眠り月
エロですよ
やっちゃってますよ
想い
朝昼と手を抜いちまった代わりに、と夕食はまともに作ることにした。実際、家事に没頭している方が余計なことを考えなくて済むものでもあり、それは悪い考えではなかったのだが、スープを煮込みながらあく取りなんぞしていると、不意に背後に人の気配を感じた。
一樹だと分かる。
分かったが、どういうつもりか分からん。
ただじっと立っているだけなら邪魔にもならんし、好きにさせておこうと黙っていると、ふわりと抱きしめられた。
腕の下を通って、胸の下あたりに回された腕の強さが、以前と変わらないことに安堵すればいいのかなんなのか。
それにしてもどうしたっていうんだ?
首を傾げ、
「…どうした?」
とようやく問いかけると、一樹ははっとした様子で、
「……え、あ……あれ…?」
と首を傾げている。
「どうしてこんなことを……」
と戸惑っているところからして、無意識にやっちまったとでも言うんだろうか。
まあ……確かに一樹はそういうことをよくやってはいたが、体が覚えてるほどってのもどうなんだ。
恥ずかしい奴だ。
そう思いはしても、嬉しい気持ちは抑えきれない。
俺は小さく笑って、
「抱きしめたいなら、後にしてくれるか? 今は危ないから」
「はい」
と素直に頷いて俺から離れたものの、それだって、反射的なものだったんだろう。
まだ不思議そうに首を傾げているのがおかしくて、笑っちまった。
というか、可愛いな。
いきなりあんなことをされた時には一体どうしたんだと慌てたし、分からないがゆえに怯えもしたが、こうして明るい状態でよく顔を見れば、一樹の高校生らしい不器用さも分かるし、本人が意識できない、無意識による命令で何かやっちまうということもあるんだと分かる。
それが分かった分だけ、俺にもそれをなんとか受け止めるだけの余裕が出来た。
だから、可愛いなんてことも思えたんだが、しかしながら、である。
まさか後になって本当に、
「抱きしめてもいいですか」
なんて言われるとは思わなかった。
それも、和希も寝に行き、俺たちもそろそろ寝る体勢に入ろうとしていたリビングで。
ソファに座ってテレビをぼんやり見ていたものの、いい加減寝なくちゃならん時間になっていた。
しかし、昨日あんなことがあったせいで寝室に誘うのもちょっと……とためらっていると、いきなりそう囁かれたのだ。
聞き間違えかと思うほどの小さな声。
それでも、聞こえちまった。
そして俺は、ぎょっとして振り向くなんてリアクションをしちまった。
つまりは、聞こえなかったことにも出来やしねえ。
「抱きしめて……って……」
「…するなら後で、と……さっき言ったのはあなたでしょう?」
そう言った一樹の顔がほんのりと赤い。
恥ずかしいなら言い出さなきゃいいのに……。
俺は小さく息を吐いて、
「…いいぞ」
と答えた。
後で、なんて言っちまったのは俺だからな。
それを覚えていて、ちゃんと我慢してたって言うなら、突っぱねるのも悪い気がする。
「立った方がいいか?」
「…そうですね、その方が……」
「ん」
頷いて、ソファから立ち上がる。
同じく立ち上がった一樹と向き合えば、
「じゃ、あ……抱きしめ、ます」
と上ずった声で言われ、そろりと伸びてきた手によって抱き寄せられた。
そんな風に予告して、緊張した顔で抱きしめられるなんて、これまでにされたことがないから、つられて俺まで緊張してくる。
強張った体を包む暖かさも、どこか甘い匂いも、以前の一樹と何も変わらない。
長年の習慣…とでも言おうか、とにかく、無意識のうちに、俺はその体を抱きしめ返していた。
少しびくつくのを、大丈夫だと言い聞かせる代わりにそっと撫でて、首の近くに、一樹の髪に顔をすり寄せる。
安心する匂い。
かすかに聞こえる鼓動も、俺を落ち着かせてくれた。
一樹がここにいてくれている。
たとえ記憶がなくても、一樹が一緒なら大丈夫だ。
そう、信じられる。
ぎゅうと力を込めてみると、ぎこちなく背中に腕が回され、完全に腕の中に捕えられた。
とは言っても、強く抱きしめられてはいない。
恐る恐る回された腕は非常に頼りなく、不安定だ。
逃れようとすれば簡単に逃れられそうで……だからこそ、離れたくない、なんて思った。
その腕は、置き場を決めあぐねているように背中をさまよい…触れるかどうかというような距離が、ぞくりとして………って、まずいな。
「…一樹、そろそろいいか?」
「え…?」
戸惑う声を上げ、不安げに見つめてくるのは、本当に年下の…高校生そのものだな。
「…離れないとまずい、って、言えば分かるか?」
赤面しながらそう言うと、一樹は意地悪く笑って、
「…興奮しました?」
「…うるせえ」
悪かったな畜生。
分かったんならとっとと解放しやがれ。
「悪くなんかありませんよ」
え、と思った時にはソファに押し倒されていた。
「だ、から…なんでこんな……!」
またあんな恥ずかしい目に遭うのはごめんだともがくものの、明るいリビングだからこそよく見える一樹の顔は、どう見ても困り顔で、こっちの力が緩む。
「したい、と思ってしまうんです。理由は……あなたの方が僕よりもよく御存じなのでは?」
と言われれば確かにその通りではあるがだからと言って許せるものでもない。
「離せ…っ!」
「離せません」
そう言って、一樹は困り顔のまま俺を見つめ、自嘲するような笑みを見せた。
「…僕だって、困っているんですよ」
……は?
