都市計画法第39条等の規定により市町村管理に
  属することとなる所謂「開発道路」について


                                             平成13年10月
                                     不動産鑑定士 大西 泰祐



1 はじめに

 都市計画法(以下「都計法」という。)29条の規定により、開発業者が開発行為(本件では宅地開発を主に対象とする。)を行う際、設置される所謂開発道路(以下「開発道路」という。)は都計法39条等により、別段の定めをした場合等を除き、基本的には市町村の管理に属することとなっている。
 都計法39条は、総合的に管理を実施することが適当であるという理由から管理主体を原則として市町村とする(注1)という趣旨であり、開発行為を規定する都計法サイドの思想であるが、公物管理主体の市町村としては、都市計画行政の立場と公物管理の立場が必ずしも一致しないことから、その対応が異なっている。
 すなわち、規模の小さい自治体では、都計法も道路法も同じセクション(例えば建設課)で所管するため、立場の不一致の弊害が少ないが、規模の大きい市になれば、それぞれの担当セクションが異なるため、都計法が予定する総合的に管理を実施することが適当という趣旨が必ずしも素直に当てはまらない場合が多いと思われる。
 道路という公物管理が具体的に規定された個別法は道路法しかなく、道路法で管理できない単なる行政財産としての道路は、地方自治法という一般法でしか管理できない。(注2)
 さらに、本件では宅地開発を対象としているため、建物建築を一連のものと考えるならば、都計法とは別に、道路に関する建築基準法(以下「建基法」という。)の規制も考慮する必要があり、これらを総合的に捉えることが大切である。
 そこで、第2章で「道路」について整理をしたうえで、第3章以下で愛媛県下都市計画区域内39市町村に対して実施したアンケート調査を概観することとする。

(注1)ぎょうせい「逐条問答都市計画法の運用」P417
(注2)道路等公物管理に関して個別法の適用あるものを除き、地方自治法2条2項で地方公共団体が処理することとされており、2条3項2号の例示列挙で道路が挙げられている。


2 道路について
 (1) 公物としての財産の整理
 道路が多くの場合公物であることから、まず、公物法における整理を行う。

 @ 行政法上の分類
      公物  公用物        
 有体物      公共用物       
      私物

「公 物」:行政主体によって直接に公の目的に供される個々の有体物をいい、例えば、道路、河川、港湾、公園、公立病院の建物等が当たる。
「私 物」:土地、建物等、その本来の財産的価値によって、これに伴う利潤が間接的に公の目的に供されるにすぎない有体物、すなわち、公の主体が私人と同じ立場で所有している物。例えば住宅敷地として民間に貸し付けてある公有地等
「公共物」:公物のうち、公の主体自身の公用に供されるものを指し、例えば、官公署・官公立学校・病院等の各建物施設等がこれに当たる。
「公共用物」:公物のうち、直接に一般公衆の共同使用に供されるものを指し、例えば、道路・河川・公園等が典型例である。

 A 国有財産法(地方自治法)上の分類
        行政財産    公用財産
 国有財産  (行政財産)  公共用財産
 (公有財産)          皇室用財産
                  企業用財産
        普通財産
       (普通財産)

  「行政財産」:公物として国等の行政主体によって直接に行政目的に供されるもの
  「普通財産」:直接には行政目的に供されない国等の私物
  「公用財産」:国において国の事務、事業又はその職員の住居の用に供し、又は供
        するものと決定したもの
 「公共用財産」:国等において直接公共の用に供し、又は供するものと決定したもの
        をいい、具体的には道路・河川・公園などのように一般公衆の自由
        な使用の目的に供され又は供する予定の国有地等

(注3)寳金敏明著「里道・水路・海浜」(ぎょうせい)P5外参照
(注4)地方自治法上の分類はかっこ内


 B 道路の公物としての分類
 上に見たとおり、道路は一般公衆の自由な通行に供される性質から、行政法上の「公共用物」、国有財産法(地方自治法)上の「行政財産」たる「公共用財産」に分類される場合が多い。
 しかし、すべての道路がそのように分類されるわけではなく、一般人の自由な通行に供されない「公用財産」としての道路(例えば官公署が所有する敷地内の道路で通行できる者が制限されているもの)や「普通財産」としての道路(例えば大規模な公務員宿舎団地内の団地内道路等)も考えられる。

