眠り月

エロです
ぬるいです
いちゃいちゃです








































































逢瀬


こういうとまるで惚気か何かのように聞こえてしまいそうだけれど、皇女殿下はどんな服装も似合うと思う。軍服を着ていれば凛とした美しさが際立ち、ドレスを着ていれば華やかさが天上まで立ち上るかのようだ。
本当に彼女は高貴で凛々しく美しい女性だと思う。
それでも、今のように薄手のシンプルなワンピースというラフな格好をしていると、可愛らしさが溢れて見えた。
それにしても、だ。
「……殿下、そのような格好で、それもこのような夕食も終わったような時間に男性と会うというのは感心しませんが…」
思わず小言を口にした僕にも、彼女は溌溂とした笑みを向け、
「いいじゃないの。古泉くんはあたしにとって家族以上なんだから、他所の男と一緒にするつもりはないし、キョンにいたってはあたしの猫じゃない」
警護の人間すら下がらせて、長門さんと朝比奈さんしか残していないからか、彼女はいつになく上機嫌であけすけな物言いをする。
艦内でこんな風に振舞うのは本当に珍しい。
これも彼がいるからかと思うと、胸の中のどこかがずくりと痛んだ。
その痛みの理由を自分でも把握しきれないのがいささか情けないけれど。
僕は殿下に聞こえるようにため息を吐いておいて、長門さんと朝比奈さんに向き直った。
「殿下のお守りは大変でしょう? …お疲れ様です」
長門さんは彼女らしい感情の色もない瞳をこちらに向け、
「問題ない」
とだけ答え、朝比奈さんは苦笑まじりに、
「いつもどきどきしてばかりです」
と言う。
それは確かにそうだろう。
楽しくて、あるいは危機に瀕して、毎日のようにどきどきさせられることは間違いない。
僕が苦笑を返すのを横目で見ながら、彼は殿下に向かって、相変わらず遠慮のない口調で、
「ハルヒ、お前ももうちょっと気を利かせてくれたらどうなんだ?」
なんて言い出すから、僕は一瞬呼吸が止まった。
「あら、どういう意味よ」
と返す殿下も、間違いなくその意味を理解していて、とぼけているだけなのだろう。
その証拠に、口元が品のない形に歪められている。
「やっと会えたってのに…」
ぶつくさ文句を言いながらも、正面切ってそれ以上のことを言うと藪蛇になるだけだと分かっているのだろう。
彼にしては分かりやすく眉を寄せて、
「いっそ、俺もこっちの艦に乗せてくれりゃいいのに」
とまで言ったけれど、それは多分、殿下の返事も予想が出来ていたからだろう。
「だめよ」
笑いを含んだ声で、しかしながらぴしゃりと手厳しく殿下は言った。
「そんなことになったら、あんたが古泉くんの仕事の邪魔ばっかするんでしょ」
「するわけないだろ。それくらい、俺だって分かってるってのに」
「あらそう? じゃあたとえば、古泉くんが事務処理に手間取って、本当はもう仕事を辞めて休まなきゃいけないって時に、あんたが古泉くんの部屋を訪ねたらどうする?」
「どうって……手伝う、とか?」
「古泉くんの事務処理って言ったら、古泉くんじゃなきゃってのが多いのに、あんたに手伝えるの?」
「……お前のところに持ってってもよさそうだな」
「いやよ」
べ、と舌まで出した殿下は、
「仕事がひと段落するまで待っててください、なんて言われて、あんた、どれくらい我慢出来るの? 一時間? 三十分? それとも五分?」
「なんでそんな短く見積もるんだ」
困惑する彼に、殿下は悪戯っぽい目で、
「だってあんた、休暇なんかで家に帰ると、古泉くんにべったりくっついて離れないんでしょ? 古泉くんは古泉くんで、さっきみたいに緊急用以外の回線を遮断して受信拒否しちゃうし」
「……ちょっと待て」
と彼が言わなければ僕が質問に割って入っていただろう。
「なんでお前がそんなことまで知ってるんだ。…そりゃ、いくらかは推測されても仕方ないとは思ってたが、さっきの言い方と表情からして、確かな情報を持ってるんだろ」
「あんたって、そういう感覚だけは人並み外れてるわよね」
ほめているのか呆れているのか分からない調子でそう言っておいて、彼女は正直に答えた。
「あんたの飼い猫とは結構気が合うのよ」
悪びれもしない笑顔で。
彼は盛大にため息を吐き、
「…あいつの自由度をもう少し下げてやるべきか……?」
なんて検討に入っている。
