眠り月

エロですよ
あと、多分、読者にとって寸止め←





















































































スマイル? 5


結局古泉に押し切られる形で、俺は研究室を後にした。なんのかんの言って勝てないのは、こいつにうっかり骨抜きにされちまってるからなんだろうか。
くそ、割に合わん。
「そんなに嫌ですか?」
苦笑しながらも、こちらに向けてくるまなざしは嫌になるほど優しい。
ついほだされちまいそうなくらいには。
「……本当に嫌なら、ついて行くかよ」
「そうですよね。…ありがとうございます」
嬉しそうに言った手が一瞬俺の手に触れ、どきりとする。
……って、俺はどこの中坊だ!
のたうちまわりたくなりながら、なんとか心臓を落ち着かせようとする。
なのに古泉と来たら、
「あなたに会いたくて、あなたとお付き合いらしいことをしたくて、堪らなかったんです」
と年相応かむしろ少し幼く思えるほどの無邪気さをにじませて言うから、余計に落ち着かなくなる。
「お前の言うお付き合いらしいことってのは、部屋の中でこそこそと何かしらやらかすことなのか」
不機嫌な口調で皮肉っぽく言ってやれば、古泉は小さく笑った。
「それもそうですけど、今こうしてあなたと一緒に歩いていることもですよ。手もつなぎたいくらいですけど、それはまずいでしょう?」
「ああ、大いにまずいな」
「ですから、これくらいで我慢しますから」
そう言って肩がぶつかりそうなほど近づいてくる。
「古泉、」
「だめですか?」
「………くそ、歩きづらい」
そう言いはしたものの距離は取れなかった。
なんのかんの言っても、隣に人がいるというのが心地よいのは変わらない。
それが古泉なら特に。
仕方ないというような顔を作って、古泉の部屋まで寄り添って歩いた。
連れて行かれた古泉の部屋は、俺の住む安アパートとはまるで違う、こぎれいなマンションだった。
「学生のくせに……」
と俺が唸りながら部屋に上がり込むと、古泉は苦笑して、
「学生向けマンションで、こう見えてそんなに高くはないんですよ。大体、あなたの部屋は少しばかりわびしすぎます」
「安月給なんだ、ほっとけ」
「おや、そうなんですか?」
「あー………つか、あれだ。資料集めなんかに金がかかるからな」
「ああ、なるほど」
「大学からの研究費じゃ少しばかり足りなくてな。……どこか懸賞をもらえるところに論文を送りつけようとは思ってるんだが、まだこっちに移ってきたばかりでばたばたしてたもんだから」
そうため息を吐いた俺に、
「あなたらしいですね」
と古泉は柔らかく言った。
「貧乏くさい暮らしがか?」
「違いますよ」
皮肉っぽく返しても態度は変わらない。
「つつましやかで、理性的なところが、です」
「あほか」
「それはそうとして、飲み物は何にします?」
「さっきコーヒーを飲んだところだから、別にいいぞ」
俺が何も考えずにそう言うと、古泉はにやりと意地の悪い笑みを見せ、
「それはすぐにもベッドに案内していい、という意味でしょうか?」
「お前な………」
「すみません」
笑いながら謝っても、全く誠意が感じられん。
それから、と俺は顔を真っ赤にして、
「誘うならそれなりにスマートな誘い方ってものがあるだろ」
と言ってやったのだが、
「残念ながら分かりませんね」
しれっとして返された。
そのくせ、続けた言葉は熱っぽく、甘い。
「本気で好きになったのはあなたが初めてなんだと言ったでしょう? そうでなくても、そんなに恋愛経験が豊富と言う訳でもありませんし、何より、本当に好きだからこそ、どうしたら格好がつくのかなんてわからないし、構ってられなくもなるんですよ」
「な………」
「…あなたの方が年上で、そうであれば僕なんて子供にしか思えないんでしょうけど、子供は子供なりに本気なんですからね」
「……そんな風に言われると、恥ずかしいとか考えちまう俺の方がよっぽどバカみたいじゃないか」
ぼそりと呟いて、俺は古泉のシャツの裾をつまんで引っ張る。
「年を取ると、素直に何か言うなんて恐ろしく難しくなるんだって分かれ」
「………そんな可愛いことをされたら、本当に止まれないんですけど」
「だから……ここまで来たんだろ」
頼むからこれ以上言わせるな。
「そうでしたね」
と笑って、古泉は俺を抱きしめた。
そのまま自然にキスをされると、誰が恋愛経験が豊富じゃないのかと聞きたくなるが、過去のあれこれを問いただすなんて醜い真似はしたくない。
だから、と俺は古泉の背中に腕を回し、深いキスを求める。
「は……っ、ん………………」
息継ぎめいた声が漏れるたびに、湿った恥ずかしい音がする。
その音にさえ煽られ、体が浮き上がるように感じたと思ったら、いきなり抱き上げられて驚いた。
「ちょっ…!?」
「ごめんなさい。…もう我慢出来ないんです。本当に」
切羽詰まった呟きに、可愛いなんて思っちまった。
「ちゃんと歩けるから下ろせ」
笑いながらそう言うと、意地を張るように、
「嫌です。このまま…」
と言われ、キスされた。
前を見て歩け、ばか。
どさりとベッドに下ろされ、そのまま伸し掛かってくる古泉を抱きしめながら、あの夜のことを思い出した。
あの時は俺の方がこいつにしがみついて、必死になって引き止めたんだったか?
