Q&A8
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Q8  建物の建替えをしようとしたところ、隣地の人から、「建物の外壁は、敷地境界線から50cm以上離して建ててくれ。民法にそういう規定がある。」と言われました。本当にそのとおりにしないといけないのでしょうか?(敷地は、旧市街地の建物が込み合った比較的画地規模の小さいところで、周りは敷地境界まで建物を建てているところが多く、都市計画区域内の防火地域にあります。)
A8  結論からいうと、「防火地域内又は準防火地域内であれば、建物の外壁が耐火構造(鉄筋コンクリート造又はレンガ造り等の構造で、政令で定める耐火性能を有するもの)の建物は敷地いっぱいに建てることができます。」

 ただし、この問題は従来から争いがあり、一応、平成元年の最高裁判決で、上記結論がでたものです。ここでは、可否の問題とは別次元の相隣関係の問題も含めて、少し詳しく記述することとします。

1 参考法令
○民法
第234条 建物ヲ築造スルニハ疆界線ヨリ五十センチメートル以上ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス
A 前項ノ規定ニ違ヒテ建築ヲ為サントスル者アルトキハ隣地ノ所有者ハ其建築ヲ廃止シ又ハ之ヲ変更セシムルコトヲ得但建築著手ノ時ヨリ一年ヲ経過シ又ハ其建築ノ竣成シタル後ハ損害賠償ノ請求ノミヲ為スコトヲ得
○建築基準法
第65条 防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。

2 「特則説」と「非特則説」の2つの説
 民法と建築基準法では、上のように異なった結論となっているため、争いになったときにどちらが優先するかが問題となります。これについては、下級審で次の2つの説で争いがありましたが、平成元年に最高裁が特則説を支持し、一応決着がつきました。
(1)特則説(東京高判S43.1.31、最判H元.9.19))
「建築基準法65条は、防火地域・準防火地域内にある外壁が耐火構造の建築物については、その外壁を隣地の境界に接して設ける事を許容しても防火という公益上の観点からして何等の支障がないものとし、相隣者の立場をも考慮したかような地域(防火・準防火地域は、火災延焼を防止しようとする趣旨ですから、土地の高度利用がされる市街地に多く、したがって、建物は込み合っている場合が多い)に属する土地の合理的な高度・効率的利用を図ろうとする趣旨に出たものと解するのが相当であるから、右法条は、我が国古来の慣習を成文化したに止まる民法234条の特則を定めたものである。」
(下線部は筆者挿入意見)
(2)非特則説(大阪地判S54.2.21)
「民法234条1項は、隣地上における築造、修繕の便宜、火災の延焼防止、日照、採光、通風等の生活環境上の利益を確保せんがため、相隣土地所有権の内容に制限を加え、私人間の権利関係を調整せんとするものであるのに対し、建築基準法65条は、同法の目的、同条の位置、規定内容からすれば、専ら防火という公共的立場に立って、これと土地の高度利用との関係を調整せんとする建築行政に関する公法と解すべきである。・・・・民法234条1項が確保しようとしている生活環境上のいろいろな利益を、防火という点を除き置去りにするような見解、即ち建築基準法65条は民法234条1項の特則を定めたものであるとの見解は採用できない。」

3 私法と公法の異なる結論
 2つの説の考え方は上記のとおりで、結論は、冒頭に記述したとおりとなります。
 以下は、私見を述べます。
(1)公法(建築基準法)と私法(民法)の関係
 まず、私法である民法と公法である建築基準法の関係についてですが、民法234条は、私人間の生活関係を規律する相隣関係の規定であり、まさに建物外壁が隣地境界からどの程度離れるのがよいかという目安を旧来からの慣行を基に定められたものです。(これと異なった慣行があったり、又は当人同士で納得しあっていれば、そちらが優先されます。)
 一方、建築基準法というのは、国民生活をする上で、最低の基準を定め、生命・健康・財産の保護を図り公共の福祉の増進に資するという観点から個人の所有権に制限を加えるという公法であります。つまり、建築基準法65条は、防火上の観点から、耐火構造の外壁であれば、個人の建築の自由に対して、特にそれ以上公法として干渉しませんよ、という趣旨のものであると思われます。
 一つの事案に関して、私法と公法が異なる結論を出していますが、それぞれの立法趣旨を考えると、それは理解できます。(私個人としては、少数派になりますが、非特則説の方が理解しやすいと考えています。)
(2)現実問題
 机上の理論は、(1)のとおりで、個人的には非特則説に近い考え方ですが、現実の問題として争いが生じたときは、別問題です。やはり、特則説で解決せざるを得ないのではないでしょうか。
(3)相隣関係
 このような最終判断の段階に入っている場合は、仕方ありませんが、お隣さんとの近所づきあいは、今後も長い間続きます。お互いに譲り合える妥協点を探して、よく話し合うことが大切です。