「自分の心が追いつかないのに、体はあなたを欲して堪らないんです。…おかしい、ですよね…」
そう不安げに呟き、俺をきつく抱きしめる。
そんな一樹に……俺が他にしてやれることなど、ありはしなかっただろう。
俺はその体を抱きしめ返して、
「………おかしくねえよ、ばか」
と囁いた。
何年夫婦やってると思ってんだ。
体を重ねた回数なんか、付き合い始めた時から数えたら相当だ。
到底数えきれるはずがない。
そんな体が、記憶がなくなったからといって前と同じに戻るはずがない。
それなら……体が覚えてることだってあるだろうし、それにはこんな面だってあって当然だろう。
「……俺も、したい」
そう言って、俺は一樹にキスをする。
「…っ」
そのまま勢いづきそうなのを、
「だが、」
という言葉で止めて、
「ここでは止めろ。……ベッドに行くぞ」
と言って胸のあたりを押してやると、一樹は俺から離れ、立ち上がった。
その手を取って俺も起き上がり、足早に寝室へ向かう。
リビングの電気を消し忘れたような気もするが、確認に戻る気にもなれなかった。
きっちりと寝室のドアを閉め、鍵も掛ける。
そうして、一樹に向き直るとすぐさま抱きしめられた。
「本当に…いいんですか……?」
「したいっていったのはお前だろ。で、我慢しようとした俺に火をつけたのもお前だ」
その首に腕をからめれば、ねだるまでもなくキスされた。
どこか不安げでぎこちないそれでは足りなくて、悪戯でもするように唇を舐めてやれば、自然とそれが深まった。
はしたない音を立てて舌をからめ、久しぶりの感触を味わう。
それだけで体が熱くなって、ああもう、止められやしねえ。
「一樹……」
鼻にかかった甘えた声で呼びかけ、体をすり寄せるようにして強く抱きしめた。
いつもならそこで、
「これでは服を脱がすことも出来ませんよ?」
なんてからかわれるところなのだが、今の一樹にはそんなセリフを口にする余裕はないらしい。
戸惑っているのを見て、俺は小さく笑えた。
「…どうしたい?」
「どう……って……」
「分からんか」
くっと喉を鳴らして笑えば、一樹は少し顔を赤くして、
「かっ……からかわないでください…っ」
と言うが、そういうところが余計に子供っぽくて可愛い。
「…なんか、こっちが子供相手に悪さしてるみたいな気分になってくるな」
「なっ……、子供って……」
「もう四十が近いおっさんからすりゃ、高校生なんか子供だ。実の息子だって、もう大学生なんだしな。……ほら…なんにも分からんのなら、おじさんの言うとおりにしろ?」
「お……おじさん、には見えませんよ」
「そうか?」
「ええ。……あまり変わってませんから」
変わってないなんて言葉を喜ぶのは若い女だけだって名言をどっかで聞いたような気がするが、それを口にするのは野暮だろう。
悪い意味で言ったんじゃないだろうからな。
「まあ、おじさんでもおにいさんでもいいから、分からないなら教えてやる。…それでいいんだろ?」
「は……はい…」
緊張しているのか恥ずかしいのか、少し声を上ずらせるのも珍しくて、面白くなってきた。
俺の知ってるこいつと来たら、よっぽどのことでもない限りふてぶてしくて自信たっぷりで、殊にこういうことについては俺のことを翻弄してくれるばかりだったからな。
新鮮なんてもんじゃない。
「服は…脱がせたいか? それとも、脱いでやった方がいいか」
意地悪く聞いてやると、今度はどちらでもいいとは言わなかった。
「脱がせたいです…」
「ん、じゃあ脱がせてくれ」
かすかに震える指が、俺の着ていたTシャツにかかり、数度のためらいの後、一息に脱がされた。
ぷは、と息を吐いて、反射的に閉じていた目を開けると、一樹が俺の体をまじまじと見ていて、照れくさくなった。
「んな、見て楽しいもんではないだろ」
「綺麗ですよ」
