微エロのターンです
が、女体とか苦手な方はバックプリーズ
















































白旗を揚げて



古泉と付き合い始めて、結構な時間が過ぎたと思う。
それでも、古泉との関係は進展しない。
いや、ある意味では進展しているとは思う。
少なくとも、俺はもう、古泉が俺に向けてくれる愛情を疑ったりはしていないし、キスだって癖になるほどしているんだからな。
それでも、もう少し進んだっていいんじゃないかと焦れるくらい、古泉は何もして来ない。
キスはいくらだってしてくれる。
ハグも。
気持ちよくておかしくなってしまいそうなほど優しく触れてもくれる。
だが、そこまでなのだ。
それ以上何もない。
俺があいつの家に泊まろうが、シャワーを借りようが、逆に家族が他に誰もいない家にあいつを泊めようが、何もない。
俺にだって性欲くらいあるんだと憤ってやりたくなるほどに。
いや、実際、そんな風に苛立ちながら、俺は深夜の自室の布団の中で、ごそごそと体をまさぐっていた。
胸は真っ平らで、柔らかさなんてろくにない。
日焼けを繰り返した肌は、手触りがいいということもない。
つまりは、つまらない、面白くもなんともない、ただの男の体だ。
それこそ、人によっては気持ち悪くすらあるだろうそれだが、古泉は好きだと言ってくれる。
その言葉の通り、優しく触れてくれる。
怖がることなんてないと言わんばかりに。
だが、それでも俺は怖いんだ。
怖くて、不安でならない。
古泉が何もして来ないのは、俺がそう思っていることを分かっているからなのかもしれない。
俺が怖がっているから。
だが、この怖さをどうしたらいいのかは、俺にも分からなかった。
痛みも不安も怖い。
気持ちよさに溺れそうになるのも。
怖いのは、俺が、俺の体が、受け入れるように出来てないからだと、八つ当たりのように思った時、俺の体は女の子のそれになっていた。
そうなっても、俺は前のように素直に喜べはしなかった。
古泉を悲しませ、困らせるだけだと分かっていたからだ。
だが…、と俺は思う。
どこか後ろめたく、暗く。
…この体なら、きっと、男としてよりも簡単に出来る、と。
そのために出来ている体。
その意味だけでも、羨ましい体。
本当なら、どう足掻いたって俺には与えられないはずのそれ。
扁平な体と違って、柔らかな体に触れる。
あまり大きくもないけれど、柔らかな胸。
それを揉んでみたって、柔らかいだけで気持ちよさなんてない。
むにむにと形を変えるそれに左手を残したまま、右手で細くなった腰のラインを辿り、丸みを帯びた部分をすり抜けて、脚の間に指を忍び入れた。
どうなっているのかも、よく分からない。
むしろ、パーツが足りない分、どこか物足りなくてすーすーするように思えた。
本当に、こんな体になった意味があるのか?
考えながら、ごろごろとベッドの上で転がる。
転がった拍子に、古泉と一緒に買い、古いそれと入れ違いに置かれた新しい枕を見て、思った。
――古泉に触れられたら、と。
そう思うだけで、胸に触れていただけの左手の下で、胸がきゅうっと震えた。
古泉に触れられた時のように。
「っ、あ……」
もし、古泉に、胸を揉まれたら…。
古泉のことだ。
最初はやわやわと、きっと怖がりながら触れてくるんだろう。
だが、その内開き直ったみたいに大胆になって、俺の方が弄ばれ、て…。
あの、やけにエロい手付きで触れられたら……。
想像だけで、ぞくぞくした。
胸だけで、それどころか、そんな妄想だけで、イけるかと思ったくらい、感じられた。
いつの間にか呼吸は荒くなり、怖々動かした指は、くちゅりといやらしい音を立てた。
下着さえ汚しそうなほど、濡れていた。
「…ん……っ、こい、ずみ…」
触って欲しい。
古泉が欲しい。
女のままでもいい。
男でも女でもいいくらい、古泉は俺のことを愛してくれてると、俺にも分かっていた。
それに、こっちの体の方が怖くない。
そのために出来てる体だからというより、古泉のことを思うだけで、こんな風になってしまう体だから。
俺は携帯を引き寄せると、古泉にメールをした。
『今すぐ会いたい。今から行ってもいいか?』
これまでにも似たような文面を送りつけたことがあるから、古泉は変に思ったりはしないだろう。
返事が来るまでの間、俺は両の手で胸を押さえていた。
緊張に震える胸を鎮めたいのか、それとももっと気持ちよくなりたいのかは、自分にも分からない。
数分が過ぎて、返事が届いた。
その数分が何時間にも思えるほどだった俺は、その返事を確認するなり、部屋を飛び出した。
そのまま一目散に古泉の部屋を目指す。
息を乱して階段を駆け上り、古泉の部屋のインターフォンのボタンを押すと、すぐに古泉が顔を見せた。
「なっ…、どうしてまた、」
と何か言おうとした古泉の言葉に耳も貸さず、俺は驚く古泉に抱きついた。
