眠り月

エロですよ
いちゃいちゃですよ
























































































作戦参謀の気紛れ


その日、俺が仕事を終えて、いつものようについふらふらと古泉の部屋に行くと、珍しくも古泉はすでに寝床に横たわって眠っていた。大抵、俺の仕事が終わるまで待っているか、あるいは自分の仕事にかかりきりで不在だったりするので、素直に珍しいと思った。
これでいいんだ、と思いながら、ベッドの側に膝をつき、眉間を寄せて眠る古泉の顔を覗き込む。
「…お疲れ」
と小さく声を掛けて、部屋を出ようと思ってはいる。
いるのだが――あー…俺も疲れてたんだな。
一度座ると足腰が重くて動けん。
おまけに、この部屋であればたとえ床の上でも、俺は居心地良く感じるらしい。
このまま俺もここで寝ちまおうか。
そうしたら間違いなくこいつの奇声で目が覚めるんだろうが、起きて真っ先に見えるのがこいつの驚いた顔というのも悪くない。
そうしよう、と決めて、そのくせ俺はまだ寝転がれもしない。
眠る古泉から目が離せない。
それは多分、こいつが難しい顔をして寝ているからだ。
何も寝てる時までこんな顔しなくてもいいと思うんだがな。
そう思いながら、そっと手を伸ばし、古泉の眉間に触れる。
しわを伸ばしてやったら流石に目が覚めちまうだろうか。
けど、気になるんだよな…。
疲れてるのか、何か懸案事項でもあるのか知らないが、寝る時くらいもう少しリラックスしろよ。
それか、寝てる時に寄せてる分のしわを、起きてる時に寄せろ。
その方が分かりやすいし、しわの原因が多少遠慮してくれるかも知れんというのに。
それから……そうだな、こいつがそんな難しい顔をしていたら、俺だってどうかしたのかと声くらいかけるし、場合によったら相談に乗るなり手伝うなりしてやらんこともないではない。
本当にこいつは器用なくせに変なところで不器用で、損しやすい。
弱った顔を見せれば付け込まれると思っているのかも知れんが、ここにはお前の敵になるような奴なんかいない。
付け込むとしたら俺だが、それだって今更だろうに。
「弱ったところを見せたら、甘やかしてやるぞ」
小さく囁いて、軽く頭を撫でてやると、
「ん……ぅ…」
とかすかな声を上げて、身じろぎした。
起きるかと思ったが、案外眠りが深いらしい。
まだそよそよと眠り込んでいる。
この調子だったらいいか。
半ば開き直って、古泉の頭を撫でる。
柔らかな髪が指の間をさらりと通り抜けて行く感触も、かすかな甘い香りも心地よい。
ほのかに伝わる体温も。
調子に乗って手を滑らせ、鼻筋をそっと撫でれば滑らかで、それこそ女性職員あたりに嫉妬されそうなほど肌理の整った肌にうっとりする。
その鼻先に軽く噛みついてみたいような気がしたが、流石にそれは可哀相だと自重する。
大きな背中を撫でおろし、子供を寝かしつける時のように、ぽんぽんと軽くたたいてやる。
そんなことをしているうちに、古泉の表情が緩んできた。
気持ちよく眠れているんだろうか。
…だったらいいな。
ほっとしたことで、俺もようやく眠くなってきた。
ベッドの端に頭をのせて、目を閉じる。
古泉の寝息を聞きながら、俺も眠り――そして、案の定、
「わっ…!?」
という小さな奇声で目が覚めた。
「うるさいぞ古泉…」
眠い目を擦りながらそう文句を言えば、
「す、すみません」
と律儀に謝られる。
「でも、なんでそんなところで寝てるんです…?」
「お前がベッドを占領してたからだろ。…それは俺の寝床だってのに」
我ながら理不尽だと思いながら体を起こし、狭いベッドに乗り上げる。
起きたなら、もう遠慮はいらんだろ。
古泉を壁際へと押しやるようにして、ほどよく暖まった布団に潜り込む。
「んー…あったけぇ……」
「…っ、な……」
古泉が顔を赤くしているのは、なんなんだろうな。
照れているのか恥ずかしがっているのか喜んでいるのか……まさか欲情したなどという理由ではないだろうが。
