古泉が自重しなかったのでエロです
それは、谷口に一樹を会わせるために、一樹を泊まらせたその日の話だ。 「こんにちは、お邪魔します」 遠慮がちに言った一樹を家に引っ張り上げ、居間ではなく俺の部屋に上げたのは、居間でお袋と話して、妙なことを口走られたら困るからだった。 早くふたりきりになりたかったとか、二人だけで話したかったとか、そういう甘酸っぱい理由では、断じてない。 俺の部屋に入れる、ということを異常なほどに喜び、浮かれていた一樹だったが、俺がドアを開けたところで見事なまでにフリーズした。 「一樹?」 それはどういう反応だ? と首を傾げる俺に、一樹は引き攣った笑みを浮かべ、 「あの、この部屋……本当に、あなたの部屋ですか?」 そうじゃなかったら誰の部屋だと思うんだ。 「あなたのお兄さんとか…」 「兄はいないぞ。妹だけだ」 「…ですよね。……それにしても、とても女の子の部屋には見えませんね…」 ほっとけ。 俺の部屋にはベッドと机、小さめの本棚とテレビ、ゲーム機、洋服ダンスなどがあるだけで、簡素なものだ。 壁紙の色もカーペットの色も女の子らしくないことは重々自覚してはいるが、これくらいの方が俺の性にはあっているんだからほっといてもらいたい。 「この様子だと、クローゼットの中身も…」 呆れたように呟きながら、一樹は遠慮の欠片もなく人の洋服ダンスを開けた。 他人の部屋なんだから一応はばかれ。 「他人だなんて冷たいですね」 やかましい。 親がいつ来るとも分からん状況でキワドイ発言をしようとするなよ。 「まあそれはともかく……本当にこれ、あなたの服ですか?」 失礼な奴だ。 「だって、どう見たって男物ばかりに見えますよ?」 実際、男物が多いからな。 女物なんて制服だけで限界だ。 むず痒い。 俺がそうぼやくと、一樹は大袈裟なほど大きなため息を吐き、 「せっかく可愛く産んでもらったのに、もっと着飾ろうとは思わないんですか?」 思うはずがない。 何故なら俺は可愛くないからだ。 「可愛いって言うのはお前とか朝比奈さんとか朝倉とか長門とかハルヒみたいなのを言うのであって、俺は違う」 俺の反論に対して一樹はきゅっと眉を寄せ、 「あなたは可愛いですよ」 怒ったように断言した。 「…寝言は寝て言え」 「寝言じゃありません! あなたは可愛いです。短すぎる髪も、気だるげな瞳も、」 言いながら一樹の白魚のような手が俺の髪に触れ、目元に触れる。 「薄い唇も、白くて細い首筋も、見た目よりずっと華奢で頼りない肩も、」 唇、首、肩と手が滑り降りていく。 むず痒さはどこか後ろめたい気配を帯びているって言うのに、どうして俺は、 「よせよ」 と小さく身動ぎすることしか出来ないんだろうな? 「ほどよい大きさで敏感な胸も、細くて感じやすい腰も、きゅっと締まったお尻も、きれいな脚も、どこもかしこもあなたは素敵で、可愛くて、愛しくて」 「ん…そんな風に、触んなばか……」 「そんなこと言って……。本当は、気持ちいいんでしょう?」 優越感を笑みに滲ませながら、一樹は俺の腰に手をやり、ぎゅっと抱きしめた。 触れる胸の柔らかさ、漂う女の子らしい甘い香りにドキドキする。 が、だからと言ってこの暴挙を許すわけにはいかん。 何故ならもうそろそろ妹が外出から帰ってくる頃―― 「キョンちゃーん! お友達きてるのぉー?」 そんな声と共にドアが開く寸前、俺は一樹を思いっきり突き飛ばしていた。 ……不可抗力だ。 出張で出払っている父親の席に一樹を座らせてやり、お袋が作ったやけに手の込んだ夕食を食べる。 むやみやたらと手が込んでいるのは、お袋が暇を持て余し、料理に情熱をかけているせいだ。 おかげでジャンクフードに近い、粉のソースを使った焼きソバとか、100円のカップラーメン、安いレトルトカレーとかを食べる機会がなくなり、生まれも育ちも庶民である俺としては残念なことこの上ない。 それもこれも父親が事業で成功しなければ、と歯噛みする俺に、 「成功したことを悔やむなんて、変わった人ですね」 一樹が苦笑混じりに言った。 