それが今は、こいつが夢中になって俺を求めている。
不思議なもんだ。
「好きです」
甘く囁いて、無茶苦茶なキスを寄越す。
その手は待ちきれない様子で俺のシャツを脱がせにかかっており、もどかしげな動きにぞくりと来た。
「…なんつうか、」
は、と息を吐いて、俺は笑いと共に呟く。
「最初からそうやって、無我夢中になってたら、俺だってもっと早く折れてたって気がするな」
「なんですかそれ…」
「余裕がないお前は可愛いってことだ」
そう笑って、シャツの袖から腕を抜き、ベルトも緩める。
「もどかしいなら、自分で脱いでやる。だからちょっと落ち着け」
「落ち着いてます」
「そうかい」
可愛いなぁと笑う俺を悔しげに見つめた古泉は、俺の耳に噛みついた。
「んっ…!」
甘噛みの範囲内ではあるのだろうが、噛み跡が残りそうな強さに眉が寄る。
「余裕ぶってるあなたは、蠱惑的過ぎて怖いです」
「あほか」
俺がそんな面白い属性を持ってるはずがないだろう。
「ありますよ。……僕の方が誘惑されてるみたいじゃないですか」
拗ねたように言っておいて、古泉は首筋へと舌先を滑らせ、更にその先へとたどっていく。
「あ……っ、く、すぐった……」
「気持ちいいんですよね」
「う、るさ…っ! んっ……ぁんっ!」
敏感な突起を音を立てて吸われ、体が小さく跳ねた。
「くっそ……、お前、上手過ぎだろ……」
憎たらしくて毒づけば、古泉は拗ねたような調子のまま、
「あなたは敏感過ぎます」
と返しやがる。
「ぃっ…ぁ、あっ……っ、ん、んな、舐めんな……!」
「舐めるのが嫌なら、こうしましょうか?」
そう言っておいて古泉はきつくそこを噛んだ。
ひりつくような痛みに、
「ひぃ……!」
と声が上がるのに、その痛みは恐ろしいことに、快感すれすれなのだ。
それ以上されたら、そんなことでも気持ちよくなってしまいそうなのが怖い。
「やっ……だ、古泉っ! や、優しくするって、言ったのはどうなったんだよこら…!」
「あなたがからかったりするからですよ」
そう言って、詫びのようにちゅっと優しいキスをそこに落とされ、しびれが走る。
「可愛いのはあなただけで十分です」
「う、るさ…っ、お前の目こそ、どうかしてる……!」
優しくしろと促したのは俺だが、やわやわとくすぐられ、弱く揉まれるというのももどかしい。
過剰に震えそうになる体を抑えていると、それすら見透かされているのか、古泉はにやりと意地の悪い笑みを見せて、
「僕の目には、あなたがもっとよくしてほしくて堪らないように見えますけど、どうかしてるなら、まだこうしていた方がいいですかね?」
「……っ、お、っまえ、性格悪いぞ…!」
「今更でしょう」
愉快そうに言って、古泉は指を滑らせ、俺の腹を撫でおろしたかと思うと、ズボンのベルトに触れてきた。
「外してほしいですか?」
「……は、ずせ………」
「かしこまりました」
慇懃に言って、古泉は俺の胸から指を離し、両手で手早くベルトを外した。
が、それだけだ。
「脱がせろって……」
そう訴えると、嬉しそうに唇が歪む。
「熱くて硬くなってますね」
「お前のせい、なん、だから……ぁっ…」
自然に浮かせた腰の下から、下着もズボンも引き抜かれ、いささか強引に脚を割り開かれる。
「や…っ………」
「こうしてほしいんじゃなかったんですか?」
「ば、っか……」
くそ恥ずかしい。
普段風にもさらされないような場所をまじまじと見つめられ、ぞくりと震える。
古泉の視線が酷く熱いのが悪い。
視線だけで犯されそうだ。
「おや」
くす、と古泉が意地の悪い笑みを漏らす。
「見てるだけでも硬くなっていくのはどうしてでしょう?」
「……っ! だ、から……も、お前はなんでそう意地が悪いんだ……!」
「あなたには意地悪したくなってしまうんです。…小学生並だとは思いますけど、好きな人は虐めて泣かせてみたいと言いますか……」
「な…んだよそら………」
「優しく甘やかしたいとも思うんですけどね」
そう言って信用ならないほど優しく微笑して、俺の膝頭にキスを落とす。
むず痒い。
「あるいは、あなたから求めてほしいのかも知れません」
そんな風にねだってくるのは少しばかり狡いと思うがどうだろう。
さっきから散々ねだっているようにも思うし、ここに来ているということでも十分だろうに。
