい。ギリギリになってしまいました。 どうも、こういうイベント絡みは苦手です 自分自身があまり重要視してないせいもあるのでしょうね 重要視はしてませんが、mayuはチョコもクッキーもキャディも大 好きです(苦笑) |