(2) 道路実態からの分類

 道路は大きく公の主体が設置・管理する道路と私人が設置・管理する道路に分けられ、概ね前者を「公道」、後者を「私道」と分類することが多いが、上でみたように公の主体が設置・管理する道路が全て公道ではない。(上の例では普通財産としての道路はたとえ公の主体が設置・所有・管理していても「私道」に分類される。)
 では、実態からの道路がどのように分類されるか次の項目別に検討してみる。
No 名称 所有権 管理 公道・私道 行政財産か否か その他
1 国県市町村道 公、私人所有の場合もある 公道 行政財産 通行支障となる行為制限
2 都計法都市施設としての道路 公道に準ずる 行政財産
3 土地区画整理法による公共施設としての道路 公道に準ずる 行政財産
4 自然公園法・都市公園法による公園施設としての道路 公道に準ずる 行政財産
5 漁港法による道路・臨港道路 公道に準ずる 行政財産
6 法定外農道 公道 行政財産
7 道路運送法による許可企業者の経営する道路 私人又は公共団体の私有財産 私人又は公 私道(注6)
8 土地改良法による土地改良区が設置する農道 私人 私人 私道
9 森林法による林道 私人 私人 私道
10 私道 私人 私人 私道 建基法の位置指定道路(私道)は廃止等の制限を受ける
(注5)原龍之助著「公物営造物法」有斐閣P58の分類による。公道か私道かの分類は困難な場合も多い。
(注6)大阪高判S36.3.30


 上にみたように、道路といっても様々なものがあり、その切り口によって分類は多様なものとなる。
 No2、3のような場合は道路法による道路認定を行う場合が多いと思われるが、土木行政の一環として、道路法以外の根拠法で設置されるこれらの道路も構造基準等は道路構造令の流れによることが考えられ、建設される場面が異なるだけで、事後の道路という公物管理は、管理根拠の整備された道路法によって管理するのが適しているからであると思われる。(注7)
 また、私人が設置・管理する私道であっても、建基法の位置指定を受けたものは、その公共性に鑑み、・道路の用法に応じて利用すべき効果・道路内建築の規制・私道の変更又は廃止の制限等の規制を受け、少なくとも通行権者の通行権が確保される点では全く規制を受けない民法上の私道とは異なる。

(注7)この例外として、松山市の場合、市駅前ロータリーの道路がある。当該ロータリーは、昭和39年に戦後復興土地区画整理事業の一環として整備された「駅前広場」である。したがって、現行土地区画整理法106条によれば「土地区画整理事業の施行により設置された公共施設」に該当し、その所有権は松山市に帰属すると考えられるが、同ロータリー部分の道路は、市道認定されておらず、上記一覧表のNo3の「土地区画整理法による公共施設としての道路」となる。松山市では、道路管理課と都市開発課の内部協議により道路管理課が管理する行政財産として整理され、まつちかタウン等の占用許可手続は道路法32条を準用して行われている。このことは、公物としての道路管理は、一般法たる地方自治法よりも管理体系が整備された道路法が適していることを示すものとして興味深い。(下線部は私見)

 (3) 開発道路の位置づけ

 以上道路の分類について考察したが、開発道路はどのような位置づけになるのか。
 都計法は民間開発業者の行為によって設置された道路も道路の公共性に鑑み、原則として市町村が管理することを予定している。当該開発道路を利用するのが地元市町村民であるとはいえ、その道路の置かれた位置的・技術的条件は様々であるうえ、市町村ごとの市町村道の認定基準も様々であり、全ての開発道路を市町村道として管理することは困難である場合が多い。
 そこで、開発道路をおおまかに分類すると次のとおりとなる。
@ 市町村道として市町村が受け入れた場合
  :市町村道
A 市町村道には認定しないが、寄付を受け入れ、市町村管理道路とした場合
  :「行政財産」たる「公共用財産」としての市町村管理の道路
B 市町村が寄付を受け入れなかった場合
  :私道