「全部ですよ。…なに、可愛らしいことをしてるんですか」
「うるさい」
軽く睨んで古泉を黙らせ、
「お前はもう仕事か?」
「いえ……まだ何時間かは自由時間ですが……」
「だったら、大人しく俺の抱き枕になってろ」
ぐいっと引き寄せて、起き上がりかけていた体を寝かせる。
そうしてきつく抱きしめれば、やっぱりいい匂いがした。
眠くなる。
「なあ、古泉」
うとうとしかかりながら、俺は手を伸ばし、古泉の眉間を撫でてやる。
寝ている間にはあったしわが、今は見えない。
「疲れてるとか悩み事があるなら、ちゃんと言えよ。そうすりゃ、俺だって甘やかしてやるんだから」
「え…? あの、一体どうされたんです?」
と戸惑うのは勝手だが、
「お前がつらそうな顔して寝てたからだ」
「そう…ですか? 自分ではこれといって……悪い夢を見たという覚えも、疲れているという気もしないんですが」
「……そうかい」
だったらいい、なんて楽観視は出来ない。
こいつのことだ。
自分でも疲れを自覚しないなんてこともありそうだからな。
「まだしばらく自由時間だって言ったよな?」
「ええ…そうですけど……」
それが何か、とでも言いたげな古泉に、俺は体をすり寄せて、
「だったら、ちゃんと大人しくしてろよ。仕事なんかせずに。…な?」
「……そうですね」
困ったようにしながらも、嬉しそうに古泉が呟き、俺の頭を撫でてくる。
「あなたが甘えてくださるなんて、珍しくて嬉しいですし」
「あほか」
違うだろ、と俺は古泉の額を指先で軽く小突いた。
「俺がお前を甘やかしてやってるんだ」
「そうなんですか?」
と笑うのが少し気に食わなくて、しかし、どうにも嬉しいのがくすぐったい。
「そうだ」
ぶっきらぼうに答えて、俺は古泉の頭を引き寄せ、撫で回す。
「……いつもお疲れさん」
「…ありがとうございます」
嬉しそうに呟いた古泉が更に顔を寄せてくるから、俺はしょうがないと笑って、その唇に自分のそれを触れさせてやる。
「……好きです」
「ん、俺も好きだ」
「あなたといられるだけで嬉しくて、疲れなんて忘れてしまうんですよ。ですから……」
「いてやるから、お前もここにいろ」
ぎゅっと抱きしめれば、更に強い力で抱きしめ返される。
苦しいくらいのそれが嬉しい。
「もっと、甘えていいですか?」
「いいぞ?」
「ありがとうございます」
そう言った古泉の手が、俺のシャツにかかる。
「……甘えて、ってそういう意味か」
「いけませんか?」
と悪戯な笑みを見せる古泉に、俺はわざとらしいため息を吐き、
「赤ん坊でもあるまいし、おっぱいが吸いたいなんて歳でもないだろ?」
と軽口で返す。
「男はいくつになってもおっぱいが好きなんですよ。もっとも僕が好きなのは、この小さくて敏感なおっぱいですけど」
そう言ってシャツをめくり上げ、ちっぽけなそれを指でつまむ。
それだけで体の中で熱がくすぶり始めるのが分かる。
「何も出ないがそれでよけりゃ好きにしろ」
と言った俺はまた古泉の頭を撫でてやる。
古泉はそれを引き寄せられたとでも思ったんだろうか。
その舌先が俺の肌に触れ、吸い付かれた。
「んっ……!」
くすぐったいし、少し痛いのに、なんだってこれが快感として認識されるんだろうか。
この戸惑いは、いつだったかにハルヒが作った、甘味と辛味というありえない取り合わせのフィリングを詰めたサンドイッチがなぜだかうまくて混乱した時の感覚と似ている。
「あ…っ……はぁ…」
吐息とも喘ぎともつかないものを唇の隙間から漏らしながら、柔らかな髪をくしゃくしゃにしてやる。
吸い付かれ、引っ張られ、噛みつかれる度に熱が跳ねあがっていく。
それを伝えようと熱をすり寄せると、古泉が笑ったのが分かった。
くそ、起きてたら今度はやっぱり生意気なんだよ。
「すみません」
ちっとも悪いと思ってない調子でそう呟いて、古泉は俺のベルトに手を掛け、慣れた手つきでそれを外した。
そのまま下着も一緒に、必要な分だけずり下ろすと、むき出しになったものを手の中で弄ぶ。
ストレートな快感に、俺はシーツをきつく掴み、声を押し殺す。
「声、聞かせてくれないんですか?」
