微エロ、かな
一応ご注意ください




















寝不足プリンシペ



古泉と付き合い始めて一週間が経った。
付き合い始めた、と言っても、その一週間、特に会うこともなく、メールと電話でしかやりとりをしていなかったのだから、実感は薄い。
古泉の浮かれきった絵文字だらけのメールに、女の子らしくて可愛いなと思ったりしていたのは最初の数日間だけだった。
その上昨日は、電話の向こうから聞こえてきた声に、
「お前、調子でも悪いのか?」
と本気で心配して聞いていた。
『え?』
返ってきた声は疲れと共に驚きも滲ませていて、俺は思わず嘆息した。
「疲れてるんだろ」
『え、えっと…その、少しだけ…ですよ?』
やっぱりか。
もう少し早く気付いてもよかっただろうに、そうならなかったってことはつまり、俺も浮かれてたってことなのかね。
「夏休み中だってのに何やってんだ?」
『……ここしばらく滞ってた分の仕事とか……』
でも少し寝不足になってるだけですから、と言う古泉に、俺は呆れ、
「寝不足になるまで根をつめてどうするんだ。かえって失敗しても知らんぞ」
『心配してくださるんですね』
嬉しそうに言った古泉には見えないと分かっていても、思いっきり顔を顰めずにはいられなかった。
「当然だろ。お前、人をなんだと思ってるんだ」
『すみません。…なんだかまだ、信じられなくって。…あなたとお付き合いしてるんですよね、僕……』
今更過ぎる発言だな。
「……仕事って、寮でやってんのか?」
『え?…ええ、そうですけど……』
「明日も?」
『そのつもりです』
「…じゃあ、会いに行ってやる」
『え!』
喜んでいる顔が見えるような古泉の声に苦笑しつつ、
「またどうせ部屋が散らかってんだろ。片付けてやる」
『……あ、そういうこと…ですか』
俺の一言一言でよくここまで激しく浮き沈み出来るな。
というか、本当にそれだけだと思ってるんだろうか。
「泊まるつもりで行くから、お前もそう思っとけよ」
『え!? それってどうい…』
古泉がまだ何か言ってるのを聞きながら、俺は電話を切った。
顔が赤くなってる気がする。
よくあれだけ恥ずかしいことを言えたもんだなと自分を殴りつけたい気分だが、言っちまったものはしょうがない。
やっぱりやめると言ったら古泉が泣くだろう。
だから俺は、電話で宣言した通り、古泉の部屋を訪問した。
休み中だというのに、校内には部活だのなんだのでそこそこの人間がいた。
そのため、俺の姿を見つけて駆け寄ってくる女の子たちに、
「どうしたんですか?」
と聞かれ、
「いや、古泉に会いに来たんだ」
と素直に返したのはよかったのか悪かったのか、よく分からん。
ただ、別に隠すことじゃないと思っただけなんだが。
すると何故だか、
「きゃーっ、やっぱりー!」
なんて歓声を上げられた。
一体何事だ?
「なんでもないですっ」
楽しそうに笑いながら走り去るのはなんなんだ。
わけが分からん。
傷めそうなくらい首をひねりながら寮に入ると、一応ちゃんと食堂が開いているのに気がついて驚いた。
寮にどれだけ人間が残ってるんだか知らないが、少ないはずだろう。
それなのに営業中とは……。
いや、料理の出来ないお嬢様方を飢えさせたりするわけにいかないからなんだろうが、何にせよご苦労様だ。
呆れながら古泉の部屋へ向かい、ドアを開ける。
鍵を開けられるのは、前に来た時、俺の網膜パターンまで登録させられたからだ。
「古泉、来たぞ」
そう声を掛けながら部屋に足を踏み入れ、思わず硬直した。
散らばる布、紙、糸、リボン、レースの、山どころか海だ。
足の踏み場もないとはこのことだろう。
実際、うかつに踏むと色々なものをだめにしそうで怖い。
なんだこれは、どこの腐海だ。
いや、腐海と言うには余りにもきらびやかで綺麗かもしれないが、それにしたってどうしようもなさ加減ではさして変わらん。
「いらっしゃいませ。すみません、散らかってて…」
爪先で布や紙を掻き分けながら顔を見せた古泉に、
「……お前なぁ…」
「やりたいことが多すぎて、スペースが足りなくなっちゃったんです。踏んでしまっても大丈夫ですから、気にせず上がって下さい」
そう言われても困る。
「これ、動かす方がまずいのか?」
「え? ……ええ、そうですね。出来れば余り動かさないでもらった方が……」
片付けるのもナシか。
仕方ない。
古泉と同じようになんとか掻き分けて足の置き場を確保するしかないらしいな。
靴を脱ぎ、布や紙を避けながら慎重に歩く。
落ち着けそうな場所と言ったらベッドとバス・トイレしかないような有様だった。
ベッドにどかっと腰を下ろしながら、
「何でこんなになってるんだ?」
「この一週間、これまで止まってしまっていた分を超えるくらい、どんどんアイディアが湧くんです。それで、つい張り切ってしまって…」
「それで体を壊してたんじゃ、元も子もないだろ」
「すみません」
そう言った古泉が、嬉しそうに笑う。
なんだ?
「いえ、心配してもらえるのが嬉しいんです。…愛されてるって思って、いいんですよね?」
「……勝手にしろ」
「ええ、そうさせてもらいます」
次の瞬間、俺は古泉に抱きしめられ、そのままベッドへ横たえられた。
「お、おい!?」
「だめですか?」
「だめというか……お前は何をするつもりなんだ」
身の危険を感じるのは気のせいか?