4 市町村アンケート調査結果の分析

(1) 引取り状況について
 今回のアンケート調査では、回答のあった31市町村のうち何らかの形で開発道路を引取っていると回答したのは20市町村(65%)と予想より多かった。
 また、該当事案なしと回答した町村(9、29%)においては、開発事案そのものがない場合と引取らない場合があると判断される。
 その他として、重信町は現在引取りに関する要綱を検討中。玉川町は引取り体制はあり、工事完了2年後に引取ることとしているが、開発業者が手続をとならい。といった回答があった。西条市は引取っているが、玉川町と同様に開発業者が事後の寄付手続をとらないケースもあるといった不満もみられた。

(2) 引取り後の管理実態について
 引取り後管理実態は、市町村道で管理するところ、市町村道又は一般行政財産道路として管理するところ、一般行政財産道路として管理するところに大きく分けられる。(詳細は調査結果参照)
 これらは、道路法認定基準の違いが原因である。
 自治体にとっての管理行為の最も代表的なものに、舗装補修等があるが、これは一般行政財産道路であっても、100%の市町村が道路法所管課の道路管理費で対応している旨の回答があり、市町村道と管理面においては差異がない。
 手続上の違いとしては、管理台帳を備えているか否か等があるが、台帳がない場合にも、地図等に当該道路を表示して、縦覧できるようになっていれば特に不都合はないように思われる。
 今回の調査で、道路法認定基準の問題から市町村道に認定できない開発道路も、実際面においては市町村道と変わらないことが判明した。
 しかし、一方では冒頭で述べたように、規模の大きい市になるほど庁内都計法主管課と道路法主管課の連携が重要となる。仮に市町村道に認定できない一般行政財産道路であっても、当該市町村管理という自治法の趣旨をうまく庁内で吸収できる横の連絡、道路法主管課の理解が必要であろう。
研究発表・論文集のページへ
都市計画法39条の規定により市町村に帰属する所謂「開発道路」についての市町村別処理状況
No 市町村名 返送 開発道路
引取状況
道路管理実態 道路引取手続要綱等の有無 道路引取時期 担当窓口 台帳管理
の有無等
道路管理費用 官民境界
等対応
その他
1 松山市 引取り
(11.7.1以降)
市道認定条件を満たすものは道路管理課で市道管理
それ以外は市管理道路(行政財産)として都市政策課で管理

「都市計画法第32条の規定に基づく協議及び公共施設の用に供する土地の帰属と管理の手引き」
土地は完了公告の翌日に帰属、管理は開発業者と協定を結び、市道管理のものは認定された時点で、それ以外の道路は1年後に引取る。 手続:都市政策課
市道:道路管理課
他道:都市政策課
管理台帳具備 全て道路管理課にお願いして、同課で対応している。 市道:道路管理課
他道:都市政策課
開発許可基準と市道認定基準が異なるため、所管が異なる。全て市道で管理できるのが理想
2 今治市 引取り 道路法上の認定、告示手続を行い、道路法で市道として管理
(開発道路は、市道認定できることとなっている)
明文化したものはないが、定めている 分譲宅地の場合、全区画数の概ね8割以上の建築が完了した時点で引取る。 手続:住宅開発課
市道:道路維持課
3 宇和島市 引取り 道路法上の認定、告示手続を行い、道路法で市道として管理
4 八幡浜市
5 新居浜市 引取り 市道認定条件を満たすものは市道管理
それ以外は市管理道路(行政財産)として道路管理課で管理