そう囁いて、目を細めた一樹の手が、ズボンにかかり、だらしなくはいていたジャージを引き下ろされる。
下着も脱がされて、本当に全部さらけ出すのは流石に恥ずかしい。
「…お前も脱げ」
と唸ると、なぜだか知らんが笑われた。
かっちりと着込んだシャツのボタンに指を掛け、手早く外していく。
そんな行為に慣れきった自分が酷く恥ずかしくもあるし、戸惑うような視線にさらされるとなおさらなのだが、止められもしねえ。
するするとボタンを外し、開いたシャツからのぞく鎖骨に、かじりつくように唇を寄せた。
「んっ……」
小さな声を快く聞きながら、手を滑らせ、ベルトに手を掛ける。
家の中で大人しくしてるだけだろうに、どうしてこいつはきっちり着込むんだろうな。
もうちょっとラフな格好でもいいだろうに。
まあ、記憶喪失なんて厄介なことになる前からそうなんだから、仕方ないだろう。
きちんとしてないと落ち着かないと言い張るような男がどうして俺みたいないい加減な奴と一緒に暮らしていけるのか、時々不思議にも思うわけだが、その分他のところで一樹もいい加減だったりするからちょうどいいのかね。
どうでもいいことを考えて、欲を抑え込みながら、一樹の服を脱がせてやる。
下着まで剥ぎ取ってやると、緩く勃ちあがったものが手に触れて、ぞくりときた。
「す……すみません……」
反応しているということが恥ずかしいのか、小さくそう言った一樹を見れば、この上なく真っ赤になっていて、それが恐ろしく可愛い。
「謝るなよ。…俺も、こうだからな」
離していた腰を寄せて、興奮したそれをすり寄せれば、一樹が艶めかしく息を飲んだ。
「…お前が欲しくてしょうがない」
そう囁いて、一樹の首に腕を絡める。
唇を重ねて、そのまま軽く引き寄せれば、よろけるように一樹が足を踏み出す。
うまいことベッドに誘導して、思い切りよく引き倒した。
「ん、わっ……!」
驚いたのか、小さな声を上げる一樹も可愛い。
「どうしたらいいか、分からないんだったよな?」
「え……ええ…」
赤い顔をして、居心地悪そうに視線をさまよわせる一樹に、もう一度キスをする。
「全部、教えてやるから、言うとおりにしてみろ。それとも…横になってされるがままになるか?」
「う……」
思わず言葉を詰まらせた一樹だったが、赤い顔のままそれでも意地を張るように、
「ぼ…僕がしたいと言ったんですから、します。……教えてください」
と言うあたり、可愛いんだよな。
いかん、本来の一樹とはまた違った感じで、こいつが好きになりそうだ。
同じ人間に何度も惚れるなんて、俺は一体どういう精神構造をしてるんだろうな。
「そうか」
と頷いて、俺は自分の胸を指して、
「ここ……触ってくれるか…?」
「…はい」
興奮しているのか緊張しているのか、かすかに震える声で答えた一樹の手が、恐る恐る俺の肌の上を滑り、ちっぽけな突起に触れる。
それだけでもぞくりとして腰が揺れた。
「あ…っ、ん、お、女の子と違って、胸全体じゃなくて、そこだけ、が、気持ちいいから……そこだけ、して……」
はしたない言葉を喘ぎに混ぜれば、一樹の喉仏が大きく動くのが見えた。
それにさえ興奮を煽られて、止まらなくなる。
「それ……、おっきい、だろ」
挑発してやりたくて、一樹を見つめながらそんなことを囁く。
「和希に授乳して、って、言うより、お前に…、いっぱい、吸われて、弄られて、こんなになっちまったんだ。はっ………、ぁ、だ、から、プールなんかも行けないんだぞ」
「あ、煽らないでください…っ」
俺の意図が分かったんだろう、一樹は泣きそうな顔を真っ赤に染めて、
「我慢できなくなります…」
と訴えるが、
「別に、少々乱暴にしてもいいぞ…? ……お前になら、何されてもいい」
俺は一樹の手を取り、口元に引き寄せると、その指をぱくりとくわえた。
大きくて、でも優しい手。