「それだけ満足されていたということなのかもしれませんけど」 お前はどうなんだ、とは聞きかねた。 それは、一樹と家族がどうもうまく行っていないかのような気配を、常々感じていたからだ。 一樹はそれに気がついたのか、ふっと小さく微笑み、 「羨ましい限りです」 と言った。 その笑みが酷く儚げで、俺はつい、あんなことをしてしまったのだ。 それは、食事の後のことだ。 お袋に言われ、 「一樹、お前先に風呂に入れよ」 と言った俺に、一樹が、 「あなたも一緒に入りませんか?」 「…なんでだよ」 「だって、せっかくお泊りなんですし、どうせなら出来るだけ長く一緒にいたいじゃありませんか」 一樹と一緒に入ったらどうなるか、予測がつかない俺ではない。 「……変なコトするつもりだろ」 「しませんよ、変なコトなんて。ただ、あなたと一緒にお風呂に入りたいだけです。…ね? いいでしょう?」 夕食の時のやりとりのこともあり、縋るような一樹の目に、俺は負けた。 俺は渋々頷き、一樹と共に風呂に向かった。 脱衣所でシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぐ。 靴下も一緒に脱ぎ捨てて、さてブラを外そうかと手を掛けたところで、我慢の限界だった。 「…一樹」 「はい?」 「ニヤニヤしながら人が服脱ぐの見てんじゃねぇよ」 「すいません、つい」 何が、つい、だ。 ガン見しやがって。 イライラしながら一樹に背を向け、ブラを外し、パンツも脱ぐ。 「先に入ってるからな」 と言い捨てて、風呂に入った。 「あ、待ってくださいよ」 慌てて服を脱ぎ、追いかけてくる一樹に苦笑しながら掛け湯をし、湯船に使った。 夏でも風呂は熱い方が気持ちいい。 湯上りに涼しく感じられるしな。 うちの風呂はそう大きくもないが、ふたりで入っても一応大丈夫なサイズだ。 「失礼します」 と言いながら、一樹はおずおずと湯船に入ってきた。 恥ずかしそうに胸などを手で隠しながら入ってくるところを見ていると、ちゃんと可愛い女の子で、楚々とした、などといった表現を使うことも出来るのにな。 「ちゃんと浸かれよ」 俺はそう言って、ばしゃっと一樹にお湯を掛けてやった。 「わっ、ちょ、ちょっと、何するんですかぁっ!」 「文句言ってないでどうせなら反撃しろよ」 どうせ出来ないだろうが、とにやにや笑いながら言ってやると、一樹はむぅっと不貞腐れた顔をし、 「反撃、していいんですね?」 「ああ、やれるもんならな」 「…じゃあ、」 と一樹が言った瞬間、立てた膝の間、腿の付け根近くにくすぐったさを感じ、俺は思わず飛び上がった。 「なっ、何しやがるんだ!」 「反撃していいって言ったのはあなたですよ」 俺が怯んだ間に体勢を変え、俺に伸し掛かるように体を接近させた一樹の手が、湯の中で秘部を弄ぶ。 「あ、っゃ、やだ、やめろって、古泉…っ」 「ここ、お湯が入っちゃいますね。ほら、こうして開くと……」 「ひあっ…!」 体の中に熱いものが入り込んでくる慣れない感覚に体が震えた。 「気持ちいいですか?」 中をかき混ぜているのか、時々内壁を指で擦られる感覚が走るが、お湯でいっぱいにされた中での刺激は酷く心許なくて、 「や、だ…っ、こんなの、嫌いだ…。一樹が、感じられな…っ!」 「…本当に、可愛いんですから」 もう、などと言いながら、一樹が俺の胸に口付ける。 その手は俺の下腹部を軽く圧迫し、 「ほら、力を入れてください。そうしたら、お湯も出て行きますから」 「んっ……」 排尿時にも似た感覚に羞恥心が煽られる。 「赤くなったあなたも、可愛いです」 人の気も知らないで耳朶を食み、首筋を舐める一樹に、俺は真っ赤になりながらもドスの効いた声で唸った。 「……これ以上したら、今晩一緒に寝てやらん」 「すいませんでした」 ぱっと一樹は手を離し、俺を解放した。 聞き分けがいいのはいいことだ。 それから、同じ切り札で一樹を大人しくさせたまま風呂から上がり、寝巻きにしているスウェットに着替えた。 一樹には先に部屋に上がれと言って、台所に行くと妹がいた。 