「新居浜市公共施設の帰属及び管理についての要綱」外
左要綱に基づき、登記は直ちに行うが、管理は開発業者と協定を結び、原則2年経過後引取り 手続:都市計画課
管理:道路管理課
管理台帳具備 道路管理課所管
道路管理費
道路管理課
6 西条市 引取り 自治法上の行政財産(管理根拠法のない市管理道路)として管理
「公共施設の引き取りに関する要綱」
法36条の工事完了公告後引取ることとしているが、業者によっては法32条協議で寄付することとなっているにも拘らず手続をしない者もある。 手続:都市整備課
管理:建設課
台帳なし
地図等に記入
建設課(道路法所管課)道路管理費 建設課 都計法担当課と道路法担当課が異なるが道路管理一環で建設課が管理
7 大洲市 引取り 市道認定条件を満たすものは市道として管理
それ以外は引取らない
8 川之江市 引取り 自治法上の行政財産(管理根拠法のない市管理道路)として管理
「開発行為により設置された公共施設管理要綱」
左要綱に基づき、登記は直ちに行うが、管理は保全期間3年経過後引取り 手続:都市整備課
管理:建設課
台帳なし
地図等に記入
建設課(道路法所管課)道路管理費 建設課 都計法担当課と道路法担当課が異なるが道路管理一環で建設課が管理
9 伊予三島市 引取り 道路法上の認定、告示手続を行い、道路法で市道として管理
10 伊予市 引取り 道路法上の認定、告示手続を行い、道路法で市道として管理
11 北条市 引取り 道路法上の認定、告示手続を行い、道路法で市道として管理
12 東予市 引取り 自治法上の行政財産(管理根拠法のない市管理道路)として管理 明文化したものはないが、定めている 検査後引取り 建設部
建設課
台帳なし
地図等に記入
建設課所管道路管理費 建設部
建設課
13 宇摩郡 土居町 該当事案なし
14 周桑郡 小松町 引取り 行き止まり等を除き、道路法上の認定、告示手続を行い、道路法で町道として管理
15 周桑郡 丹原町 引取り 町道認定条件を満たすものは町道管理
それ以外は町管理道路(行政財産)として建設課で管理
なし 適当な時期 建設課 台帳なし
建設課所管道路管理費 建設課 都市計画法、道路法所管ともに建設課
16 越智郡 朝倉村
17 越智郡 玉川町 2年経過後引取りとしているが、申し出なし
18 越智郡 波方町
19 越智郡 大西町 引取り 自治法上の行政財産(管理根拠法のない町管理道路)として管理 明文化したものはないが、定めている 最初の建物建築確認済以後、所有者の申し出があったとき 建設課
道路管理一環で一緒に管理するため
台帳なし
地図等に記入
建設課所管道路管理費 建設課
20 越智郡 菊間町 引取り 道路法上の認定、告示手続を行い、道路法で町道として管理
21 温泉郡 重信町 現在要綱等の策定段階。引取りは未だ行っていない。
22 温泉郡 川内町 13.7.1以降
引取り
13.7.1川内町開発指導要綱を施行後引取ることとしたが(町道又は町管理行政財産道路)、現在まで実績なし。
「川内町開発指導要綱」
町道:町道認定のとき
町管理道路(行政財産):1年後
建設課
23 上浮穴郡 久万町 引取り 道路法上の認定、告示手続を行い、道路法で町道として管理
24 伊予郡 松前町
25 伊予郡 砥部町 引取り 町道認定条件を満たすものは町道管理
それ以外は町管理道路(行政財産)として建設課で管理
なし 寄付申込時点で点検後引取り 建設課 行政財産台帳 建設課所管道路管理費 建設課 都市計画法、道路法所管ともに建設課
26 喜多郡 長浜町 該当事案なし
27 喜多郡 内子町 該当事案なし
28 喜多郡 五十崎町
29 西宇和郡 保内町 引取り 行き止まり等を除き、道路法上の認定、告示手続を行い、道路法で町道として管理
30 西宇和郡 三瓶町 該当事案なし
31 東宇和郡 宇和町 引取り 道路法上の認定、告示手続を行い、道路法で町道として管理
32 東宇和郡 野村町
33 北宇和郡 吉田町 該当事案なし
34 北宇和郡 広見町 該当事案なし
35 北宇和郡 津島町 該当事案なし
36 南宇和郡 内海村
37 南宇和郡 御荘町 該当事案なし
38 南宇和郡 城辺町 該当事案なし
39 南宇和郡 西海町