元からの習慣なのか、爪は相変わらずきれいに整えてあって、口の中どころかもっと柔らかい場所すら傷つけそうにない。
わざとらしく、ちゅっと音を立てて指を離した俺が、
「俺も……我慢出来そうにないし」
と囁くと、一樹は噛みつくようなキスを寄越した。
「あなたって人は……」
「別に嘘は吐いてないんだが…」
「もう少し包み隠してくれてもいいじゃないですか。そんな、煽ったりして………」
「男子高校生には刺激が強すぎたか?」
とからかえば、恨みがましく見つめられたが、それさえ嬉しい。
俺はそろりと脚を開いて、
「準備、してくれるか? それとも、俺がした方がいいか?」
「準備……ですか?」
「ん、女とは違うからな。自分から濡れたり開いたりしないだけ、念入りな準備が必要なんだよ」
つか、女の子相手でも準備はしてやれよ、と世の男共にはこんこんと説教をしてやりたくもなるわけだが。
「…準備なんて、義務的なものじゃないでしょう」
と甘ったるい声がして、脚を大きく開かされる。
「ん…?」
「全部触れたいですし、見たいですから」
「…ばか」
恥ずかしいこと言いやがって、と唸ろうにも、俺の声の方がよっぽど甘い。
「ローション…そこの引出しにあるから……」
と言って場所を教えれば、一樹は粛々とそれを取り出し、手早くキャップを開いてそれを手の上にあけた。
「へぇ……こんな感じなんですね」
と興味津々でそれをぬちゃぬちゃ言わせるのは勝手だが、その光景がもうエロい。
「使い方は…分かるよな……? ここに…」
と指をやると、
「わ、分かりますから……黙って…」
と懇願された。
……かわいい。
にやけながら一樹を見つめて、脚を抱えてやる。
「じゃあ、早く……」
「だ、まって、くださいってば」
怒ったように言いながら、一樹はぬるぬるした指をそこに滑らせた。
「ふあ…っ……」
久しぶりの感覚に、どうしようもなく腰が揺れる。
焦らすように入口をくすぐられて、泣きそうな切なさを覚えた。
「やっ……あ、早く……ぅ…」
「……ええ」
頷くのとほとんど同時に、つぷりと指が入ってきた。
「んぁ…」
俺の体からすれば、一樹の指など間違いなく異物だというのに、その異物感が嬉しくて、気持ちいい。
「柔らかいですね…」
「あ……っ、ん、だ、って、お前が、いつもしてた、から……」
これくらいじゃ足りないなんて思うのも、お前のせいなんだから、責任取れ。
「…はい、いくらでも」
くすぐったそうに笑って、一樹は指を動かし始める。
ゆっくりと慎重な動きがもどかしい。
「ひっぁ……あ、大丈夫、だから……もっと…いっぱいに……」
「…本当に、大丈夫ですか? きつそうですけど……」
と言って中をぐるりと大きくかき回されて、腰が跳ねた。
「ひぁん…! あっ、ん、もっと……」
「……可愛いです」
可愛いのはお前だ、と怒鳴ってやりたい。
しかし、そうする前に二本目の指が押し当てられ、今度はいささか強引に突っ込まれた。
「ふぁあ……!」
「あ、だ、大丈夫ですか?」
「へ、いき……っ、ん、気持ちいい……」
「……よかった」
ほっとしたように笑った一樹だが、余裕はなさそうだ。
ぐちゅぐちゅと音を立てて、指が出入りする。
一樹が焦っていたりするとやるような、そこを解すだけの動きだ。
それなのに、どうしようもなく気持ちよくて、嬉しくて、困る。
「んっ、ぁ、あっ……一樹……」
うわ言のように名前を呼ぶたびに、余裕がなくなっていく。
それも嬉しい。
もう我慢の限界だろうというところで、
「もう、いいから……入れてくれ…」
と囁いた。
俺も我慢出来ない。
「…大丈夫です…?」
「平気だから……」
「……はい」
神妙に頷いた一樹が、すっかり硬くなったそれを押し当ててきた。
その熱に目まいに似たものを覚えながら、俺も手を伸ばし、それがずれたりしないように支える。