「キョンちゃんもう寝るのー?」 と聞いてくる妹には、 「部屋で一樹と話したりしたいんでな。お前はさっさと寝ろ」 「えー? あたしもいっちゃんと遊びたいー」 「…だめだ」 「もう、キョンちゃんのケチー」 ケチで結構。 俺は冷蔵庫から炭酸飲料のペットボトルを二本掴みだすと、自分の部屋に上がった。 「待たせたな」 「いえ」 と答えた一樹は期待に目を輝かせていた。 俺は先手必勝とばかりに、 「親も妹も一緒にいるってのに、人の体触ってきたりとかすんなよ」 「どうしてですか?」 そこで死ぬほど残念そうな顔をするんじゃない。 せっかく美人な顔が勿体無い。 「常識で考えろ。いつ入って来られるかも分からないんだぞ。もしばれたら、どうなるか分かってんだろうな」 よくても別れさせられる。 下手すりゃどちらかまたはふたりとも転校させられるだろう。 「俺は、離れ離れにされたくないと思うくらいには、お前のことが好きなんだ。だから、我慢しろ」 「…分かりました」 それでも渋々頷くこいつは何なんだ。 無邪気な顔してどれだけエロいんだ。 「あなたが可愛すぎるのがいけないんですよ」 それは拗ねた口調で言うところじゃない。 「まあ、とにかく、」 と俺はベッドに上がり、 「今日はあくまで普通に、話しながら寝るとしようぜ」 「…はぁい」 一樹と親しくなってからも、こうしてふたりで話しこむような機会はあまりなかった。 恋人といえるような関係になってからは話すよりむしろ一樹が性欲に負けることの方が多かったからな。 学校のこと、クラスのこと、ハルヒがどうしたの長門がどうの、朝倉は誰か好きな奴がいるらしいとかそんな話もしたな。 そうするうちに眠くなった俺は、半分以上寝入りながら、 「…おやすみ……」 と一樹の頬にキスをしてやり、 「おやすみなさい」 と唇にキスを返された。 一樹が電気を消したのを確認すると共に、眠りに落ちた。 ……はずだったのだが、妙な夢を見て目が覚めた。 妙な夢とはどんなものか、具体的には言いかねるが、抽象的に言うなら……いわゆる、淫夢ってやつだ。 背景どころか全体的にピンクがかったような、淫らがましい夢に俺が目を覚ました時、 「…んぁ…っ…?」 体に走ったくすぐったさに思わず声を上げると、目の前にいた一樹がびくっと身を竦ませた。 俺は眉を顰めつつ一樹を睨みつけ、 「――こら、一樹」 「……」 「お前に学習能力はないのか?」 「……すみません…」 「それともあれか。俺に嫌われたいのか?」 「まさか、そんなことあるわけないじゃありませんか!」 はいはい、それは分かった。 分かったから落ち着け。 「何にせよ、寝てる人間に悪戯すんなよ」 スウェットの上は胸の上までまくり上げられ、下も太股の半ばあたりまでずり下げられているのが見なくても分かった。 一樹の手が胸と股にあることも。 「変態」 「…ごめんなさい」 しゅんとした風情で言った一樹だったが、 「…でも、我慢できなかったんです……」 と言い、俺の胸を揉みしだき始めた。 「ちょっ…、ん、やぁ…」 ぞくぞくとした快感が背中を這う。 同時に、くちゅりとわざとらしく水音を響かされ、耳まで羞恥で染まった。 「て、め…」 「あなたがいけないんですよ。すぐに目を覚まして止めてくださるだろうと思ったのに、全然目を覚ましてくれなくて。僕も、止まれなくなってしまいました。それに、……気持ちいいでしょう?」 「はっ……ぁ、ん…や…」 「大丈夫ですよ。もう夜中ですから、妹さんもお母様もお休みになっているでしょう。たとえ起きてらしたとしても入ってはいらっしゃらないと思いますよ。あなたが大きな声を上げなければ、ですが」 「…っ、おぼ、えてろよ…古泉…!」 後で絶対何か仕返ししてやる、と俺は必死に声を殺しながら、復讐を誓ったのだった。 その後、俺としては意図していなかったとはいえ、結果として翌日早々に復讐を果たすことが出来、ぐったりした一樹を見れたのは良かったような気がする。 などと、俺が思うくらい、俺はその夜中、酷い目に遭わされたのだった。 |