エロです
襲い受け?誘い受け?っていう感じ
その日、彼は朝から他の世界とやらに行ってしまって、僕はいたって寂しい休日を過ごしていた。 勿論それは、僕の方にも原因がある。 機関の会議に呼ばれて一日相手が出来ないと言った僕に、彼は寂しそうな顔をしながらも、 「それなら仕方ないよな」 と言い、努めて明るい笑みと共に、 「だったら、丁度いいから俺も出かけてくる。頼まれ事があるんでな」 「どちらへお出かけになるんですか?」 「異世界」 簡潔なお返事だ。 「どの世界です?」 「前にも行ったところだ。…ほら、女装趣味な俺がいるところ」 「……ああ、なるほど」 先日見せていただいた写真は非常に可愛らしく、またかっこよかった。 「元は同じなんですから、あなたもああいう格好をされたら可愛らしいでしょうね」 そう言った僕に彼は顔をしかめて、 「馬鹿言うな。あいつは金も手間も掛けてるんだぞ。それと同じになるなんて言ったら、あいつに悪いだろうが」 と大真面目な顔でお説教をくれた。 「可愛いのが見たけりゃ、また写真とかもらってきてやるよ」 「僕としてはあなたでなければ、という思いもあるんですが」 「ばーか、目の保養にはあっちのがいいだろ」 そう笑って、彼は行ってしまった。 僕はと言うとただでさえつまらない会議が余計につまらない、ただの苦行にしか思えない状態になりながら、なんとか一日やり過ごした。 夕食くらいは一緒に、と思ったのだけれど、彼にメールをしてみても、返事は寂しいもので、 『すまん、ちょっと遅くなりそうなんだ。先に食べてくれ。寝ててくれも構わないから』 なんてものだった。 そんなに遅くなるほど何をしているのかと聞きたくなるけれど、言うだけ惨めになりそうだし、余計なことを言って彼に呆れられるのも悲しい。 だから我慢だと決めて、一人寂しく食事を取り、早々に寝ることに決めた。 今回は行き先も分かっているし、彼も慣れてきたから心配はないだろうと、安心感で寂しさを封じ込め、ベッドに潜ると、案外疲れていたということなのか、すぐに眠りは訪れた。 それから、どれくらいが経ったんだろうか。 布団が勝手に動いたような、そうして自分のものではない体温が触れる違和感に目を開けると、彼が布団に潜り込んで来るところだった。 「おはよう」 と彼は柔らかく微笑んだ。 「シャワー借りたぞ」 「お帰りなさいませ」 驚きながらもそう返す。 よかった。 彼が無事に帰ってきてくれた。 安堵しながら彼のために場所を空け、布団をかけると、彼も心得たものですっぽりと僕の腕の中に納まってくれた。 抱きつきこそしないものの、身を寄せ合うとそれだけでも嬉しいしくすぐったい。 「お帰りなさい」 改めて言うと、彼は鼻を鳴らすように頷いておいて、 「――つうかお前、俺がまだ帰ってないのにさっさと寝るなよ」 と子供が文句を言うように、つまりは拗ねた調子で口にした。 「え? でも、先に寝ていいとメールをくださいましたよね? それに、前に起きて待っていたら、ちゃんと寝ろと言ってくださったじゃないですか」 「うるさい。今日は待ってて欲しかったんだよ」 そう言って、照れ隠しでもするように彼は僕に抱きついてきた。 珍しい。 「なにかありましたか?」 小さく尋ねると、彼は少し顔を赤くして、 「…別に、何があったってわけじゃないんだがな」 と言いつつ、僕の胸の辺りに顔を寄せ、すり寄せてくる。 「もう、あいつらラブラブ過ぎて見てられん…」 「そんなに凄かったんですか?」 「んー…まあ、あっちの俺が女装趣味だってことがばれないよう、誤魔化すため、俺が同席してる状態で、女の格好のあいつと古泉がいちゃついてるところを人前で見せるってのが目的だったせいもあるんだけどな。いつも以上に気合の入った格好してて可愛かったし、そのせいか古泉もデレデレしてたな」 愚痴るように言っておいて、彼は顔を上げて僕を見つめ、 「それで……当てられた」 と呟いて、僕の唇にそっとキスをしてきた。 その瞳がどこか熱っぽく潤んでいて艶かしい。 「……なあ、一樹…」 僕を呼ぶ声も色っぽくて、ただでさえ可愛らしい仕草にやられていた僕の理性は崩壊寸前だ。 