太陽の東月の西<3>







探しものは何ですか
見つけにくいものですか
一人で無理なら、一緒に探しましょう
大丈夫
きっと見つかりますから




22日の夕方、俺は荷物を抱えぽつんと東京駅に佇んでいた。

待ち人はまだこない。約束の時間まで、まだもう少しある。

一定のリズムを刻む喧騒。

こうやって一人で待っていると、寄る辺が無くて心細い気がしてくる。

寄せては反す人の波と構内の篭った熱気が俺を取り巻き離れない。

本当に約束したっけなどと、妙な不安がじんわりと染み出て苛々する。

先週末から直江の顔を見てないことも不安の一つだ。

せっかくの連休にもかかわらず、あいつは輪をかけて忙しかった。別に普段から

暦どうりの仕事なんてしないけど、家にも戻れないって言うのは珍しい。

電話は毎日きちんとかかってきていたけど、一緒に住んでるはずなのに声だけっ

てのは味気なくて寂しいものだ。

原因は・・・・・たぶん、俺。

23日から週末まで連休をもぎとるため、直江は馬車馬の如く働いているらしい。

「毎度のことだけど、景虎のことになるとあついはケナゲねぇ〜」

感心しているのか、呆れているのか。

たぶんその両方。

綾子ねーさんは、一昨日の電話口でカラカラと笑った。

待てよ、あいつがこれだけ忙しいんだから、直江の秘書をしているねーさんだっ

て・・・。

「あったりまえよ、ターポエンジン並よ」

「ごめん・・・」

謝るのもおかしな話だけど、他に言い様もない。

「あら、こっちこそ、ごめんなさい景虎。あんたのためだもの、別に、全然かま

わないわ。ただ、それが間接的に直江を助けてるのが悔しいと言えば悔しいの

よね。あー、癪に障るわ」

陽気な声で、「ね、癪でしょう、癪・・・」と繰り返す。

「まぁ、いいわ。で、直江からの伝言。22日の午後×時に東京駅×口で待ち合わ

しましょうって事よ。」

「東京駅?」

休みをとる以上、どこかに連れてってくれる予定なのはわかるけど、何処へ行く

気なんだ、あいつは?

「行先はね、四国らしいわよ」

「四国???」

俺の頭にポンと日本地図が浮かぶ。えーっと、中国地方と瀬戸内海を挟んだ向かい

側だよな、確か。

「うん、航空チケットも取ってるけど羽田発M市行きになってるわ。宿は直江がと

るって言ってたから、どこかは知らないんだけど、その辺でしょうね」

「ふぅん・・・・」

「まぁ、ゆぅぅ〜っくり楽しんでらっしゃいねぇぇぇ、景虎様」

温泉もあるのよぉ〜と意味深なイントネーション、語尾にハートマークでも付い

ているような口調。

回線越しにピンク色の周波が押し寄せたのは、気のせいじゃないよな。

何が言いたい、晴家はっ。

思い出すだけで、俺の顔は真っ赤になる・・・。

「高耶さん」

「うわぁっ!!」

背後から急に声をかけられ、文字通り飛び上がった。

振り向くと、濃紺の仕立てのいいスーツ姿をさりげなく着こなし磨かれた靴を履

いた直江が、紳士然として立っていた。

連日連夜の仕事明けのくせに何でこうも小ざっぱりしてるんだ、こいつは。

ほらな、早速、通りすがりの女性が数人、直江にちらちらと目配せしている。

直江はスーツで、俺はジーンズ。

アンバランスな事、この上ない。

「なっ・・・、直江!」

裏返った俺の声に驚いたのか、直江も一瞬固まる。

「そんなに、驚かなくたって」

「急に呼ぶなよ。誰だって吃驚するだろうが」

「呼びました、何度も。でも、何か考えごとされてたのか、ちっとも気づいてくだ

さらなくて」

何を考えていたんですかと訊かれたが言えるか、んな事。

すると「失敗でしたかねぇ」と直江が呟いた。

「何が?」

「待ち合わせの場所ですよ。あなたに粉掛けようとする、視線の煩いこと煩い事」

直江が埃でも払うように、バシバシと周りにガンを飛ばす。

「俺に?」

それは、お前にの間違いだろうが。

「私にもあるでしょうけど、あなたにですよ、大半は。今更ですが目立ちますか

らね。ただ立っているだけでも凛としていて、ここだけ雰囲気が違います。ほ

ら、この混雑でもここだけは空いてるじゃないですか」

「そうかなぁ・・・」

俺の目付きが悪いから、人が寄ってこないだけだと思うんだけど。

「違いますよ。無理でしょうけど、もう少し自覚を持って下さるといいんですけ

ど・・・」

ね、と顔を覗き込まれて思わず赤面した。

俺の自覚云々より、お前自身の態度の自覚も必要だと俺は痛感するぞ。

「ほら、さっさと行くぞ。直江」

荷物を肩にかけ、俺は気恥ずかしさからずんずんと歩き出した。

「高耶さんっ」

慌てた声が俺を引き止める。

「何だっ!!」

「空港行きは、こちらです」

・・・・・・・・・・・・間違えた。

出口に向かって何処行く気だ、俺の馬鹿。

「迷子になられても困りますから、手をつなぎましょうか」

「絶対、嫌!」

何、考えてるんだこいつは。真面目な顔して、手を出すな手を。

「高耶さん・・・」

「くどい、直江」

「冗談です」

「・・・・・・・・・・・・・・」

仮にも、主君で遊ぶなっ!つーか、遊ばれてる俺って・・・・・・、なんな訳?

人目が無かったら、マジ、グーで殴っているぞ、俺は。

クックッと笑いをかみ殺し切れない直江を前に、震える拳を収めた自分に拍手し

てやりたい気分だった。

人間、成長しなくちゃ意味がない、・・・・・・はずだ。




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コメント

話の都合上、ENDは次回延期です。ゴメンナサイm(__)m
大まかなプロットで行き当たりばったりで書いているせいか、今一、纏りに欠け
ている感が否めませんが、見捨てずに付き合って頂けると幸いです。
それと、闇戦国終了後としてますが今回の設定中では原作の四国編を無視してい
ますので、高耶さんは四国へ行くのは初めてとしておいて下さい。

話は変わりますが、東京駅のドーム部分になった出入口、まゆは好きです。
反響する靴音や話し声、ほの暗いドーム内から見た外の景色。
何てことはないものかもしれませんが、レトロ調の雰囲気と大都会にも係わ
らず等身大の匂いがして気に入っています。