眠り月

微エロですけど一応エロですよ
ラブラブいちゃいちゃとはちょっと違うのでご注意ください




























































疑問


風呂から上がってリビングに戻ると、何やら妙な緊迫感が満ちていた。一樹は苦虫をかみつぶしたような顔をしているし、和希は和希で小憎たらしい笑みを口元に浮かべている。
「…風呂、空いたぞ」
と声を掛けたものの、空気は緩みそうにない。
仕方なく、
「どうしたんだ?」
と尋ねても、返事は芳しくなかった。
和希は、
「なんでもない。俺も風呂入って寝る。おやすみ」
と言い捨てて逃げたし、一樹は一樹で、
「一樹…?」
と声を掛けても、
「…なんでもありませんよ」
等とストレートに受け止められない言葉を呟くだけだった。
もやもやしたものが蓄積するのは感じるが、だからといってどうにも出来ん。
話したくないものを無理に白状させるには今の俺と一樹では信頼の度合いが不足しているだろうし、カマをかけてみるには話の内容が分からなくてどうにもならん。
「…俺たちも寝るか」
ため息交じりにそう呟くと、一樹が腰を上げてくれたのが幸いだった。
大きなベッドに並んで横になる。
いつもなら、その大きさに意味があるのかってくらいくっつきあって眠っちまうのに、今日はぎこちなく距離が開いている。
「もう少し、真ん中に来ていいぞ。落っこちても困るだろ」
と言うと、5センチくらいは歩み寄ってくれたが、大した違いじゃない。
「…俺が離れるから」
「あ………いえ、そういうことじゃなくって……」
困ったように一樹は声を上げた。
既に灯りは落としてあるから、表情は見えない。
ただ、本当に戸惑っているのだとは分かった。
「……誰かと一緒の部屋で寝るということに慣れないだけなんです」
「…分かるから、気にするな。俺はいないと思ってくれていいから」
なんて言っても気休めにすらならないだろうと分かっていた。
本当なら、俺が出ていってやった方がいいんだろうとも。
だが、離れたくなかった。
「おやすみ、一樹」
「……おやすみなさい」
もうずっと習慣になっていた、キスさえないのを寂しく思いながら目を閉じれば、疲れていたからか、すんなり眠ることが出来た。
……それなのに、だ。
夜中に目が覚めちまったのだ。
それもすんなりとではなく、かなりの不快感と共に。
体が熱くて、くらくらする。
かといって、風邪や単純な疲労とは違った。
この感覚はなんだろう、と悩んだのは一瞬で、すぐに理解した。
…あれだ。
もう何年前になるだろうか。
まだ和希が子供だった頃にも似たようなことがあった。
一樹が風邪を引いていて、和希を実家に避難させたりしていた時、一樹と二人きりで家にいて、同じ布団にくるまって眠っていたら、条件反射のように体が熱くなって……つまりは、催してしまったわけだ。
それからは特にそんなこともなく……むしろ、そうなる間もないくらいだったわけなのだが、久しぶりに同じような状況になり、またしてもそうなっちまったらしい。
いつもいつも、一樹には我慢がきかないのかと文句ばかり言っていたのに、俺も同じじゃねえか。
いくら久しぶりの我が家で、隣に一樹がいて、安心したにしても酷い。
「…はぁ……」
ため息すら熱く思える。
このまま布団の中で大人しくしていて寝直せるならいいが、そうはいかんだろうな。
風呂にでも行ってなんとかするか?
だが、昔自分でなんとかしようとしてもだめだったし、なんともならんかな。
幸い、ちょっとやそっとで風邪をひくような季節じゃない。
頭どころか体の芯が冷えるまで、冷水に打たれてくるとしようか。
一樹を起こさないように、そろそろとベッドから抜け出し、足音すら立てないように慎重にドアへと向かう。
実際、音はほとんどしなかったと思うのだが、同じベッドで寝ていたからか、一樹が起き上がる気配がして、
「…どうかしたんですか?」
と問いかけられた。
…そこまではまだ想像出来たので、俺はなんでもないような調子で、
「いや、目が覚めたんで水でも飲みに行こうかと思ってな。…起こして悪かった。寝てていいから…」
「嘘でしょう」
切って捨てるように言われて、ぎょっとした。
驚いて振り向くと、ベッドから下りた一樹がこちらに向かって歩いてくるところだった。