「…お疲れじゃないんですか?」 尋ねながら、そろりと彼の背中に腕を回し、やわやわと撫で上げてみると、 「ん…っ…ぁ……」 と甘い声が鼓膜を震わせる。 「いいんですか?」 「ん、いい…、平気だから……しよう…?」 甘えるように言って、彼は僕の首に腕を絡めてくる。 「……可愛い」 呟きながら、彼に口付けると、自分から薄く唇を開いた彼の口内に柔らかく迎え入れられる。 いつになく積極的で、どこか蠱惑的な彼に惹き込まれるように、口付けは深くなり、自覚しないまま、僕は彼を組み敷いていた。 「ふぁ…っ、あ…! 一樹…もっと……」 甘えた声で言いながら、彼は僕を抱き締めてくる。 「キスだけでいいんですか?」 意地悪く尋ねれば、不満そうに、 「…やだ」 と呟くのも可愛い。 「じゃあ、どうしたいんですか?」 「……もっと、触って、キス、して」 可愛らしくねだってくるので、 「ん、」 と頷いて、彼の首筋に口付ける。 痕をつけるわけにはいかないけれど、軽く吸い付き、彼の滑らかな肌を舌で味わうようにねっとりとなぞると、 「ひぁっ…、ん、ふ……」 小さく、しかし甘やかな声が上がる。 「もっと?」 「んっ、もっと、いっぱい、してくれ……」 「…可愛い」 可愛らしくて愛しくて、大事にしたいのに少し意地悪してみたい気持ちにもなってしまうのは、やっぱり今日、少しばかり冷たくされたから、だろうか。 「どこをどうして欲しい?」 意地悪く尋ねると、彼は少しだけ躊躇いを見せたものの、我慢出来ないのか、 「…胸……、乳首、いじってほしい……」 と恥かしそうに答えてくれる。 その熱っぽさも危うさも全部含めて愛おしい。 「こう?」 確かめながら、その実、彼以上によく彼の好みを心得ている僕は、彼が一番喜ぶような愛撫をくわえる。 柔らかく形をなぞるように乳首に舌を這わせ、興奮したそれがぷくりと勃ち上がるまで舐め上げ、それから指でちょっとつまむと、滑りがいい分痛みもなく、彼を気持ちよく出来る。 「んぁっ…あっ……ふぁ…」 吐息とも喘ぎともつかないような声を上げながら、彼は背筋を反らせる。 恍惚とした表情を浮かべ、酔ったように見える彼は、本当に綺麗で堪らない。 きつめにつまみ、吸い上げ、歯や爪を立てても、今の彼には快感になるようで、びくびくと体を震わせるのも可愛い。 「もっと?」 「んっ、もっと、触れ…!」 気持ちよすぎて苦しいと言わんばかりの顔なのに、もっとと求めてくるのも。 「…好き」 囁いて、彼の体に触れる。 意外と敏感な背中をなぞり、脇腹を辿り、それから服の上からやわやわと柔らかな肉を揉むと、 「も、どかしい…っ」 と苛立ったように言った彼が手足をばたつかせ、自分からするりと服を脱ぎ捨てた。 目の前にさらされる裸身につい見惚れていると、彼はまるで我に返ったように目を見開き、それから慌てて顔を背けた。 「…ひ、いただろ……」 真っ赤になりながらそう言った彼に、僕は笑うしかないけれど、 「笑うな!」 と怒られる。 「すみません。でも、あなたがあまりにもありえないことを仰るからですよ?」 くすくす笑いながら彼を抱き締め、素肌を味わうように手を滑らせる。 「ふ…ぁ…、ん、だ、って……」 くすぐったさにか、それとも快感にか声を震わせる彼の頬に口付けて、 「大胆なあなたも、僕は好きですよ」 と囁くと、彼は余計に恥かしそうにするので、 「勿論、恥らうあなたも好きです」 と言い添える。 「あほか…」 毒づきながらも彼は嬉しそうで、僕はにやにやしてしまいながら、 「本当ですよ。信じてください」 「…そんなもん、信じてるに決まってるだろ」 拗ねたように言いながらもキスをしてくれた彼に、 「ありがとうございます」 とお礼を言っておいて、少々意地の悪いお願いをする。 「…脚、開いていただけますか?」 「……ん…」 悔しそうにしながらも、彼はそっと脚を開いたけれど、 「これじゃ、手が触れるかどうかというところですよ?」 その通り手を滑り込ませると、先走りにぬるついた場所は期待に打ち震えていた。 「ひゃ…っ……あ…」 「これだけでいいんですか?」 くるくると輪を描くようになぞると、 「い、じわる…!」 と熱っぽい瞳で睨まれた。 