エロです
自主的に行った身体測定の結果、数値化された現実に俺は打ちのめさたような気分になりながら、長机に突っ伏した。 「やっぱり育ってねぇ…」 何がとは聞いてくれるな。 普段の俺の言動で察してくれ。 ――特盛とまでは言わない。 だが、自分で触って楽しいくらいには欲しいんだ。 「胸部の成長促進に関しては、諸説ある」 そんな言葉が聞こえ、俺は思わず顔を上げた。 発言者は長門だ。 窓際の低位置で本を膝に乗せたまま、視線も本に向けたままだが、意識がこちらに向けられていることが分かった。 「長門……」 「牛乳の摂取量の多い地域、大豆摂取量の多い地域では、そうでない地域と比べて、胸部は大きく成長する。うつ伏せ寝も有効とされる。ただし、実行したとしても如実に反映されるかは個人差」 長門、もしかしてお前も気にしていたのか。 俺はパイプ椅子から立ち上がり、長門の肩に両手を置いた。 「長門…」 長門が顔を上げ、俺を見る。 その目が語るものは、言葉よりも雄弁だ。 俺は長門を抱きしめた。 ――貧乳同盟が、ここに結成された。 「で、長門は試してみたのか?」 返事は頷きだった。 ハルヒどころか朝比奈さん、古泉もやってこないのをいいことに、ふたりして作戦会議ならぬ情報交換をしている。 「どれを試したんだ?」 「牛乳の摂取量及び大豆の摂取量を基準値より多くしてある」 「……結果は…」 いや、やっぱり言わなくていい。 気持ちは分かる。 俺も牛乳を腹を壊すほど飲んだ覚えはあるからな。 「古泉も朝比奈さんも、遺伝的なもんなんだろうな」 特に変わったことをしているようには見えないし。 というか長門よ。 「お前なら、情報改変だかなんだかで自分の体型くらいちょちょいのちょいで変えられるんじゃないのか?」 「出来ない。禁止されている」 「……そうか」 情報統合思念体は貧乳はステイタスだとでも思っていやがるのだろうか。 俺も長門も、流石にそこまでではないが、世の中には本当にぺったんこの人もいるんだぞ。 あればいいってもんでもないが、かといって、なくてもいいというもんでもない。 というわけで、俺はもし何か機会があったら情報統合思念体に全力で抗議してやろうと決めた。 「あと、胸を大きくさせると言えば……揉む、とかか」 「……揉む…」 長門が自分の胸に手をやった後、放した手をじっと見つめた。 働けど働けどなお我暮らし楽にならざりじっと手をみる……というわけではないんだろうなぁ。 「もっとも、俺の場合は効果なかったけどな…」 ため息混じりに言うと、 「……やったの?」 「…まあ、な」 歯切れが悪いのは、正確には自分で揉んだのではないからだろう。 いつどこで誰がどのようにしてやったのかと、5W1Hまで忠実に思い出しかけて、頭を振る。 今はそういう場合じゃない。 「…揉む……」 繰り返し呟きながら、長門が自分の胸に再び手をやった。 その手が控え目に動く。 長門が首をかすかに傾げた。 これでいいのかと目で問われ、俺も首を傾げた。 「どうなんだろうな」 「あなたはどんな風に?」 「え…」 じっと長門が俺を見つめる。 ――逃げられんのだろうな、これは。 「…俺、は……」 言いながら胸に手をやる。 返ってくるのはかすかな感触だ。 古泉はどうやってたか、なんてことを思い出そうとするまでもなく、再現する手が無性に恥ずかしい。 長門、頼むから今だけでも、俺の思考は読んでくれるなよ。 「こう、やって…」 強めに乳房を押し潰す。 緩急をつけてやると、乳首が反応して勃ち上がってくるのが分かった。 同時に、ささやかな快感が背筋を這い登っていく。 ――って、これじゃあマッサージじゃなくてただの自慰じゃねぇか!! 我に返って手を止めると、 「ま、まあ、こんな感じだ」 とぎこちないながらもそう言ったところで、 「随分と楽しそうなことをしてらっしゃいますね」 楽しそう、と言いながら、ちっとも楽しそうには聞こえない、むしろ、とてつもなく怒ったような古泉の声が響いた。 「うわっ!?」 声を上げながら振り返ると、一体いつの間に来ていたのか、古泉が引き攣った笑みを浮かべて突っ立っていた。 「私が来たのにも気がつかないくらい夢中で、何をなさってたんです?」 「何って……」 「私の思った通りだとすると、私が怒るのは当然だと思うのですが、あなたがそのようなことをするとは思えませんから、参考までに一応お聞かせ願えますか?」 参考までに、だの、一応、だの、不安要素を煽るような言葉を入れるんじゃない。 