推定恋愛・後


男の名前は、直江信綱。古めかしい名前だが、旧華族の血筋だとおしえられ、さもありなんと頷い

てしまった。

呼びづらいと文句を言うと、直江と呼び捨てて貰って構わないと言う。

まるで、女性の名前を呼ぶようで、最初は呼び捨て云々より、そちらが嫌だった。

十以上も年上の男に、これは失礼だと思ったが、後のまつり。

今更、他の呼び方も出来ず、気にするのをやめた。

旧財閥の流れを組む企業グループの実質上のトップだが、公表はしていないらしい。

理由を尋ねると、まだ若輩者ですからねと笑って誤魔化された。

青山の店まで、直江が運転する車に乗り込んだ。

国内産の高級車、ダークグリーンの色合がとても綺麗な車。

運転はいつも彼がする。

外車に運転手付きで乗っているイメージがあったから、最初は意外だった。

「日本の道路なんだから、日本車の方がスムーズですよ。あまり、目立ちませんし。仕事は別です

が、あなたとは私の完全なプライベートです。例えね運転手でも、邪魔されたくありません」

車には詳しくないが、これでも充分目立っていると思う。

しかも・・・と、俺はサイドミラーを見た。

やっぱりな・・・・・・。

今日も後ろから、付かず離れずの距離で、一台の車がついてくる。

邪魔はしないだろうが、誰かが必ずいるというのは、庶民の俺にとって不可解だし気持ちが悪い。

車の窓ガラスに額を寄せて、思わずため息をついた。

「あんな男のことは、忘れなさい」

えっ、と直江を振り仰いだ。

「お宅からニ、三軒先に赤い車が停めてありました。お父上にお客だったのでしょう・・・?」

俺の憂鬱の原因を取り違えているが、あえて訂正はしない。

「別に・・・・・・、気になんかしてない」

それは、本当。だが、眉間にくっきりたて皺が一つ。

「あなたは、潔癖だから許せないんでしょうね」

潔癖?俺が・・・?そんな言葉は、俺にまったく相応しくない。

それを一番知っている彼が、俺に使うなんて・・・変だ・・・・・・。

俺は唇を噛み締めた。

信号で止まった車の中で、直江は俺を見て苦笑した。

「そんなに睨むと、皺がついちゃいますよ」

宥めるように、眉間に指先が触れた。子供のような扱いに、思わず振り払う。

「触るなっ」

とたん、車内の空気が冷えたのは、気のせいじゃない。

だが直江は何事も無かったように、ハンドルを握り直し青になった信号に、車を発進させた。

何も言われないと、かえって不気味だ。

食事なんてしたくない・・・・・・・

暗い気持ちに拍車がかかって、俺はため息を押し殺すのに苦労した。




青山の店は、住宅街の一角にぽつんとあった。

外と内に玄関を持った大正レトロな建物で、敷き詰められた石畳や緑に、アプローチ用の石灯籠が

とても美しい店だった。

創作和風というだけに、料理は現代風。和洋どちらの素材も使った、美味しい肉や魚。

食事をする所は、茶室のような離れになっていて、思いのほかゆっくり寛げた。

そして、今は、、出会った時のあのホテルの部屋。

1泊十万は下らないのこの部屋を、直江はよくとる。

初めて泊まった時、全面ピューの窓ガラスから見える夜景を綺麗だと、俺が呟いたのを覚えている

のかもしれない。

部屋に入った途端、俺のシャツは引きちぎられ釦も飛び、放り出された。

シーンズは穿いたままで一回イかされて、気持ちが悪いと訴えたら、じゃあ自分で脱ぎなさいと薄

い笑いを浮かべた。

激しい羞恥で真っ赤になりながらも、何とか下着こど脱ぎ去る。

直江はひょいと俺の腰を抱えて、部屋の真ん中に置かれているベッドの上に俺を横たえた。

「高耶さん」

俺の上で覆いかぶさって、甘い声が囁く。

乱暴に追い立てられた割には、触れるだけの優しいキスが繰り返される。

絨毯の上の、布切れと化したシャツと汚れたシーンズに目が落ちた。

勿体無いと、つい感じてしまい、自分で買ったモノでもないのにと思い直すと、何だか可笑しくて

唇の端が上がる。

「余裕ですね」

耳朶を甘噛みされ、背中が震えた。

裸に剥かれた肌の上を、直江の冷たい掌が這うと、痺れたようなむずがゆいような感覚が走り下肢

に熱がこもる。

「ん・・・・・・んっ、ん」

舌が入ってくる。

ぬめった生き物みたいな蠢く質感のある舌が、歯並びをなぞり、上あごを探る。

そうして縮こまった俺の舌を絡め奪って、彼の中へ引き込もうとする。

吐息が混ざって−、唾が混ざって−、キスをする度に溶けだす何か。

胸のあたりを撫でていた指先が、突先の一つを捏ねるように揺らす。ツキンと小さな痺れ。

「・・・・・・固くなりましたね。赤くて綺麗ですよ」

言いながら、彼は唇をそこに下げた。濡れた感触に思わず身を捩った。

「や・・・・・・」

「足りない?」

意地悪く囁き、内股をさまよっていた手を更に深く入れ、そうして―――。

「あっ・・・あぁ」 そこに軽く歯を立て、続けて俺のものを口に含んだ。

ぶわりと肌が泡立ち、火を噴くように身体が熱くなる。

熱く濡れた、柔らかい彼の舌。誘われて膨らむ熱。

さっきイッたばかりなのに、また、弾けてしまいそうな強烈な波が俺を襲う。

「やっ・・・、嫌、でっ出る・・・っっ」

もっと深くと腰が揺れた。

音を立てるぐらいたっぷり濡らして、唇で締め付けながら俺を追い上げて。

俺の声がきこえたかのように、望みはすぐ叶えられ頂点へと押し上げられた。

「あぁ・・・・いい、すご・・・や・・・あっあ・・・ん」

くちゅくちゅと響く音。俺はシーツを掻き寄せ、内腿を痙攣させた。

「い・・・・くっ、もう、ほんとっ・・・・あーっっ」

激しいクライマックス。

最後の一滴まで絞りとるように唇で扱かれて、痛みを感じるほどの快感を憶えた。

力尽きた、俺の両脚を、直江が抱え上げる。

いいように嬲られて、ぐずぐずと溶けきった場所のその奥へと直江の指が動いた。

ずくりと、異物が挿入される。

「あっ、あ、やーー」

「まだ、まだですよ、高耶さん」

夜は始まったばかりだと、彼はその場所を宥めるように優しく撫でながら、告げた声は彼の掌と

同じ冷たい感触がした。







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コメント

・・・・・・・・あんまり、頑張れなかったわ(~_~;)。
元がオリジュネなので、それっぽく仕上げてみたのですが結果は
どうだったでしょう。
次はこれのオマケを少々。
オマケったって、エ○では無いので、そこは期待しないでね。