4年近く前に母に先立たれ寂しかったと思うが、元来が陽気な性格で、そのことはあまり口にださなかった。元気だった父が倒れてから1週間。あまりにもあっけない最期で寂しくも思ったが、苦しむこともなく旅立ったのがせめてもの救いである。
父は根っからの職人で、看板一筋の人生だった。
屋外広告の仕事も父の頃とはすっかり様変わりし、ITの仕事が増え、職人の仕事がなくなってきたと聞いている。
子供の頃、父の職場によく遊びに行った。大きなキャンパスに幻灯機の光をあて、長谷川一夫や片岡知恵蔵など憧れの銀幕スターの絵を描いている父の姿が好きだった。
手際よく仕上がっていく銀幕スターの絵を見ながら、子供ながらに誇らしかった。
小学校低学年の頃、絵の宿題があることを忘れていて、駄々をこね父に手伝ってもらったことがある。
子供の絵のように描いてはもらったが、先生が見れば一目瞭然。きついお小言をいただいたのも今は懐かしい思い出である。
あの頃父は何歳だったのだろう。もう父の年をずいぶん超えてしまった。
今日は春彼岸。父や母が恋しい。