「もう少し開いてくださったら、指先くらいは入ると思うんですけどね」 「…っくそ、お前、本当に今日は性格悪い……」 罵りながらも彼はそろりと脚を広げてくれる。 「ありがとうございます」 にっこりと微笑みながら、指先を滑り込ませれば、彼の脚が震えた。 期待にだろうか、それとも異物感にか。 痛みではないと思いたい。 「ふ……っ……くぅ…」 彼も慣れたもので、僕の動きにあわせて息を吐き、力を抜いてくれる。 そんなことさえなんだか嬉しくて、僕は彼の中を味わうようにゆっくりと指を進める。 一番きついところを過ぎてしまえば、とても柔らかく熱い場所は僕を受け止めてくれるかのようにうごめいている。 その感触を堪能したいのだけれど、 「ん……もう、早くしてくれ……。今日は…俺の方が、我慢出来んから…」 なんて艶かしく要求されて、僕が抵抗出来る筈もない。 「痛むかもしれませんよ?」 「少々平気だから…っ、んぁ…!」 ぐいと指をもう一本押し込み、そのまま彼の前立腺を押し上げると、彼の喉からは悲鳴染みた嬌声が上がり、僕の腕を両脚できつく締め付けてくる。 「脚、閉じてしまうんですか?」 「っ、しょ、うがないだろ、勝手に…っ、ひぁっ、あん…っ……」 そこでの快感をすっかり覚えてしまっているらしい彼は指だけでもそうして体を仰け反らせ、甘い声を響かせる。 「…脚を自分で抱えて……」 「…っ、は、ずかしいまねさせやがって……」 苛立ちながら呟いてるくせに、背に腹は替えられないという心境なのか、彼はおずおずと脚を抱え、大きく開いてくれる。 「後で覚えてろよ……」 「何一つ忘れられないよ」 短く返して、僕は彼の中を大きくかき混ぜる。 ぐちゅぐちゅと音がして、僕の興奮も煽られる。 「ひゃっ、あ、ふあぁっ…!」 彼の声に煽られることは言うまでもない。 「も…ぅ、いいから……! 一樹…早く……」 熱に浮かされるようにそう求められて、拒めるはずなどない。 僕はベッドサイドを探ってゴムの袋を手にすると、手早くそれをつけた。 「力、抜いて……」 自分こそ余裕のない声でそう囁くと、彼も呼吸を整えて衝撃を待つ。 その表情が堪らなく好きなんだと、うまく伝えられないままでいるのがもどかしいくらい、僕はこの瞬間が好きで、彼を見つめるのが好きだ。 けれど、今日はそれをゆっくりと見つめているだけの余裕がお互いになかった。 うわ言のように、 「早く…っ」 と求められていたし、僕自身、我慢なんて利きそうになかった。 熱の塊をひたと押し当て、彼の呼吸を確認しながら、ぐいと押し入ると、やはりそこは狭隘で、そのくせ優しく僕を包み込んでくれた。 「ひあぁ…っ!」 苦しげながらも歓声を上げた彼が僕にすがりついてくる。 その体を抱き締め返しながら、更に奥を目指して腰をふるうと、もっとと求めるようにきつく抱き締められる。 「あ…っ、ぁ……んん……」 何かを噛み締めるように、あるいは、味わうように彼は声を漏らし、僕の体に頭を寄せ、 「……こういう時の、お前の顔、好きだ…」 と僕が思っているのとよく似てはいるけれど、おそらく随分違った感想を呟いてくれた。 僕も今度は、僕の一番好きなあの瞬間に、そう囁いてみようかと思いながら、今は搾り取られるような快感と彼を抱いているという歓喜でいっぱいで、そんなものはすぐにどこかへと消えうせてしまった。 「愛してる…っ」 彼の拘束を振り解くように、半ば強引に腰を振るっても、彼は嫌がらない。 むしろ嬉しそうに笑って、僕を見つめてくれる。 「もっと、なんか言えよ…っ…」 求められるまま、僕は何かしら口走ったと思うのだけれどよく覚えていない。 覚えているだけの余裕もなかったし、考えているだけの余裕もなかったとうことは、恐ろしく馬鹿げたことを口走っていたのだと思うのだけれど、後になって彼にそれを詫びると、彼は澄ました顔でこう言った。 「余裕のないお前ってのも俺は好きだし、教えてやって、これから先、見られなくなってもつまらんからな。絶対に教えてやらん」 悪戯っぽい笑みに、僕が勝てるはずもない。 だから当分、何がそんなに彼を喜ばせたのかということは、僕には分からないままのようだ。 |