「一気に、して、いいから……な…?」
「でも……」
「つか…俺が、もう我慢出来んから……」
ごくりと生唾を飲む音が聞こえた気がした。
「……入れます…」
その言葉と共に、熱い塊が食い込んでくる。
「ぁっ………はっ、う………んあぁ……!」
大丈夫だとは言ったが、もう少し苦労するだろうと思った。
それなのに、恥ずかしいほどやすやすと、俺はそれを飲み込んだ。
「あ……つい………」
「…あなたこそ」
苦しげに眉を寄せた一樹の顔にも感じる。
「…エロい顔しやがって……」
「あ、あなたに言われたくないですよ!?」
かもな。
くっくっと笑って、俺は腰を揺らした。
「……動いていいぞ。というか、動いてくれ。……お前にぐちゃぐちゃにされたくて、堪らん…」
「だ、から、煽らないでくださいってば……!」
そう言って、一樹が腰を使う。
「ふあっ、んっ、ふ、あぁ…! ひ、っ、い、いぃ……」
少し乱暴なくらいのそれが気持ちいい。
というかだな、
「お前…、やっぱり、や、り方、覚えてんだろ……!」
「…頭では、分かってませんよ……」
はぁ、と熱い息を吐きながら一樹が呟く。
「でも、やってみたら、なんとなく分かるんです。…触りたいなと思ったり……それから、ここがあなたのいいところなんだな、とか……」
「ひぁんっ!」
言葉と共に、弱いところを突き上げられて、悲鳴じみた声が出た。
「あっ、こ、こらぁ…!」
「だめですか?」
そうやって上目づかいで聞く方がよっぽど狡いだろ!
「……もっと…」
「ええ、喜んで」
そう笑った唇が自然に近づいてきた。
その唇に自分のそれを重ねて、甘い唾液をむさぼる。
「あっ……ん……っ、んん……!」
「可愛いです」
いらん言葉を繰り返して、一樹がゆっくりと腰を使う。
「やっ…あ、も、もう無理だ…! イく……! イくから……っ」
「どうぞ?」
からかうような響きの言葉と共に、一樹の手が俺の熱にかかり、遠慮なくしごきやがるから、俺は我慢も出来ずに吐き出した。
中がきつく締まって、一樹の精を搾り取る。
「くっ……ぅ…」
うめくような一樹の声に、満足した。
そのまま眠ってしまいたいほど重い体をなんとか動かして、後始末を終えた俺がベッドに戻っても、一樹はまだ起きていた。
それでもどこか眠そうな声で、
「……正直に、言っていいですか?」
と呟くから、
「嘘を言われる方が嫌だから、言いたいことがあるなら正直に言えよ」
「ありがとうございます」
と言った声がかすかに嬉しそうに聞こえた。
「…その………気持ちよかったです…」
「そりゃよかった」
にやりと笑った俺をちらりと見て、
「笑わないでくださいよ」
「いや、嬉しいからつい、な」
「………それから、その………」
と言いよどんだそれの方が、正直に言いたいことなんだろう。
一樹は少しの間迷っていたが、やっとこさため息のような呟きを漏らした。
「……あなたのことを好きだという感覚は、まだ取り戻せません。記憶も…相変わらずのようです」
「…うん」
「でも………その…………あなたのこと…」
「…うん?」
なんだろうか。
「………嫌いじゃ、ないです」
「…そりゃよかった」
ほっとした俺を、一樹は急に抱きしめてきた。
「おい?」
「………もっと正確に言うとですね、その…………あなたのことを、好きになりそうです……なんて、おかしいですよね…?」
「……おかしくなんかないさ」
俺も同じことを思った、なんてことは言わなくていいだろう。
「お前が俺を好きになってくれたら、嬉しい。それこそ、記憶が取り戻せなくても、いい。…お前がいてくれるなら」
「……僕は、ここにいますよ」
そう言って、一樹は俺の額にキスを落としてくれた。
それが優しくて、何も変わっていないんだと思えて、俺は少しだけ、ばれないようにこっそりと、涙をこぼした。