「恥ずかし…っ、だろ……」
「僕にしか聞こえませんよ」
「それ、でも……んぁ…!」
びくりと体を跳ねさせる俺を見る古泉の目は少しばかり意地悪い。
だが、難しい顔や疲れた顔よりはずっといい。
「あぅっ…あ、あっ……古泉…!」
絞り出すように声を上げる俺を、観察するように見つめて、
「どうしました?」
などと問いかけるのは本気で意地が悪いと思うのだが、甘やかすと決めた以上、反発もしかねる。
「も……、いく、から……」
「出してしまいたいですか? それとも……こちらをしろ、ということでしょうか?」
そんなことを囁きながら、ぬめりをまとった指が滑り、自分でもすすんで触れないような場所へためらいなく伸びる。
「っ…! ど、っち、でも、いいから……っ、中途半端は、やめろ…!」
「……可愛いです」
頓珍漢な返事を寄越して、古泉がそこに指を埋める。
ローションもなしじゃぬめりが足りないはずだってのに、そこは易々とそれを受け入れる。
どれだけ慣れてるってんだ、と笑いたくなった。
「どうしました?」
変な顔してますよ、とでも言いたげな古泉に、俺はニィと唇を歪め、
「お前に慣れちまったな、と思…っ、こらっ!」
ぐちゅりと音がしそうなほど大きく中を掻き回されて、抗議の声を上げると、古泉が珍しくも顔を赤く染めて、
「あなたがそんなことを言って誘うからですよ。本当に……我慢出来ませんから、覚悟してくださいね」
「覚悟なんか、いらんだろ」
こんなもん、今更なんだし。
そう開き直って、はしたなく脚を開く。
「甘やかしてやるって決めたのは俺なんだから、お前は素直に甘えてりゃいいんだ」
「……あなたって人は」
呆れたのかと思うようなセリフを嬉しそうに呟いて、古泉が体を重ねてくる。
唇を重ねて、舌を絡めて、貪るようなキスをして。
その間にも、限界まで開いた脚の間で、古泉の手は器用に動いてやがる。
くそ、キスしながらとか息が苦しくなるだろうが。
苛立ちながら、なんで俺は古泉の背中に腕を回して、もっととねだるような真似をするんだろうな。
「もう…いいですよね」
そう言った古泉の呼吸が、随分と荒くなっている。
ざまあみろ、余裕ぶってるからそうなるんだ。
しかし、俺の方がよっぽど息が荒い。
酸欠みたいになりながら、
「…早く……」
と急かすのがやっとだ。
火傷しそうに熱くて、一瞬腰が引けそうになるようなそれが押し当てられる。
反射的にびくつきながらも、そのちょっとした恐怖すら、快感を煽る材料にしかならない。
「は……ぁ…」
息を吐いて、衝撃を待つ。
いつものことなのだが、それは少しためらうように、じわりと食い込んできた。
「あっ…」
俺の上げる声の、色のかすかな違いを聞き分けようとするかのように、古泉が耳をそばだてるのを感じる。
「だ…いじょうぶだって、何度言わせるつもりだ…」
「すみません」
と短く謝って、更に腰を進めてくる。
「あ、ん…っ、ふあ、あっ、あ……」
じわじわと深くなるそのたびに体が跳ね、堪えきれずに声を上げる。
「やっ…あ、古泉…! それ、そこっ……気持ち、いくて……」
このあたりになると、自分でも何を口走ってるんだかよく分からん。
もしかしたらもっと別のことを言ってるのかも知れん。
「好きです」
額に汗を浮かべて、そんなことを囁く古泉につられて、
「お…れも、好きだから…っ、あっ……!」
好き、とうわ言のように繰り返した気もする。
弱いところを抉るようにされて、堪らなくて、背中にきつく爪を立てた。
古泉が吐精する瞬間、その体に脚すら絡めて、がっちりと抱きしめて、全部を受け止めようとする俺に、古泉は薄く笑って、
「嬉しいです…」
と囁くから、
「今日はとことん甘やかすって、決めてたからな」
と笑って、締め付けてやる。
「ちょ……っ…」
息を詰める古泉に、俺は可能な限り悪辣な笑みを見せつける。
「まだ、時間はあるんだろ?」
ヤッてる間くらい仕事のことなんか忘れちまえ、と俺からキスをしてやると、古泉が嬉しそうな困ったような戸惑うような、つまりは素直じゃない顔をしやがったので、軽く舌を噛んでやった。