「多分、気のせいじゃないと思いますよ」
笑いながら、古泉が俺の制服のボタンへ指をかける。
「ま、待て古泉! 何でいきなりこうなるんだ!?」
「あなたが欲しいと、僕が思っているから、でしょうか」
んなこと言われても……俺はどうしたらいいのかとか全然知らんぞ。
「いいですよ、あなたは何もしなくて。ただ少し、触らせてください」
「さ、さわ…っ!?」
絶句した俺に、古泉が口付ける。
「赤くなったあなたも可愛いですね」
そう言って今度は舌まで入れてきやがった。
俺にも心の準備くらいさせろ、と訴えてやりたかったのだが、
「…っ、ふ、あ…」
と口の端から漏れる自分の声に愕然として思考まで停止した。
何だ今のは。
恥ずかしいくらい甘ったれた、俺らしからぬ声だったぞ。
驚く俺に古泉は、
「もっと、聞かせてください」
古泉の手が制服の背中へもぐりこみ、ブラを外す。
それさえくすぐったくて体をよじると、ブラがずれて俺の貧相な胸が露わになった。
それを古泉は見逃さず、やんわりとだがしっかりとそれを手で包み込んだ。
「あっ…、ちょ、や…っ」
自分で触ったってどうってことのないはずの胸が、どうしようもなくむず痒い。
知識として知らなくても、これが快感だと分かるのは、それが本能に根付いた感覚だからだろう。
「可愛いですね」
揶揄するような響きの言葉にも、何ひとつ言い返せない。
「古泉…っ、や、やらって…ぇ……」
「どうしてです?」
「…っき、もちい、くて、おかしく、なりそう…っ」
胸を触られてるだけなのに、息が上がる。
体の奥がどうしようもなく疼く。
背筋までぞくぞくとして、止まらなくなりそうで怖い。
「僕も、おかしくなりそうですよ。…あなたがこんなに可愛らしく乱れてくださるなんて、正直、予想外でした」
「み、乱れるとか…っ、言うなぁ…!」
生理的なものなのか、勝手に滲み出てくる涙を古泉が舐め取る。
「愛してます」
そう言った唇が、恥ずかしげもなく勃ち上がった乳首を口に含む。
「ひ、っん、ぅあ…っ」
「気持ちいい、でしょう?」
「い、いい…が、…あっ、お前も…っ脱げ…!」
「僕もですか?」
なんでそんなきょとんとした顔するんだよ。
「いえ。調べてみたら、女性同士でする場合、男役の方は脱がないことが多いとあったので」
「んだよ、そりゃ…」
何調べてんだとも思うが、今言いたいのはそこじゃない。
「服、脱ぎもせずに、一方的に喘がせるだけかよ…。そんなの、おかしいだろ…」
言いながら手を伸ばし、古泉を抱き寄せる。
俺よりずっと豊満な胸が、自分の胸に当たる感触にさえ満たされる。
「少なくとも俺は……一緒に、感じたいんだ…。お前の体温も、肌も、全部……」
「…っ」
真っ赤になった古泉が、
「あなたって人は…」
と呟いた。
焦るように言うのはどういう意味を持ってるんだ?
「無自覚に人を煽って……心配過ぎます! 男は狼なんですよ? 男の前でそんな顔したり、そんなこと言ったりしたら許しませんからね!」
狼って言うんなら、茶を出しもせずに人をベッドに押し倒しやがった、お前の方がよっぽど狼だ。
「うっ…、そ、それはそうですけど……」
「後でとっちめてやるから、今はとにかく、脱げ」
言いながら、古泉の着ているシャツのボタンを外していく。
こいつの作る服ってのはどうしてどれもこれもボタンが多いんだろうな。
鬱陶しいったらありゃしねえ。
そうして露わになった古泉の胸へぽふんと顔を埋めると、
「……あなたって、胸好きですよね」
呆れたように呟かれた。
「…人の胸を執拗にいじくっていた奴に呆れられたくはないんだが」
「それもそうですね。でも僕は、あなたの胸だから好きなんですよ」
ああそうかい。
その方がよっぽど薄ら寒い気がするんだが。
「…古泉」
「はい?」
「……とりあえず、ここまででいいだろ? 急がなくても、別に俺は逃げやしないし、それに……その、一応覚悟を決めたいと言うかなんというか……」
「……分かりました」
思ったよりすんなりと、古泉は頷いてくれた。
「待ちますよ。あなたに嫌われたくはないですからね。でも、ここまでは、いいんですよね?」
「ああ」
「じゃあ、」
古泉は俺を抱きしめた状態で横になり、
「このままでいさせてください。本当の事を言うと、もう結構眠たくて……大変だったんです」
それならもっとさっさと眠っていればよかったのに。
「だって、せっかくあなたがいらしてくださったのに、勿体無いじゃないですか」
「……ばか」
俺は小さくため息を吐くと、古泉の頬に軽くキスした。
「おやすみ、一樹」
「……って、今、名前で……」
「呼んで欲しかったんだろ?」
違ったのか?
古泉と呼ぶたびに微妙な顔をするからそうじゃないかと思ったんだが…。
「そうですよ。でも、まさか僕から言い出す前に気付いてくれるなんて……」
「人のことをどれだけ鈍いと思ってるんだ」
「実際鈍いじゃないですか…」
恨みがましい言葉は聞かなかったことにして、俺は背中を向けた。
向けた背中にキスされて、くすぐったかったが、それさえ何故だか心地よく、睡眠時間は足りていたはずの俺まで一緒になって眠ったのだった。