よっく分かってるよ



前から思ってたけど、最近特に思うことがあるの。
キョンくんと古泉くんは、仲良しさんだなって。
すっごく仲良しで、あたしのことなんて目に入ってないみたいだし、あたしが一緒に遊ぼうっていうと、キョンくんはいやーな顔して断るし、古泉くんまで困ったような顔で、
「すみません。また今度、遊びましょう」
って言うんだよね。
その今度、ってのがなかなか来ないんだけど。
もしかして、ってあたしでさえ思ってる。
お母さんは何か分かってるみたいだけど、あたしには教えてくんない。
だからあたしは、不貞腐れながらキョンくんに言ってみた。
「キョンくん、最近古泉くんとすっごく仲良しだよね」
「そうか?」
言いながらキョンくんは目をそらした。
むぅ、嘘吐こうとしてるな。
「そうだよ。あたしも古泉くんと仲良くしたいのに」
「はぁ?」
キョンくんの眉間にはしわが寄ってて、怖い顔になりかかってる。
そんなに嫌?
やっぱりこれってあやしーよね。
「ねーねーキョンくん、あたし、また古泉くんのお家に遊びに行きたいな」
「迷惑だろ」
「キョンくんはよく行ってるんでしょ? キョンくんは迷惑じゃないのにあたしはダメなのー?」
「それは、その……」
視線をさまよわせてなかなか答えないキョンくん。
こういう時って、大抵なんか理屈をつけようとしてるんだよね。
…と思ったらやっぱりそうだったみたいで、
「お前は言うことを聞かんだろ。だからだ」
「そんなことないもん!」
「そうだろうが」
「…だったら、今度古泉くんにお願いするから、もうキョンくんにはお願いしないもんっ」
キョンくんは、
「勝手にしろ」
なんて言ったけど、多分、あたしが忘れちゃうと思ったんだろうな。
でも、あたしはそこまで頭悪くないよ?
見くびらないでよね、キョンくん。
というわけで、あたしはその次に、キョンくんが古泉くんを連れてきた時に聞いてみたの。
「古泉くん古泉くんっ、また古泉くんのお家に遊びに行ってもいいかなぁ?」
「僕は構いませんけど…」
優しい古泉くんらしく、笑顔でそう言ってくれたのに、すぐにその顔が引きつった。
なんだろ、と思ったらキョンくんが古泉くんを睨みつけていた。
ものっすっごい怖い顔で。
古泉くんはそれに苦笑して、
「お兄さんはお気に召さないようですから、お兄さんが許可してくださったら、いいですよ」
ってあたしに言う。
あたしはむぅっとほっぺたを膨らませて、
「キョンくん!」
「ダメだって言っただろ」
やっぱりか。
もうっ、
「キョンくんは、そんなに古泉くんと二人っきりがいーの?」
思い切ってそう言ったら、古泉くんとキョンくんがそろってびくっとした。
あー……なんか、分かっちゃったぞ。
「もういいもんっ」
って言って、あたしは自分の部屋に戻った。
キョンくんと古泉くんの仲良しなのは、そういうことなんだろうな。
お友達としての仲良しじゃなくて、もっと強い好きなんだろうなって、あたしにも分かっちゃった。
キョンくんがこのところとっても楽しそうなのも、古泉くんのおかげなんだろうなぁ。
だったら、あたしは嫌なんて、わがまま言えない。
キョンくんが楽しいなら、それが一番だもん。
古泉くんなら、キョンくんを大事にしてくれそうだし。
あたしも、古泉くんがあたしのもう一人のお兄ちゃんになってくれるなら、嬉しいかもしれない。
だって、古泉くんは優しいし。
あたしとも遊んでくれるし。
だけど、キョンくんはもうあたしだけのお兄ちゃんじゃないんだなって思うと、やっぱりちょっとつまんない。
だからあたしは、二人がキョンくんの部屋に入ってしばらくしてから、ノックもせずに飛び込んでみちゃった☆
キョンくんと古泉くんは抱き合ってたのかな?
なんだかすっごく距離が近くて、でもって、古泉くんはキョンくんに突き飛ばされたみたいで、床に転がってた。
「何やってたのー?」
何にも分かってないよって顔であたしが聞くと、キョンくんは真っ赤な顔をして、
「なんでもないっ!」
って言ったけど、キョンくん、それ、逆効果だよ?
「プロレスでもしてたの?」
「う、そ、そんなところだ」
嘘ばっかり。
あたしは笑っちゃいながら、古泉くんに言う。
「古泉くん負けちゃったのー?」
「ええ、そんなところです」
と苦笑しながら体を起こした古泉くんは、それでもやっぱり楽しそうで、なんだか羨ましくなっちゃった。
あたしにも、そのうち古泉くんみたいな彼氏、出来るかなぁ?
「古泉くんって、かっこいいよね」
あたしが言うと、キョンくんは不思議そうな顔をしたけど、古泉くんはいつものにこにこした顔のまんまで、
「ありがとうございます。妹さんも、可愛らしいですよ」
って言う。
褒められ慣れてる、ってことなのかな?
それから、褒め慣れてる?
「それに、優しいし」
「そうですか? ありがとうございます」
「頭もいいんでしょ?」
「それほどでもありませんよ」
「キョンくんよりはいいんでしょ?」
古泉くんは苦笑して、キョンくんを見たけど、キョンくんは面白くなさそうな顔をしてた。
「あたしね、」
とあたしは古泉くんに抱きついてみた。
キョンくんがびっくりした気がするけど、気づいてないことにする。
「古泉くんがお兄ちゃんになってくれたら嬉しいなっ」
今度は古泉くんまでびっくりする。
「お兄ちゃんに、ですか」
「うん。だって、古泉くんみたいな彼氏だったらかえって大変そうだもん」
明るく笑ってそう言ったら、
「知ったような口をきくんじゃありません」
ってキョンくんに頭を叩かれちゃった。
「痛いよキョンくーん…」
「痛くないだろ。お前、宿題は終わったのか?」
「え? …あー……」
「まだなんだな」
呆れたみたいにため息を吐いて、キョンくんは厳しい顔で、
「さっさと宿題を終わらせろ」
「そしたらあたしとも遊んでくれる?」
「気が向いたらな」
「むーっ」
キョンくんのけち、って言いたいのは山々だったけど、今日は邪魔しちゃったあたしの方が悪いかなって思ったし、古泉くんが困った顔であたしたちの様子を見てたから、大人しく引き下がってあげた。
キョンくんの部屋のドアがもうちょっと薄かったら、ドアに張り付くくらいしてあげるんだけど、多分無駄だよね?
残念。
その後、古泉くんが夕食を食べて帰った後で、あたしはキョンくんの部屋に行って、
「ねーねーキョンくん」
「なんだ? というか、お前はさっさと寝ろ」
「もう寝るよー」
でもその前に言っておきたいの。
「キョンくん、あたしに内緒にしてることあるんでしょ?」
「いっ…!?」
本気でびっくりしてるキョンくんに、あたしは小さく笑って、
「早く教えてくれないと、許してあげないからねっ」
って言って、キョンくんの部屋を出た。

でも、キョンくんのことだからきっと、当分あたしには教えてくれないんだろうな。