「何をしていたんです?」 剣呑な光を帯びた古泉の目が俺を睨みすえる。 俺はもう、蛇に睨まれたカエルとかそんな気分だ。 言い逃れようとするだけ無駄、むしろ、余計に怒らせるだけだろうとの判断の下、俺は正直に答えた。 「――胸が、小さいだろ。俺も、」 長門も、とは言わなくても通じるだろう。 「だから、…その、どうしたら胸が大きくなるかって話してて、その延長で……どうやって胸を揉んだらいいかって話になったんだよ」 嘘じゃないからな。 信じろよ。 「胸…ですか」 とりあえず納得の様子を見せた古泉だったが、その日の帰り、俺を部屋に連れ込んだ後で、話を蒸し返してきやがった。 「あなたって、胸、好きですよね」 人をおっぱい星人みたいに言うな。 「実際、そうでしょう? ……私の胸だけじゃ、ご不満ですか?」 そう言った古泉が、俺の手を取り、自分の胸に押し当てた。 服の上からでも、柔らかな感触に手が埋もれそうに思える。 「ねぇ…」 ぞくっとするような声を耳に吹き込まれる。 「そういう、ことじゃ、なくて……だな…、その、自分の胸が小さ過ぎて嫌だって言ってんだから、分かってくれよ…」 「小さくても、いいじゃないですか」 古泉が俺の胸に手を当てた。 当てるだけならまだしも、それを揉みしだく。 「…っふ、ぁ……」 それだけで、体温が急上昇するのは多分、気のせいじゃない。 「小さくても感じやすい、あなたの胸が、私は大好きですよ」 「貧乳好き、かよ…っ」 「違います。あなただから、好きなんです」 恥ずかしいことをぬけぬけと、よく言えるもんだ。 呆れながらそう思った俺だったのだが、次の瞬間、後悔した。 「……あなたは、私の胸がそこそこ大きいから、好きなのかも知れませんけど」 「古泉……」 「でも、いいです。それでも十分、私の身にあまるような幸せですから」 そう言って古泉は儚げに微笑むと、 「私はあなたが好きです」 と告げた。 「好き、なんです…」 「……知ってるよ、んなことくらい」 知ってるから、頼むから、泣くな。 「ごめ、…なさい……」 謝る古泉を抱きしめる。 「俺も、……その、ちゃんと、お前のこと、好きだからな…」 「分かって、ます」 分かってて泣くのかよ。 「分かってます、けど…それでも、不安に、なるんです…」 しゃくり上げながら泣く古泉について、俺は可愛いと思うし、同時に愛しくも思うのだが、それは伝わらないものなんだろうか。 かと言って、言葉を尽くすのは俺の性には合わん。 だから俺は、 「…っ、ひ、えぇ!?」 古泉が朝比奈さんと張れるような、素っ頓狂な声を上げるのを聞きながら、古泉の服を脱がせた。 制服というものは二次性徴を過ぎた女生徒に着せるにしては誠に頼りないものであり、そのあたりにどこかの後ろ昏い陰謀を感じないでもないのだが、脱がせる側としては何も言うまい。 「なっ、ど、どうしたんですかっ!?」 声を上げる古泉にかまわず。古泉を下着姿にまで剥き、自分も制服を脱ぎ捨てる。 そうして、座っていたソファの周辺に服を撒き散らした挙句、古泉をソファに押し倒す。 その上に伸し掛かり、 「古泉、するぞ」 「す、するって…」 何をと聞くなよ。 聞くまでもなければ言うまでもないことだからな。 「あの、なんで、そんな…急に……」 自分でもどうかと思うが、証拠になるだろうと思ってな。 「証拠…ですか?」 頷きながら、俺は下着も脱ぎ、古泉の手を取った。 その手を脚の間ではしたなく濡れそぼつ場所に押し当ててやると、古泉が小さく息を呑むのが分かった。 「これで、分かるだろ」 自分の声が欲情に染まっているように聞こえた。 「お前に胸、触られて、お前の泣き顔見て、これだけ興奮するくらい、俺はお前が好きなんだってことが」 「……っ」 まだ涙に濡れた顔に、喜びの感情が滲む。 赤くなった顔を見られたくなくて、古泉の肩に顔を近づける。 いつもの仕返しのように、古泉の耳元で、 「そこに触らせるどころか、そんなところまで見せるのも、お前だけなんだからな」 と囁いた。 「……はい」 嬉しそうに笑った古泉の指が、不穏な動きを見せ、くちゅりと淫らがましい水音が響く。 「っん、……な、ぁ…もっと、しっかり触れよ…」 古泉の体にしがみつきながら、恥ずかしい欲求を口にする。 そうでもしなけりゃ、こいつは俺を信じられないらしいんだから、仕方ないだろ。 そう言い訳をしながら、俺は腹いせのように、目の前にあった古泉の耳へと噛み付いてやった。 |