それだけじゃ足りず、自分から古泉を引き寄せてキスをする。
呆然として言葉もない古泉を見詰めて、恥ずかしさと興奮とで泣きそうになりながら、
「せ、責任、取れよ…っ! お前のこと、欲しくて、こんな、なっちまったんだから…!」
泣き喚く寸前でなんとか踏みとどまる。
それでも我慢は出来ずに古泉の手を取ると、自分の胸に押し当てた。
それだけでも、ぞくりとした快感に体が震えた。
「ん…っ、ぁ……!」
驚き過ぎているからか、それとも古泉らしく、「俺のために」留まろうとしているのか、硬直する古泉をなんとか動かすため、俺は考えていた大義名分を囁いた。
「これっきり、で、もう、女にならないように、する、から…っ、一度、だけ、この体で……して…」
ごくりと古泉の喉が鳴る。
そのくせ、頷くまでには酷く時間がかかり、そのスローモーションのような動きが、どうしようもなくじれったかった。
「本当に、いいんですね?」
「いい、って、言ってんだろ…」
しがみつこうとした俺の体を、古泉は軽々と抱え上げた。
「う、わっ…!?」
「大丈夫です。落としたりはしませんから」
そう言って、古泉は俺を寝室へと運んでいく。
その間も、心臓は早鐘のように打ち、胸が苦しいほどだ。
古泉は優しくそっと俺をベッドに下ろし、
「…本当に、いいんです、よね…?」
とまだ不安そうに聞いてくる。
くどい。
「お前こそ、…どうなんだよ」
「どうって……」
「前に、言ってただろ。女になってる俺は、普段の俺とは別人に見えるから我慢が利くとか何とか……。…まだ、別人に見えるか? だから、したくなかったり、する、か…?」
俺が拗ねているのかそれとも落ち込んでいるのか分からない調子で聞いたからだろうか。
古泉は小さく声を立てて笑いながらも優しい声で、
「もう、見慣れてしまいましたし、何より、あなたがあなたであることに変わりはないでしょう?」
「そりゃ、な」
「だったら、いいです。…あなたが、本当にいいなら」
「だから、いいって言ってるんだから、」
「から?」
きょとんとした顔で聞いてくる古泉に苛立ちながら、俺は真っ赤な顔で、
「…っ、早く、しろ」
と唸るしかない。
「すみません」
謝った古泉の唇が、俺のそれに触れる。
ついばむようなそれじゃ物足りないのは、俺の方だ。
自分から舌を差し出して、古泉を求めると、古泉は優しく目を細めて俺のそれを軽く食んだ。
それだけでも、ぞくぞくとしたくすぐったさに体が震える。
「ぁ……あ…」
「気持ちいいですか?」
「ん…っ、もっと、したい…」
と、キスくらいなら素直に求められる。
自分からだって出来る。
だが、それ以上となると恥ずかしさが勝った。
触れて欲しい、なんて、自分からは言い辛い。
それこそ、さっきくらいの勢いが欲しくなる。
というかだな、さっき俺があれだけ頑張ったんだから、もういいだろ。
そう思うってのに、古泉は分かってくれないらしい。
いつまで経っても唇で遊んでいる。
それだって気持ちいいのだが、それでも、もっと欲しいと思っている時にそれだけでは、焦らされているとしか思えない。
「…っ、や、古泉…」
「嫌ですか?」
困ったような顔をした古泉が、キスを止めた。
そうして、
「…やっぱり、止めておきます?」
などと、恐ろしく的外れなことを言うので、俺は慌てて、
「そうじゃ、なくって…!」
「では、なんでしょうか?」
こいつ、本当に分かってないんだろうな?
ぎりぎりと歯噛みしたくなる俺を、古泉は心底不思議そうに見つめている。
やっぱり天然だ。
たちが悪すぎる。
まるで俺ばかりが欲しがっているようで悔しくなりながら、
「…っ、キスだけじゃ、なくて…、もっと、……っ、して、欲しいって、こと、だ」
と低く唸るように言えば、古泉はその顔の赤みを増して、くすぐったそうな顔で頷いた。
「分かりました。…どうして欲しいですか?」
「…おま、えは…!」
意地が悪いと責めてやろうかと思った。
どこの鬼畜な本で勉強したんだと言ってやろうかとさえ思った。
だが、それを言ってしまうには、古泉は優しい顔をしていて、本当に俺の希望を叶えようとしてくれているようだった。
それで怒鳴れる俺ではない。
泣く泣く諦めて、
「……背中…、いつも、しようとする、みたいに、……撫でて、くれ…」
「はい」
嬉しそうに古泉は答え、俺の背中に触れてくる。
その、案外大きな手の平が触れるだけで、体が快感に包まれるように思えた。
「は、あっ……ぁ、んん…!」
「気持ちいい?」
「んっ…! あ、…いぃ……」
どろどろにとろけたような、甘ったれた声を上げながら、俺は古泉にしがみつく。
うなじから背中、腰、そして脚の付け根までをゆっくりと、羽のように軽いタッチで撫で付けられ、体が痙攣する。
「ひっ、ぁ、あぁ…っ、ん…」
「愛してます」
嬉しそうに囁く古泉の声で、体の熱がもうひとつ跳ね上がる。

薄く開いた脚のあわいから、じわりと溢れ出たものは、その熱に溶かされた理性か何かのようだった。