「…十分、求めてるだろ、ばか……」
俺は古泉の胸ぐらを掴み――そういや、お前、まだシャツも乱れてなかったじゃないか――、唇に噛みついてやる。
「お前こそ、余裕ぶってないでさっさとしろ……!」
半ば怒鳴るように言ってやると、古泉は驚いたように目を瞬かせた。
そんな芝居がかった仕草が似合うくらいこいつは端正な顔立ちをしていて、おまけに調べたところじゃ成績もなかなかよく、将来性もありそうなやつらしい。
それなのに、俺なんかがかき乱していいんだろうかと迷いもするが、先に惚れたのも押し倒してきたのもこいつで、こいつだってばかじゃないんだからリスクくらい分かってるだろうからと開き直る。
「それとも、脱がせてほしいとでも言うつもりか?」
「言いませんよ」
と笑って、古泉は俺の頬にキスをひとつ落とし、ベッドサイドにあった小さな引出しからボトルを取り出した。
「ん……それ………」
「ローションです。…前回は大変だったでしょう? ですから、ちゃんと専用のものを探して買っておいたんですよ。もちろん、あなたのためだけに」
にやにやと楽しそうに言いながら、開封してあったらしいそれの蓋を取り、粘っこい液体を俺の上へと垂らす。
冷たさと体を滑っていく感覚にびくびくと脚が震えた。
「ひゃ……っ、ぁ……」
「まさか誤解されてはいないでしょうけど、念のため説明させていただきますと、これが開封してあったのは、あなたに使う時に慌ててビニールを破ったりするのではもどかしいから、あらかじめ開けてあっただけですからね」
そう言って、俺の中にあった少しばかりの疑念を打ち消して、古泉は小さく笑う。
「あれから調べたんですけど、本当はもっと時間をかけて解さなきゃいけなかったようですね。…あの時は平気そうでしたけど、大丈夫でしたか? 朝になって起きてから痛んだりはしませんでした?」
という言葉にあの朝のことを思い出し、かっと顔が熱くなる。
「ねえ、どうでした?」
そう言いながら、古泉は指先を滑らせ、くすぐったく撫でてくる。
「あ……っ、ぁ、あの日…は……んなこと、気にする余裕なかった、し………つまりは、そういうことだろ…」
説明させておきながら、古泉の指は悪戯に動き、ぬめりを借りてぬぷぬぷと侵入してくる。
「痛くなかったということですか?」
「……っ、そう、だ。だから……っ……」
指先だけを出入りさせられると、ひどくもどかしいのに気持ちよくて、自分がまるきり淫乱になったような気にさせられてつらい。
かといってねだるのも同じように思えるのでそれ以上は言えず、潤んだ目で古泉を睨み上げたのだが、古泉は小さく息をのみ、それから軽く奥歯を噛んだようだった。
「………堪りませんね」
「なに……言って……! ひっ、ぁあ……!」
今度はいくらか乱暴に指を押し入れられ、早く出し入れされる。
そうされても痛みはろくになく、むず痒い快感に四肢が強張った。
「やっ…っ、んっ……! あっ、あ、ふあぁ……」
「気持ちよさそう、ですね」
嬉しそうに呟いて、古泉は俺にキスをする。
口をふさがれて苦しい。
鼻で呼吸をしてるような余裕もない俺が空気を求めてあえぐと、古泉の舌をきつく吸う破目になった。
「ん……っ」
「……ふっ……ぅ、ぅあ………」
「…なんてキスをするんですか」
「お、まえの、せい…だ、あぁ!!」
ぐちゅぐちゅと音がするほど中をかき混ぜられて、必死に古泉にしがみつく。
気持ちよくて、恥ずかしくて、おかしくなりそうだ。
「全部僕のせいにしてください。だから…今は素直になって、可愛いところをいっぱい見せて…?」
馬鹿野郎と罵れたらいいだろうに、それは出来ず、俺はその夜一晩中、喘がされることとなった。

生まれて初めてまともな恋人が出来て嬉しかったし、幸せだと思った。
だがしかし、相手が男で一回り近くも年が離れていて、おまけにどちらかというと淡白な俺とは比べ物にならないくらい絶倫だなんて、俺はどうすりゃいいんだ。
しかも、だ。
この年になって普通でない快楽を覚え込まされた俺は、記憶にとどめることを自ら拒否するほどぶっ飛んだことをやらかしたらしい。
もういっそ殺せ。
ぶつくさ文句を言う俺に、古泉は締りのない笑みを見せ、
「愛してます」
と囁いて、強引に俺を黙らせたのだった。