「緊急会議召集っ!」 って号令で部室に呼び出されたのは、あたしや長門さんだけではありませんでした。 キョンくんと涼宮さんのクラスメイトのお二人と、鶴屋さん、それから、えっと、前に依頼人として来てくれた阪中さん…でしたっけ、まで、いたんです。 それに、うぅぅ、コンピュータ研の部長さんも。 これまでにSOS団と関わって、涼宮さんがちょっとでも気に入ったりした人はみんないるんじゃないかなぁ? 生徒会長さんと喜緑さんのことは、生徒会ってだけで嫌ってるみたいだから呼ばなかったんじゃないかなって思うけど、それ以外でいないのは、キョンくんと古泉くんの二人だけ、って感じです。 「どうしたんですか?」 びっくりして目を見開いたあたしに、涼宮さんは上機嫌なのか不機嫌なのかよくわかんない顔で言いました。 「キョンと古泉くんがやっと出来たらしいのよ」 「出来たって…」 「それは勿論、」 涼宮さんが大きく口を開けて何か言うのは見えたのに、よく聞こえませんでした。 だって、鶴屋さんが後ろからいきなりあたしの耳を塞ぐんだもの。 「鶴屋さん?」 振り向いたら、鶴屋さんはあっはははーって笑って、 「みくるにはまだちょろんと早い話っさー」 「あたしには早い話…?」 どうしてでしょう。 あたしに早いんだったら、あたしより年下の涼宮さんや阪中さんにだって早い話だと思うのに、耳を塞がれたのはあたしだけです。 一体どんな話だったのかな。 でも、涼宮さんに聞き返すことは出来ませんでした。 だって、あたしが聞こうとするより先に、 「そうね。みくるちゃんには早かったわ」 って言われちゃったから。 謎です。 コンピュータ研の部長さんが、青い顔して、 「あの二人はそういう…?」 とかなんとか言ってるのも。 どういうことなのか、分からないです。 「とにかく、あたしとしてはキョンと古泉くんにお祝いをしてあげたいわけよ。それもただのお祝いじゃないわ。キョンと古泉くんを祝福して、なおかつあたしたちもすっきり出来るようなお祝いじゃなきゃだめ!」 すっきり出来るようなお祝いってなんでしょうか。 分からないことばっかりで、あたし、ここにいていいのかなぁ? せめてお茶でも入れようと思って、あたしがお茶を入れる支度を始めようとしたのに、 「ああみくるちゃん、今日はお茶はいいわ。その代わり、書記としてちゃんと板書してちょうだい」 「あ、はい、分かりましたぁ」 慌ててホワイトボードの前に立って、書き取る準備をしたんだけど、なかなかアイディアは出ませんでした。 「お祝いかー。なかなか難しいねー」 って鶴屋さんも悩んでるくらい。 だから、あたしは当然何も思いつかなくて、ドキドキしてました。 「谷口、あんたなんか思いつかないの?」 「俺かよ!?」 びっくりした顔で声を上げた谷口くんは、しばらく考え込んだ後、 「じゃ、じゃあ、パイ…」 「却下」 …可哀想なくらい、即決でした。 パイ投げって、ホワイトボードに書く間もなかったくらい。 おまけに涼宮さんは、相手が谷口くんだからか容赦がなくって、 「そんなの当たり前過ぎてつまんないでしょ。あんたに期待なんてしてなかったけど、それにしたってあんまりにもつまらなさ過ぎるわ。もうちょっとオリジナリティを発揮して見たらどうなの?」 ぐっさりとトドメを刺された谷口くんは、そのまま机に突っ伏してました。 …お大事に。 「阪中さんは?」 「あたし?」 えっとぉ、としばらく考え込んだ阪中さんは、 「結婚式をしてあげたらいいと思うのね。それも、こじんまりとしたのじゃなくって、全校規模で」 「全校?」 「そう。だって、あの二人のことはもう皆知ってるし、興味のある人も多いはずでしょ? それだけ派手にしたら、流石に恥かしくなると思うのね」 「そうね……」 涼宮さんは頭の中でシュミレーションを始めたみたいだけど、 「…もうちょっと何か欲しいのよね。それに、準備とかが大変そうでしょ? 横槍も入りそうだし…」 「うぅん、残念なのね。キョンくんのウェディングドレス姿、見てみたかったんだけど」 「そういう機会があったら呼ぶから安心しなさい」 って笑った涼宮さんの次の標的は誰でしょう。 ホワイトボードに文字を書いては線を引いて消すということを繰り返していたあたしは、すっかり油断してたみたい。 「次、みくるちゃん」 「ふえぇ!? あたしですか!?」 書記だから当てられないと思ったのに、そうじゃなかったみたいです。 「えっと、えぇっとぉ……」 「早く答えなさい。答えられないと、」 「あのっ、古泉くんとキョンくんにいっぱい質問するのってどうですかぁ!?」 思わず声が裏返っちゃいました。 必死です。 だって、そうじゃないとどんなことになるか分からないもの…。 