彼の飼い猫、というのは彼が作り、相棒として公私を共にしている人工知能のシャミセン氏のことだ。
彼のプログラミングが素晴らし過ぎたのか、非常に高性能かつ人間臭い人工知能であり、クラッカーでもある。
僕は苦笑して、
「それでは怒りづらいですね」
とは言ったものの、
「しかし殿下、人の私生活を覗き見るようなはしたない真似をしていいとお思いですか?」
「貴族だの王族だのってのはたいてい悪趣味なものよ」
けろりとした顔でそんなことを言い、
「それに、シャミセンだって、持ってる情報を全部くれてるわけじゃないわよ? 映像画像その他詳細なデータは、主人の名誉がどうのって言って渡さないもの」
「そもそも欲しがるな!」
と彼が軽くかみついたけれど、顔が赤いとかそういうこともなく、恥じらいもなさそうだ。
多分、僕のためを思って怒ってくれたんだろう。
彼自身だけのことなら、画像くらい気にしなさそうなところは相変わらずだから。
「はいはい、じゃあ謝るわよ。悪かったわね。お詫びに夕食の用意をしておいたから、食べていきなさいよ。遅くなるから、今夜は泊っていけばいいわ。どうせそのつもりだったんでしょうけど、古泉くんの部屋よりは、こっちの客室の方が寝心地もいいわよ」
「夕食って…」
「あたしと有希とみくるちゃんの手作りだから、涙を流して喜びなさいよ」
「……ああそうだな、ありがたくて泣けてくるよ」
邪魔されなければもっとよかったのに、という彼の呟きを黙殺して、殿下は僕らを隣の部屋に案内した。
皇女殿下の部屋ともなると、一部屋だけではなく、いくつもの続き部屋がある造りになっている。
そのひとつをリビングルームのようにして使っているのだけれど、その大きなテーブルの上に、五人分の食事の用意がしてあった。
温かなコーンスープに白身魚のムニエル、グリーンサラダ、きつね色のパンと、艦の中としては贅沢なほどの食事だ。
「これをお前が作ったって?」
「そうよ。材料を出させるのも大変だったんだから。結局みくるちゃんの色仕掛けでなんとかしたけど」
色仕掛け、と言われた瞬間朝比奈さんが身を竦ませ、顔を真っ青にしたということはつまりそういうことなんだろう。
「殿下、朝比奈さんをいじめるのもほどほどに」
「ほどほどにしてるわ。じゃなかったらみくるちゃんなんて……」
本気じゃないのだろうけれど、中途半端にぼかされて、朝比奈さんはぴっと飛び上がり、
「ど、どうなっちゃうんですか?」
と怯えている。
彼は苦笑して、
「大丈夫ですよ朝比奈さん、ハルヒは笑えない冗談を言ってるだけですから」
「そ…そうかなぁ…? キョンくんが言うなら、きっとそう…ですよね……」
「ええ、俺が保証しますから、せっかくの料理が暖かいうちにいただきましょう」
「はい」
まだ少し涙目ではあるものの、笑顔を取り戻した朝比奈さんに彼がほっとした表情を浮かべた。
ただそれだけの、ごく普通のことなのに、狭量な僕は妙な苛立ちを感じてしまう。
少し前に、彼には冗談めかして嫉妬するなどと言ったけれど、実際にこうも些細なことで嫉妬しそうになると自嘲することも出来やしない。
流石にそれを表に出すことはしなかったつもりだけれど、彼には気づかれてしまったんだろう。
楽しい会食の後、彼を客室に送り届けた僕が、そのまま別れの挨拶をしようとした途端、彼は僕の首に腕を回し、強引に口づけてきた。
「んっ……!?」
「……ん、ぅ…」
くちゅくちゅといやらしい音を立てて舌を絡め取られ、呼吸すら奪われる。
「はぁ…っ……」
ようやく解放されて、大きく息を吐けば、
背後でドアがロックされたのが分かった。
「…どうしたんです?」
「お前が帰ろうとするからだろ」
拗ねたように言いながら、彼は僕をきつく抱きしめる。
「しかし、ここでというのは…」
「やだ、する」
可愛らしくわがままを言って、彼は服を脱ぎ始める。
惜しげなく裸体をさらして、その体をすり寄せてくる。
「ちょ…っ、キョンくん……」
「もう我慢出来ない。……それに、」
と彼は困ったように笑って、
「今ここでお前を帰らせると絶対に後悔する」
「…え……」
「…お前のことだからな。ハルヒとか朝比奈さんにやきもち焼いて、一人になってからぐるぐるぐだぐだ無駄なこと考えるんだろ」
「や、妬いてなんか……」
と否定しようとしたけれど、彼は柔らかく微笑して、
「そりゃ、嫉妬なんて言えるほど大したものじゃないんだろうが、ちょっとは妬いて、いらっとしてただろ? 俺の目をごまかせると思うなよ」
