風のかたち


それはとても美しい朝のこと・・・・・・



予感が確かな予感があったから、夜明け前に目覚めてからずっと、まだ寝ている
直江を高耶は見詰ていた。

起きて直江、ううん、起きなくていいよ・・・・・・

細波のように呟きながら鼻梁の通った端整な寝顔を見詰ていた。
ずっとこのまま、その時が来るまでこの温もりに蹲っいても良かったけれど、そ
れは高耶の矜持が許さなかった。
そっとベットを抜け出し、一番自分らしい白いシャツと青いジーンズに着替える。
「緩っ・・・」
腰の辺りも肉が落ちていた。
「なんか、情けなねぇなあ〜」
姿見に写った自分にしょうがないかと肩をすくめ、音を立てずに部屋を出てリヴィ
ングのベランダに佇み白む街を見ていた。
鳥の囀りが、だんだんと高くなるる
良かったと思った。
今日は天気がいいみたいだ。
透明で美しい朝の空気を、高耶は胸一杯に吸い込んだ。



風の流れが促すように、直江を眠りから誘い出した
傍らにあるはずの人は、ぬくもりはの跡だけかすかに残しもう見当たらない
ヘッドボードの時計は9時半をまわっていた
「高耶さん」
気配のするリヴィングに足を運ぶと、彼はいた
マンションの南側のベランダ窓を全開し、初夏の風を全身で受けている
大きく撓む白いレースのカーテンと彼の着ている白いシャツがはためき、まるで
幾重もの羽のようで直江は胸が締め付けられ思いがした
おはようございますと声をかけると、遅いと軽く笑いながらにらまれた
近頃、体調が優れず臥せっていることが多かった高耶だけに、こうした姿は直江
に僅かな安堵をもたらした
「きょうは?」
傍により街並を見下ろす。雲一つ無い青い空と朝日に映える屋根瓦やビルの窓が
眩しい
「うん、久し振りに体調がいいんだ。少し落着いてる気がする」
「よかった・・・」
細くなってしまった肩を抱き寄せる
「食欲もあるぞ」
くぅぅと鳴った、高耶のお腹の音
タイミングの良さに二人とも笑ってしまった
「○○のライ麦パンが食べたいな」
「買ってきましょう」
近所のパン屋は高耶のお気に入りだ。天然酵母で焼き上げるから味がいい。
「じゃぁ俺が珈琲と他のモン用意しとくな」
無理はしないでと言いかけると、そのぐらい出来るからと返された
他愛も無いやりとりが身体にじんわりと染み込んでいく
身支度をしマンションを出て部屋のあたりを見上げると、窓辺で高耶が子供のよ
うに手を振ってくれていた
高さと逆光で表情までは見えないが、きっと笑っている気がした
陽射しに目を眇めながら、幸せだと感じた美しい朝
何故かふいに涙が浮かびそうになった



予定どおり、直江に外へ行ってもらい高耶は朝の支度を始めた
濃い珈琲とハム付きの目玉焼き
美味しい匂いが部屋に満ちる
本当は食欲なんてもう無かったけれど、朝食の用意は幸せな気分にしてくれる
お店は歩いて数分のところだから、もうそろそろ戻ってくる
せっかくの朝だもの、何だか音楽も欲しくなってきた
どれにするか迷って選んだCDは、伸びやかなソプラノヴォイスが魅力の外国女
性シンガーのもの
昔のヒットカヴァー曲やバロック系の曲も入っていて、アラカルト的なトラック
だが聴きやすく二人のお気に入りの一枚だった
コンポから透明なインストゥルメンタル曲が流れ始め、高耶はソファに座り目を
閉じた
風が床をスキップしながら転げていく
天(そら)を目指し高みへと駆け上るような曲が自分の魂も共にと導いていくよ
うだ
魂が軽くなるのと同時に、身体は倦怠感に覆われる
もうすぐ、おまえが戻ってくる
まどろむ自分にただいまと囁いて、頬にでもキスを落としてくれるだろうか
だけど、あぁ、きっと自分はもうそれに応えられない
だから"愛している"とその瞬間まで呟いていよう・・・・・・



光が強ければ闇も強いのだと、何故忘れていたのだろう
直江は昏く自嘲した
マンションのドアノプに手をかけた時にはもう解っていた
バッハの組曲第3番ニ長調をロックポップスにアレンジした、昔のヒットbェ流
れている


  And so it was that later
  As the Miller told his tale
  That her face, at first just ghostly
  Turned a whiter shade of pale・・・・・・


笑みを浮かべて瞳を閉じた高耶の横に直江も座り、彼を肩に凭れかけさせた
コトンと軽い音
ただいまと囁き額にキスを落とす
まだ暖かい、額
だが確実に人の温もりが去り始めていた
「あなたは最後まで狡い・・・・・・」
熱い固まりが喉をせり上がる
ぶわりと視界が歪む
こらえても、こらえきれずに涙がこぼれた
唇の震えとあふれでそうな嗚咽を押し込めようと、直江は手で口をおおった
頬を掌を涙がいつまでも濡らしていった
美しい朝・・・・・・





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コメント
闇戦国終結後、もし二人でいたらという設定にしてます
注釈を入れないといけないとこが、何か悲しい(苦笑)

うーん・・・再活動最初の小説がコレとは・・・・・(T_T)
何だか行く末を暗示するようで嫌かもと思いつつUPしてしまいました
まぁ、原作も終焉が近いようだし仕方ないかな?
ただ、人が孤独から逃れられない以上、愛は常に平行線の産物という考
えをまゆは持ってます
ミラージュはそういう意味で究極の平行線小説ではないでしょうか

PS>
  作中のCDと歌手名および使用曲名が解った方、簡単な感想と共に
  正解をメールして頂ければ「リクエストお礼小説」をお書きしよう
  かと思います。
  欲しい方がいらっしゃったら、頑張ってみて下さい
  正解者多数(あるかな〜そんな事)の場合は、抽選で数名に絞らせ
  て下さいね。期間は6月末までです
  (ヒント)歌手は某ニュース番組オープニング曲の人