「い、つき…?」
「彼のところにでも行くんじゃないですか?」
その声がどこか冷たくて、怖い。
暗くてよく見えないのだが、一樹が意地悪く目を細めたような気がした。
「は…? 彼ってのは誰だよ…」
思わずじりじりと後ずさるものの、すぐにドアにぶつかった。
そして寝室のドアは内開きだ。
まずった。
籠城する時のことを考えて内開きにするんじゃなく、逃げる時のことを考えて外開きにするべきだった。
そんなことを考えている間に一樹が迫ってくる。
その手でドアを押さえつけられ、俺の体もドアに縫いとめられたように動けなくなる。
「和希ですよ」
「…なんで和希のところに行く必要があるんだよ。訳が分からん…」
「そうですか?」
そう言っておいて、一樹はいきなり俺の脚の間に自分の脚を突っ込んだ。
「ちょっ…! お、お前、何を……」
「さっき、」
低い声がやけに近くから聞こえる。
「悩ましいため息が聞こえましたよ」
「いっ…!?」
さっきのあれを聞かれたってのか?
というか、寝てたんじゃなかったのかよ…!
焦って青ざめるやら、恥ずかしさに赤くなるやら、もう訳が分からん。
「硬くなってますね」
囁かれる声がどうしようもなくいやらしくて、ぞくりとする。
いつの間にか伸ばされた手が、やわやわとそれを握り込んで……って、
「ま、て…! な、何を……」
「処理、してあげますよ」
意地の悪い声と共に、下着ごとパジャマのズボンを引きずり下ろされる。
「ひっ!? い、いいっ、やめろばか!」
「別にいいじゃありませんか。…夫婦、なんでしょう?」
「それは、そう、だが…っ、あっ、やぁ…!」
俺の前に膝をついた一樹が、わざとらしく息を吹きかけると、それだけで首をもたげてくる己が憎たらしい。
「夫婦なら、こういうことだってしてたんでしょう? そこの、ベッドの上で」
「っ…!」
その通りだが、そんな風にして辱められると堪らなく胸が痛んだ。
「ああ、立ったままが嫌なら、ベッドに移動しましょうか」
そう言って立ち上がった一樹は、なんでもないような顔で俺を抱え上げ、ベッドまで運びやがった。
「んなっ!?」
「軽いですね。…ちゃんと食べてなかったんですか?」
「う、るさ……!」
「僕の覚えているあなたも細かったですけど……あなたの今の年齢でこの細さはどうなんです?」
「おちおち太ってもいられないんだよ…っ、て、触んな…!」
肉付きを確かめるように腹を撫でられ、脚を撫でまわされるとぞくぞくと背筋が震えた。
くっそ、なんで触り方は変わってないんだ。
体が覚えてるとでも言うつもりか!?
記憶が戻ったら絶対にド突き回す!
「ちゃんとこっちに集中してくださいよ」
くすくす笑いながら、一樹が言う。
その手が熱を持った塊に触れ、ゆるゆると撫で回すとそれだけでも堪らなくなるのに、それだけじゃ足りないとも思っちまった自分の頭を吹き飛ばしたい。
「なんで……」
「…さあ、なんででしょうね」
そう言った声が聞こえたと思うと、熱いものに包み込まれた。
この感覚を俺は知ってる。
「くわ、え、んなぁ…!」
抗議の声を上げ、もがいてみても簡単に抑え込まれてしまう。
「や、めろって…! や、ぁ、やだ……」
「そんなことを言ってますけど、」
ちゅ、とわざとらしい音を立てて口を離した一樹は、
「ここで止められたら困るのはあなたでしょう?」
「……っう………」
情けなくて泣きたくなる。
というか、泣いた。
腕で目を隠して、涙を抑えて、それでも多分、声や体の震えで一樹には知られただろう。
強引に及んだ行為にしては優しくされて、余計に涙があふれた。
尖端に絡む舌の感触も、袋を揉む手つきも変わらず優しく、暖かいのに、それが余計に寂しさを感じさせる。
一樹と肌を触れ合わせているのに、一樹が側にいない時のように心細い。
ちっとも満たされた気分になれないまま、文字通り処理された俺は、少しだけクリアになった頭がそれでも鈍く動くのを感じながら、
「…なんでこんなことしたんだ……」
ともう一度問いかけたが、答えはやはり頼りない、
「……知りません」
というものがあったきりだった。
俺だけ処理され、後片付けもされ、ご丁寧に布団まで掛けられたが、一樹は自分のことについては何も言わず、無言のまま布団にもぐった。
向けられた背中が酷く遠く感じられた。