にやりと唇をゆがめて見せた彼は、
「妬いてくれて嬉しい。…お前って、ほんと可愛いな」
「……可愛いのは、あなたですよ」
僕はそっと彼の頬に口づけて、
「…好きです」
「ん、俺も……」
くすぐったそうに笑った彼を抱き上げて、ベッドに運ぶ。
彼の体は鍛えてあるのに相変わらず軽くて華奢な印象がぬぐえない。
「骨格が細いんですかね」
独り言のように呟くと、彼は苦く笑って、
「しょうがないだろ。…細くても簡単に壊れたりしねえから、乱暴にしてもいいぞ?」
「しませんよ、そんなこと」
くすりと笑うと、
「してくれないのか?」
残念そうに呟かれたけど、
「優しくしたいんです」
「……ん、ありがとな」
柔らかく微笑んだ彼に口づけ、僕はそのまま彼に伸し掛かった。
「古泉…」
と彼は僕の名前を呟く。
「…いっぱい、愛して……。俺が寂しくないように、お前に会えなくても頑張れるように……」
「……それは僕のセリフですよ」
そう言って触れ合わせた唇は、なんだか苦く思えた。
彼の体を確かめるように指先でそっと撫でながら、
「寂しい思いをさせてしまってすみません」
聞こえなくてもいいというほどの小さな声で囁けば、彼は優しく僕の背を撫で、
「寂しいのは、お前も一緒だろ? それに、こんなことになっちまったのも、俺がおとなしくお前の副官目指して目立たないようにしてりゃよかったのに、変に悪目立ちしちまったのが悪いともいえるんだ。お前だけの責任じゃないんだし、謝るなよ」
「…あなたは優しいですね」
「お前にだけな」
そんなことをさらりと言った彼の脚を撫で、隙間に手を滑り込ませると、内腿をくすぐられた彼がくすぐったそうに体をよじった。
「んっ…!」
「待ちきれないんでしょう?」
「お前が、だろ?」
楽しそうに言って、彼は自ら脚を開き、腰が浮くほどに抱え上げてみせた。
「早く…」
と熱っぽく囁かれて、そのまま乱暴にしてしまいたいという衝動が湧き上がるけれど、優しくしたいという思いが勝った。
僕は彼の脚の間に顔を埋め、すでにひくついている彼の小さな窄まりに唇を寄せる。
吐息がかかるだけでもくすぐったそうに、あるいは期待して震える彼の腰を見つめていると、勝手に笑みがこぼれた。
ぺろりと舐めると、ひくんとその体が跳ね、
「あ、んっ…! 古泉、焦らすな……」
「もう、一樹とは呼んでくださらないんですか?」
「は…ぁ……、ん、入れてくれたら、呼んでやるよ」
なんて、悪戯っぽい笑みと共に囁かれては、苦笑するしかない。
「もう少し解してから……ですよ」
ぴちゃぴちゃとわざと音を立ててそこを舐め、舌先を潜らせると、きゅうと締まっているくせに、必要なだけ柔らかく開いて迎え入れられる。
たっぷりと濡らしたそこに指先を入れると、奥は更に柔らかかった。
「あっという間に解れてしまいますね」
「ん……、お前に会えない分、自分でしてるし?」
「そうなんですか?」
「……寂しいって何度も言ってるだろ」
拗ねたように言いながら、彼はその脚で僕の体を抱きしめる。
「…早く」
「……もう、我慢しきれませんよ」
もう少しだけでも、と指でぐにぐにと広げてやり、その後はもう動物的に押し入った。
「ふあぁ…っ!」
流石の彼でもいくらか痛んだのか、苦しそうに声を上げはしたけれど、その顔に浮かぶのは確かな愉悦の表情だった。
「大丈夫…ですか……?」
「へ、いき…っ……だから、あっ、あ、動いて……!」
「んっ……」
ゆっくりと腰を使いながら、彼の胸の突起を指先でいじくれば、彼は爪先まで痙攣させて善がる。
「ひあっ、あぁっ…! い、つき…そ、れ……やだぁ……」
「嫌じゃないでしょう? ここも大好きじゃないですか」
「大好き…ッ、好き、だけ、ど……ひっ、ぃ、善過ぎて、だめ……」
泣きじゃくるような声を上げ、すがりついてくる。
「いくらでも感じてください。……またしばらく会えないんです。会えなかった分も、会えなくなる分も、いっぱいしましょう?」
返事は熱烈なキスだった。

翌朝の朝食の席では、にやにや笑いを見せる殿下に散々からかわれたけれど、彼は平然としていて、僕ばかりが笑われる羽目になってしまった。
それでも、久々の逢瀬は嬉しかったし、とても幸せなひと時だった。
もう少し、僕の自制心が強ければ、彼と同じ艦に乗ることも出来るだろうか、なんて考えながら、自分の艦へと帰っていく彼を見送ったのだった。