「ああなるほど」 って助け舟を出してくれたのは、国木田くんでした。 「芸能人のやる結婚発表の記者会見みたいに派手にやったら、あの二人にもいくらか堪えるかもしれないね」 「うーん……」 涼宮さんは考え込んだけど、 「でもそれって、思い切り惚気られるだけで、あたしたちのストレスは余計に溜まらない?」 「ああ、そっか。それがあったね」 残念そうに苦笑した国木田くんに、 「あんたは何か思いつかないの?」 「僕? そうだなぁ…」 ちょっとだけ考え込んで、 「あの二人がいちゃつけないくらい、邪魔してみるってのはどう?」 「邪魔ねぇ……」 「どうなるのか、予想出来そうでいて出来ないんだよね。振り切っていちゃつきに行くのか、それとも意外と平気なのか」 「ちなみに、具体的にどういうことする気でいるの?」 「うーん」 またちょっと考え込んだ国木田くんは、 「例えば、顔を合わせる隙もないくらい、別々の用事を作ってあげるとか」 「うーん…」 涼宮さんはあんまり気に入らなかったみたい。 どうなるのかなってどきどきしてたら、 「あっ、じゃあさ、こんなのはどっかな?」 って鶴屋さんが言い出しました。 「国木田くんのアイディアに加えて、キョンくんに誰かとの噂を立てちゃうの」 「キョンに?」 「そっ。古泉くんでもいいっけど、古泉くんはキョンくんにべた惚れだろ? キョンくんだってそうだけど、キョンくんの場合、自分の魅力に無頓着な分、隙があると思うんだよねー。でもって、古泉くんもそれを知ってるわけだから、キョンくんに誰か接近したら、きっとものすんごく慌ててくれるって思うんっさ! どうにょろ? このアイディア」 「悪くないわね」 って言った涼宮さんがすっごく悪そうな顔してます。 すっごく悪そうな顔で悪巧みとしか思えない計画を立てようとしてるのに、本当にこれでお祝いになるんでしょうか。 …心配です。 「まず、あの二人に用事を作る必要があるわよね。何かある?」 それなら、って鶴屋さんが手を挙げて、 「生徒会が何かやるってんで有志を募ってるはずっさ。私も誰か適役がいないか聞かれて困ってたんだよねー。よかったら古泉くんを貸してくれるっかなー?」 「生徒会ってのがちょっと気に食わないけど、まあいいわ。そうしたらあたしの差し金だとは思われないだろうし」 「断られたらまた何か考えとくよ。とにかくっ、古泉くんの方は任せてよっ」 「分かったわ。じゃあ、キョンのことだけど……」 じーっと男の子たちを見回した涼宮さんは大袈裟なくらいはっきりしたため息を吐いて、 「……しょうがないわ。接点が少ないあんたが接近したら、古泉くんだって勘繰るでしょ。というわけで、任せるから」 って言われたのはなんと、コンピ研の部長さんでした。 「えええ!?」 って声を上げる部長さんに、 「しょうがないって言ったじゃない。あたしだって他に人間がいたらそっちに頼むわよ」 「いっ、いるじゃないか!」 「谷口と国木田がキョンと一緒にいたところでいつもと変わらないでしょ?」 「何も男に限らなくてもいいんじゃ…」 「甘いわね! 本計画の目的はちょっとやそっともやもやさせるだけじゃ果たせないのよ。それにはキョンに男が近づくくらいのことがなきゃ、古泉くんの危機感は煽れないの!」 そう力説する涼宮さんに、凄いなぁ、やっぱり団長さんとして、みんなをよく見てるんだなぁ、って感心してたら、 「根拠は?」 「ないわ!」 って言われちゃいました。 ……涼宮さぁん…。 「勘よ、勘。だって、キョンがちょっとやそっと好意を寄せられたところでちらとも意識しないのは証明済みなんだし、それは古泉くんも知ってることなのよ? だったら、キョンにその気がなくても、って思わせなきゃならないじゃない。そんな危機感を持たせることが出来るイケイケ押せ押せな女の子の知り合いがいるなら考えるけど」 「つまり何か? 君は僕に彼を、その、押し倒せとでも?」 「あら、案外頭は悪くないんじゃない」 「冗談じゃないっ! 僕は帰らせてもらうからな!」 そう言って出て行こうとした部長さんに、涼宮さんは言いました。 「あんた、まだ自分の立場が分かってないの? こっちにはあんたの婦女暴行現場をバッチリ押さえた写真もあれば、証文だってあるんだからね」 ぴたっと部長さんの足が止まったのを、涼宮さんは満足そうに見つめて、 「分かってくれたみたいね。頼んだわよ」 「……僕にどうしろって…?」 「そうね…。有希を通して、コンピ研にあいつを貸し出すってことでどう? 勿論、建前上はあたしに無断でってことで」 そんな調子で涼宮さんはみんなに指示をして、楽しそうに笑いました。 「それじゃ、各自気合いを入れて取り掛かること!」 …涼宮さんが楽しそうにしてるのはいいけど、ほんと、どうなっちゃうんだろ。 |